盗聴 二・二六事件/中田整一[文藝春秋:文春文庫]

 NHKのドキュメンタリー「戒厳司令『交信ヲ傍受セヨ』二・二六事件秘録」(1979年)は、俺も視聴済みである。もちろんリアルタイムでは見ていないが、NHKアーカイブス枠で再放送していた時(2003年)に視聴し、ビデオに録画しておいたのでその後も何度も見た。特に2月28日夜の、蹶起部隊を原隊に帰順させるための説得の電話、高橋中尉(歩兵第三連隊機関銃中隊)と上村軍曹の会話は今でも鮮明に覚えている。歴史は常に、そこに居合わせた人々の苦悩によって積み上げられる事を教えてくれた貴重な映像であった。

 本書ではその高橋中尉と上村軍曹のその後も詳しく書かれていて、上村軍曹は不起訴となったが行政処分によって除隊され、「天皇に刃向かった軍人」という不名誉を払拭するため満州国・新京で警察官として再出発、時同じくして満州へ移駐した高橋中尉はそんな上村を激励に訪れ涙の再会を果たすも、その後高橋中尉は激戦地・ニューギニアに送られ戦死。上村は生き残ったが、命からがらの満州からの引き揚げ、事業の失敗、最愛の一人息子の死などにより流転の人生を送る。また高橋の遺族は遠縁の伝を頼って鹿児島に移住し、高橋の妻・亀代は戦後、職業軍人の妻として辛酸を浴びながら四人の子供育て上げたが、その亀代達が住んでいた鹿児島の地と、生き残った上村が不動産屋を構えている場所は目と鼻の先であり、上官の遺族と上官に救われた部下は、お互いに知らぬまま隣り合わせに生きていたのである。人の世は奇妙な巡り合わせの連続である事を本書で思い知らされよう。

 また盗聴を録音したレコード盤が作者(「戒厳司令『交信ヲ傍受セヨ』二・二六事件秘録」担当プロデューサー)に導かれる経緯も大変面白い。昭和16年、千葉の陸軍野戦砲兵学校教官から東部軍(首都圏や宇都宮・仙台・金沢等の諸都市の防空と警備を目的とした組織)参謀に転任した田島和市中佐は記録文書の保管庫に「二・二六事件資料」と墨書された紙箱を発見し、まだ事件から5年しか経っていない中で好奇心に駆られるまま田島は二箱のうち一箱を自宅に持ち帰ったが、当時のレコード盤の性能からして既に聞き取れる状態ではなかったと予測され、やがて太平洋戦争が始まり、二・二六事件もそれに関する盗聴も記録も誰も気にしなくなった。

 その後昭和20年の敗戦の混乱の中で田島が持ち帰らなかったもう一箱は消息不明になり、田島も昭和24年に死去する。そして昭和38年、田島の息子・田島大策は父が秘蔵していたレコード盤をNHKへ寄付するも、その頃のNHKは翌年に控えたオリンピック放送を契機に移転作業(港区内幸町から渋谷の放送センター)を行っており、慌ただしい引っ越しの中で20枚のレコードが入った紙箱の存在も忘れ去られるが、時を経て昭和52年(1977年)、「NHK放送文化財ライブラリー」部長・塚田は古びた紙箱と「二・二六事件資料」を目にする。しかしレコードをプレイヤーにかけたところで雑音が不快に響き、何を話しているか聞き取れない。そこで塚田はNHKの電子音楽室の装置を使用して音声を再生、「クリハラ」と名乗る男、「首相官邸です」という交換手の声、異常に緊張した息遣いに塚田は音盤の音声復元作業を決めた。またNHKの場所は二・二六事件で死刑判決を受けた十九名の銃殺刑が執行された場所と近く、処刑場跡地に最も近い放送センター2階の宿直室の廊下辺りで、深夜、青年将校の亡霊を見たという風説も古参のNHK職員の間では語り継がれており、塚田も作業中に背筋が寒くなる事が幾度かあった。

 そして昭和53年(1978年)、教養部番組制作班所属の作者の耳にこの話が入り、作者は特集番組を制作、それからも二・二六事件に人生を狂わされた人達の足跡を辿るのであり、当然だが二・二六事件によって誰一人幸せにはならず、それぞれが苦悩と苦悶の人生を送った事を知る。盗聴を命じられた軍人の一人は戦後も、誇り高き大日本帝国の軍人が、味方の電話内容を盗聴してそれを録音までするという事を生涯悔いていた。大日本帝国の崩壊は数々の悲劇を生み、戦後生き延びた人々の人生をも壊したのである。

    

 三十年来、間をおきながらも二・二六事件の取材にどっぷり漬かっていると、脳裏に焼きついて離れない事件関係者の忘れられない一言がある。事件が起きた二月の頃に思い出すのは、西田税の妻・はつさんが呟いた「2月と7月はいやでございます」という苦渋に満ちた言葉。安藤輝三大尉の妻・房子さんが「子供達が(この声を聞いて)、何と言いますかねえ…」と、録音盤を手でさすりながら、はじめて聞く夫の電話の声に愛おしさをこめて語った言葉。そして盗聴録音をした元戒厳司令部通信主任・濱田萬大尉の「盗聴なんかやったばっかりに…軍人の名誉を汚してしまって…」という悔悟。いずれも突然、事件に巻き込まれた人々の、生々しい歴史の傷跡が残るその呟きであった。盗聴をした方もされた方も、いずれも過酷な運命にさらされたのである。

山藤章二のブラック=アングル/山藤章二[朝日新聞社]

 これはまた楽しい楽しい本だ。昭和51年から52年、高度経済成長は終わり、ロッキード事件が起こり、戦争を知らない子供達は大人になり、それでも日本は米ソ冷戦の間で結構ずる賢く立ち回る。色んな人が死んでいく、色んな人がはた迷惑な騒動を起こす、とは言えSNSなどない時代であるから、マスコミのセンセーショナルな報道に日本人は一喜一憂する。熱しやすく冷めやすい国民性によって次から次へと関心は移り、後世から見れば「これが歴史のターニングポイントだった」事件も、今は誰も知らない、或いは取るに足らない事件も等しく人々の間を右往左往していく。事件が大衆を翻弄し、大衆が事件を翻弄する、面白く、楽しく、美しく、醜い大衆社会

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日本ラブコメ大賞2022:Ⅲ 緩やかで幸せな時間

第10位:妻の連れ子とセフレな関係ぷちゴリちゃん[三和出版:SANWA COMICS]

10

 さて日本ラブコメ大賞成年編という事でいわゆるエロ漫画が対象になるわけだが、ただエロいだけでは駄目である。また「地味で平凡な少年、青年、中年」と「美人でスタイルも良い女」を組み合わせればそれでいいというわけでもない。誰とでも寝る淫乱な女がいて、その女が「美人でスタイルも良い女」であり、そんな女と「地味で平凡な少年、青年、中年」が性交渉できてもそれではいけない。神ならぬ人の世であるから、ある程度以上の金を出せば「地味で平凡な少年、青年、中年」も「美人でスタイルも良い女」と性交渉する(或いは愛人にする)事ができようが、金を出さなくても性交渉ができる、そしてその女は「地味で平凡な主人公」とだけしか性交渉をしない、が成年版ラブコメの醍醐味であり、それによってエロ漫画の何倍も強烈な快楽を手に入れる事ができよう。ラブコメとは見果てぬ夢なのである。

 そこで本作だがタイトルに「セフレ」がついており、「セフレ」とはセックスフレンド、気軽に性交渉しつつも恋愛には至らないという恐ろしい、この日本ラブコメ大賞とは相容れない悪魔の思想であるが、本作の各短編のヒロイン達がそのようなおぞましい思想を持ち誰にでも股を開く女なのかと言えばそうではなかった。むしろ冴えない主人公達に対して猛烈にアプローチし(「お背中流しますね」「お疲れ様、ご飯にする、お風呂にする、それとも…」「背中だけ(オイル)塗ってくれる?」「主人公君もオイル塗ってあげよっか」)、主人公が性交渉へと流れるように積極的に「私はあなたの事が気になっている(好きである)ので性交渉をしましょう」と意思表示した上で誘う女達なのであり、本作はいわゆる棚ボタものに分類されよう。

 また短編の配置が絶妙で、前半で「主人公(中年)+妻+妻の連れ子」パターン、「主人公(青年)+彼女+彼女の姉+彼女のいとこ」パターンの短編が続き、妻・彼女が「主人公が自分以外の女と性交渉している」事を知ってもなお容認する(「素敵だわあ」)、そして自分(ヒロイン)も自分(ヒロイン)以外の女に負けないように主人公との性交渉に更に励む…というハーレムエンドで落ち着き、そこから後3つの短編は主人公+ヒロインの1対1性交渉が続き、それぞれ刺激的な性交渉が展開されるが、所詮は1対1であるからハーレムよりも「まったり」とした読後感となり、読み終えた時は満足・満腹感に満たされよう。もちろんこの配置自体は偶然であろうが、偶然であってもいいものはいいのであり、世界のラブコメ王は細かい事は気にしない。

 更に本作の特徴は作画が劇画調とアニメ調を足して2で割ったようなバランスの良さにあって、やや劇画風の顔でありながら身体全体は2次元の一般的な「ボン・キュッ・ボン」であり、本来ならば顔(劇画調)と身体(アニメ調)のバランスが維持できずちぐはぐとなるはずだが絶妙なバランスで描かれている事でヒロインの全身に違和感はなく、しかし劇画調=現実風も残されているから、主人公たる読者はエロ漫画でありながら現実感を堪能する事ができる。そんなヒロインは主人公に積極的に股を開くのだから、見果てぬ夢であるラブコメの夢を叶えてくれるのであった。

「でも主人公さんったら娘相手にこんなにガチガチにしちゃって、妬いちゃうわ」

「これからは二人分気持ちよくして(責任取って)ね」

   

第9位:白濁の罠英丸[エンジェル出版:エンジェルコミックス]

