日本ラブコメ大賞2022:Ⅲ 緩やかで幸せな時間

第10位:妻の連れ子とセフレな関係ぷちゴリちゃん[三和出版:SANWA COMICS]

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 さて日本ラブコメ大賞成年編という事でいわゆるエロ漫画が対象になるわけだが、ただエロいだけでは駄目である。また「地味で平凡な少年、青年、中年」と「美人でスタイルも良い女」を組み合わせればそれでいいというわけでもない。誰とでも寝る淫乱な女がいて、その女が「美人でスタイルも良い女」であり、そんな女と「地味で平凡な少年、青年、中年」が性交渉できてもそれではいけない。神ならぬ人の世であるから、ある程度以上の金を出せば「地味で平凡な少年、青年、中年」も「美人でスタイルも良い女」と性交渉する(或いは愛人にする)事ができようが、金を出さなくても性交渉ができる、そしてその女は「地味で平凡な主人公」とだけしか性交渉をしない、が成年版ラブコメの醍醐味であり、それによってエロ漫画の何倍も強烈な快楽を手に入れる事ができよう。ラブコメとは見果てぬ夢なのである。

 そこで本作だがタイトルに「セフレ」がついており、「セフレ」とはセックスフレンド、気軽に性交渉しつつも恋愛には至らないという恐ろしい、この日本ラブコメ大賞とは相容れない悪魔の思想であるが、本作の各短編のヒロイン達がそのようなおぞましい思想を持ち誰にでも股を開く女なのかと言えばそうではなかった。むしろ冴えない主人公達に対して猛烈にアプローチし(「お背中流しますね」「お疲れ様、ご飯にする、お風呂にする、それとも…」「背中だけ(オイル)塗ってくれる?」「主人公君もオイル塗ってあげよっか」)、主人公が性交渉へと流れるように積極的に「私はあなたの事が気になっている(好きである)ので性交渉をしましょう」と意思表示した上で誘う女達なのであり、本作はいわゆる棚ボタものに分類されよう。

 また短編の配置が絶妙で、前半で「主人公(中年)+妻+妻の連れ子」パターン、「主人公(青年)+彼女+彼女の姉+彼女のいとこ」パターンの短編が続き、妻・彼女が「主人公が自分以外の女と性交渉している」事を知ってもなお容認する(「素敵だわあ」)、そして自分(ヒロイン)も自分(ヒロイン)以外の女に負けないように主人公との性交渉に更に励む…というハーレムエンドで落ち着き、そこから後3つの短編は主人公+ヒロインの1対1性交渉が続き、それぞれ刺激的な性交渉が展開されるが、所詮は1対1であるからハーレムよりも「まったり」とした読後感となり、読み終えた時は満足・満腹感に満たされよう。もちろんこの配置自体は偶然であろうが、偶然であってもいいものはいいのであり、世界のラブコメ王は細かい事は気にしない。

 更に本作の特徴は作画が劇画調とアニメ調を足して2で割ったようなバランスの良さにあって、やや劇画風の顔でありながら身体全体は2次元の一般的な「ボン・キュッ・ボン」であり、本来ならば顔(劇画調)と身体(アニメ調)のバランスが維持できずちぐはぐとなるはずだが絶妙なバランスで描かれている事でヒロインの全身に違和感はなく、しかし劇画調=現実風も残されているから、主人公たる読者はエロ漫画でありながら現実感を堪能する事ができる。そんなヒロインは主人公に積極的に股を開くのだから、見果てぬ夢であるラブコメの夢を叶えてくれるのであった。

「でも主人公さんったら娘相手にこんなにガチガチにしちゃって、妬いちゃうわ」

「これからは二人分気持ちよくして(責任取って)ね」

   

第9位:白濁の罠英丸[エンジェル出版:エンジェルコミックス]

 この日本ラブコメ大賞で「寝取られ」はありえないが、「寝取り」はどうかと言えばケースバイケースとなる。もちろん主人公は「地味で平凡で冴えない男」であるから、大抵は童貞(素人童貞)であり、付き合いの経験があったとしても1~2人ぐらい、或いは性交渉できずに金を貢ぐだけ貢いですぐフラれてしまうようなウブで純情な男でなければならず、他人様の女を奪うなどという芸当はできない。そもそもどこの馬の骨かもわからない男と性交渉している女と性交渉するのも嫌なので、やはりヒロインは処女がよい。とは言え処女というのは10代~20代前半が限度で、ヒロインは「美人でスタイルも良い女」なのだから、いくら二次元で都合がいいとは言えそれなりの年齢(20代後半以上)に達しているのに処女というのは絵空事過ぎよう。そして主人公がそれなりの年齢(30歳以上)であれば、対応するヒロインもやはりそれなりの年齢にしなければならない、つまりヒロインは処女でない女という事になろう。もちろん「おっさんと女子高生(女子大生)つまり処女」という組み合わせはエロ漫画において一般的ではあるが、それが難しい場合のヒロインは、

