日本ラブコメ大賞2022:Ⅱ 時代は常に新興勢力に味方

第10位:女子高生と聖職者さん/財政ろろ[竹書房:BAMBOO COMICS]

 ラブコメとは何か。「地味で平凡で冴えない男(主人公)」に「美人でスタイルもいい女(ヒロイン)」をぶつけ、更にヒロイン側が一方通行的に主人公にすり寄る、アプローチする、告白する…というもので、その都合の良さに多くの人が癒され、勇気を取り戻し、生きる希望を見出し、一方で別の多くの人が激しく拒絶反応を起こすものである。その両極端の反応に苦しみながらこれから多くの都合の良い作品が出てくるが、それらは世界のラブコメ王たる俺が認定した素晴らしいラブコメであり、長い歴史を誇る日本ラブコメ大賞の新たな歴史となるのである。

 ところで「地味で平凡で冴えない男」には通常、出会いがない。そのため合コン、婚活、或いは最近主流のマッチングアプリ等に繰り出すしかないが、そもそもが「地味で平凡で冴えない男」なのだから、それらに繰り出す事もできない。しかし職業柄女性が多い職場もあり、そうなると話は違う。サラリーマンだと化粧品やアパレル関係の会社、それ以外だと学校が考えられるが、本作の主人公はその「出会いの多い職場」たる女子高で働く教師(44歳)であり、美人でスタイルのいい、若々しく瑞々しい女子高生ヒロインに一方的に慕われ、付きまとわれ、あらぬ誤解変な誤解をされ、結果的に女子高生ヒロインから更に信頼を勝ち得ると共に親密になっていくというもので、これまでの「女子高及び高校の教師が主人公のラブコメ」(下記参照)がそうであるように主人公は「地味で平凡」なので職務に真面目で、悩み多き女子高生ヒロイン達の不安等に親身になって相談に乗るわけだから、所詮は世間知らずの女子高生ヒロイン達は主人公に好意を持つ事になるわけである。

 しかしながら主人公は職業・教師つまり聖職者であり、それで日々の飯代を稼いでいるのだから生徒に手を出す事はありえない。そしてその毅然たる態度がまたヒロインの心を奪い、それによるヒロインと教師(=主人公=読者)の攻防の見せ方が巧みであればあるほどラブコメ的世界は深まる事になる。またラブコメ的世界を強調するためのわかりやすい方策として主人公たる教師の容姿を平凡以下(ハゲ、デブ、チビ)或いは冴えなくする事があるが、本作の主人公の場合高身長で体格もよいのでラブコメ的世界としてはむしろマイナスとなっているが、その分ヒロイン側の魅力で勝負しており、特にヒロイン1(天然妄想癖)が序盤から「渋くてダンディーな雰囲気溢れる大人の男性、つまり先生こそが私のドストライクなのです」「もう少しなんて言わず先生、もっと私のことやらしくめちゃくちゃに汚して下さい」とフルスロットルで主人公にぶつかり、その勢いのままヒロイン1の友人であるヒロイン2(風紀委員長)・ヒロイン3(似非関西弁)も巻き込み、ヒロイン2・3もまた主人公のコワモテ(インテリヤクザ顔)だが生徒を真剣に守る姿勢に惹かれていく(「やっぱり先生といると落ち着きます、時々またギュッとしに来ていいですか」「一緒にベッドで横になって、ほいで今日はもう帰らんで」)のが読んでいて実に楽しいのであった。

 とは言うものの主人公は教師であり、教師であるがゆえにヒロイン達と親密になる事ができても、教師であるがゆえに恋仲や性交渉まで発展する事ができない。また主人公はヒロイン達の数々の誘惑にも顔色一つ変えず避け、読者としては感情移入が難しい部分もある。しかしヒロイン達の主人公を想う気持ちは妄想も追加して強烈であり(「心臓近くにちゅーしてもらえるとこれから強く生きていけそうな気がする!」)、10位が妥当であろう。

   

「女子高及び高校の教師が主人公のラブコメ

・月曜日のたわわ/比村奇石…2021年9位

・ブラック学校に勤めてしまった先生/双龍…2019年1位

・塩田先生と雨井ちゃん/なかとかくみこ…2018年11位

・ギャルごはん/太陽まりい…2018年6位

・若林くんが寝かせてくれない/音井れこ丸…2016年1位

・お前ら全員めんどくさい!/TOBI…2015年1位

   

第9位:久々に会った幼馴染が色々と成長しているのに脳内だけ成長していなくて動揺している/piyopoyo[KADOKAWA]

 ラブコメにおいては「見目麗しい女(ヒロイン)が、地味で平凡で冴えない男(主人公)に惚れる」わけだが、惚れる理由としては、

(1)ヒロインの窮地を救ったから

(2)主人公と家族或いは親戚だから(血は水より濃い)

