特別編 裏京都毒探偵突撃古本屋(2)

 小田原駅17時41分発東京行きの「こだま」に乗るが、この日は14日でありまさに帰省から帰ってくる人たちで車内は大混雑であった。こういう混雑に巻き込まれないために14日に東京から離れ16日に東京へ帰るよう計画していたというのに何たることだ。しかし憤慨している暇はない、新横浜駅に着くのは17時57分でありそれから17時59分の新大阪行きの新幹線に乗らなければならんのであり、すぐに降りて恐らくホームが違うだろうから階段を下りてまた階段を上がって乗り込まなければならんのであり、デブ歴十何年、運動らしい運動から逃げ続けてきた俺が必死に走る姿は想像するだけで滑稽ではないか。しかしそんなことを言い出したら俺の人生全部滑稽になるので深くは追求せず本を読み始めたらあっという間に新横浜駅に着いたが、本を読んでいる間に出口付近は既に他の客によって占領されてしまっていた。ええい貴様らそんなに急ぐのか、出口付近にたむろしてそれでどうするのだ扉が開くと同時に降りてそれで終わりだろうが、俺には2分しか猶予がないんだぞと罵るも誰も聞いてなかった(恐らく心の中で罵ったからだろう)。扉がノロノロと開いてとにかく降りてすぐに階段があったのでダダダダと階段を下りて瞬時に「新大阪・博多方面」の看板が見えて急いで新大阪方面のホームへの階段を上ってホームに着いたと同時に待機していた新幹線の入り口扉が開いた。もちろん俺は自由席であるから1〜3号車だが、階段を駆け上がってすぐ見えた8号車の扉に押し入ってゆっくりと歩いて1号車へ向かう。ああ良かった良かった。1号車は席の3分の1が空いていたので座って文庫本を読み始め、眠くはなかったが明日に備えてやはり寝た方がいいかと思い目を閉じるといつの間にか本当に寝てしまった(よう寝る奴やな)。1時間ほどで起きて、本を読み、無事20時3分に京都駅に着いた。実家に帰る時で時間のある時は京都駅から市営地下鉄で烏丸駅まで行ってそれから阪急線で三宮まで行ったりもしたが、この京都駅の外に出てそしてホテルに泊まるというのは当然のことながら生まれて初めてだ。

 予想通り人が多いが、まあこんなものだろう。外人も多数見かけるが、東京よりちょっと多いぐらいで特に気にならない。というわけでさっさと本屋に行こう。一応「三省堂書店」があることぐらいは調べておいたが、烏丸口を出てグルリと見回しても10〜20代の若者たちがたむろしているだけで何も見つからず、とりあえずこいつら全員神風特攻隊に放り込んでしまえと指示して目に入った「京都タワー」のブックセンターというところに入る。

 京都タワーというものがどういうものか知らんがとりあえずタワーらしきものは聳え立っていて、その1階が土産物屋、2階がダイソー、そして3階がブックセンターであった。「ブックセンター」と言っても例えば八重洲ブックセンターとかジュンク堂書店とかをイメージしてはいけません。もっと田舎っぽい、イトーヨーカドーに入っているような本屋というか、まあそんな感じの店である。わざわざ京都まで来てそのような「中の中」或いは「中の下」みたいなところに入っても仕方ないと思うも、一方で俺はそういう「イトーヨカドー」的な庶民的な空間が大好物なのでこれはこれでありである。そもそも本屋で何を買いたいというのはないのだ、明日の「大型古本屋10連発」への準備練習と明日は古本屋ばかり行ってサラの本は買いませんのでせめて今日は買いますという謝罪が目的なのだからもっと小さい本屋でもいいわけである。そしていかにも本なんかこれっぽちも興味ありませんと言いそうな若者二人が「俺、哲学的なの買おうかな」「哲学?どんな?」「こうだったら救われるぜ、みたいな」と話すのを聞きながら適当に買おう。20時44分、999円。

 さてこれでホテルにチェックインして明日に備えてゆっくり寝ればいいのにやたらと動き回るのだからいかんのですが、何か食おうと思ってホテル周辺を歩くもオフィスビルとホテルばかりの中にたまに居酒屋があるだけで気軽に入れるところがなく、だいぶ歩いてようやく「すき家」と「餃子の王将」を見つけて東京では「餃子の王将」はほとんどないので「餃子の王将」に入って「駅前セット」(チャーハン・唐揚げ・餃子)を頼んだが、チャーハンと唐揚げが先に来て餃子は5分待っても来なかった。俺とほとんど同じタイミングで店に入って同じく駅前セットを頼んだ左隣の男の方を見ると男も餃子を待っているらしかった。まさか餃子だけ食うわけにもいかんのでチャーハンを半分食べたところでストップして、俺はカウンターに座っていたので厨房で働く従業員たちを睨みつけるも全く意に介してないようだった。そして俺の右隣にいるややデブの、就活中と思われる若い女は俺が席に着いた時から既に全て平らげ皿が空っぽとなっているのに10分以上じっと座っていた。やがて俺の左隣の男へ餃子が運ばれ、更に5分ほどしてやっと俺のところに餃子が運ばれてきたが、熱々の餃子と冷め切ったチャーハンでは所詮中途半端であった。おかげでコンビニでお菓子を買うはめになった(それは餃子の王将のせいとは言えないか。いや、せいにしよう)。
 ホテルに戻ってユニットバスと言ってもこれはないだろう小学生の女の子が入るのかと言いたくなる狭い風呂でシャワーを浴び、寝ようと思っても日中電車内であれだけ寝たのだから一向に眠くならず、普段見ることのできないBS放送を見ると「マンガ・戦場に行く」という内容の外国のコミックジャーナリズムについてのドキュメンタリーが放送されていた。外国の漫画家達が実際に戦争や内戦の現場に行き、それを漫画の形で伝えるというもので、ある漫画家の「漫画は子供のもので、読みやすい。それを利用して、悲惨な現実をより多くの人に知ってもらう」という言葉には力強いものがあった。また6チャンネル(ABC放送。東京で言うテレビ朝日)では「紙の爆弾」という内容の、日米双方が敵に投降を呼びかけるビラを大量に作成して戦場にばら撒いていたというドキュメンタリーが放送されていて、日本人がアメリカ兵士向けに配ったビラはそのほとんどが「あなたの妻が、恋人が、あなたがいない間に浮気している」というもので、「アメリカ人は個人主義なので国家よりも女のことについて言った方がいい」という当時の日本人の偏見が色濃く反映されているものだった。対する米軍のビラは「投降すればこんなに人間らしい生活が送れます」と書いたり、「あなたが死んで何になる。女と老人だけで日本を再建できるのか」と書いたりして巧妙に日本人の心を揺さぶり、おにぎりや寿司や卵焼きなどの絵が描かれたものもばら撒いていたということだった。同じ頃4チャンネル(MBS。東京で言うTBS)ではアニメをやっていて、ラブコメの匂いがしないでもなかったが、「主人公(男)は軟弱でお人好し、ヒロイン(女)は巨乳で最強の戦士」云々の、世界のラブコメ王である俺に言わせれば何かを勘違いしている内容でありそろそろ眠くなってきたので見るのをやめた。これが大学生の頃の俺ならば見たのだろうが、もう俺は27歳なのであれもこれもと手は出せない、まずは明日の「大型古本屋撃破10連発」を無事終えてからだ。