 この日本ラブコメ大賞で「寝取られ」はありえないが、「寝取り」はどうかと言えばケースバイケースとなる。もちろん主人公は「地味で平凡で冴えない男」であるから、大抵は童貞(素人童貞)であり、付き合いの経験があったとしても1~2人ぐらい、或いは性交渉できずに金を貢ぐだけ貢いですぐフラれてしまうようなウブで純情な男でなければならず、他人様の女を奪うなどという芸当はできない。そもそもどこの馬の骨かもわからない男と性交渉している女と性交渉するのも嫌なので、やはりヒロインは処女がよい。とは言え処女というのは10代~20代前半が限度で、ヒロインは「美人でスタイルも良い女」なのだから、いくら二次元で都合がいいとは言えそれなりの年齢(20代後半以上)に達しているのに処女というのは絵空事過ぎよう。そして主人公がそれなりの年齢(30歳以上)であれば、対応するヒロインもやはりそれなりの年齢にしなければならない、つまりヒロインは処女でない女という事になろう。もちろん「おっさんと女子高生(女子大生)つまり処女」という組み合わせはエロ漫画において一般的ではあるが、それが難しい場合のヒロインは、

(1)処女ではないが現在付き合っている男はいない女

(2)現在付き合っている男がいる女

(3)結婚している女

 となり、(2)(3)のヒロインであれば「寝取り」となる。そして「寝取り」は多かれ少なかれ反社会的な行為であるからリスクが伴い、読者は安心して読む事ができない。もちろんその反社会的な行為が快楽のスパイスとなる事もあるが、そのような特殊な快楽は日本ラブコメ大賞と相容れない。

 そのため「寝取り」には大義名分が必要となるが、大義名分はそれほど難しいものではない。本作のように「いじめられっ子がかつてのいじめっ子に復讐する」ために「かつてのいじめっ子」だった男の妻や恋人を寝取る、というオーソドックスな大義名分があればよい。また主人公は「イケメン」「マスコミでもてはやされる教育評論家」「塾を経営している教育コンサルタント」であり、現状に不満を持っている女達をいとも簡単に篭絡するが、かつては「背も低くてぼっちゃり」して凄惨ないじめ被害に遭っていたのであるから、「地味で平凡で冴えない男」の変型版として日本ラブコメ大賞に耐える事もできよう。本作は「元『地味で平凡で冴えない男』による復讐劇」としてはやや都合が良すぎる面もあるが、フラッシュバックされるいじめ自体は凄惨そのもので、その凄惨さによってヒロインを簡単に落とす事のバランス、つまりこれだけひどい目に遭ったのだから簡単にヒロインを落とすのも仕方がないという調整が自然に図られ、ヒロインは主人公の上で淫らに舞い、淫らに乱れるヒロインによって主人公(=読者)は復讐を遂げた達成感を味わい、更なる復讐への決意・闘争心が身体に湧き上がり、快楽を膨らませる事ができるのであった。そして篭絡したヒロイン達は主人公の部下となり、主人公からの快楽を何よりの褒美とする(「ほら主人公さん、私のオッパイ張りがあるでしょ」「何言ってんの、主人公さんは私の乳がお好みなのよ」)女となるのであり、主人公(=読者)はドン底の敗者からの復活を味わい、再スタートを切る事ができるのであった。勧善懲悪且つラブコメとして優れた作品である。

   

第8位:ママって呼んで 甘やかし性教育舞六まいむティーアイネットMUJIN COMICS]

 またしても「寝取り」ものとなってしまうが、タイトルにあるようにヒロインが「ママ」である事が強調されているので母子相姦ものとなる…わけではなく、本作の「ママ」は「主人公の彼女の母」或いは「父が再婚した母」であり、血の繋がりはない。そして血の繋がりがなければ成年版ラブコメとしての完成度は低くなるのが常で、母子相姦、つまり家族という血によって結ばれた母と息子の深い愛が異性としての愛に変わる事で主人公(=息子=読者)は絶対の愛を獲得でき、無敵の状態となり、更にそんな母は二次元のセオリーに則って若々しく瑞々しく、しかし熟れた女の色香を漂わせているのだから、主人公(=読者)は永遠に快楽の奥に潜り込む事ができよう。母の胎内に守られた赤子のように。

 しかしながら本作の主人公とママヒロインにそのような血の宿命はなく、ママヒロインからすれば主人公は単なる「年下のかわいい男の子」であり、主人公からすればママヒロインは単なる「綺麗なおばさん」である。ところがそんなママヒロインは「若々しく瑞々しく、しかし熟れた女の色香を漂わせている」女であるから、自然に情事へと流れよう。そして本作の場合その情事が泥沼の本気度を帯びる事に特徴があって、身体を重ねるに連れてママヒロインは次第に主人公(=読者)に愛されたいと願うようになり、年増の妖艶さと恋する女の可愛らしさに磨きがかかり、なりふり構わない性的アピールがエスカレートするのであり(「身も心も息子に恋しているんだわ」「ママの子宮で精液受け止めてあげる」)、主人公(=読者)からすれば自分(=主人公=読者)より年が上で人生経験豊富(子供を産んでいる)な経妊婦(経産婦)が、自分(=主人公=読者)に愛されたいと身体を開き、また主人公と同じ年代の女と仲良くしようとすると恥も外聞もなく嫉妬する(「ずっとお世話してあげるから、他の女よりママだけを見て」「私と娘どっちが気持ちいいか正直に答えて」「主人公君専用になるから、娘に出す精液がなくなるまで中に出して」)のであるから、主人公(=読者)は自分の立場がいつの間にか逆転しママヒロインの上に立った事を実感する事ができ、その支配の感覚が快楽を盛り上がらせよう。

 また性交渉においてママヒロインが主人公を攻めながらも、いつの間にか主人公(=読者)側が攻めになり、しかし最後にはどちらが攻めて攻められているのかわからないごった煮の快楽の渦の中に突っ込んでいくのであり、まさに泥沼の快楽が展開される。それでも不倫等の罪悪感がほとんどないのは、ママヒロインが「若々しく瑞々しい」ので生活感がなく、夫(父)がいる事を意識させず、且つ主人公(=読者)と愛し合う事ができた喜びを全身に溢れさせ、また妊娠する事を心の底から望んでいるからであり、主人公(=読者)はひたすら精を放つだけでよい(「彼女が生まれた子宮を僕が孕ませる」)からであった。それがヒロインの喜びの根源であり、主人公(=読者)は快楽のまま性交渉を続ければよく、ひたすら母乳を飲めばいい赤子のような幸せと癒しに包まれよう。これもまた成年ラブコメに求められる役割の一つである。

 それにしても前作(2020・4位「彼女のママと出会い系で…」)・本作と、この手のストーリーにおける作者の力量は相当なものである。

    

第7位:新妻さんのこじらせエロ日記亀吉いちこエンジェル出版:エンジェルコミックス]

 非常に珍しい作品であった。前半70点、中盤50点、後半100点というところで、平均すれば73点でまあまあだが、せっかくなので本作を通じて成年版ラブコメにおけるヒロインに必要な要件について述べる事にしよう。というのも本作のヒロインはタイトルにあるように「こじらせ」女(32歳・処女)で、真面目に性知識を勉強したはずが「初めては強引に無理やり、まるでレイプのごとく、乱暴に膜を打ち破ってほしいのです」などと間違った性知識をインプットしてしまい、しかも夫(=主人公=読者)にそのような性交渉をお願いする女なのである。一方の主人公はもちろん「地味で平凡で冴えない」男で童貞、またヒロインを「妻としても女性としても完璧」「女神」と心酔し深く愛しているのだから、真面目にヒロインの間違った性の要求に応えようと頑張るのであり(「こんなに気持ちいいならラブラブでセックスしたかった…」)、性交渉を重ねたとしてもそれが「愛の対話、結果としての性交渉」になっていないため主人公(=読者)の不安は積もり、そのようなヒロインは成年版ラブコメでは失格となる。ラブコメとは主人公(=読者)の立場が強固になるものでなければならず、成年版ラブコメであれば性交渉という手段を通じて主人公(=読者)が救われ、癒され、力を得なければならない。そのためのヒロインである。

 しかしヒロインは「こじらせ」ているだけで、むしろ主人公を喜ばそうという強い意志が空回りしているだけなのだからそこまで断罪する事もない(世界のラブコメ王は寛容なのである)。またオナホールを使った性交渉場面では「私の中より、それ、気持ちいいんですか」「私とのエッチでそんな顔してなかったじゃないですか」「しょうがないのであなた(オナホール)も認めてあげます、名前はおな美ちゃん」と嫉妬する展開もあり、このように性交渉を重ねていけば普通にラブラブなセックスへと至るだろう…と前半70点となったものの、中盤でいよいよヒロインが主人公にぞっこんとなった途端に「好き過ぎて顔が見れない」「はしたない姿見られるの、すごく恥ずかしい」「嫌われるのが怖いから逃げてしまう」とヒロインが「こじらせ」女から「面倒臭い」女になってしまうのであり、いくら女心は複雑とは言えヒロインに避けられては主人公(=読者)の不安は更に大きくなり50点に下がろう。

 しかし後半、ようやく互いの気持ちを確認した事でヒロインは存分に主人公(=読者)への想いを吐き出し、それまで我慢していた主人公(=読者)はとめどなく精を放ち、惜しげもなく愛の言葉をささやくのであり、ヒロインは真実の愛を知る事で本当の性交渉を知り(「すっごくすっごく良かったの、こんなに満たされたの初めて」「主人公さんの奥さんだから、主人公さんの赤ちゃん欲しい」)大団円となるのであった。この部分は100点であるが、もちろん最初から100点である事が望ましいのであって、成年版ラブコメのヒロインがこのような面倒臭い女であるのはマイナスでしかないが、後半の砂糖菓子のような甘い性交渉を勘案すると7位が妥当であろう。「終わり良ければ全て良し」とはこういう事を言うのである。

「何でですか! 安定期入ってセックスできるというのに! えっちしたい! えっちしたいです! お腹大きい私には魅力ないですか!? 今晩! 絶対するので一人でしないでくださいね! パソコンの中のえっちフォルダは禁止です!」

「妊娠中は測位がいいんです」

    

第6位:巨乳が二人いないと勃起しない夫のために友達を連れてきた妻立花オミナ[※同人誌]