(1)処女ではないが現在付き合っている男はいない女

(2)現在付き合っている男がいる女

(3)結婚している女

 となり、(2)(3)のヒロインであれば「寝取り」となる。そして「寝取り」は多かれ少なかれ反社会的な行為であるからリスクが伴い、読者は安心して読む事ができない。もちろんその反社会的な行為が快楽のスパイスとなる事もあるが、そのような特殊な快楽は日本ラブコメ大賞と相容れない。

 そのため「寝取り」には大義名分が必要となるが、大義名分はそれほど難しいものではない。本作のように「いじめられっ子がかつてのいじめっ子に復讐する」ために「かつてのいじめっ子」だった男の妻や恋人を寝取る、というオーソドックスな大義名分があればよい。また主人公は「イケメン」「マスコミでもてはやされる教育評論家」「塾を経営している教育コンサルタント」であり、現状に不満を持っている女達をいとも簡単に篭絡するが、かつては「背も低くてぼっちゃり」して凄惨ないじめ被害に遭っていたのであるから、「地味で平凡で冴えない男」の変型版として日本ラブコメ大賞に耐える事もできよう。本作は「元『地味で平凡で冴えない男』による復讐劇」としてはやや都合が良すぎる面もあるが、フラッシュバックされるいじめ自体は凄惨そのもので、その凄惨さによってヒロインを簡単に落とす事のバランス、つまりこれだけひどい目に遭ったのだから簡単にヒロインを落とすのも仕方がないという調整が自然に図られ、ヒロインは主人公の上で淫らに舞い、淫らに乱れるヒロインによって主人公(=読者)は復讐を遂げた達成感を味わい、更なる復讐への決意・闘争心が身体に湧き上がり、快楽を膨らませる事ができるのであった。そして篭絡したヒロイン達は主人公の部下となり、主人公からの快楽を何よりの褒美とする(「ほら主人公さん、私のオッパイ張りがあるでしょ」「何言ってんの、主人公さんは私の乳がお好みなのよ」)女となるのであり、主人公(=読者)はドン底の敗者からの復活を味わい、再スタートを切る事ができるのであった。勧善懲悪且つラブコメとして優れた作品である。

   

第8位:ママって呼んで 甘やかし性教育舞六まいむティーアイネットMUJIN COMICS]

 またしても「寝取り」ものとなってしまうが、タイトルにあるようにヒロインが「ママ」である事が強調されているので母子相姦ものとなる…わけではなく、本作の「ママ」は「主人公の彼女の母」或いは「父が再婚した母」であり、血の繋がりはない。そして血の繋がりがなければ成年版ラブコメとしての完成度は低くなるのが常で、母子相姦、つまり家族という血によって結ばれた母と息子の深い愛が異性としての愛に変わる事で主人公(=息子=読者)は絶対の愛を獲得でき、無敵の状態となり、更にそんな母は二次元のセオリーに則って若々しく瑞々しく、しかし熟れた女の色香を漂わせているのだから、主人公(=読者)は永遠に快楽の奥に潜り込む事ができよう。母の胎内に守られた赤子のように。