(3)幼馴染で、子供の頃からずっと一緒にいるから

(4)一目惚れ

 の4点しかなく、最も世間的に通用する理由は(1)であるが、「地味で平凡で冴えない男」が颯爽とヒロインを救えばそれは「地味で平凡で冴えない男」ではなくなりラブコメの前提が崩れてしまうので原則として使ってはならない。とは言え最も都合が良い(4)はあまりにも都合が良すぎるのでその「都合が良い」事のショックを和らげるために別のショックを与えなければならず(ヒロインは宇宙人、獣、キチガイ、等)絶妙なストーリー回しが必要になる。そこで(2)と(3)が、遠回りなようで実は効率がいい事になる。

 しかしながら(3)にも難点があって、そのような幼馴染としての関係、つまり小さい頃に仲良くなって一緒に遊んで、お互い中学生・高校生となってそれでも仲良しで、やがて恋心へと発展する…のはやはり無理がある。「女子会」に代表されるように、我が国では男と女が共存するのではなく対立する・互いに閉鎖する関係にあるわけで、何かの間違いで幼少の頃は一緒に遊ぶ仲であったとしてもそれは小さきゆえの気の迷いだったとなろう。もちろんそれでもヒロイン側は恋心を秘めていた、という展開もありえるが、一方で(2)が便利且つ安易に利用できるため(誰にでも妹・姉・親戚がおり、親族ならではの気安さがある)、(2)と(3)ならば大抵は(2)を取る事になる。つまり「ヒロインは妹(或いは義姉)で、子供の頃からずっと一緒にいるから」惚れているという事になり、(2)と(3)を融合した上で(2)となるパターンが最も成功しやすい(日本ラブコメ大賞で評価されやすい)のである。

 そこで本作であるが、再会した幼馴染ヒロインは「色々と成長している」、身体はいわゆるボン・キュッ・ボンの悩ましい身体へと変貌を遂げているのに精神的にはまだ子供の頃のように無邪気に主人公と接するのであり、しかし二次元のセオリーに従ってそんなヒロインも次第に主人公を意識するようになるが、なぜ意識するのかと言えば副ヒロインである主人公の義妹(中学生)の存在によって主人公・ヒロイン・副ヒロインに漂う雰囲気が「色っぽく」なるからであった。幼馴染ヒロインと違って年相応に恋に恋する年頃(中学生)である副ヒロイン(義妹)は義兄である主人公に一途で、それによって主人公(=読者)自体に優位性がもたらされ、「男は女によって変わる」から男は単純に「ある女に惚れられている」だけで力を得て自信を得る。そしてその「ある女」とはこの場合義理の妹なのであり、(2)のパターンを使用しているのであるから、ラブコメとして成功しているのであった。

 また本作ではもう一人の副ヒロイン(ギャルヒロイン)も出てくるが、前半の「主人公・幼馴染ヒロイン・義妹ヒロイン」による作品世界が強固過ぎ、この副ヒロインを投入する事でその強固な世界が中途半端に崩され逆効果となってしまっている。そして終盤の義妹副ヒロインによる感動的な告白シーン(下記参照)によってこの義妹副ヒロインは正ヒロインを喰ってしまっており、正ヒロインを喰った副ヒロイン(義妹)、正ヒロイン(幼馴染)、副ヒロイン(ギャル)によってストーリーは収拾がつかないまま何となく終わるのであり、もちろん収拾がつかない事は悪い事ではないが(事実上のハーレム状態となる)、本作の場合それぞれのヒロインが魅力的ながらそれらが調和せずいつの間にか頁が閉じられるのであり、9位とするのが妥当であろう。こういうケースもあるのだからラブコメは面白い。

「これからはお兄ちゃんに一人の女性として見てもらえるように努力します。いつまでも可愛い妹じゃないんですからね!」

「それに新しい女性の影も妹としては気になるところです。あの方とても綺麗ですよね」

   

第8位:いやらしはずかし。/朝森瑞季竹書房:BAMBOO COMICS COLORFUL SELECT]

 竹書房双葉社の「エロではないが非エロでもない」という、良く言えばマイルド、悪く言えば中途半端でぬるま湯の作品群がある。エロという直接的な刺激を描いてはならないが、しかし性交渉も描かねばならないという制約の雑誌(コンビニ雑誌)で、その「エロ雑誌ではないが、性交渉を描かねばならない」メディアとラブコメが交錯する。「美人でスタイルもいい女」と「地味で平凡で何の取り柄もない男」の組み合わせというラブコメの条件と、「性交渉及び性交渉に至る過程」を描かねばならない、しかしエロではないのだから煽情的で刺激的なストーリーは描けないという制約が合致する時、この日本ラブコメ大賞に選ばれるのである。