 さて日本ラブコメ大賞は基本的には書籍に与えられるものであり、同人誌も書籍の一種であるから問題はない。しかし同人誌はせいぜい20頁~30頁の短編であり、150頁~200頁はある本を押しのけて順位がつく事は滅多にない。とは言え昨年は約120頁の同人誌が1位となった(「おいでよ!くのいちの里 極~風魔くの一総登場の巻~」)。また同人誌の世界では約10年前からアニメ・漫画・ゲームのパロディのジャンルではなくオリジナルが当たり前のように流通しており、そこから優れた成年版ラブコメが出てくる事は必然であろう。但し同人誌は成年漫画の世界よりも更に玉石混交で、また同人誌界隈で話題となった作者はいずれ商業デビューし好評だった同人誌も書籍化されるので今までは世界のラブコメ王たる俺も付き合い程度にしか観察してこなかったが、昨今の情勢下では商業雑誌に載せて(エロ漫画雑誌に短編や長編を連載して)一冊の本としてまとめる事がかつてほど重要視されなくなっており、ピクシブツイッターで自分のペースで作品を発表し、量がたまっていない(150頁~200頁もない)としても同人誌として発表すればいいという考え方が主流になってきた。つまり優れた成年ラブコメが書籍化される事なく同人誌にとどまってしまう可能性もあるのであって、本作の場合も既に商業デビューしてこの日本ラブコメ大賞にも登場している(2014年3位「いきなり!ハーレムライフ」、2020年3位「ゆけむりハーレム物語」)作者がわざわざ同人誌として発表しており、今後書籍化される可能性は五分五分であろう。

 前置きが長くなったが作者はハーレム専門と言ってもいい職人であり、ハーレムのポイントである、

(1)男1人に女複数

(2)ヒロイン達は淫乱で経験豊富だから複数プレイに抵抗がないのではなく、主人公に抱かれるため仕方なくハーレムを許容する

(3)主人公が他の女と性交渉する事について、不平不満を口にしても、別れる事は絶対にない

 を確実に押さえてストーリーは展開される。本作の場合も「巨乳好き+ハーレム好き」な夫(=主人公=読者)のためにヒロイン(妻)が友達を連れてくる、つまり妻ヒロイン自らが「自分以外の女との性交渉を勧める」わけだが、それは「子作りできず(主人公は女一人ではもはや勃起しない)、知らない女の動画(ハーレムもの)でオナニーされるくらいなら友達ヒロインと一緒にした方がずっとマシなの」というやむを得ずの方法である事が強調され、また性交渉においても「出したくなったらちゃんと私に出すこと」と自分が妻である事を主張し、しかし主人公(=読者)があまりにパワフル(「夢にまで見た光景が…もう、今死んでも悔いはない」「でかくなり過ぎていつものゴムじゃサイズが合わない」)なので友達ヒロインとの性交渉を許容し、それでも別れる事など微塵も考えず、むしろ精力が復活した主人公(=読者)との性交渉を喜ぶのであり、主人公(=読者)もまた心の底からハーレムを堪能する事ができるのであった。

 本作では相手を二人に限定する事でじっくりと「複数の女を快楽の虜にしている」事を描く事ができ、主人公(=読者)は日常の延長(「隣の部屋、空いてたでしょ。明日から友達ヒロイン、そこに住むから」)でありながら日常を離れた淫楽の世界を支配した事を実感できよう。素晴らしい。本作がシリーズ化され書籍化されたなら1位~3位となったであろうが、これはこれで満足である。

   

第5位:アラサー店長と学生バイトの秘密体験/愛内なの[パラダイム:ぷちぱら文庫Creative]

 繰り返しになるがラブコメは「男に都合のいい」ものである。何の努力もしていない、或いは事情があってできない男が「美人で可愛くてスタイルもいい女」に惚れられるというものである。しかし「都合のいい」にも見せ方や濃淡があって、大別すると、

(1)都合よく一定の能力(容姿、身体能力、財力、等)を手に入れた

   →だから女が惚れてきた

(2)何もしていない

   →しかし女が惚れてきた

 が考えられるが、成年版ラブコメ、つまりエロ漫画であればその特性を活かして、

(3)何らかの方法を使って男(主人公)側が女(ヒロイン)側を脅迫し、性交渉に持ち込み、肉体関係を重ねる事によって、なし崩し的に女側が男側に惚れる

 も考えられよう。しかし一般編だろうが成年編だろうがラブコメである事が大前提であるから、ラブコメの主人公たる「地味で平凡で冴えない男」に「脅迫によって性交渉を強要する」等の反社会的な行為はできないが、それもまたケースバイケースであって、本作は、

(1)職場のバイトのヒロインの些細なミスを拡大的に伝えることによってヒロインに深刻性を伝え

(2)所詮は世間知らず(女子高生)なヒロインの戸惑いを脅迫の材料として

(3)性的な関係を結んだところを証拠(動画)として残し、その証拠を元手に次々と性的関係を継続させる

 というオーソドックスな段取りを踏んでいるが、それぞれの工程の合間で「(主人公は)全国規模のチェーンカフェの雇われ店長で、本部からはノルマに追われ、バイトや新入社員にはご機嫌取りをする」「だいぶ疲れが溜まっている今はやけっぱちな部分もあり」「明るい場所で善人にばかり愛されてきたヒロイン」「チャラチャラした女子(ヒロインの友人)の責めるような視線、自分の正義のためなら、誰を傷つけても構わない、リア充の傲慢さ」といった生活感や疲労感が巧みに強調される事で、主人公(=読者)の悪行が相殺され、一方でヒロインは早々に快楽の虜となり主人公からの強要を待ち(「この時間は他の人がいないからって、もう」)、幾度の性交渉を経て主人公(=読者)とヒロインが完全に恋人同士となる事で読者は「生活に疲れたアラサー」が一発勝負の賭けに出て勝ったような気分に浸る事ができよう。

 そして最後に主人公(=読者)とヒロインは結婚し末永く幸せに暮らし、変態的ながらも微笑ましく性交渉に励むのであり、「生活に疲れたアラサー主人公」つまり読者は勝者の美酒を永遠に味わう事ができるのであった。もし性交渉の発端が脅迫といった反社会的な行為でなければ1位となっていたぐらいの良作である。

「主人公さんって、ああいう(裸エプロン)のが好きなんですね」

「ああ、まあ…」

「そういうのが好きなら、やってあげましょうか?」

      

「それでおしまいですか? 縛られて動けない私を、んっ、一回犯したぐらいで満足なんですか?」

     

第4位:らぶはめ海老名えび[ワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL]

 なるほど「らぶ」な「はめ」、つまり「愛ある性交渉」という事で、本短編集を端的に言い表したタイトルであった。もちろんこの日本ラブコメ大賞に登場する以上「愛ある性交渉」であるのは当然だが、濃淡の差は出てくるのであり、その「愛」がいかに強固か、その「性交渉」は「愛」の延長線上にあるのか(単なる一瞬の快楽のものではないか)、を判定しなければならない。

 また「地味で平凡で冴えない男」と「美人でスタイルもいい女」の組み合わせの問題もある。いかに愛があったとしも男がイケメン、スポーツマン、金持ちであればラブコメとはならないのであって、では本作はどうかと言えば主人公=イケメン、等の扱いではないが、さりとて「地味で平凡で冴えない男」を強調しているわけではないので普通という事になろう。一方でヒロインは2次元のセオリーに則ってスレンダー且つ巨乳の持ち主ばかりだが、こちらも美人かどうかの言及はないので普通という事になる。つまりごく普通の男女がごく普通の恋愛をして性交渉に至るわけだが、本作のヒロイン達は例外なく攻められば攻められるほど身体が喜びに震え、更なる快楽を主人公(=読者)に要求し、主人公(=読者)がそれに応えれば応えるほどヒロインの快楽の泉が溢れ、主人公(=読者)への愛も強固になる構図に特徴がある。

 つまりヒロイン達はいわゆる「M気質」で、しかし積極的に主人公(=読者)にアプローチするのだから、主人公(=読者)はその誘惑に乗ればいいわけだが、それにしてもヒロインの喜びようは大変なもので、以下の通り、

「私のおっぱいの中に、主人公君のくっさいチンポ入れて下さい」

「ご飯よりおちんちんが欲しいです」

「あたし、主人公君の赤ちゃん欲しいよ」

「もっと主人公さんに気持ちよくなってほしいんです、幼い見た目の私の頭を鷲掴みにして」

「主人公さんの好きなように、細い腰を折れそうなくらい強く掴んで、乱暴に腰を打ち付けて」

「1秒でも早く主人公が欲しいの」

 と淫乱の極みとなるのであって、しかしヒロインのスレンダーな身体によってその色気は健康的なものに押しととどめられ、そのため主人公(=読者)は罪悪感を感じる事なく凶暴に精を放つ事ができよう。そして実はただの淫乱だったかもしれない、主人公(=読者)が好きだから誘惑したのではないのかもしれないヒロインは、しかし底知れぬ快楽によって結果的に主人公(=読者)のものになり、愛を誓うのであり、主人公(=読者)もまた底知れぬ快楽と愛に浸る事ができるという構図である。作中でいくら激しい性交渉が展開されたとしても、結果としてヒロインの確かな愛が残るのだから、主人公(=読者)は勝利の余韻(ヒロインを自分の快楽の虜にする事ができた)を穏やかに反芻でき、読者は勝者の優越、征服者の恍惚に浸る事ができよう。成年ラブコメのお手本のような良作であった。

「ちゃんとピル飲んでるか?」

「はい、大丈夫、ご主人様の言いつけは絶対守ってます」

     

第3位:恋人は吸血鬼!?/七瀬瑞穂キルタイムコミュニケーション:アンリアルコミックス]

 本作は非常に丁寧にストーリーが展開される。主人公とヒロイン達が性交渉へと至るスピードは早いが、説明を省略しているわけではなく、段階を着実に通過させた上で主人公もヒロイン達も肉欲に溺れさせ、それによって主人公(=読者)には肉欲に溺れる大義名分ができ、性交渉を意識する上でどうしてもまとわりついてもしまう罪悪感を払拭する事ができている。

 本作(表題作)はタイトルにあるようにヒロインが吸血鬼であり、人外のヒロインを用意する事で「地味で平凡で冴えない」男(=主人公=読者)でも性交渉できるパターンでとなっている。「地味で平凡で冴えない」男は通常性交渉する事ができない(金銭を払って娼婦と性交渉する場合を除く)、なぜなら「地味で平凡で冴えない」からで、しかしそれでは話が始まらないので「美人で可愛くてスタイルもいい女」を用意するが、ではどうして「美人で可愛くてスタイルもいい女」が「地味で平凡で冴えない」男(=主人公=読者)と性交渉できるのか、それに「地味で平凡で冴えない」男が「美人で可愛くてスタイルもいい女」と性交渉してしまえばもうその男は「地味で平凡で冴えない」ではなくなるのではないか…という矛盾を「このヒロインは人外だから、通常の常識では説明できない」と強引に蓋をしてしまうストーリーが人外パターンであり、それで平均点以上は取れるわけだが、本作の場合は、

