司書宣言3 縦、横、司書

 というわけで今日もマンガ喫茶から司書の話の続きである。司書資格というのが国家資格でありながら就職特に図書館で働くことには全くと言っていいほど役に立たないことは世の乙女たちには相当衝撃であったようで、俺へのメールで「それでは司書資格を取っても無駄ではないですか」というものがあったが、全くその通り俺も夜間学部でありながら昼の学生にまじって昼の授業に出席して色々と嫌な思いをしたがこれで図書館で働けなかったら何だそれはということになろう。あの無力な圧力団体である日本図書館協会のHPに出ている司書の求人情報を見てもほとんどはアルバイトか非常勤職員である。何が日本図書館協会だ。しかし別に公立の図書館でなくても大学図書館や企業の専門図書館等、図書館で働く方法はいくらでもあるわけで、何より「司書資格有り」と「司書資格無し」ではやはり重みが違うというのが資格を取ったばかりの俺の実感である。特に司書資格というのは一生涯通用するものなので、やはり大学に入った以上は取ることを強くお勧めします。
 で、今日はちょっと技術的な話をする。図書館にはそれこそ怒涛の如く本が揃えられているわけであり、それらを整理することが必要である。整理といっても著者の五十音順で整理するわけにはいかないので、大体はジャンルによって分けられる。図書館でよく見る、総記からはじまって哲学、歴史、社会科学、自然科学と10分類されているやつである。この10分類というのは「日本十進分類法」による日本全国統一規格基準であり、どの図書館もこの分類に従って本棚に本を収容するわけである。実はこの日本十進分類法には4次・5次区分まであり、個々に細分化することによってより求めるテーマに応じた図書を発見できるわけである。まず1次区分がこのようになっている。

0:総記
1:哲学
2:歴史
3:社会科学
4:自然科学
5:技術・工学・工業
6:産業
7:芸術
8:言語
9:文学

 このうち、たとえば「3:社会科学」選択すると、さらにこれを10分類することができる。以下が2次区分である。

30:社会科学
31:政治
32:法律
33:経済
34:財政
35:統計
36:社会
37:教育
38:風俗習慣・民族
39:国防・軍事

 このように10分類されるわけである。しかしたとえば「31:政治」にしたところで政治学の範囲は広く、当然もう少し細分化が必要になってくるのであり、それが以下の3次区分である。

310:政治
311:政治学・政治思想
312:政治史・政治事情
313:国家の形態・政治体制
314:議会・選挙
315:政党・政治結社
316:国家と個人・宗教・民族
317:行政
318:地方自治・地方行政
319:外交・国際問題

 これのたとえば「314:議会・選挙」をさらに細分化したものがあるのだが(4次・5次区分)、それは国立国会図書館発行の「J−BISC」というCD−ROMを参照していただきたい(大学図書館や大きな図書館には置かれている)。ところで皆さん俺の言わんとしていることがわかるであろうか。この分類、少なくとも政治学を専攻している者が見れば何のことやら全くわからないのである。特にわからないのが「314:議会・選挙」と「315:政党・政治結社」であって、政党や政治結社を議会や選挙から切り離してどうするのだ。政党の存在理由はそれこそ議会や選挙ではないか。政党制が選挙制度に直結するのは政治学の常識である。つまり政党のことを調べようとしていくら315の本棚を見ても不十分極まりないのである。ためしに某公立図書館の蔵書検索をしてみよう。314で検索すると、以下の本が出てくる。

・代議士秘書−永田町、笑っちゃうけどホントの話 [講談社文庫] 飯島勲/[著] 東京:講談社 (2001)
アメリカ女性議員の誕生−下院議員スローターさんの選挙と議員活動 森脇俊雅/著 京都:ミネルヴァ書房(2001)
・選挙ポスターの研究 東大法・蒲島郁夫ゼミ/編 東京:木鐸社(2002)
・国会議員を精神分析する−「ヘンな人たち」が生き残る理由 [朝日選書] 水島広子/著 東京:朝日新聞社(2003)

 検索結果の上位4件である。2件目の本は題名に「選挙」の文字があるが、アメリカの国会議員はそれこそ共和党民主党の公認を得ることに全力を注ぐのであり、おそらく本の内容の半分は選挙ではなく党での活動を書いたものであろう。この本が「選挙」の本棚に収容され「政党・政治結社」と離れたところにあるのはどうも不可解である。3件目にしてもこれは題名から察するに「選挙における広報活動や世論と政治の関係やポピュリズム」がテーマとなるであろうから、むしろ312の政治事情に近いのではあるまいか。大体政治事情には当然選挙も含まれように、どうして区別されているのだ。いやそもそも「政治事情」というのは何なのだ。そんな言葉聞いたことがない。政党も議会も行政も外交も政治事情といえば政治事情ではないか。1件目の本は俺も読んだことがあるが、これは政治家秘書による政治家や選挙や国会の裏話であり、この本こそ「政治事情」に分類すべき本である。4件目の本も読んだことがあるが、題名だけを見てもなぜこれが「議会・選挙」に分類されているのかさっぱりわからない。まさか「国会議員」の名前が出ているからそう分類したのだろうか。政治家を精神分析するのならばむしろ「政治思想」にあたるのではないか。
 世の中の事象や物事は複雑に絡み合い相互に影響を与えるが、だからと言って政治なら政治の本を雑然と置くわけにはいかない。そこで国会、外交、行政といった区分が必要になってくるのであり、だからこそ「資料組織論」が図書館学に存在するのである。だが上記のような分類法では全く何が何やらわからんではないか。そう言ったところで「それはあなたが政治学専攻だからだ」と言われるだけであろうが、この複雑な世の中を少しでもわかりやすく調べられるように図書館の人間は不断の努力をこころがけるべきであろう。実際問題、政治を分類するとすれば上記にように分類するしかないのだが、これはもう政治学の専門家が何年もかけて新しい分類を考えなければどうしようもない。ただし日本の大学のセンセイというのは平気で「私は政治学科の教授だが選挙論が専門で外交のことはわかりません」とか「政治史が専門なので行政学のことはわかりません」などと言ったりするから、ああどんどん問題が広がっていくな、とにかく大変なのである。しかしそもそも日本十進分類法も知らずJ−BISCも知らない司書資格を持たない「その他の職員」(日本図書館協会)が全国図書館職員の過半数を占めるというのは図書館の危機だ、ということで今日も日本図書館協会を糾弾することになるのである。しかし一番批判すべきは今日までそのような図書館行政を担ってきた文部科学省国立国会図書館地方自治体なのである。とかくこの世は窮屈だ。ええいもう時間がない今日は1時間以内で800円で済んだああよかったよかった。