 さてエロ又はポルノにおいては当然の事だが女はエロ又はポルノ的な役割を果たさなければならない。この役割をわかりやすく言えばストリッパーであって、ストリッパーはその美貌及び美しく洗練された身体を用いて男達に性的興奮を与え、場合によってはお客を使って「まな板ショー」を行う事もあるが、ストリッパーと男達の間に何らかの精神的な交流はない。むしろそんなものは邪魔で、女はひたすら男達の性的欲望を満たす事に注力しなければならない。しかしラブコメとはそうではなく、「美貌及び美しく洗練された身体」を持つ女(ヒロイン)を、主人公(自分)ただ一人が味わう事ができ、またヒロイン側もその状態を金銭などの対価とは関係なく望む。なぜ望むかと言えばヒロイン側が主人公を慕っているからであり、「ヒロイン側が主人公を慕っている」結果として性交渉へと至るのである。最初から性交渉(エロ又はポルノ)があるのではない。

 「ヒロイン側が主人公を慕っている」のだから行き着く先は性交渉であるが、しかし性交渉そのものはエロではない。だが「非エロ」とも言い切れない。そのようにして日本ラブコメ大賞のお眼鏡にかなう作品がコンビニ雑誌から生まれ、それが書籍となってこの日本ラブコメ大賞に回収される。本作はその好例で、恋人関係になくてもヒロインが主人公を慕っている事はストーリーが始まった直後から読者に伝わっており、また最初から恋人関係であるストーリーであればヒロインが「理想の彼女」である事が読者にはすぐ伝わっており、その後に性交渉へと流れる事も容易に想像できる。作者はベテランであり既に本大賞でも評価しているが(2008年20位「天使のキュッ」、2010年10位「つゆだくめしべ」)、過去作品と同じく今回も「地味で平凡で何の取り柄もない男(=主人公=読者)」は「美貌及び美しく洗練された身体を持つヒロイン」に対して最初はぎごちなく気まずく接する(「勘違い厳禁!人生終わるぞ!」)も、一方でヒロインは既に主人公(=読者)を慕っているのだから奥手な主人公も何とか行動に移す事ができ、ヒロイン側は慕っていた主人公側から行動した事に喜び、その喜びのまま積極的に身体を開き性的な喜びを堪能するのであり、その性的な喜びを帯びた美しいヒロインを見て主人公(=読者)もまた喜び、幸せを実感するのであった。

 しかし短編集の宿命の玉石混交、ラブコメ的にドンピシャな短編もあれば(「天使とミミカキ」「臆病な恋のバラード」)、やや変化球過ぎな短編もあり、9位となった。しかしいいものはいい。12年ぶりの登場であったが、今後の活躍に期待している。

  

第7位:その着せ替え人形は恋をする/福田晋一[スクウェア・エニックスヤングガンガンコミックス]

 「オタクに優しいギャル女子高生」ヒロインもずいぶん一般化したようだ。一般化したというよりは思いも寄らぬ発展を遂げたと言えようか。女尊男卑な風潮を追い風に「女子高生」が持つ瑞々しさと突破力、「ギャル」という破壊力をもって更に女性が主導権を握ろうとしたものの、その突破力や破壊力が「オタク=キモイ」「オタクは見下して当然の生き物」という偏見そのものを打ち砕いてしまったのであり、ついには「オタクでも仲良くしていいでしょ」という化学反応を起こしてしまった。更に世の中は多様性とSDGsとなった。時代は常に新興勢力に味方し、「オタクはキモイので見下して当然」と考えていたかつてのギャル達は表舞台から追いやられた。時代とは残酷であるが、そのようにしてギャルとオタクのラブコメは以下の通り増える一方であり、

・帰ってください!阿久津さん/長岡太一…2021年1位

・ブラック学校に勤めてしまった先生/双龍…2019年1位

・ギャルごはん/太陽まりい…2018年6位

・やんちゃギャルの安城さん/加藤雄一…2018年4位

はじめてのギャル植野メグル…2017年2位

 以上の全てが「オタク、或いはオタク的な冴えない主人公」に対してギャルヒロイン側が「主人公がオタクだろうが何だろうが気が合う、気になっている、好きである」と主張してストーリーを引っ張り、そのヒロインの働きによって主人公もまた変わり、地味で平凡で冴えないはずの主人公(=読者)はギャルヒロインによってリア充的な青春を謳歌する事ができるのである。

 というわけで本作であるが、雛人形屋の家に生まれ雛人形職人を目指す主人公は当然そんなじじくさい目標を周囲に公言できるわけもなく、また幼い頃のトラウマもあり陰キャな高校生活を送り、偶然か運命かコスプレイヤーに憧れるクラスメイト(ヒロイン)にその夢を知られ、しかし急転直下「あたしにコス衣装作ってくれないかな」(両手をガシッと握られる)→「水着着てきたし」→「バストポイント間(両乳首の間の長さ)測っちゃわない?」→「じゃ、付き合っちゃう?」→「もっとエロいやつの方が良かった?」→「ファスナー下してくんない?」…とその距離感の近さと行動力に翻弄され、彼女どころか友達もいない主人公はその度に右往左往するが、その右往左往が激しければ激しいほど主人公(=読者)は「自分は今、女と過ごしている、一緒に作業している、一緒に行動している」事を実感でき、リア充的青春を謳歌できるのであった。

