またしてもこの瞬間がやってきたということは今年も生き延びたいや逃げ切ったということであって、死ぬ・発狂する・蒸発する・殺されると言い続けながら実際に死んだり発狂したり蒸発したり殺されたのはどこかの誰かであり俺ではなかった。振り返ればこの日本ラブコメ大賞は1997年に始まったのでありその後の激動の国家と社会の中にあって俺はひたすら逃げ続け、その間逃げなかった多くの人が死んだのだ。俺ができるのは逃げることだけで、それで本人が平和に暮らせるならいいではないかと最近強く思うようになった俺がお送りする日本ラブコメ大賞2008、とにかくこれをやらずには死ねないしこれをやればもっともっと理想的なラブコメを求めて明日も生きていこうとほんのわずかな希望が生まれるのだ。ラブコメとは俺のことなのだ。
30位:我が妻との闘争/金平守人・呉エイジ[角川グループパブリッシング:KADOKAWA CHARGE COMICS]
我が妻との闘争 1 (KADOKAWA CHARGE COMICS 15-1)
- 作者: 呉エイジ,金平守人
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2008/03/05
- メディア: コミック
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本作は、生活の垢がこびりついてしまった妻とまだ少年の心を捨てられない(遊びたい遊びたい遊びたい)夫の闘争の記録である。結婚当初巨乳で可愛くて優しかった妻は3人の子供と県営住宅住まいと毎日の家計のやりくりの果てにいわゆる鬼嫁となったのであり、そんな鬼嫁が握って放さない財布から趣味に費やす金をめぐんでもらおうとする夫の涙ぐましい努力は読んでいて非常に面白いものがある。街を歩けば華やかな青年男女が高慢顔で闊歩しているが結局はこのように生活とやらに悪戦苦闘する(月2万の小遣いとかマイホームとか)のであり、その悪戦苦闘のさまを苦笑交じりのユーモアに仕立てあげる本作のようなものこそ後世に残していかねばならないと考え30位となった。ちなみに今年は様々な「夫婦もの」が登場します。しかし本作を読んでやはり結婚などしたくないと思ってしまった。
29位:突攻!メイドサンダー/やぎさわ景一[秋田書店:チャンピオンREDコミックス]
- 作者: やぎさわ景一
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2007/01/19
- メディア: コミック
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両親の海外赴任で一人暮らしとなった高校生主人公の家にメイドが来るのである。そしてそのメイドがメイドでありながら木刀を持ったヤンキーらしいのである。それはまあ宜しい。しかしそれだけなのであって、その後このメイドと主人公がラブコメ的にラブコメになるのかというと何もなく、ただ単に面白おかしく毎日が過ぎるだけなのである。ああ惜しい。せっかく巨乳でヤンキーにもかかわらず炊事洗濯掃除完璧で俺の琴線に触れるのに。
読みどころとしてはたまにそのメイドが「一度主従関係を結んだご主人様と冥怒(メイド)は一心同体!切っても切れない強い絆で結ばれているのさっ!」「冥怒(メイド)って言ったら家族も同然」と言ったり主人公にアタックするサブキャラとその冥怒が張り合うところだが、いかんせん「ヤンキー女に振り回される平凡な主人公」という具合に話が展開され物足りないので29位という結果になった。同じ「ヤンキーヒロイン対平凡な主人公」の「まりのシンドローム」(ラブコメ大賞2002・15位)を見習えと言いたい。しかしこれほど抜群のギャグセンスがありながら3巻で終わりというのも惜しい。本当に惜しい作品である。
28位:ニッポンのワカ奥さま/木村和昭[芳文社:MANGA TIME COMICS]
- 作者: 木村和昭
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2007/12/07
- メディア: コミック
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で、話は変わるが夫婦ものに限らずラブコメにおける主人公(男)とヒロイン(女)の力関係で女の方が優位になることはあまりいい事ではない。仮に女の方が力関係において優位に立っていたとしてもそれが経済的なことや社会的なことといった説明のつくものであれば俺としても妥協の余地があるが(「金持ちの女と貧乏な男」や「女上司と男の部下」等)、ただなんとなく女が男をからかう感じで話を展開させるものは好きではない。まあそこらへんはSMで言うところのSかMかとか被害妄想とかいう品のない話になってしまうので深く掘り下げないが、本作もそういう「何となく女の方が上」的な雰囲気が漂うのである。これはいけない。