 しかしながら本作の主人公とママヒロインにそのような血の宿命はなく、ママヒロインからすれば主人公は単なる「年下のかわいい男の子」であり、主人公からすればママヒロインは単なる「綺麗なおばさん」である。ところがそんなママヒロインは「若々しく瑞々しく、しかし熟れた女の色香を漂わせている」女であるから、自然に情事へと流れよう。そして本作の場合その情事が泥沼の本気度を帯びる事に特徴があって、身体を重ねるに連れてママヒロインは次第に主人公(=読者)に愛されたいと願うようになり、年増の妖艶さと恋する女の可愛らしさに磨きがかかり、なりふり構わない性的アピールがエスカレートするのであり(「身も心も息子に恋しているんだわ」「ママの子宮で精液受け止めてあげる」)、主人公(=読者)からすれば自分(=主人公=読者)より年が上で人生経験豊富(子供を産んでいる)な経妊婦(経産婦)が、自分(=主人公=読者)に愛されたいと身体を開き、また主人公と同じ年代の女と仲良くしようとすると恥も外聞もなく嫉妬する(「ずっとお世話してあげるから、他の女よりママだけを見て」「私と娘どっちが気持ちいいか正直に答えて」「主人公君専用になるから、娘に出す精液がなくなるまで中に出して」)のであるから、主人公(=読者)は自分の立場がいつの間にか逆転しママヒロインの上に立った事を実感する事ができ、その支配の感覚が快楽を盛り上がらせよう。

 また性交渉においてママヒロインが主人公を攻めながらも、いつの間にか主人公(=読者)側が攻めになり、しかし最後にはどちらが攻めて攻められているのかわからないごった煮の快楽の渦の中に突っ込んでいくのであり、まさに泥沼の快楽が展開される。それでも不倫等の罪悪感がほとんどないのは、ママヒロインが「若々しく瑞々しい」ので生活感がなく、夫(父)がいる事を意識させず、且つ主人公(=読者)と愛し合う事ができた喜びを全身に溢れさせ、また妊娠する事を心の底から望んでいるからであり、主人公(=読者)はひたすら精を放つだけでよい(「彼女が生まれた子宮を僕が孕ませる」)からであった。それがヒロインの喜びの根源であり、主人公(=読者)は快楽のまま性交渉を続ければよく、ひたすら母乳を飲めばいい赤子のような幸せと癒しに包まれよう。これもまた成年ラブコメに求められる役割の一つである。

 それにしても前作(2020・4位「彼女のママと出会い系で…」)・本作と、この手のストーリーにおける作者の力量は相当なものである。

    

第7位:新妻さんのこじらせエロ日記亀吉いちこエンジェル出版:エンジェルコミックス]

 非常に珍しい作品であった。前半70点、中盤50点、後半100点というところで、平均すれば73点でまあまあだが、せっかくなので本作を通じて成年版ラブコメにおけるヒロインに必要な要件について述べる事にしよう。というのも本作のヒロインはタイトルにあるように「こじらせ」女(32歳・処女)で、真面目に性知識を勉強したはずが「初めては強引に無理やり、まるでレイプのごとく、乱暴に膜を打ち破ってほしいのです」などと間違った性知識をインプットしてしまい、しかも夫(=主人公=読者)にそのような性交渉をお願いする女なのである。一方の主人公はもちろん「地味で平凡で冴えない」男で童貞、またヒロインを「妻としても女性としても完璧」「女神」と心酔し深く愛しているのだから、真面目にヒロインの間違った性の要求に応えようと頑張るのであり(「こんなに気持ちいいならラブラブでセックスしたかった…」)、性交渉を重ねたとしてもそれが「愛の対話、結果としての性交渉」になっていないため主人公(=読者)の不安は積もり、そのようなヒロインは成年版ラブコメでは失格となる。ラブコメとは主人公(=読者)の立場が強固になるものでなければならず、成年版ラブコメであれば性交渉という手段を通じて主人公(=読者)が救われ、癒され、力を得なければならない。そのためのヒロインである。

 しかしヒロインは「こじらせ」ているだけで、むしろ主人公を喜ばそうという強い意志が空回りしているだけなのだからそこまで断罪する事もない(世界のラブコメ王は寛容なのである)。またオナホールを使った性交渉場面では「私の中より、それ、気持ちいいんですか」「私とのエッチでそんな顔してなかったじゃないですか」「しょうがないのであなた(オナホール)も認めてあげます、名前はおな美ちゃん」と嫉妬する展開もあり、このように性交渉を重ねていけば普通にラブラブなセックスへと至るだろう…と前半70点となったものの、中盤でいよいよヒロインが主人公にぞっこんとなった途端に「好き過ぎて顔が見れない」「はしたない姿見られるの、すごく恥ずかしい」「嫌われるのが怖いから逃げてしまう」とヒロインが「こじらせ」女から「面倒臭い」女になってしまうのであり、いくら女心は複雑とは言えヒロインに避けられては主人公(=読者)の不安は更に大きくなり50点に下がろう。