(1)ヒロインは吸血鬼(但し容姿は人間とほぼ同じ)だが、主人公とは共通の趣味がある(ラノベ好き)

(2)吸血鬼にとって血は必須、でも人間から吸血してはいけない

(3)但し恋人関係になれば、その人間から血を吸血してもいい

 という設定により、主人公(=読者)は特に意識する事なく流れのままにヒロインと恋人関係になるのであり、しかし上記の設定は説明されているのだから違和感なく性交渉へと至る事ができよう。また十分な快楽を味わいつつも主人公(=読者)はヒロインの他にヒロインの母、ヒロインの従妹と快楽の経験を広げていくが、それでもヒロインや副ヒロインは主人公(=読者)との性交渉を貪欲に求め続け、それに応えた主人公はついに吸血鬼化して(「複数の吸血鬼に認められた人間が吸血され続けると、その人は吸血鬼化していくのよ」)しまうのであり、人間から脱した主人公は3人のヒロインと悪魔の快楽を手に入れフェードアウトするのであった(「末永くよろしくね、あなた」)。その快楽の深淵に読む側は思わず身震いしてしまうが、「地味で平凡で冴えない」男(=主人公=読者)であってもそのような世界が用意されている事に感動も覚えるのであり、なかなか不思議な作品であると言えよう。

 もう一つの連作短編はより単純(「勇者と魔王が結婚した事を機に人間界と魔界を行き来できるゲートが作られた」)且つより直接的(「両世界の架け橋となるために赤ちゃんを作る事が主人公君のお仕事なの」)であるが、ここでも人外ヒロインを強調する事で平均点以上からスタートしており、主人公(=読者)は姉ヒロイン・妹ヒロインそれぞれとの性交渉を経た上で甘美な姉妹丼(「姉妹同時に受精できてよかったわ」「これからはお父さんになるんだからしっかり稼いでよね」「そうよ、『留学生』から『パパ』になるのよ」)へと至るのであり、その丁寧さにやはり感動を覚えよう。

 またヒロインが可愛らしく、シーンによってはやや幼く見える事によって淫猥さが消されている事も、「吸血鬼」の凶悪なイメージを消し主人公(=読者)を躊躇なく性交渉へと飛び込ませる一助となっている。大変おいしい作品となっているが、後半のショタ?風短編によってラブコメ分がややマイナスとなり、3位に落ち着いた。これらがなければ1位になっていたのだが、それでもいいものはいいのである。

    

第2位:こいちちざかりみそおでんジーオーティー:GOT COMICS

 何と言っても迫力がある巨乳・爆乳に目が行ってしまう。ヒロインの顔以上の大きさを誇る乳房だが、顔と身体のバランスは保たれている。また乳輪も大きく描かれているが、水をはじくような瑞々しさで表現されている。顔も可愛さと純粋さが自然で、全体的に清潔感がある。これは作者の天性のものであろう。

 しかし乳房や身体全体の表現がうまいだけならエロ漫画である以上探せばすぐに見つかるのであって、本作の特徴はその「乳がでかい上に可愛くて美人なヒロイン」が、主人公(=読者)に対して積極的、或いは好意がほぼMAXの状態からスタートしている事にある。そのためヒロインは主人公(=読者)に抱かれようとアピールし、それによってヒロインの巨乳は主人公(=読者)の目の前で舞うのであり、たとえ主人公(=読者)が「地味で平凡で冴えない男」であってもそこまでヒロインが動き回るならば野獣化するのは必然であり、野獣化し精を放つ主人公をヒロイン及びヒロインの乳房は受け止め、快楽を与えつつ包み込むのであり、主人公(=読者)は性欲をぶつけ快楽を処理しつつも母性的な安らぎを得る事もできよう。

 そもそも「乳房」には女性の性的アピールの他に子供への無償の愛という役割があり、本作では「乳がでかい上に可愛くて美人なヒロイン」が、「地味で平凡で冴えない男」に身体を提供するのだから、それだけヒロインの母性が感じられよう。本来なら美人な女というのは「イケメンやスポーツマンや財力のある男」に抱かれるものだが、そうではない男(=主人公=読者)にその身体を提供する事で母のような大らかさをイメージさせ、一方で性交渉も行うのであるから、主人公(=読者)にとってその快楽と安らぎは無上のものとなる。またヒロインは性交渉の高まりによって主人公(=読者)の子供を妊娠する事を強く望むのであり、タイトルにあるように「こい」を秘めた「ちち」がもたらす、めくるめく愛の世界は、エロ漫画以上の快楽、即ち成年版ラブコメの「勝者の喜び、支配者の優越、無限の快楽」を与えてくれるのであり、1位の完成度もさることながら本作の完成度もすごいものがあった。

 特に第一短編(「キメ撃ち進路相談」)は秀逸で、わずか26頁の短編だが成年版ラブコメのポイントである「積極的なヒロインと消極的な主人公」「ヒロインが主人公に好意を持っている事を主人公が認識しても、主人公は性交渉に対して慎重」「性交渉の扉をヒロインが開く」「ヒロインは主人公との結婚や妊娠を望む、それほどの想いを主人公に抱いている事を主人公が知る」「主人公も意を決して性交渉」を全て満たし、最後は結婚して子供を授かるところまで描き切るのであった。これはすごい。

「そんなに私に襲われたかったんだね、先生」

「自分じゃ我慢できないからって私に我慢させようとするなんて」

「このまま私が進路を決めたら、私は先生の知らないところに行っちゃうよ、知らない男の人と結婚しちゃうよ、その男とセックスするかもしれないよ、そのまま赤ちゃん産んじゃうかもしないよ、でも私、嫌だなーそんな事になるの」

「どこかに危険日の教え子を犯しちゃうような駄目な先生とか、居てくれたりしないかな」

「私、将来はそんな人の赤ちゃん生みたいって思ってるんだけど…だめ?」

「すごい、先生、私の子宮が喜んでるの、わかる?」

   

第1位:日の出荘の女たちタカスギコウエンジェル出版:エンジェルコミックス

 さてここまで性の饗宴、めくるめく刺激的な世界を堪能してきたわけだが、2位にしろ本作にしろ結局は男と女が出会って紆余曲折あったが性交渉を行って結婚して子供ができてめでたしめでたし、で終わるのであり、もちろんこれは日本ラブコメ大賞でありエロ漫画大賞ではないのだからそれでいいのであって、毎年述べている事だがエロ漫画が一般のラブコメよりもラブコメになり得るのは、性交渉という、文字通り裸の、虚飾を脱ぎ捨てた男と女の対話を通じてお互いを深く理解する事を描く事ができるという特性を持っているからである。そこに「地味で平凡で冴えない」男と「美人で可愛くてスタイルもいい」女をぶつければ最上の娯楽となる。

 というわけで本作だが、「38歳の美熟女ヒロイン(古びたアパートの大家)と34歳のエロ漫画家主人公による、いい歳した中年が恥ずかしい性交渉をして喜び合う」という極めて平和で穏やかな作品であり、しかもヒロインは積極的(「何かお手伝いできる事はありません」→ヌードモデル→「他にもお手伝いできる事はありませんか」→性交渉)で、なぜ積極的なのかと言えば「(主人公が)似てたんです、昔、好きだった人と」「自分の身体つき(巨乳が重力に負けて垂れている)にコンプレックスがあって、歳も歳です、でもそういった女性を題材に主人公さんは漫画を描いてらっしゃるって」「ならば私にも興味を持って頂けるかなって思いまして」という、主人公(=読者)は能動的に動いていないが正当な理由も用意されている見事なものであった。

 その後もヒロインは「女性器名称を自ら発する」「エロ漫画やAVでよくあるおもちゃを使って露出プレイ・性交渉する」「コスプレ衣装を着た上で性交渉する」と主人公(=読者)のリクエストに恥じらいつつも必ず対応するのであり、そのように美しく熟れた肉体が淫らに舞う中で主人公(=読者)はヒロインへの愛しさを募らせ、舞台を温泉に移して主人公(=読者)はプロポーズしヒロインはもちろんOKし、その直後の性交渉では快楽を求める性交渉ではなく二人の愛を確かめ合う結果として快楽が生まれる性交渉へと変貌を遂げるのであり、その緩やかで幸せな時間はまさに性交渉の真の姿となる。人類が性交渉という動作を覚えたのはもちろん子孫を残すためであるが、果たして本当にそうか、むしろ男と女が愛を形にした結果として子供が授かるのではないかと錯覚させるような神々しさと、しかし人間の温かみを感じさせてくれる性交渉が目の前で展開されるのであり、読者は思わず目を見張るであろう。

 しかし最後は神々しさが消えて「結婚して一年と半年が過ぎ新しい命を授かった」「アパートも新しく生まれ変わった(今風に建て替えた)」「さーて、これからローン返済頑張らないとな」「一緒に頑張りましょうね、あなた」「うん」とどこにでもいる夫婦の平凡な日常となり、しかしヒロイン(=妻)は相変わらず美熟女で、主人公(=読者)の性的なリクエストに今後も恥じらいつつも必ず対応するであろう。平凡で普通で、しかし昨今の情勢ではもう現実では望めなくなった幸せを主人公(=読者)は手に入れたのである。これでよい。我々読者はこの幸せな世界を味わい、辛く厳しい現実へと立ち向かうのである。ラブコメとはそのための武器なのである。

日本ラブコメ大賞2022:Ⅱ 時代は常に新興勢力に味方

第10位:女子高生と聖職者さん/財政ろろ[竹書房:BAMBOO COMICS]

 ラブコメとは何か。「地味で平凡で冴えない男(主人公)」に「美人でスタイルもいい女(ヒロイン)」をぶつけ、更にヒロイン側が一方通行的に主人公にすり寄る、アプローチする、告白する…というもので、その都合の良さに多くの人が癒され、勇気を取り戻し、生きる希望を見出し、一方で別の多くの人が激しく拒絶反応を起こすものである。その両極端の反応に苦しみながらこれから多くの都合の良い作品が出てくるが、それらは世界のラブコメ王たる俺が認定した素晴らしいラブコメであり、長い歴史を誇る日本ラブコメ大賞の新たな歴史となるのである。