 また本作のヒロインはこれまでのギャルラブコメものとは段違いに積極的でありながら気遣いもでき、更に主人公にはっきりと惚れるのであり(「しゅきぴとお家デートやばっ」「永遠に続いて欲しすぎる」)、ギャルものによくある「主人公が消極的過ぎてヒロイン側が愛想を尽かす」可能性が早い段階でゼロとなっている事に特色がある。更に主人公は職人を目指すだけあってストイックにヒロインのコスプレ作りに努力するのであり、しかし所詮は高校生であるからくじけそうになり、それでも何とかやり抜く事でヒロインは主人公へ感謝と尊敬を表明し、それによって主人公はまたコスプレ作りに精を出すと共にヒロインの「主人公好き好き度」が爆上がりしていくのであり、むしろ愛想を尽かすのは主人公側ではないかと思う程であった。

 以上によって本作は1位になってもおかしくない完成度を誇るが、主人公がややイケメン風に描かれているため「主人公=読者」への感情移入にやや難があるため7位が妥当となろう。作品内で「特にイケメンでもないけど、見ようによってはまあまあ」という注釈があれば良かったが、惜しい事だ。

  

第6位:きみとピコピコ/ゆずチリ[講談社:KCDX]

 さてこちらもギャルなヒロインであるが、絵柄が丸っこく柔らかい画風で描かれているためヒロインは「ギャル」が持つ鋭さやあざとさの印象が薄れ、対する主人公が眼鏡姿で中肉中背、名前が「太田」なので「オタ君」と呼ばれるという、ほのぼのとした「ギャルとオタク」の組み合わせなので本作に軍配が上がる。また7位のヒロインもコスプレをするぐらいだからオタクや陰キャに理解があるが、こちらのヒロインはゲーム部所属でレトロなゲームに夢中という更にオタク・陰キャ寄りであり(「休日にゲームボーイやろうぜっていう女、ヤバくね?」)、そのようなヤバい女(ヒロイン)と盛り上がる事ができる主人公の存在にヒロインは純粋に喜び、ゲーム部活動を通じてヒロインは積極的に主人公と同じ時間を共有するのであり、二次元のセオリーに乗っ取ってそんなヒロインは可愛く、また高校生男子特有の悩みへの理解もあり(「ウチもエロい服あったらリアルで着てみたいし」「(水着を)そんなに見たいの?」)、休日に公園で弁当を食べる(+ゲームボーイをやる)事まで主人公(=読者)を導くのであり、特別で贅沢な青春を送っているようでしかしやっている事はただゲームをしているだけなのだから読者としては主人公への感情移入も容易で、「読者の失われた青春を追体験させる」というラブコメの効用を存分に感じる事ができよう。

 またラブコメのヒロインは消極的な主人公をストーリーに引っ張り出し、表舞台に立たせなければならないが、それによるヒロインと主人公の関係は以下のように、

(1)主人公が表に出てヒロインが裏方役に回る

(2)形式上はヒロインが表に出るがその裏で主人公が全てを取り仕切る

(3)ヒロインが表に出て活躍するが、そのヒロインは身も心も主人公に夢中なため、結果的に主人公側が有利になる

 が考えられ、7位は(2)に該当したが、本作では(1)をベースとしつつも状況によっては主人公が裏方でヒロインが表に立つというストーリーもあり、それによって主人公とヒロインはコンビネーションを培い、その合間にヒロインはギャル特有の天真爛漫さと思い切りの良さで主人公にサービスするのであり(下記参照)、時にはヤキモチを焼くのであり(「先輩に(主人公を)取られたらやだなーって、ちょっとだけ思ったのはマジだしね」)、いかにゲーム好きの陰キャな主人公であってもここまで心を許してくれたならと勇気を振り絞ってデートに誘うのであり(「合宿終わっても、一緒に遊びませんか?」)、そこで通常のギャルなら「キモイ」と一笑に付すところだが本作のギャルヒロインは顔を赤らめ、更にデート前には女性らしく身だしなみに気を遣い、「いつもの天真爛漫なヒロインと雰囲気が違う」事に主人公はギクシャクするが、そこはやはり二次元のセオリーに乗っ取ってヒロイン側の機転と偶然によって更なる発展へと至る(「ウチ(ヒロイン)の家に来てやればよくね?」「つか今から来ない?」)のであった。

 その段階を踏んだ発展模様は読者の「失われた青春」の傷を癒すのであり、素晴らしい。これでもっと発展すれば(性交渉或いは結婚まで行けば)1位となっただろうが、これはこれで良いのである。

「初デート記念にプリ(クラ)撮ろうよ」

「ウチに告られると思った?」

「ウチらまだ付き合ってなくて~」

「(電車で)ごめん疲れた、ちょっとだけ肩貸して」

「ちょっと惚れ直しちゃったかも」

     

第5位:小心者なベテラン中年冒険者と奴隷の狐耳少女/最上・筧秀[竹書房:BAMBOO COMICS]

