何もしないアメリカ、何もしない中国

 ロシアがついにウクライナを攻撃した。ロシアは「特別軍事攻撃」、即ち「戦争ではない」と主張しているが、現地での有様はまさしく戦争そのものである。そして戦争はある日突然起こるのではなく、徐々にそこへと至る。それまで積み上げてきた外交の失敗が戦争となるのである。また戦争には莫大なコストが発生する。国民の生死、経済的な苦境、社会的な混乱、等に見舞われよう。だからよほどの事がない限り戦争に訴える事はないが、それでもプーチン大統領率いるロシアは戦争を選び、予想通りロシアは国際社会から最大級の非難と嫌悪を浴びせられている。それでもロシアは怯まず、核攻撃も辞さないと言い、実際にウクライナにある原発(但し周辺施設)さえも攻撃して一歩も引かない。今やプーチンは狂人扱いされているが、一方で「民主主義国」のリーダーであるアメリカは早々に恐れをなして何もしない。

 もちろんプーチン核兵器強硬姿勢が脅しである事をアメリカはわかっている。核兵器が使用されればロシアもアメリカもヨーロッパもアジアも壊滅的な大惨事となる。しかし「民主主義国」のリーダーであれば、「専制主義」の国からの高圧的な脅しには屈しない、或いはいざとなれば自らが仲介に名乗り出る事が期待されるが、対するバイデン大統領はウクライナへの連帯や支持を繰り返し強調するだけで「アメリカ軍はウクライナへは行かない」事も強調する。「アメリカ・ウクライナ連合軍」或いは「NATOウクライナ連合軍」はない、ウクライナは自力でロシアと頑張って戦え、アメリカは何もしないと強調しているのであり、もはやアメリカは「民主主義国」のリーダーではない事がはっきりした。今は口にしないが、ウクライナのゼレンスキー大統領は腸が煮えくり返っているのではないか。

 いや違う、アメリカはロシアに対して強力な経済制裁を行ったという反論があるかもしれないが、「SWIFT」はロシアの全ての銀行における国際金融網を遮断していない。資源エネルギー大国であるロシアからの資源輸入が完全に断たれたら石油・ガス等の価格が更に高騰するからとの理由らしいが、それならば遮断していない銀行を経由すればいいのだから互いに時間と手間がかかるだけで制裁とはならない。また仮にロシアの全ての銀行を遮断すれば石油・ガス等の価格高騰により世界経済が大混乱をきたす恐れがある。今はウクライナの悲劇に目を奪われていても自国の経済状況によってはアメリカやEUがどう出るかは予断を許さない。今、プーチンは国際社会のみならずロシア国内でも反戦デモ等で批判にさらされているが、残念ながら国内でのプーチン体制は盤石であり、長期戦になればロシア側に有利になる可能性もある。そしてバイデン大統領は「NATO加盟国が攻撃されたらアメリカは反撃する」が、ウクライナ単独であれば何もしないのである。むしろプーチンに対して「ウクライナだけにしておけ」とサインを送っているように見える。

 なおもう一つの大国である中国も今は何もしていないが、アメリカの姿勢がはっきりした以上、溺れる者は藁をもつかむでロシアと特別な関係にある中国に仲介を依頼する可能性もあり、そうなれば中国は国際社会のヒーロー、リーダーになってしまう。それでもアメリは何もしない、いや、できない。もはやアメリカには他国に力を振り向ける余裕がない事は昨年のアフガニスタン撤退で明らかになった。タリバンが再びアフガニスタンを制圧する事を知ってなお撤退したのである。これでは「台湾有事」が起こってもアメリカがどうするかは目に見えている。「中国は核兵器を持っているから」と言って台湾を助けない事も十分考えられよう。更に言えばロシア、中国、北朝鮮核兵器を持っているのであり、それらを隣国に持つ日本はどうなるか。所詮は「自分の国は自分で守る」しかない。ウクライナのように。