 ところで「地味で平凡で冴えない男」には通常、出会いがない。そのため合コン、婚活、或いは最近主流のマッチングアプリ等に繰り出すしかないが、そもそもが「地味で平凡で冴えない男」なのだから、それらに繰り出す事もできない。しかし職業柄女性が多い職場もあり、そうなると話は違う。サラリーマンだと化粧品やアパレル関係の会社、それ以外だと学校が考えられるが、本作の主人公はその「出会いの多い職場」たる女子高で働く教師(44歳)であり、美人でスタイルのいい、若々しく瑞々しい女子高生ヒロインに一方的に慕われ、付きまとわれ、あらぬ誤解変な誤解をされ、結果的に女子高生ヒロインから更に信頼を勝ち得ると共に親密になっていくというもので、これまでの「女子高及び高校の教師が主人公のラブコメ」(下記参照)がそうであるように主人公は「地味で平凡」なので職務に真面目で、悩み多き女子高生ヒロイン達の不安等に親身になって相談に乗るわけだから、所詮は世間知らずの女子高生ヒロイン達は主人公に好意を持つ事になるわけである。

 しかしながら主人公は職業・教師つまり聖職者であり、それで日々の飯代を稼いでいるのだから生徒に手を出す事はありえない。そしてその毅然たる態度がまたヒロインの心を奪い、それによるヒロインと教師(=主人公=読者)の攻防の見せ方が巧みであればあるほどラブコメ的世界は深まる事になる。またラブコメ的世界を強調するためのわかりやすい方策として主人公たる教師の容姿を平凡以下(ハゲ、デブ、チビ)或いは冴えなくする事があるが、本作の主人公の場合高身長で体格もよいのでラブコメ的世界としてはむしろマイナスとなっているが、その分ヒロイン側の魅力で勝負しており、特にヒロイン1(天然妄想癖)が序盤から「渋くてダンディーな雰囲気溢れる大人の男性、つまり先生こそが私のドストライクなのです」「もう少しなんて言わず先生、もっと私のことやらしくめちゃくちゃに汚して下さい」とフルスロットルで主人公にぶつかり、その勢いのままヒロイン1の友人であるヒロイン2(風紀委員長)・ヒロイン3(似非関西弁)も巻き込み、ヒロイン2・3もまた主人公のコワモテ(インテリヤクザ顔)だが生徒を真剣に守る姿勢に惹かれていく(「やっぱり先生といると落ち着きます、時々またギュッとしに来ていいですか」「一緒にベッドで横になって、ほいで今日はもう帰らんで」)のが読んでいて実に楽しいのであった。

 とは言うものの主人公は教師であり、教師であるがゆえにヒロイン達と親密になる事ができても、教師であるがゆえに恋仲や性交渉まで発展する事ができない。また主人公はヒロイン達の数々の誘惑にも顔色一つ変えず避け、読者としては感情移入が難しい部分もある。しかしヒロイン達の主人公を想う気持ちは妄想も追加して強烈であり(「心臓近くにちゅーしてもらえるとこれから強く生きていけそうな気がする!」)、10位が妥当であろう。

   

「女子高及び高校の教師が主人公のラブコメ

・月曜日のたわわ/比村奇石…2021年9位

・ブラック学校に勤めてしまった先生/双龍…2019年1位

・塩田先生と雨井ちゃん/なかとかくみこ…2018年11位

・ギャルごはん/太陽まりい…2018年6位

・若林くんが寝かせてくれない/音井れこ丸…2016年1位

・お前ら全員めんどくさい!/TOBI…2015年1位

   

第9位:久々に会った幼馴染が色々と成長しているのに脳内だけ成長していなくて動揺している/piyopoyo[KADOKAWA]

 ラブコメにおいては「見目麗しい女(ヒロイン)が、地味で平凡で冴えない男(主人公)に惚れる」わけだが、惚れる理由としては、

(1)ヒロインの窮地を救ったから

(2)主人公と家族或いは親戚だから(血は水より濃い)

(3)幼馴染で、子供の頃からずっと一緒にいるから

(4)一目惚れ

 の4点しかなく、最も世間的に通用する理由は(1)であるが、「地味で平凡で冴えない男」が颯爽とヒロインを救えばそれは「地味で平凡で冴えない男」ではなくなりラブコメの前提が崩れてしまうので原則として使ってはならない。とは言え最も都合が良い(4)はあまりにも都合が良すぎるのでその「都合が良い」事のショックを和らげるために別のショックを与えなければならず(ヒロインは宇宙人、獣、キチガイ、等)絶妙なストーリー回しが必要になる。そこで(2)と(3)が、遠回りなようで実は効率がいい事になる。

 しかしながら(3)にも難点があって、そのような幼馴染としての関係、つまり小さい頃に仲良くなって一緒に遊んで、お互い中学生・高校生となってそれでも仲良しで、やがて恋心へと発展する…のはやはり無理がある。「女子会」に代表されるように、我が国では男と女が共存するのではなく対立する・互いに閉鎖する関係にあるわけで、何かの間違いで幼少の頃は一緒に遊ぶ仲であったとしてもそれは小さきゆえの気の迷いだったとなろう。もちろんそれでもヒロイン側は恋心を秘めていた、という展開もありえるが、一方で(2)が便利且つ安易に利用できるため(誰にでも妹・姉・親戚がおり、親族ならではの気安さがある)、(2)と(3)ならば大抵は(2)を取る事になる。つまり「ヒロインは妹(或いは義姉)で、子供の頃からずっと一緒にいるから」惚れているという事になり、(2)と(3)を融合した上で(2)となるパターンが最も成功しやすい(日本ラブコメ大賞で評価されやすい)のである。

 そこで本作であるが、再会した幼馴染ヒロインは「色々と成長している」、身体はいわゆるボン・キュッ・ボンの悩ましい身体へと変貌を遂げているのに精神的にはまだ子供の頃のように無邪気に主人公と接するのであり、しかし二次元のセオリーに従ってそんなヒロインも次第に主人公を意識するようになるが、なぜ意識するのかと言えば副ヒロインである主人公の義妹(中学生)の存在によって主人公・ヒロイン・副ヒロインに漂う雰囲気が「色っぽく」なるからであった。幼馴染ヒロインと違って年相応に恋に恋する年頃(中学生)である副ヒロイン(義妹)は義兄である主人公に一途で、それによって主人公(=読者)自体に優位性がもたらされ、「男は女によって変わる」から男は単純に「ある女に惚れられている」だけで力を得て自信を得る。そしてその「ある女」とはこの場合義理の妹なのであり、(2)のパターンを使用しているのであるから、ラブコメとして成功しているのであった。

 また本作ではもう一人の副ヒロイン(ギャルヒロイン)も出てくるが、前半の「主人公・幼馴染ヒロイン・義妹ヒロイン」による作品世界が強固過ぎ、この副ヒロインを投入する事でその強固な世界が中途半端に崩され逆効果となってしまっている。そして終盤の義妹副ヒロインによる感動的な告白シーン(下記参照)によってこの義妹副ヒロインは正ヒロインを喰ってしまっており、正ヒロインを喰った副ヒロイン(義妹)、正ヒロイン(幼馴染)、副ヒロイン(ギャル)によってストーリーは収拾がつかないまま何となく終わるのであり、もちろん収拾がつかない事は悪い事ではないが(事実上のハーレム状態となる)、本作の場合それぞれのヒロインが魅力的ながらそれらが調和せずいつの間にか頁が閉じられるのであり、9位とするのが妥当であろう。こういうケースもあるのだからラブコメは面白い。

「これからはお兄ちゃんに一人の女性として見てもらえるように努力します。いつまでも可愛い妹じゃないんですからね!」

「それに新しい女性の影も妹としては気になるところです。あの方とても綺麗ですよね」

   

第8位:いやらしはずかし。/朝森瑞季竹書房:BAMBOO COMICS COLORFUL SELECT]

 竹書房双葉社の「エロではないが非エロでもない」という、良く言えばマイルド、悪く言えば中途半端でぬるま湯の作品群がある。エロという直接的な刺激を描いてはならないが、しかし性交渉も描かねばならないという制約の雑誌(コンビニ雑誌)で、その「エロ雑誌ではないが、性交渉を描かねばならない」メディアとラブコメが交錯する。「美人でスタイルもいい女」と「地味で平凡で何の取り柄もない男」の組み合わせというラブコメの条件と、「性交渉及び性交渉に至る過程」を描かねばならない、しかしエロではないのだから煽情的で刺激的なストーリーは描けないという制約が合致する時、この日本ラブコメ大賞に選ばれるのである。

 さてエロ又はポルノにおいては当然の事だが女はエロ又はポルノ的な役割を果たさなければならない。この役割をわかりやすく言えばストリッパーであって、ストリッパーはその美貌及び美しく洗練された身体を用いて男達に性的興奮を与え、場合によってはお客を使って「まな板ショー」を行う事もあるが、ストリッパーと男達の間に何らかの精神的な交流はない。むしろそんなものは邪魔で、女はひたすら男達の性的欲望を満たす事に注力しなければならない。しかしラブコメとはそうではなく、「美貌及び美しく洗練された身体」を持つ女(ヒロイン)を、主人公(自分)ただ一人が味わう事ができ、またヒロイン側もその状態を金銭などの対価とは関係なく望む。なぜ望むかと言えばヒロイン側が主人公を慕っているからであり、「ヒロイン側が主人公を慕っている」結果として性交渉へと至るのである。最初から性交渉(エロ又はポルノ)があるのではない。

 「ヒロイン側が主人公を慕っている」のだから行き着く先は性交渉であるが、しかし性交渉そのものはエロではない。だが「非エロ」とも言い切れない。そのようにして日本ラブコメ大賞のお眼鏡にかなう作品がコンビニ雑誌から生まれ、それが書籍となってこの日本ラブコメ大賞に回収される。本作はその好例で、恋人関係になくてもヒロインが主人公を慕っている事はストーリーが始まった直後から読者に伝わっており、また最初から恋人関係であるストーリーであればヒロインが「理想の彼女」である事が読者にはすぐ伝わっており、その後に性交渉へと流れる事も容易に想像できる。作者はベテランであり既に本大賞でも評価しているが(2008年20位「天使のキュッ」、2010年10位「つゆだくめしべ」)、過去作品と同じく今回も「地味で平凡で何の取り柄もない男(=主人公=読者)」は「美貌及び美しく洗練された身体を持つヒロイン」に対して最初はぎごちなく気まずく接する(「勘違い厳禁!人生終わるぞ!」)も、一方でヒロインは既に主人公(=読者)を慕っているのだから奥手な主人公も何とか行動に移す事ができ、ヒロイン側は慕っていた主人公側から行動した事に喜び、その喜びのまま積極的に身体を開き性的な喜びを堪能するのであり、その性的な喜びを帯びた美しいヒロインを見て主人公(=読者)もまた喜び、幸せを実感するのであった。