 ラブコメとは希望でなければならない。そのため「地味で平凡で冴えない男」に「美人でスタイル抜群な女」をぶつける事によって「世の中捨てたものではない」という希望を読者に与えるわけだが、更に言えば「地味で平凡で冴えない中年男」に「美人でスタイル抜群な若い女」をぶつける事もまた希望を与えるものであるが、やはりハードルが高くなろう(10位のような、職業柄若い女と日常的に接する場合を除く)。そもそも主人公とヒロインが同世代であっても「どうしてこんな美人でスタイルもいい女がこんな地味で平凡な男とくっつくんだ」と指摘される世の中である。長い歴史を持つ本大賞においても以下の通り、「中年男VS若い女(職場が中学・高校・大学などの場合は除く)」パターンは少ないが、

・つぼみな奥さんポン貴花田…2011年5位

・プラモ男子とプリチー女子-ミズオとイエナの一年戦争-/ゆきもり・ソラキスズ…2014年2位

・年ノ差20/40/板場広志…2015年8位

・小あくま日和/片桐兼春…2016年2位

社畜と少女の1800日/板場広志…2019年14位

・ふたりソロキャンプ/出端裕大…2021年2位

 本作はこのパターンの中でも秀逸の出来と言える。いわゆるファンタジー世界が舞台で、その場合主人公は若々しい10代後半となる事が多いが本作の主人公は35~40歳であり(「15歳で田舎を飛び出して20年以上」)、それなりの地位と財産を築き(一軒家を所持)、ベテランの冒険者として周囲の評判も良く、また後輩や新人のピンチにもさりげなく現れて助けてやるなど名実共に「頼りになるおっさん」であるが、若い頃に身の丈に合わない高級娼婦に入れあげ金を積んで身請けしようとしたところひどい振られ方をして(「鏡見たら?ブサ男君」)、その他の娼婦達にも心ない言葉(「キスは嫌、その顔を近くで見るのも無理」)を浴びせられ続けた事によって「勘違いせず生きていくため」に自分がブサイクであり女とは一生縁のない人生である事を認め、しかし一世一代の決心をして大金を払って性奴隷用の女(ヒロイン)を買ったのであった。

 そして始まる蹂躙の宴、ブサイク男の慰み物、気持ち悪がられようが嫌悪されようが好き放題にこの女の身体を弄ぶ…はずが肝心の性奴隷(になるはずの)ヒロインは戦争捕虜と過酷な労働によって極度に瘦せ細り、精神も壊れかかっているのであり、もちろんそんな女(ヒロイン)を買う主人公が悪いが、そんな女を買うくらいの金しかない事と、自分のようなブサ男には壊れかかった女がお似合いだという自虐と意気地のなさが災いし、ではどうするかと言えば「一人の人間を育てるかのように」このヒロインを保護し、衣食住はもちろんのこと長い虐待生活によって傷ついた身体を半年かけて丁寧に癒していくのであり、タイトル通りの小心者ぶりベテランぶりである。

 小心者であるため目の前でゲロを吐き汚物を垂れる女を何とかしなければならない義務感にかられ、同時に大金を出して買ったのだから捨てるのも惜しい、そしてベテランであるから焦る事なく動じる事なく徐々にヒロインを回復させるのであり、半年経って見事に女として魅力的な外見に復活させると同時に主人公はこのヒロインを好き放題に抱く事に成功するが、所詮主人公は小心者であるから「性行為中の自分の不細工な顔を見られたら」と恐れヒロインの顔をタオルで隠すのであり、実はヒロインは自分を救ってくれた主人公を慕っている事が読者にはわかっているが肝心の主人公はヒロインと性交渉する事によっていっそう過去のトラウマに縛られるのであり(「ブサオヤジに甘い未来はないんだ」「俺は一生、女を金で買うしかないし、性処理道具以上の事は求めない)、まさに「まともな恋愛をあきらめて金で女を買った」男の哀れな末路であると言えよう。しかしヒロインはそんな主人公に戸惑いつつも従順に仕え、その思慕は深まる一方であり、読者は主人公と一体化しつつも主人公とヒロインを応援する気になり、本作は読みながらハラハラドキドキ、しかし温かい気持ちになれるという素晴らしいラブコメであり、読者に希望を与えるものであった。こういうラブコメを読むと「生きてて良かった」と思えるのである。

    

第4位:急に姉が出来まして!/緑青黒羽富士見書房:ドラゴンコミックスエイジ]

 ラブコメとは「ヒロイン側が積極的に出る」ものである。では「積極的に出る」とは何かと言えば、好意を積極的に表明する、愛を告白する、性交渉可能である事をアピールする、等が考えられるが、より実際的なものとして「押しかけ女房」がある。主人公(=読者)の生活スペースに突然侵入し、それによって同棲や夫婦といった関係を否応なく主人公(=読者)や関係者に意識させるという方法で、日本人は「決まってしまった事はしょうがない」「目の前にある事はしょうがない」というなし崩しの現状維持体質であるから、「なぜこんな美人で可愛くてスタイルもいい女が、地味で平凡で冴えない男のところへ押しかけ女房してくるんだ」というクレームも時間の経過と共に消えていくのであり、非常に有効な方法である。

