俺「よくも顔を出せたもんだ」
スタンリー・ヘイスティング「何もあんたに喧嘩を売りに来たわけじゃないだろ」
「そうかい。じゃあ何をしに来たんだ」
「ニューヨーク市で妻子を養おうと悪戦苦闘している所帯持ちの男なんだよ、こちらは」
「それはわかってる。だからカウンセリングをしてくれって事か?」
「まあ待て待て」とスタンリー・ヘイスティングは片手で制した。「そんなに怒る事はないじゃないか。話をしているところなのに」
「あのな、勝手にずかずか入ってきて、俺を困らせている事ぐらいわかるだろ」
「頼むよ。ヒントをくれ。今の話は全部、本当にあった事なんだから」
「お友達のマコーリフ刑事がいるだろ」
「だからそのマコーリフが言ったんだ。あんたに話を聞いてもらえって」
「じゃ、言わせてもらおうか。この件には一切関わらない方がいい」
「でも、納得いかないんだ」
「納得いかないと駄目なのか?」
スタンリー氏は眉間に皺を寄せて考え込んだ。ずるい男だ。本当なら俺が眉間に皺を寄せたいところなのに。
「やっぱり…あの脅迫写真をもう一度見る必要があるかな」とスタンリー・ヘイスティング。
「そうだな、それがそもそもの発端だからな」
「でもサーマンに取られたし」
「サーマン?」
「別の刑事の名前だ」
「ああ、あんたに殴る蹴るの暴行を加えたとかいう、悪徳警官の事か」
「そうはっきり言われると辛いな」
「どうした、まだ傷がうずくのか? 美人な奥さんに癒してもらえ」
「真剣に考えてくれるのは嬉しいがね」
「タフな私立探偵は困難な状況に直面するとジョークを飛ばす事になっているらしいが、俺は私立探偵じゃないんだ。あほらしい」
「色々とクズ情報は集まったけど、結局、何もわからないんだ」
「そうかね。俺はあんたとこうして殺人事件について議論できて楽しいけど、勤務中なんだ。もうこの喫茶店に入って10分は経ったぞ」
「あと10分、いや20分」
「あと10分だ。そもそも会社からここまで5分だ。だから往復10分かかる。という事は会話できるのは20分が限界だ」
「延長料を払えばいいのかな」
「そういう問題じゃない。でもここのコーヒー代は払ってもらうぞ」
「わかった。じゃあコーヒー代と引き換えに、教えてくれないか」
「実はマコーリフ刑事から聞いた。ポルノショップを教えてやれと」
「そう。そういう事に関しては君に聞くのが一番だって」
「単に、刑事の沽券にかかわるから、俺に投げただけじゃないのか」
「はっきり言うと、そうだろうね」
俺はポルノショップのリストを渡した。