 しかし短編集の宿命の玉石混交、ラブコメ的にドンピシャな短編もあれば(「天使とミミカキ」「臆病な恋のバラード」)、やや変化球過ぎな短編もあり、9位となった。しかしいいものはいい。12年ぶりの登場であったが、今後の活躍に期待している。

  

第7位:その着せ替え人形は恋をする/福田晋一[スクウェア・エニックスヤングガンガンコミックス]

 「オタクに優しいギャル女子高生」ヒロインもずいぶん一般化したようだ。一般化したというよりは思いも寄らぬ発展を遂げたと言えようか。女尊男卑な風潮を追い風に「女子高生」が持つ瑞々しさと突破力、「ギャル」という破壊力をもって更に女性が主導権を握ろうとしたものの、その突破力や破壊力が「オタク=キモイ」「オタクは見下して当然の生き物」という偏見そのものを打ち砕いてしまったのであり、ついには「オタクでも仲良くしていいでしょ」という化学反応を起こしてしまった。更に世の中は多様性とSDGsとなった。時代は常に新興勢力に味方し、「オタクはキモイので見下して当然」と考えていたかつてのギャル達は表舞台から追いやられた。時代とは残酷であるが、そのようにしてギャルとオタクのラブコメは以下の通り増える一方であり、

・帰ってください!阿久津さん/長岡太一…2021年1位

・ブラック学校に勤めてしまった先生/双龍…2019年1位

・ギャルごはん/太陽まりい…2018年6位

・やんちゃギャルの安城さん/加藤雄一…2018年4位

はじめてのギャル植野メグル…2017年2位

 以上の全てが「オタク、或いはオタク的な冴えない主人公」に対してギャルヒロイン側が「主人公がオタクだろうが何だろうが気が合う、気になっている、好きである」と主張してストーリーを引っ張り、そのヒロインの働きによって主人公もまた変わり、地味で平凡で冴えないはずの主人公(=読者)はギャルヒロインによってリア充的な青春を謳歌する事ができるのである。

 というわけで本作であるが、雛人形屋の家に生まれ雛人形職人を目指す主人公は当然そんなじじくさい目標を周囲に公言できるわけもなく、また幼い頃のトラウマもあり陰キャな高校生活を送り、偶然か運命かコスプレイヤーに憧れるクラスメイト(ヒロイン)にその夢を知られ、しかし急転直下「あたしにコス衣装作ってくれないかな」(両手をガシッと握られる)→「水着着てきたし」→「バストポイント間(両乳首の間の長さ)測っちゃわない?」→「じゃ、付き合っちゃう?」→「もっとエロいやつの方が良かった?」→「ファスナー下してくんない?」…とその距離感の近さと行動力に翻弄され、彼女どころか友達もいない主人公はその度に右往左往するが、その右往左往が激しければ激しいほど主人公(=読者)は「自分は今、女と過ごしている、一緒に作業している、一緒に行動している」事を実感でき、リア充的青春を謳歌できるのであった。

 また本作のヒロインはこれまでのギャルラブコメものとは段違いに積極的でありながら気遣いもでき、更に主人公にはっきりと惚れるのであり(「しゅきぴとお家デートやばっ」「永遠に続いて欲しすぎる」)、ギャルものによくある「主人公が消極的過ぎてヒロイン側が愛想を尽かす」可能性が早い段階でゼロとなっている事に特色がある。更に主人公は職人を目指すだけあってストイックにヒロインのコスプレ作りに努力するのであり、しかし所詮は高校生であるからくじけそうになり、それでも何とかやり抜く事でヒロインは主人公へ感謝と尊敬を表明し、それによって主人公はまたコスプレ作りに精を出すと共にヒロインの「主人公好き好き度」が爆上がりしていくのであり、むしろ愛想を尽かすのは主人公側ではないかと思う程であった。

 以上によって本作は1位になってもおかしくない完成度を誇るが、主人公がややイケメン風に描かれているため「主人公=読者」への感情移入にやや難があるため7位が妥当となろう。作品内で「特にイケメンでもないけど、見ようによってはまあまあ」という注釈があれば良かったが、惜しい事だ。

  

第6位:きみとピコピコ/ゆずチリ[講談社:KCDX]

 さてこちらもギャルなヒロインであるが、絵柄が丸っこく柔らかい画風で描かれているためヒロインは「ギャル」が持つ鋭さやあざとさの印象が薄れ、対する主人公が眼鏡姿で中肉中背、名前が「太田」なので「オタ君」と呼ばれるという、ほのぼのとした「ギャルとオタク」の組み合わせなので本作に軍配が上がる。また7位のヒロインもコスプレをするぐらいだからオタクや陰キャに理解があるが、こちらのヒロインはゲーム部所属でレトロなゲームに夢中という更にオタク・陰キャ寄りであり(「休日にゲームボーイやろうぜっていう女、ヤバくね?」)、そのようなヤバい女(ヒロイン)と盛り上がる事ができる主人公の存在にヒロインは純粋に喜び、ゲーム部活動を通じてヒロインは積極的に主人公と同じ時間を共有するのであり、二次元のセオリーに乗っ取ってそんなヒロインは可愛く、また高校生男子特有の悩みへの理解もあり(「ウチもエロい服あったらリアルで着てみたいし」「(水着を)そんなに見たいの?」)、休日に公園で弁当を食べる(+ゲームボーイをやる)事まで主人公(=読者)を導くのであり、特別で贅沢な青春を送っているようでしかしやっている事はただゲームをしているだけなのだから読者としては主人公への感情移入も容易で、「読者の失われた青春を追体験させる」というラブコメの効用を存分に感じる事ができよう。

 またラブコメのヒロインは消極的な主人公をストーリーに引っ張り出し、表舞台に立たせなければならないが、それによるヒロインと主人公の関係は以下のように、

(1)主人公が表に出てヒロインが裏方役に回る

(2)形式上はヒロインが表に出るがその裏で主人公が全てを取り仕切る

(3)ヒロインが表に出て活躍するが、そのヒロインは身も心も主人公に夢中なため、結果的に主人公側が有利になる

 が考えられ、7位は(2)に該当したが、本作では(1)をベースとしつつも状況によっては主人公が裏方でヒロインが表に立つというストーリーもあり、それによって主人公とヒロインはコンビネーションを培い、その合間にヒロインはギャル特有の天真爛漫さと思い切りの良さで主人公にサービスするのであり(下記参照)、時にはヤキモチを焼くのであり(「先輩に(主人公を)取られたらやだなーって、ちょっとだけ思ったのはマジだしね」)、いかにゲーム好きの陰キャな主人公であってもここまで心を許してくれたならと勇気を振り絞ってデートに誘うのであり(「合宿終わっても、一緒に遊びませんか?」)、そこで通常のギャルなら「キモイ」と一笑に付すところだが本作のギャルヒロインは顔を赤らめ、更にデート前には女性らしく身だしなみに気を遣い、「いつもの天真爛漫なヒロインと雰囲気が違う」事に主人公はギクシャクするが、そこはやはり二次元のセオリーに乗っ取ってヒロイン側の機転と偶然によって更なる発展へと至る(「ウチ(ヒロイン)の家に来てやればよくね?」「つか今から来ない?」)のであった。

 その段階を踏んだ発展模様は読者の「失われた青春」の傷を癒すのであり、素晴らしい。これでもっと発展すれば(性交渉或いは結婚まで行けば)1位となっただろうが、これはこれで良いのである。

「初デート記念にプリ(クラ)撮ろうよ」

「ウチに告られると思った?」

「ウチらまだ付き合ってなくて~」

「(電車で)ごめん疲れた、ちょっとだけ肩貸して」

「ちょっと惚れ直しちゃったかも」

     

第5位:小心者なベテラン中年冒険者と奴隷の狐耳少女/最上・筧秀[竹書房:BAMBOO COMICS]

 ラブコメとは希望でなければならない。そのため「地味で平凡で冴えない男」に「美人でスタイル抜群な女」をぶつける事によって「世の中捨てたものではない」という希望を読者に与えるわけだが、更に言えば「地味で平凡で冴えない中年男」に「美人でスタイル抜群な若い女」をぶつける事もまた希望を与えるものであるが、やはりハードルが高くなろう(10位のような、職業柄若い女と日常的に接する場合を除く)。そもそも主人公とヒロインが同世代であっても「どうしてこんな美人でスタイルもいい女がこんな地味で平凡な男とくっつくんだ」と指摘される世の中である。長い歴史を持つ本大賞においても以下の通り、「中年男VS若い女(職場が中学・高校・大学などの場合は除く)」パターンは少ないが、

・つぼみな奥さんポン貴花田…2011年5位

・プラモ男子とプリチー女子-ミズオとイエナの一年戦争-/ゆきもり・ソラキスズ…2014年2位

・年ノ差20/40/板場広志…2015年8位

・小あくま日和/片桐兼春…2016年2位

社畜と少女の1800日/板場広志…2019年14位

・ふたりソロキャンプ/出端裕大…2021年2位

 本作はこのパターンの中でも秀逸の出来と言える。いわゆるファンタジー世界が舞台で、その場合主人公は若々しい10代後半となる事が多いが本作の主人公は35~40歳であり(「15歳で田舎を飛び出して20年以上」)、それなりの地位と財産を築き(一軒家を所持)、ベテランの冒険者として周囲の評判も良く、また後輩や新人のピンチにもさりげなく現れて助けてやるなど名実共に「頼りになるおっさん」であるが、若い頃に身の丈に合わない高級娼婦に入れあげ金を積んで身請けしようとしたところひどい振られ方をして(「鏡見たら?ブサ男君」)、その他の娼婦達にも心ない言葉(「キスは嫌、その顔を近くで見るのも無理」)を浴びせられ続けた事によって「勘違いせず生きていくため」に自分がブサイクであり女とは一生縁のない人生である事を認め、しかし一世一代の決心をして大金を払って性奴隷用の女(ヒロイン)を買ったのであった。