 とにかく押しかけ女房ヒロインは突然やってきて押しかけてくるのであり、一つ屋根の下で男と女が生活する事をヒロイン側が主張するのだから当然そういう関係になる事をヒロイン側は期待して(覚悟して)おり、主人公(=読者)側は戸惑いつつも「自分はこの女に惚れられている」と意識する事になろう。しかしここで注意しなければならないのは「押しかける」条件で、

(1)主人公の事が好きなので押しかけた

(2)正当な理由或いはやむを得ない理由があり、しぶしぶ押しかけた

 の(2)は形式上「押しかけた」としてもヒロインは「押しかけ女房」とはならない(しぶしぶ主人公のところに来たので女房になるつもりはない)事になる。しかし本作は間違いなく(1)であり、作者の別作品(2020年2位「センパイ!オフィスラブしましょ」)と同様の「すらっとしたボディに加えてはっきりわかるほどの盛り上がり」で描かれたヒロインは可憐でありながら妖艶で、主人公(=読者)に対する強引さも同様だが、設定が「ヒロインの妹が主人公の兄と結婚」「だからヒロイン(19歳)は主人公(29歳)の義姉、主人公(29歳)はヒロイン(19歳)の義弟」「ヒロインにとって主人公は理想の弟」とやや変化球で、更にヒロインは主人公と「一緒の布団で朝起きたり、裸にエプロンで朝ごはん作ってあげたり、下着屋で試着室に一緒に入ったり」といった過激な行為を繰り出すが、それが主人公と恋仲になりたいためなのか「姉と弟のスキンシップ」としてなのか不明なため主人公(=読者)は戸惑うというより「???」となり、しかし仮にスキンシップだとしても行き着くところは性交渉である事は容易に想像がつくため、読者は常識という殻を破る事が求められるが、そもそもラブコメ自体が常識という殻を破った滅茶苦茶なもの(「美人で可愛くてスタイルもいい女」が「地味で平凡で冴えない男」に「押しかけ女房」する)なのであるから、読み終える頃には順応できよう。また副ヒロイン(隣の部屋に住んでいる、昔から知っている妹みたいな存在の高校生)ははっきりと主人公(=読者)と恋仲になりたいと望み、義姉ヒロインの登場によって過激度を増していくのであり(「副ヒロインを抱き枕にしていいよ」「せっかくだから保健体育の勉強も教えてほしいな」)、主人公(=読者)の家は事実上のハーレム、妻妾同居の雰囲気すらも醸し出されてくるが、一方でふんわりとした柔らかい絵柄が淫靡さを感じさせず「ハーレム」が持つ反社会的なイメージを消しており、主人公(=読者)はヒロイン・副ヒロインから次々に繰り出される(同居している・隣の部屋に住んでいるので逃げ場がない)誘惑等を浴び、戸惑い、しかし「自分は押しかけ女房されている、つまりこのヒロインは自分に惚れている」事を実感する事ができ、精神の栄養を吸収する事ができるのであった。やはり「押しかけ女房」はいいものだ。

    

第3位:今日から使える薬学的お世話/最上工路[富士見書房:ドラゴンコミックスエイジ]

 ブコメにおいては女が追い、男が追われる。女(ヒロイン)が男(主人公)を追う理由は女(ヒロイン)が男(主人公)に惚れているからだが、繰り返すように美人で巨乳な女が地味で平凡で冴えない男に惚れるには相応の理由、というより読者を納得させる理由がいるのである。理由などない、「幼馴染」「妹、姉、もしくは親戚」「一目惚れ」等によって最初から関係を固定させておいて突破すれよいという考えもあるが、しかし実際問題突破できない場合が多々ある。結局は何らかの理由を作って女(ヒロイン)側から主人公(=読者)側に接触を図らせ、その過程でヒロインと主人公を恋仲に発展させる必要があるのが現実である。

 またヒロインは誰もが羨む美人な一方で主人公は地味で平凡で冴えない男であるから、仮に何らかの接触があったところで通常は恋仲に発展する事はない。そこを捻じ曲げて恋仲へのレールを敷くのであるから事件・事故・偶然等が必要で、それこそがラブコメの醍醐味でもあるが、本作のような「研究や仕事に熱心なヒロイン」が、研究や仕事に熱心であるがゆえに対象である主人公に付きまとわい、付きまとい付きまとわれて過ごす時間の中で恋仲へと発展するパターンが本作である。但し「研究や仕事に熱心なヒロイン」は研究や仕事が第一なために色恋沙汰に発展しにくいという副作用もあるため、どこでラブコメにするかという匙加減が難しくもあり、一方的にヒロイン側が主人公側に付きまとうというおいしい展開が確立されているにも関わらず以下の通りその数は少ないが、