 しかし後半、ようやく互いの気持ちを確認した事でヒロインは存分に主人公(=読者)への想いを吐き出し、それまで我慢していた主人公(=読者)はとめどなく精を放ち、惜しげもなく愛の言葉をささやくのであり、ヒロインは真実の愛を知る事で本当の性交渉を知り(「すっごくすっごく良かったの、こんなに満たされたの初めて」「主人公さんの奥さんだから、主人公さんの赤ちゃん欲しい」)大団円となるのであった。この部分は100点であるが、もちろん最初から100点である事が望ましいのであって、成年版ラブコメのヒロインがこのような面倒臭い女であるのはマイナスでしかないが、後半の砂糖菓子のような甘い性交渉を勘案すると7位が妥当であろう。「終わり良ければ全て良し」とはこういう事を言うのである。

「何でですか! 安定期入ってセックスできるというのに! えっちしたい! えっちしたいです! お腹大きい私には魅力ないですか!? 今晩! 絶対するので一人でしないでくださいね! パソコンの中のえっちフォルダは禁止です!」

「妊娠中は測位がいいんです」

    

第6位:巨乳が二人いないと勃起しない夫のために友達を連れてきた妻立花オミナ[※同人誌]

 さて日本ラブコメ大賞は基本的には書籍に与えられるものであり、同人誌も書籍の一種であるから問題はない。しかし同人誌はせいぜい20頁~30頁の短編であり、150頁~200頁はある本を押しのけて順位がつく事は滅多にない。とは言え昨年は約120頁の同人誌が1位となった(「おいでよ!くのいちの里 極~風魔くの一総登場の巻~」)。また同人誌の世界では約10年前からアニメ・漫画・ゲームのパロディのジャンルではなくオリジナルが当たり前のように流通しており、そこから優れた成年版ラブコメが出てくる事は必然であろう。但し同人誌は成年漫画の世界よりも更に玉石混交で、また同人誌界隈で話題となった作者はいずれ商業デビューし好評だった同人誌も書籍化されるので今までは世界のラブコメ王たる俺も付き合い程度にしか観察してこなかったが、昨今の情勢下では商業雑誌に載せて(エロ漫画雑誌に短編や長編を連載して)一冊の本としてまとめる事がかつてほど重要視されなくなっており、ピクシブツイッターで自分のペースで作品を発表し、量がたまっていない(150頁~200頁もない)としても同人誌として発表すればいいという考え方が主流になってきた。つまり優れた成年ラブコメが書籍化される事なく同人誌にとどまってしまう可能性もあるのであって、本作の場合も既に商業デビューしてこの日本ラブコメ大賞にも登場している(2014年3位「いきなり!ハーレムライフ」、2020年3位「ゆけむりハーレム物語」)作者がわざわざ同人誌として発表しており、今後書籍化される可能性は五分五分であろう。

 前置きが長くなったが作者はハーレム専門と言ってもいい職人であり、ハーレムのポイントである、

(1)男1人に女複数

(2)ヒロイン達は淫乱で経験豊富だから複数プレイに抵抗がないのではなく、主人公に抱かれるため仕方なくハーレムを許容する

(3)主人公が他の女と性交渉する事について、不平不満を口にしても、別れる事は絶対にない

 を確実に押さえてストーリーは展開される。本作の場合も「巨乳好き+ハーレム好き」な夫(=主人公=読者)のためにヒロイン(妻)が友達を連れてくる、つまり妻ヒロイン自らが「自分以外の女との性交渉を勧める」わけだが、それは「子作りできず(主人公は女一人ではもはや勃起しない)、知らない女の動画(ハーレムもの)でオナニーされるくらいなら友達ヒロインと一緒にした方がずっとマシなの」というやむを得ずの方法である事が強調され、また性交渉においても「出したくなったらちゃんと私に出すこと」と自分が妻である事を主張し、しかし主人公(=読者)があまりにパワフル(「夢にまで見た光景が…もう、今死んでも悔いはない」「でかくなり過ぎていつものゴムじゃサイズが合わない」)なので友達ヒロインとの性交渉を許容し、それでも別れる事など微塵も考えず、むしろ精力が復活した主人公(=読者)との性交渉を喜ぶのであり、主人公(=読者)もまた心の底からハーレムを堪能する事ができるのであった。