 そして始まる蹂躙の宴、ブサイク男の慰み物、気持ち悪がられようが嫌悪されようが好き放題にこの女の身体を弄ぶ…はずが肝心の性奴隷(になるはずの)ヒロインは戦争捕虜と過酷な労働によって極度に瘦せ細り、精神も壊れかかっているのであり、もちろんそんな女(ヒロイン)を買う主人公が悪いが、そんな女を買うくらいの金しかない事と、自分のようなブサ男には壊れかかった女がお似合いだという自虐と意気地のなさが災いし、ではどうするかと言えば「一人の人間を育てるかのように」このヒロインを保護し、衣食住はもちろんのこと長い虐待生活によって傷ついた身体を半年かけて丁寧に癒していくのであり、タイトル通りの小心者ぶりベテランぶりである。

 小心者であるため目の前でゲロを吐き汚物を垂れる女を何とかしなければならない義務感にかられ、同時に大金を出して買ったのだから捨てるのも惜しい、そしてベテランであるから焦る事なく動じる事なく徐々にヒロインを回復させるのであり、半年経って見事に女として魅力的な外見に復活させると同時に主人公はこのヒロインを好き放題に抱く事に成功するが、所詮主人公は小心者であるから「性行為中の自分の不細工な顔を見られたら」と恐れヒロインの顔をタオルで隠すのであり、実はヒロインは自分を救ってくれた主人公を慕っている事が読者にはわかっているが肝心の主人公はヒロインと性交渉する事によっていっそう過去のトラウマに縛られるのであり(「ブサオヤジに甘い未来はないんだ」「俺は一生、女を金で買うしかないし、性処理道具以上の事は求めない)、まさに「まともな恋愛をあきらめて金で女を買った」男の哀れな末路であると言えよう。しかしヒロインはそんな主人公に戸惑いつつも従順に仕え、その思慕は深まる一方であり、読者は主人公と一体化しつつも主人公とヒロインを応援する気になり、本作は読みながらハラハラドキドキ、しかし温かい気持ちになれるという素晴らしいラブコメであり、読者に希望を与えるものであった。こういうラブコメを読むと「生きてて良かった」と思えるのである。

    

第4位:急に姉が出来まして!/緑青黒羽富士見書房:ドラゴンコミックスエイジ]

 ラブコメとは「ヒロイン側が積極的に出る」ものである。では「積極的に出る」とは何かと言えば、好意を積極的に表明する、愛を告白する、性交渉可能である事をアピールする、等が考えられるが、より実際的なものとして「押しかけ女房」がある。主人公(=読者)の生活スペースに突然侵入し、それによって同棲や夫婦といった関係を否応なく主人公(=読者)や関係者に意識させるという方法で、日本人は「決まってしまった事はしょうがない」「目の前にある事はしょうがない」というなし崩しの現状維持体質であるから、「なぜこんな美人で可愛くてスタイルもいい女が、地味で平凡で冴えない男のところへ押しかけ女房してくるんだ」というクレームも時間の経過と共に消えていくのであり、非常に有効な方法である。

 とにかく押しかけ女房ヒロインは突然やってきて押しかけてくるのであり、一つ屋根の下で男と女が生活する事をヒロイン側が主張するのだから当然そういう関係になる事をヒロイン側は期待して(覚悟して)おり、主人公(=読者)側は戸惑いつつも「自分はこの女に惚れられている」と意識する事になろう。しかしここで注意しなければならないのは「押しかける」条件で、

(1)主人公の事が好きなので押しかけた

(2)正当な理由或いはやむを得ない理由があり、しぶしぶ押しかけた

 の(2)は形式上「押しかけた」としてもヒロインは「押しかけ女房」とはならない(しぶしぶ主人公のところに来たので女房になるつもりはない)事になる。しかし本作は間違いなく(1)であり、作者の別作品(2020年2位「センパイ!オフィスラブしましょ」)と同様の「すらっとしたボディに加えてはっきりわかるほどの盛り上がり」で描かれたヒロインは可憐でありながら妖艶で、主人公(=読者)に対する強引さも同様だが、設定が「ヒロインの妹が主人公の兄と結婚」「だからヒロイン(19歳)は主人公(29歳)の義姉、主人公(29歳)はヒロイン(19歳)の義弟」「ヒロインにとって主人公は理想の弟」とやや変化球で、更にヒロインは主人公と「一緒の布団で朝起きたり、裸にエプロンで朝ごはん作ってあげたり、下着屋で試着室に一緒に入ったり」といった過激な行為を繰り出すが、それが主人公と恋仲になりたいためなのか「姉と弟のスキンシップ」としてなのか不明なため主人公(=読者)は戸惑うというより「???」となり、しかし仮にスキンシップだとしても行き着くところは性交渉である事は容易に想像がつくため、読者は常識という殻を破る事が求められるが、そもそもラブコメ自体が常識という殻を破った滅茶苦茶なもの(「美人で可愛くてスタイルもいい女」が「地味で平凡で冴えない男」に「押しかけ女房」する)なのであるから、読み終える頃には順応できよう。また副ヒロイン(隣の部屋に住んでいる、昔から知っている妹みたいな存在の高校生)ははっきりと主人公(=読者)と恋仲になりたいと望み、義姉ヒロインの登場によって過激度を増していくのであり(「副ヒロインを抱き枕にしていいよ」「せっかくだから保健体育の勉強も教えてほしいな」)、主人公(=読者)の家は事実上のハーレム、妻妾同居の雰囲気すらも醸し出されてくるが、一方でふんわりとした柔らかい絵柄が淫靡さを感じさせず「ハーレム」が持つ反社会的なイメージを消しており、主人公(=読者)はヒロイン・副ヒロインから次々に繰り出される(同居している・隣の部屋に住んでいるので逃げ場がない)誘惑等を浴び、戸惑い、しかし「自分は押しかけ女房されている、つまりこのヒロインは自分に惚れている」事を実感する事ができ、精神の栄養を吸収する事ができるのであった。やはり「押しかけ女房」はいいものだ。

    

第3位:今日から使える薬学的お世話/最上工路[富士見書房:ドラゴンコミックスエイジ]

 ブコメにおいては女が追い、男が追われる。女(ヒロイン)が男(主人公)を追う理由は女(ヒロイン)が男(主人公)に惚れているからだが、繰り返すように美人で巨乳な女が地味で平凡で冴えない男に惚れるには相応の理由、というより読者を納得させる理由がいるのである。理由などない、「幼馴染」「妹、姉、もしくは親戚」「一目惚れ」等によって最初から関係を固定させておいて突破すれよいという考えもあるが、しかし実際問題突破できない場合が多々ある。結局は何らかの理由を作って女(ヒロイン)側から主人公(=読者)側に接触を図らせ、その過程でヒロインと主人公を恋仲に発展させる必要があるのが現実である。

 またヒロインは誰もが羨む美人な一方で主人公は地味で平凡で冴えない男であるから、仮に何らかの接触があったところで通常は恋仲に発展する事はない。そこを捻じ曲げて恋仲へのレールを敷くのであるから事件・事故・偶然等が必要で、それこそがラブコメの醍醐味でもあるが、本作のような「研究や仕事に熱心なヒロイン」が、研究や仕事に熱心であるがゆえに対象である主人公に付きまとわい、付きまとい付きまとわれて過ごす時間の中で恋仲へと発展するパターンが本作である。但し「研究や仕事に熱心なヒロイン」は研究や仕事が第一なために色恋沙汰に発展しにくいという副作用もあるため、どこでラブコメにするかという匙加減が難しくもあり、一方的にヒロイン側が主人公側に付きまとうというおいしい展開が確立されているにも関わらず以下の通りその数は少ないが、

・ハゲルヤ!/福本岳史・北河トウタ…2007年・4位

・学園祭破天荒/稲元おさむ…2008年・10位

・KISS MY ASS/大見武士…2015年・14位

・勇しぶ。〜勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。〜/左京潤・柚木ガオ・戌角柾…2016年・9位

 本作はその系譜に連なる稀な作品であった。薬学部で日夜勉学に励む苦学生たる主人公にやってきたヒロインは「大手製薬会社の令嬢」「(薬学部の)成績トップの超天才」ながらも「薬の本質は生活の質の向上(QOL)にある」「それはお世話も同じ」「お世話を知る事は薬を知る事と同義」「目の前に、要領が悪くて貧乏生活を余儀なくされている(実家の薬局が潰れた)主人公がいた」のでお世話をすると押しかける(主人公が住むアパートの隣に引っ越してきた)のであり、戸惑う主人公(=読者)に構わず学業のお世話(「大丈夫ですか、忘れ物はないですか。ペンは、水筒は、学生証は」)、食事のお世話(「仕方ないですね、私が料理してあげます」「はい、あーん」「昨日、公園と森と海で食材を調達してきたのです」)、シモのお世話(「勃起機能が変だと思ったらすぐ私に言うのですよ」「男性機能の維持も大切なお世話ですよ」)、その他のお世話(「男性って女性の下着に癒されるんですよね」「女性の胸に触るとリラックスできるんですよね」)…と至れり尽くせりが怒涛のように展開されるのであり、その至れり尽くせりが続けば続くほどヒロインは「もっと主人公(=読者)をお世話したい」と加速し続け、また二次元のセオリーに則って副ヒロインが出てくるが、この副ヒロインとの出会いが

(1)主人公の目の前でずっこけた

(2)思わず主人公が「めいあいへるぷゆー」と声をかけた(副ヒロインは外人なので)

(3)副ヒロインの外人「知っているわ、この状況、日本の漫画で読んだもの。あなたが運命の人なのね」

 という、主人公があくまで「要領の悪い、貧乏苦学生」であることを維持したまま惚れさせ、こちらの副ヒロインが薬学ではなく毒学の天才として主人公に直截的にアプローチするため(「主人公の背中を流すのは私の役目よ」「幸せな家庭を目指して少しずつ距離を詰めていきましょ」)ライバルであるヒロインのお世話は暴走し(「主人公君と明日から温泉なんですよ」「温泉でしかできないお世話もありますから」)、結果的に極上のハーレムとなるのであった(「W膝枕最高」)。素晴らしい。これこそラブコメである。

 なお、コンドームは医療品医療機器等法で定められている医療機器に分類されており、防水機能に優れているので、傷口の保護にも役立つのであった。

Ⅱの1

第2位:後藤さんは振り向かせたい!/みきぽん[KADOKAWA]