・ハゲルヤ!/福本岳史・北河トウタ…2007年・4位

・学園祭破天荒/稲元おさむ…2008年・10位

・KISS MY ASS/大見武士…2015年・14位

・勇しぶ。〜勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。〜/左京潤・柚木ガオ・戌角柾…2016年・9位

 本作はその系譜に連なる稀な作品であった。薬学部で日夜勉学に励む苦学生たる主人公にやってきたヒロインは「大手製薬会社の令嬢」「(薬学部の)成績トップの超天才」ながらも「薬の本質は生活の質の向上(QOL)にある」「それはお世話も同じ」「お世話を知る事は薬を知る事と同義」「目の前に、要領が悪くて貧乏生活を余儀なくされている(実家の薬局が潰れた)主人公がいた」のでお世話をすると押しかける(主人公が住むアパートの隣に引っ越してきた)のであり、戸惑う主人公(=読者)に構わず学業のお世話(「大丈夫ですか、忘れ物はないですか。ペンは、水筒は、学生証は」)、食事のお世話(「仕方ないですね、私が料理してあげます」「はい、あーん」「昨日、公園と森と海で食材を調達してきたのです」)、シモのお世話(「勃起機能が変だと思ったらすぐ私に言うのですよ」「男性機能の維持も大切なお世話ですよ」)、その他のお世話(「男性って女性の下着に癒されるんですよね」「女性の胸に触るとリラックスできるんですよね」)…と至れり尽くせりが怒涛のように展開されるのであり、その至れり尽くせりが続けば続くほどヒロインは「もっと主人公(=読者)をお世話したい」と加速し続け、また二次元のセオリーに則って副ヒロインが出てくるが、この副ヒロインとの出会いが

(1)主人公の目の前でずっこけた

(2)思わず主人公が「めいあいへるぷゆー」と声をかけた(副ヒロインは外人なので)

(3)副ヒロインの外人「知っているわ、この状況、日本の漫画で読んだもの。あなたが運命の人なのね」

 という、主人公があくまで「要領の悪い、貧乏苦学生」であることを維持したまま惚れさせ、こちらの副ヒロインが薬学ではなく毒学の天才として主人公に直截的にアプローチするため(「主人公の背中を流すのは私の役目よ」「幸せな家庭を目指して少しずつ距離を詰めていきましょ」)ライバルであるヒロインのお世話は暴走し(「主人公君と明日から温泉なんですよ」「温泉でしかできないお世話もありますから」)、結果的に極上のハーレムとなるのであった(「W膝枕最高」)。素晴らしい。これこそラブコメである。

 なお、コンドームは医療品医療機器等法で定められている医療機器に分類されており、防水機能に優れているので、傷口の保護にも役立つのであった。

Ⅱの1

第2位:後藤さんは振り向かせたい!/みきぽん[KADOKAWA]

 繰り返すがラブコメとは「地味で平凡で冴えない男」と「美人で可愛くてスタイルもいい女」をぶつけるものであり、「地味で平凡で冴えない」男(=主人公=読者)だから自分からは動かない、そのためヒロイン側が積極的にならざるを得ない、しかし重要なのはストーリー上「ならざるを得ない」から積極的になるのではなく、ヒロイン側が主人公(=読者)側に惚れている、「ちょっといいな」というレベルのほのかな好意ではなく明確に惚れており、その意思表示をする…という展開である事で、それによってラブコメ度は強くなり完成度も高くなる。とは言え対応する相手は「地味で平凡で冴えない」主人公(=読者)であるから、ヒロインが惚れているからと言って即座に積極的になってはいけない。ヒロインは単なるからかい、美人局、或いはもっと別の企みによって好意があるフリをしているだけかもしれないからである。

 そこで本作だが、タイトルにあるようにヒロインは主人公を「振り向かせたい」、なぜならヒロインが主人公を好きだからで、なぜ好きなのかと言えば学校一の美少女であるヒロインが不良っぽい男に絡まれた時に主人公が助けようとしたからであり、本来なら「地味で平凡で冴えない」はずの主人公がそのようなヒーロー行為をしてはならないが、実際にやった事は支離滅裂な雄叫びを上げただけで(「ダークネスシャドウ!」)、しかもそれでヒロインが助かったわけではなく教師の登場によってその場の雰囲気がおかしくなって結果的に何事もなく収まっただけである。そのため主人公は普通ならキチガイ一歩手前と見られてもおかしくないが、それでヒロインは主人公に惚れるのであり、やや強引ではあるが、それ以降のヒロインの主人公に対する健気なアピールがそれ以上の強引さで、またその強引さに陰気な主人公(「俺はこのままボッチだろうし」「青春なんて奇跡、無縁なんだろうし」)は面食らい、恐る恐るその強引さに応えようとした主人公はヒロインの更なる強引なアピールに更に面食らう…という展開の中でまさしく「青春の奇跡」がやってくるのであり、もはやヒロインが惚れた理由などどうでもよくなってしまうのであった。