 本作では相手を二人に限定する事でじっくりと「複数の女を快楽の虜にしている」事を描く事ができ、主人公(=読者)は日常の延長(「隣の部屋、空いてたでしょ。明日から友達ヒロイン、そこに住むから」)でありながら日常を離れた淫楽の世界を支配した事を実感できよう。素晴らしい。本作がシリーズ化され書籍化されたなら1位~3位となったであろうが、これはこれで満足である。

   

第5位:アラサー店長と学生バイトの秘密体験/愛内なの[パラダイム:ぷちぱら文庫Creative]

 繰り返しになるがラブコメは「男に都合のいい」ものである。何の努力もしていない、或いは事情があってできない男が「美人で可愛くてスタイルもいい女」に惚れられるというものである。しかし「都合のいい」にも見せ方や濃淡があって、大別すると、

(1)都合よく一定の能力(容姿、身体能力、財力、等)を手に入れた

   →だから女が惚れてきた

(2)何もしていない

   →しかし女が惚れてきた

 が考えられるが、成年版ラブコメ、つまりエロ漫画であればその特性を活かして、

(3)何らかの方法を使って男(主人公)側が女(ヒロイン)側を脅迫し、性交渉に持ち込み、肉体関係を重ねる事によって、なし崩し的に女側が男側に惚れる

 も考えられよう。しかし一般編だろうが成年編だろうがラブコメである事が大前提であるから、ラブコメの主人公たる「地味で平凡で冴えない男」に「脅迫によって性交渉を強要する」等の反社会的な行為はできないが、それもまたケースバイケースであって、本作は、

(1)職場のバイトのヒロインの些細なミスを拡大的に伝えることによってヒロインに深刻性を伝え

(2)所詮は世間知らず(女子高生)なヒロインの戸惑いを脅迫の材料として

(3)性的な関係を結んだところを証拠(動画)として残し、その証拠を元手に次々と性的関係を継続させる

 というオーソドックスな段取りを踏んでいるが、それぞれの工程の合間で「(主人公は)全国規模のチェーンカフェの雇われ店長で、本部からはノルマに追われ、バイトや新入社員にはご機嫌取りをする」「だいぶ疲れが溜まっている今はやけっぱちな部分もあり」「明るい場所で善人にばかり愛されてきたヒロイン」「チャラチャラした女子(ヒロインの友人)の責めるような視線、自分の正義のためなら、誰を傷つけても構わない、リア充の傲慢さ」といった生活感や疲労感が巧みに強調される事で、主人公(=読者)の悪行が相殺され、一方でヒロインは早々に快楽の虜となり主人公からの強要を待ち(「この時間は他の人がいないからって、もう」)、幾度の性交渉を経て主人公(=読者)とヒロインが完全に恋人同士となる事で読者は「生活に疲れたアラサー」が一発勝負の賭けに出て勝ったような気分に浸る事ができよう。

 そして最後に主人公(=読者)とヒロインは結婚し末永く幸せに暮らし、変態的ながらも微笑ましく性交渉に励むのであり、「生活に疲れたアラサー主人公」つまり読者は勝者の美酒を永遠に味わう事ができるのであった。もし性交渉の発端が脅迫といった反社会的な行為でなければ1位となっていたぐらいの良作である。

「主人公さんって、ああいう(裸エプロン)のが好きなんですね」

「ああ、まあ…」

「そういうのが好きなら、やってあげましょうか?」

      

「それでおしまいですか? 縛られて動けない私を、んっ、一回犯したぐらいで満足なんですか?」

     

第4位:らぶはめ海老名えび[ワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL]

 なるほど「らぶ」な「はめ」、つまり「愛ある性交渉」という事で、本短編集を端的に言い表したタイトルであった。もちろんこの日本ラブコメ大賞に登場する以上「愛ある性交渉」であるのは当然だが、濃淡の差は出てくるのであり、その「愛」がいかに強固か、その「性交渉」は「愛」の延長線上にあるのか(単なる一瞬の快楽のものではないか)、を判定しなければならない。

 また「地味で平凡で冴えない男」と「美人でスタイルもいい女」の組み合わせの問題もある。いかに愛があったとしも男がイケメン、スポーツマン、金持ちであればラブコメとはならないのであって、では本作はどうかと言えば主人公=イケメン、等の扱いではないが、さりとて「地味で平凡で冴えない男」を強調しているわけではないので普通という事になろう。一方でヒロインは2次元のセオリーに則ってスレンダー且つ巨乳の持ち主ばかりだが、こちらも美人かどうかの言及はないので普通という事になる。つまりごく普通の男女がごく普通の恋愛をして性交渉に至るわけだが、本作のヒロイン達は例外なく攻められば攻められるほど身体が喜びに震え、更なる快楽を主人公(=読者)に要求し、主人公(=読者)がそれに応えれば応えるほどヒロインの快楽の泉が溢れ、主人公(=読者)への愛も強固になる構図に特徴がある。