本作は料理洗濯から着物の着付けや箸の持ち方まで完璧にこなすスーパー和風美女な妻と平凡なサラリーマンの夫のほのぼの生活4コマであり、本来なら今年の「夫婦ものブーム」の波に乗ってもう少し上位に来てもおかしくはないが前述の通りそこはかとなく「妻が夫をからかう、あるいはおちゃらける」感じがして28位となった。むしろ30位の妻のように「ワレ2万の重みわかって生きとるんか!!」クラスまでぶっちゃけてくれた方が好感が持てるのだが、そうでなければあくまで妻は夫を立ててその上ぞっこんで結婚しても夫に恋をしてるのよ的な甘ったるさを出すべきというのが俺の信念である。まあそれはそれでいやらしい気もするが、普段は頼りなくてもここ一発という時はやはり頼りになるという風に主人公(夫)を描かなければ一体俺や我々は何を楽しみに読んでいいのかわからないではないか。
しかし本作もまた生ゴミのごとく溢れかえる反ラブコメ漫画群に立ち向かう有効な武器の一つであることは確かだ。精進してこれからも描きなさい。
27位:はるいちばん/荻尾ノブト[白泉社:JETS COMICS]
- 作者: 萩尾ノブト
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2007/12/20
- メディア: コミック
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いわゆるハーレムエロコメが面白いのは「平凡な主人公が複数の女と肉体関係を持つ」からではなく「平凡な主人公が複数の女から愛を告白される」から面白いのである。なぜなら肉体関係を持ったからと言って相手(女)が自分(男)に愛情を持っているとは限らないのであり(俺の持論「女は皆淫乱である」)、また複数の女から愛を告白されながらもあくまで主人公はその平凡性を保つことが俺の共感を呼ぶのであるが、とにかくただヤるだけでは駄目なのである。これがもっと「主人公好き好き」を強調し女たちが嫉妬し合うようなストーリー展開ならもう少し上位を狙えたのだが残念ながらそこまでは行かず終わってしまいこのような結果となった。しかし本作を通して「ラブコメにおけるハーレム理論」を再認識することができたし、「明確な」愛情表現がないだけで結局は四姉妹みんな主人公(=俺)のことが好きだっちゅうことでええがなええがな。
26位:おまもりひまり/的良みらん[角川グループパブリッシング:角川コミックスドラゴンJr]
おまもりひまり 2 (角川コミックス ドラゴンJr. 101-2)
- 作者: 的良みらん
- 出版社/メーカー: KADOKAWA(富士見書房)
- 発売日: 2007/09/09
- メディア: コミック
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つまり高校生というまだ精神的に未発達な子供に妖怪が襲い掛かってきて殺されかけるのにそれで平気というのが俺にはよくわからんのである。普通そんな状況に陥ったら精神が崩壊するほどのショックで生きていけんのではないか。それ自体がコメディとして展開しているのならともかく、その部分は真面目に話を展開させるとなるともう俺の心は離れてしまうのである。それだけではない。主人公はヒロイン(猫の化身の美少女)を守ろうと素手で無防備に立ち向かおうとさえするのである。で、案の定一旦殺され、しかしそこは鬼斬り役だからちょっと回復措置を施してもらえば(ロリ妖怪と裸で抱き合う)生き返るのだがちょっとそのあたりはついていけない。そんな事を言うなら漫画なんぞ読むなと言われそうだがまあ待ってください。俺が大人(来年26歳)になったからかもしれんが、最近はもうこういうものにあまり魅力を感じないんでして、でもラブコメである限り俺の挑戦は続くのですよ。
俺は何も本作を批判したいわけではない。猫妖怪、幼馴染、ロリ妖怪、許婚が巨乳貧乳入り乱れて主人公にアタックするところは非常にレベルが高く垂涎ものであるが、やはり主人公の平凡性の問題が障害となり26位となった。そしてこれこそ俺の提唱するラブコメの長所でもあり短所でもあって、本作のような非現実を舞台にした作品を否定するのならば行き着く先は「平凡なサラリーマンが平凡に恋をする作品が一番いい」となって、我がラブコメコレクションにおける多様性が失われる可能性が大いにあろう。やはり頭を柔軟にして、どんな作品であれ(世界設定が宇宙や妖怪やファンタジーであっても)それがラブコメであれば積極的に手を出していかねばならないとこれまた再認識させられたのである。再認識したところでどうというわけでもないが、そのあたりは来年に残した課題ということで日々勉強ですな。
25位:おそって!オオカミくん/ゆきやなぎ[角川グループパブリッシング:角川コミックスドラゴンJr]
おそって・オオカミくん (角川コミックス ドラゴンJr. 127-1)
- 作者: ゆきやなぎ
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2008/07/09
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先ほど「ラブコメにおけるハーレム理論」と言ったが、考えてみればラブコメにおいては男(主人公)に対して女が複数群がるのが普通なのであるからラブコメは常時ハーレムなのである。そして本作も主人公に対して複数の女が好意を持ったり関わり合いになったりするが、何せ意中の女一本であってハーレム感はゼロである。これが惜しい。丹念に男と女のそれぞれの青春を描く純愛小説ではないのだから、せっかく狼の力とやらで暴れることができるのだから、もっともっと派手にやらなければラブコメとは言えずエンターテイメントとも言えないのではないか。まあ1冊それも170頁で話をまとめようとすればこうなるのは仕方ないか。それにしても非常に惜しい作品である。続きを是非同人誌にでも描いてもらいたい。