 繰り返すがラブコメとは「地味で平凡で冴えない男」と「美人で可愛くてスタイルもいい女」をぶつけるものであり、「地味で平凡で冴えない」男(=主人公=読者)だから自分からは動かない、そのためヒロイン側が積極的にならざるを得ない、しかし重要なのはストーリー上「ならざるを得ない」から積極的になるのではなく、ヒロイン側が主人公(=読者)側に惚れている、「ちょっといいな」というレベルのほのかな好意ではなく明確に惚れており、その意思表示をする…という展開である事で、それによってラブコメ度は強くなり完成度も高くなる。とは言え対応する相手は「地味で平凡で冴えない」主人公(=読者)であるから、ヒロインが惚れているからと言って即座に積極的になってはいけない。ヒロインは単なるからかい、美人局、或いはもっと別の企みによって好意があるフリをしているだけかもしれないからである。

 そこで本作だが、タイトルにあるようにヒロインは主人公を「振り向かせたい」、なぜならヒロインが主人公を好きだからで、なぜ好きなのかと言えば学校一の美少女であるヒロインが不良っぽい男に絡まれた時に主人公が助けようとしたからであり、本来なら「地味で平凡で冴えない」はずの主人公がそのようなヒーロー行為をしてはならないが、実際にやった事は支離滅裂な雄叫びを上げただけで(「ダークネスシャドウ!」)、しかもそれでヒロインが助かったわけではなく教師の登場によってその場の雰囲気がおかしくなって結果的に何事もなく収まっただけである。そのため主人公は普通ならキチガイ一歩手前と見られてもおかしくないが、それでヒロインは主人公に惚れるのであり、やや強引ではあるが、それ以降のヒロインの主人公に対する健気なアピールがそれ以上の強引さで、またその強引さに陰気な主人公(「俺はこのままボッチだろうし」「青春なんて奇跡、無縁なんだろうし」)は面食らい、恐る恐るその強引さに応えようとした主人公はヒロインの更なる強引なアピールに更に面食らう…という展開の中でまさしく「青春の奇跡」がやってくるのであり、もはやヒロインが惚れた理由などどうでもよくなってしまうのであった。

 とにかくヒロインの行動たるや「男にとって都合のいい女」のお手本のようなもので、

・背中越しに指で「何て書いたでしょうかゲームしよう」→「スキ」

・更に「次、私の背中に書いてみて」

・美術の授業で「クラスメイトの肖像画」「ペアを組んで描く」でヒロインが主人公に「一緒にやろ」

・恥ずかしくてヒロインを見れない主人公に「ちっともこっち見てくれないね」「ゲームしようか、10秒間見つめあうゲームね」

・ヒロイン「メアド教えて」主人公「え、別に連絡する事ないし…」→ヒロインが壁ドンして「私が知りたいの!」

・ヒロイン「主人公って、映画とか見る?」

 主人公「時々見るかな…」

 ヒロイン「日曜日、一緒に映画に行こう」

 主人公「俺なんかと行っても…」

 ヒロイン「私、主人公と行きたいから言ってるんだけど」

・(映画に行くも、緊張して映画の話をできなかった主人公に)「また、一緒に遊んでくれる?」

 と至れり尽くせりであり、しかも上記のやり取りは全て1巻での事で、2巻目になるといきなり「こっちの水着とこっちの水着、どっちがいい?」、プールデート、カップル専用ウォータースライダーへと発展するのであった。これはすごい、読者は主人公と共に息つく暇もない胸の高まりに興奮し、また癒されよう。ラブコメとは読者の「失われた青春」を取り戻す役割も担っているが、本作はまさにその役割を果たす名作中の名作である。世界のラブコメ王として太鼓判を押そう。

Ⅱの2

Ⅱの3

Ⅱの4

Ⅱの5

   
第1位:犬飼さん家の押しかけJK/三ツ葉稔[KADOKAWA:角川コミックス・エース]

 パーフェクト、まさにパーフェクトである。4位と同じく「地味で平凡で冴えない男」の家に「美人でスタイルもいい女」が押しかけてくる、そして同居(同棲)状態となるという「押しかけ女房」ものであるが、押しかける理由は何かと言えば、

「私、ご主人様と一緒に暮らしていた、柴犬の「こむぎ」です」

「ご主人様ともう一度出会うために人間に生まれ変わったんです」

「柴犬だった時にご主人様にいっぱい可愛がってもらいましたから、お返しにきたんです」

 という事で、柴犬から生まれ変わったヒロインは見目麗しいJKとなって甲斐甲斐しく主人公(アラサー独身サラリーマン)のために家事に勤しむのであり、褒美として主人公へスキンシップを要求する(「ご褒美に頭を撫でてもらいたいなって」「お腹も撫でてほしいです」「ご主人様とお散歩(デート)したいです」)のであり、当初は「通い妻」で満足していたヒロインはなし崩し的に同居(同棲)となり、いよいよヒロインの甘えはヒートアップして「私はいつでもご主人様には発情期です」「食後のデザートに、私を食べて頂くというのはどうでしょう」「(スーハー)(主人公のパンツの匂いを嗅いでいる)」とまで行き着くのである。

 繰り返すがラブコメの主人公(=読者)は「地味で平凡で冴えない男」でなければならない。容姿は平凡以下で知能も平均以下、財力があるわけでもなく家柄に恵まれているわけでもない、従って世の中にいる「美人でスタイルもいい女」は遠い世界の住人である。その遠い世界にたどり着くため現実世界では血の小便を流すほどの努力が必要となるが、哀しいかな凡人である我々はそこまでの努力はできない。大体、血の小便を出すほどの努力をして健康を害しては元も子もない…と失意の中でフィクションの出番となるのであって、主人公(=読者)は昔、犬を飼っていただけで、その犬と仲良く暮らしていたら犬が生まれ変わって可愛く魅力的な女となってやってきて女房になりたいと言ってきたという、それだけの話が本作である。

 主人公(=読者)は平凡以下平均以下のままで、血の小便を流すほどの努力はしていない。しかしそれでいいのであって、何かしたわけでもなく対価を払ったわけでもないがとにかくヒロインがやってきて、主人公(=読者)が楽しめばよい。いずれそのような夢の時間は消え去るだろう…とはならないところが本作のパーフェクトたるゆえんであって、犬の生まれ変わりとは言え外見はJKなのだから性交渉はしない(接吻止まり)と決めている主人公はヒロインに「ヒロインがもう少し大人になるまで待ちたい」「万が一何かあったら、責任取るから」と言い、ヒロインも「早く何か起きないかな」或いは「ご主人様と結婚する事になったら、呼び方を変えた方がいいかなって」と言うのであり、主人公(=読者)とヒロインはこの先も共に生き、愛を育む事を当然のものとしているのであった。そのためヒロインの誘惑とそれを避ける主人公のやり取りにも独特の安定感が生まれる。「性交渉したい」というヒロインに対し「しません」と断るのではなく、「いつかはするけど、今はまだ」と答える事によって生まれる安心感は既に確立されている愛情の裏返しであり、冴えないアラサー独身主人公(=読者)の未来は明るく約束されているのであった。素晴らしい。優れたラブコメとは生きる希望が湧いてくるものであり、それが本作である。

写真だよ

写真だよ2

日本ラブコメ大賞2022:Ⅰ それともいよいよ

 世界を覆うコロナ禍が始まったのが2020年、その後も一進一退を繰り返し2021年を経て2022年となった。多くの人が死んだ、俺はコロナに感染しても生き残った。俺より容姿や才能や財産に恵まれていた人が死ぬ、俺は生き残る、或いは俺より不運で不幸で恵まれなかった人が死ぬ、俺は生き残る。しかしいつの間にか日本は感染者数で世界一となった。さて俺は何とか生き延びる事ができるのか、それともいよいよその時がやって来るのか、とは言えとりあえず日本ラブコメ大賞が終わるまでは生き延びる事ができるだろう。

   

<一般>

・久々に会った幼馴染が色々と成長しているのに脳内だけ成長していなくて動揺している/piyopoyo[KADOKAWA]

・犬飼さん家の押しかけJK/三ツ葉稔[KADOKAWA:角川コミックス・エース]

・小心者なベテラン中年冒険者と奴隷の狐耳少女/最上・筧秀[竹書房:BAMBOO COMICS]

・後藤さんは振り向かせたい!/みきぽん[KADOKAWA]

・その着せ替え人形は恋をする/福田晋一[スクウェア・エニックスヤングガンガンコミックス]

・きみとピコピコ/ゆずチリ[講談社:KCDX]

・急に姉が出来まして!/緑青黒羽富士見書房:ドラゴンコミックスエイジ]

・今日から使える薬学的お世話/最上工路[富士見書房:ドラゴンコミックスエイジ]

・女子高生と聖職者さん/財政ろろ[竹書房:BAMBOO COMICS]

・いやらしはずかし。/朝森瑞季竹書房:BAMBOO COMICS COLORFUL SELECT]

・高嶺のハナさん/ムラタコウジ[日本文芸社:NICHIBUN COMICS]

・幼なじみのママじゃイヤ?/つみきどう[富士見書房:ドラゴンコミックスエイジ]

・うそびっち先輩/音井れこ丸芳文社芳文社コミックス]

・親友の娘に迫られて困っています/三本コヨリ[双葉社:FUZ COMICS]

・一人暮らし、熱を出す、恋を知る/だーく[KADOKAWA:MFCキューンシリーズ]

・時をトめる処刑人はギソウ妻/田中守[竹書房:BAMBOO COMICS]

・じょうしじょし。/ひみつ[竹書房:BAMBOO COMICS]

   

<成年>

・日の出荘の女たち/タカスギコウエンジェル出版:エンジェルコミックス]

・こいちちざかり/みそおでん[ジーオーティー:GOT COMICS]

・らぶはめ/海老名えび[ワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL]

・ママって呼んで~甘やかし性教育~/舞六まいむティーアイネットMUJIN COMICS]

・スタンバイおっけー!/平間ひろかずワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL]

・恋人は吸血鬼!?/七瀬瑞穂キルタイムコミュニケーション:アンリアルコミックス]

・アラサー店長と学生バイトの秘密体験/愛内なの[パラダイム:ぷちぱら文庫Creative]

・妹の膣内はいいものだ/西川康スコラマガジン:富士美コミックス]

・妻の連れ子とセフレな関係/ぷちゴリちゃん[三和出版:SANWA COMICS]

・巨乳が二人いないと勃起しない夫のために友達を連れてきた妻/立花オミナ[※同人誌]

・新妻さんのこじらせエロ日記/亀吉いちこエンジェル出版:エンジェルコミックス]

・白濁の罠/英丸[エンジェル出版:エンジェルコミックス]

20221211