 つまりヒロイン達はいわゆる「M気質」で、しかし積極的に主人公(=読者)にアプローチするのだから、主人公(=読者)はその誘惑に乗ればいいわけだが、それにしてもヒロインの喜びようは大変なもので、以下の通り、

「私のおっぱいの中に、主人公君のくっさいチンポ入れて下さい」

「ご飯よりおちんちんが欲しいです」

「あたし、主人公君の赤ちゃん欲しいよ」

「もっと主人公さんに気持ちよくなってほしいんです、幼い見た目の私の頭を鷲掴みにして」

「主人公さんの好きなように、細い腰を折れそうなくらい強く掴んで、乱暴に腰を打ち付けて」

「1秒でも早く主人公が欲しいの」

 と淫乱の極みとなるのであって、しかしヒロインのスレンダーな身体によってその色気は健康的なものに押しととどめられ、そのため主人公(=読者)は罪悪感を感じる事なく凶暴に精を放つ事ができよう。そして実はただの淫乱だったかもしれない、主人公(=読者)が好きだから誘惑したのではないのかもしれないヒロインは、しかし底知れぬ快楽によって結果的に主人公(=読者)のものになり、愛を誓うのであり、主人公(=読者)もまた底知れぬ快楽と愛に浸る事ができるという構図である。作中でいくら激しい性交渉が展開されたとしても、結果としてヒロインの確かな愛が残るのだから、主人公(=読者)は勝利の余韻(ヒロインを自分の快楽の虜にする事ができた)を穏やかに反芻でき、読者は勝者の優越、征服者の恍惚に浸る事ができよう。成年ラブコメのお手本のような良作であった。

「ちゃんとピル飲んでるか?」

「はい、大丈夫、ご主人様の言いつけは絶対守ってます」

     

第3位:恋人は吸血鬼!?/七瀬瑞穂キルタイムコミュニケーション:アンリアルコミックス]

 本作は非常に丁寧にストーリーが展開される。主人公とヒロイン達が性交渉へと至るスピードは早いが、説明を省略しているわけではなく、段階を着実に通過させた上で主人公もヒロイン達も肉欲に溺れさせ、それによって主人公(=読者)には肉欲に溺れる大義名分ができ、性交渉を意識する上でどうしてもまとわりついてもしまう罪悪感を払拭する事ができている。

 本作(表題作)はタイトルにあるようにヒロインが吸血鬼であり、人外のヒロインを用意する事で「地味で平凡で冴えない」男(=主人公=読者)でも性交渉できるパターンでとなっている。「地味で平凡で冴えない」男は通常性交渉する事ができない(金銭を払って娼婦と性交渉する場合を除く)、なぜなら「地味で平凡で冴えない」からで、しかしそれでは話が始まらないので「美人で可愛くてスタイルもいい女」を用意するが、ではどうして「美人で可愛くてスタイルもいい女」が「地味で平凡で冴えない」男(=主人公=読者)と性交渉できるのか、それに「地味で平凡で冴えない」男が「美人で可愛くてスタイルもいい女」と性交渉してしまえばもうその男は「地味で平凡で冴えない」ではなくなるのではないか…という矛盾を「このヒロインは人外だから、通常の常識では説明できない」と強引に蓋をしてしまうストーリーが人外パターンであり、それで平均点以上は取れるわけだが、本作の場合は、

(1)ヒロインは吸血鬼(但し容姿は人間とほぼ同じ)だが、主人公とは共通の趣味がある(ラノベ好き)