 とにかくヒロインの行動たるや「男にとって都合のいい女」のお手本のようなもので、

・背中越しに指で「何て書いたでしょうかゲームしよう」→「スキ」

・更に「次、私の背中に書いてみて」

・美術の授業で「クラスメイトの肖像画」「ペアを組んで描く」でヒロインが主人公に「一緒にやろ」

・恥ずかしくてヒロインを見れない主人公に「ちっともこっち見てくれないね」「ゲームしようか、10秒間見つめあうゲームね」

・ヒロイン「メアド教えて」主人公「え、別に連絡する事ないし…」→ヒロインが壁ドンして「私が知りたいの!」

・ヒロイン「主人公って、映画とか見る?」

 主人公「時々見るかな…」

 ヒロイン「日曜日、一緒に映画に行こう」

 主人公「俺なんかと行っても…」

 ヒロイン「私、主人公と行きたいから言ってるんだけど」

・(映画に行くも、緊張して映画の話をできなかった主人公に)「また、一緒に遊んでくれる?」

 と至れり尽くせりであり、しかも上記のやり取りは全て1巻での事で、2巻目になるといきなり「こっちの水着とこっちの水着、どっちがいい?」、プールデート、カップル専用ウォータースライダーへと発展するのであった。これはすごい、読者は主人公と共に息つく暇もない胸の高まりに興奮し、また癒されよう。ラブコメとは読者の「失われた青春」を取り戻す役割も担っているが、本作はまさにその役割を果たす名作中の名作である。世界のラブコメ王として太鼓判を押そう。

Ⅱの2

Ⅱの3

Ⅱの4

Ⅱの5

   
第1位:犬飼さん家の押しかけJK/三ツ葉稔[KADOKAWA:角川コミックス・エース]

 パーフェクト、まさにパーフェクトである。4位と同じく「地味で平凡で冴えない男」の家に「美人でスタイルもいい女」が押しかけてくる、そして同居(同棲)状態となるという「押しかけ女房」ものであるが、押しかける理由は何かと言えば、

「私、ご主人様と一緒に暮らしていた、柴犬の「こむぎ」です」

「ご主人様ともう一度出会うために人間に生まれ変わったんです」

「柴犬だった時にご主人様にいっぱい可愛がってもらいましたから、お返しにきたんです」

 という事で、柴犬から生まれ変わったヒロインは見目麗しいJKとなって甲斐甲斐しく主人公(アラサー独身サラリーマン)のために家事に勤しむのであり、褒美として主人公へスキンシップを要求する(「ご褒美に頭を撫でてもらいたいなって」「お腹も撫でてほしいです」「ご主人様とお散歩(デート)したいです」)のであり、当初は「通い妻」で満足していたヒロインはなし崩し的に同居(同棲)となり、いよいよヒロインの甘えはヒートアップして「私はいつでもご主人様には発情期です」「食後のデザートに、私を食べて頂くというのはどうでしょう」「(スーハー)(主人公のパンツの匂いを嗅いでいる)」とまで行き着くのである。

 繰り返すがラブコメの主人公(=読者)は「地味で平凡で冴えない男」でなければならない。容姿は平凡以下で知能も平均以下、財力があるわけでもなく家柄に恵まれているわけでもない、従って世の中にいる「美人でスタイルもいい女」は遠い世界の住人である。その遠い世界にたどり着くため現実世界では血の小便を流すほどの努力が必要となるが、哀しいかな凡人である我々はそこまでの努力はできない。大体、血の小便を出すほどの努力をして健康を害しては元も子もない…と失意の中でフィクションの出番となるのであって、主人公(=読者)は昔、犬を飼っていただけで、その犬と仲良く暮らしていたら犬が生まれ変わって可愛く魅力的な女となってやってきて女房になりたいと言ってきたという、それだけの話が本作である。

 主人公(=読者)は平凡以下平均以下のままで、血の小便を流すほどの努力はしていない。しかしそれでいいのであって、何かしたわけでもなく対価を払ったわけでもないがとにかくヒロインがやってきて、主人公(=読者)が楽しめばよい。いずれそのような夢の時間は消え去るだろう…とはならないところが本作のパーフェクトたるゆえんであって、犬の生まれ変わりとは言え外見はJKなのだから性交渉はしない(接吻止まり)と決めている主人公はヒロインに「ヒロインがもう少し大人になるまで待ちたい」「万が一何かあったら、責任取るから」と言い、ヒロインも「早く何か起きないかな」或いは「ご主人様と結婚する事になったら、呼び方を変えた方がいいかなって」と言うのであり、主人公(=読者)とヒロインはこの先も共に生き、愛を育む事を当然のものとしているのであった。そのためヒロインの誘惑とそれを避ける主人公のやり取りにも独特の安定感が生まれる。「性交渉したい」というヒロインに対し「しません」と断るのではなく、「いつかはするけど、今はまだ」と答える事によって生まれる安心感は既に確立されている愛情の裏返しであり、冴えないアラサー独身主人公(=読者)の未来は明るく約束されているのであった。素晴らしい。優れたラブコメとは生きる希望が湧いてくるものであり、それが本作である。

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