(2)吸血鬼にとって血は必須、でも人間から吸血してはいけない

(3)但し恋人関係になれば、その人間から血を吸血してもいい

 という設定により、主人公(=読者)は特に意識する事なく流れのままにヒロインと恋人関係になるのであり、しかし上記の設定は説明されているのだから違和感なく性交渉へと至る事ができよう。また十分な快楽を味わいつつも主人公(=読者)はヒロインの他にヒロインの母、ヒロインの従妹と快楽の経験を広げていくが、それでもヒロインや副ヒロインは主人公(=読者)との性交渉を貪欲に求め続け、それに応えた主人公はついに吸血鬼化して(「複数の吸血鬼に認められた人間が吸血され続けると、その人は吸血鬼化していくのよ」)しまうのであり、人間から脱した主人公は3人のヒロインと悪魔の快楽を手に入れフェードアウトするのであった(「末永くよろしくね、あなた」)。その快楽の深淵に読む側は思わず身震いしてしまうが、「地味で平凡で冴えない」男(=主人公=読者)であってもそのような世界が用意されている事に感動も覚えるのであり、なかなか不思議な作品であると言えよう。

 もう一つの連作短編はより単純(「勇者と魔王が結婚した事を機に人間界と魔界を行き来できるゲートが作られた」)且つより直接的(「両世界の架け橋となるために赤ちゃんを作る事が主人公君のお仕事なの」)であるが、ここでも人外ヒロインを強調する事で平均点以上からスタートしており、主人公(=読者)は姉ヒロイン・妹ヒロインそれぞれとの性交渉を経た上で甘美な姉妹丼(「姉妹同時に受精できてよかったわ」「これからはお父さんになるんだからしっかり稼いでよね」「そうよ、『留学生』から『パパ』になるのよ」)へと至るのであり、その丁寧さにやはり感動を覚えよう。

 またヒロインが可愛らしく、シーンによってはやや幼く見える事によって淫猥さが消されている事も、「吸血鬼」の凶悪なイメージを消し主人公(=読者)を躊躇なく性交渉へと飛び込ませる一助となっている。大変おいしい作品となっているが、後半のショタ?風短編によってラブコメ分がややマイナスとなり、3位に落ち着いた。これらがなければ1位になっていたのだが、それでもいいものはいいのである。

    

第2位:こいちちざかりみそおでんジーオーティー:GOT COMICS

 何と言っても迫力がある巨乳・爆乳に目が行ってしまう。ヒロインの顔以上の大きさを誇る乳房だが、顔と身体のバランスは保たれている。また乳輪も大きく描かれているが、水をはじくような瑞々しさで表現されている。顔も可愛さと純粋さが自然で、全体的に清潔感がある。これは作者の天性のものであろう。

 しかし乳房や身体全体の表現がうまいだけならエロ漫画である以上探せばすぐに見つかるのであって、本作の特徴はその「乳がでかい上に可愛くて美人なヒロイン」が、主人公(=読者)に対して積極的、或いは好意がほぼMAXの状態からスタートしている事にある。そのためヒロインは主人公(=読者)に抱かれようとアピールし、それによってヒロインの巨乳は主人公(=読者)の目の前で舞うのであり、たとえ主人公(=読者)が「地味で平凡で冴えない男」であってもそこまでヒロインが動き回るならば野獣化するのは必然であり、野獣化し精を放つ主人公をヒロイン及びヒロインの乳房は受け止め、快楽を与えつつ包み込むのであり、主人公(=読者)は性欲をぶつけ快楽を処理しつつも母性的な安らぎを得る事もできよう。

 そもそも「乳房」には女性の性的アピールの他に子供への無償の愛という役割があり、本作では「乳がでかい上に可愛くて美人なヒロイン」が、「地味で平凡で冴えない男」に身体を提供するのだから、それだけヒロインの母性が感じられよう。本来なら美人な女というのは「イケメンやスポーツマンや財力のある男」に抱かれるものだが、そうではない男(=主人公=読者)にその身体を提供する事で母のような大らかさをイメージさせ、一方で性交渉も行うのであるから、主人公(=読者)にとってその快楽と安らぎは無上のものとなる。またヒロインは性交渉の高まりによって主人公(=読者)の子供を妊娠する事を強く望むのであり、タイトルにあるように「こい」を秘めた「ちち」がもたらす、めくるめく愛の世界は、エロ漫画以上の快楽、即ち成年版ラブコメの「勝者の喜び、支配者の優越、無限の快楽」を与えてくれるのであり、1位の完成度もさることながら本作の完成度もすごいものがあった。

 特に第一短編(「キメ撃ち進路相談」)は秀逸で、わずか26頁の短編だが成年版ラブコメのポイントである「積極的なヒロインと消極的な主人公」「ヒロインが主人公に好意を持っている事を主人公が認識しても、主人公は性交渉に対して慎重」「性交渉の扉をヒロインが開く」「ヒロインは主人公との結婚や妊娠を望む、それほどの想いを主人公に抱いている事を主人公が知る」「主人公も意を決して性交渉」を全て満たし、最後は結婚して子供を授かるところまで描き切るのであった。これはすごい。

「そんなに私に襲われたかったんだね、先生」

「自分じゃ我慢できないからって私に我慢させようとするなんて」

「このまま私が進路を決めたら、私は先生の知らないところに行っちゃうよ、知らない男の人と結婚しちゃうよ、その男とセックスするかもしれないよ、そのまま赤ちゃん産んじゃうかもしないよ、でも私、嫌だなーそんな事になるの」

「どこかに危険日の教え子を犯しちゃうような駄目な先生とか、居てくれたりしないかな」

「私、将来はそんな人の赤ちゃん生みたいって思ってるんだけど…だめ?」

「すごい、先生、私の子宮が喜んでるの、わかる?」

   

第1位:日の出荘の女たちタカスギコウエンジェル出版:エンジェルコミックス

 さてここまで性の饗宴、めくるめく刺激的な世界を堪能してきたわけだが、2位にしろ本作にしろ結局は男と女が出会って紆余曲折あったが性交渉を行って結婚して子供ができてめでたしめでたし、で終わるのであり、もちろんこれは日本ラブコメ大賞でありエロ漫画大賞ではないのだからそれでいいのであって、毎年述べている事だがエロ漫画が一般のラブコメよりもラブコメになり得るのは、性交渉という、文字通り裸の、虚飾を脱ぎ捨てた男と女の対話を通じてお互いを深く理解する事を描く事ができるという特性を持っているからである。そこに「地味で平凡で冴えない」男と「美人で可愛くてスタイルもいい」女をぶつければ最上の娯楽となる。

 というわけで本作だが、「38歳の美熟女ヒロイン(古びたアパートの大家)と34歳のエロ漫画家主人公による、いい歳した中年が恥ずかしい性交渉をして喜び合う」という極めて平和で穏やかな作品であり、しかもヒロインは積極的(「何かお手伝いできる事はありません」→ヌードモデル→「他にもお手伝いできる事はありませんか」→性交渉)で、なぜ積極的なのかと言えば「(主人公が)似てたんです、昔、好きだった人と」「自分の身体つき(巨乳が重力に負けて垂れている)にコンプレックスがあって、歳も歳です、でもそういった女性を題材に主人公さんは漫画を描いてらっしゃるって」「ならば私にも興味を持って頂けるかなって思いまして」という、主人公(=読者)は能動的に動いていないが正当な理由も用意されている見事なものであった。

 その後もヒロインは「女性器名称を自ら発する」「エロ漫画やAVでよくあるおもちゃを使って露出プレイ・性交渉する」「コスプレ衣装を着た上で性交渉する」と主人公(=読者)のリクエストに恥じらいつつも必ず対応するのであり、そのように美しく熟れた肉体が淫らに舞う中で主人公(=読者)はヒロインへの愛しさを募らせ、舞台を温泉に移して主人公(=読者)はプロポーズしヒロインはもちろんOKし、その直後の性交渉では快楽を求める性交渉ではなく二人の愛を確かめ合う結果として快楽が生まれる性交渉へと変貌を遂げるのであり、その緩やかで幸せな時間はまさに性交渉の真の姿となる。人類が性交渉という動作を覚えたのはもちろん子孫を残すためであるが、果たして本当にそうか、むしろ男と女が愛を形にした結果として子供が授かるのではないかと錯覚させるような神々しさと、しかし人間の温かみを感じさせてくれる性交渉が目の前で展開されるのであり、読者は思わず目を見張るであろう。

 しかし最後は神々しさが消えて「結婚して一年と半年が過ぎ新しい命を授かった」「アパートも新しく生まれ変わった(今風に建て替えた)」「さーて、これからローン返済頑張らないとな」「一緒に頑張りましょうね、あなた」「うん」とどこにでもいる夫婦の平凡な日常となり、しかしヒロイン(=妻)は相変わらず美熟女で、主人公(=読者)の性的なリクエストに今後も恥じらいつつも必ず対応するであろう。平凡で普通で、しかし昨今の情勢ではもう現実では望めなくなった幸せを主人公(=読者)は手に入れたのである。これでよい。我々読者はこの幸せな世界を味わい、辛く厳しい現実へと立ち向かうのである。ラブコメとはそのための武器なのである。