24位:海の御先/文月晃[白泉社:JETS COMICS]
- 作者: 文月晃
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2007/09/28
- メディア: コミック
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つまり何が言いたいのかというと大体わかるだろうが本作の主人公は快活・さわやか・いい子過ぎるのである。別に押し倒せセックスしろ陰気になれ2ちゃんねるでもしろとは言わんが、もう少し現実的な行動をしろと思うのである。これは前2作にも言えることであって、女にチヤホヤされるのもラブコメの魅力の一つだが主人公がどれだけ平凡でそこらへんにいる奴らと同じかを読者にわからせ感情移入させるのがラブコメの最大の魅力なのでありそうすることによって「俺たちと同じような平凡な奴がモテている」=「俺がモテている」と疑似体験できるのである。それがお前神やと言われて増長することなくいや俺はあくまで君たちを女の子として見たいとか歯が浮くようなことを言うのである。普通高校生やったら調子に乗ってでもそんな自分に嫌悪するというような浮き沈みがあるはずなのだ。そのあたりを考慮すると24位と、結局「主人公の平凡度」が障害となって不本意ながら下位に甘んじることになるのである。
しかしさすが「藍より青し」(2002年度第18位)の作者だけあって、前2作とは比べ物にならぬほど画力・ストーリー構成・ヒロインの心理描写がしっかりしており引き込まれるようにして読んでしまった。豊かで綺麗な自然と美しき「巫女」たちの物語。続きが気になりますなあ。
23位:神様のおきにいり/内山靖二郎[メディアファクトリー:MFJ文庫]
- 作者: 内山靖二郎,真田茸人
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2006/07
- メディア: 文庫
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まずヒロインを妖怪にする、それも26位「おまもりひまり」のような主人公と同じ高校生ではなくあくまでロリっ子妖怪として存在させ、そこに幼馴染や大人の女の色香を漂わせる妖怪を配置し主人公と絡ませることで逆にロリっ子妖怪と主人公の関係の深さを際立たせることに性交、じゃなかった成功しており、これは絵とスピードによってのみ成立する漫画では難しく物語を常に展開させる小説だからこそできるオーソドックスだが手堅い手法である。またこのヒロインが主人公に対して「所詮妖怪にしかわからん、人間には絶対理解できないことがある」として安易なヒューマニズムに陥らないよう釘を刺し、また主人公もその言葉を自分なりに考え悩むところが好感できよう。主人公が特に妖怪と友達になろうとかいう積極的な考えを持っているわけでもないのに妖怪が見えてしまい、妖怪にすれば「え。こいつ俺が見えるんかい」→「でもこいつ俺ら妖怪を見ても特に驚かんよなあ」→「どんな奴やいったい」ということになって知らず知らず事件に巻き込まれてしまうという、オーソドックスだが手堅い「巻き込まれ型」手法を確立しているのもいいですな。
本作のようにラノベにおけるラブコメの基本をきっちりと押さえ、且つ物語としての深みや幅も丁寧に作り込まれている作品であれば俺はどんどん読んでいきたい。ただ女を暴れさせたりヒーローに仕立てあげるような底の浅い作品では一時売れたところで3年も経てば105円で安売りされるだけである。もういい加減熱病にうなされたようにラノベを過大評価するのはやめたらどうかな。
22位:ひよママ/真島悦也[メディアワークス:DENGEKI COMICS]
- 作者: 真島悦也
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2008/02
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というわけで当然上へ下への大騒動が始まるのであるが、そのあまりの衝撃の展開に戸惑う主人公の混乱ぶりが無理なく無駄なく自然に描かれ一気に感情移入できる上に話の展開があれよあれよと一息つく暇もなく結末へと流れる様子は非常に痛快なものがある。いわゆるページ稼ぎのための「ダレ場」や作者の自己満足な寒いギャクなどは全て省かれ、「さあ美少女があなたのお母さんとか言ってきました、幼馴染もやって来ました、おっとまたまたお母さんと名乗る女たちがやってきました、奇妙な共同生活がはじまりました、おおっとそこでお母さんが連れ去られそうになります。さてさてこのピンチに、主人公はどうしますかな?」と昔見た紙芝居のようなスピード感のあるワクワクドキドキが本書には詰まっているのである。ただし本書も1巻完結のため少し詰め込み過ぎな感じもする。作者ほどの力量なら複数巻になったところでギャグの鮮度は維持できるだろうに。ちなみに順位の方はギャグの方は申し分ないとしてもお色気やエロ路線が全く期待できない絵柄なので総合的に評価すると22位ぐらいがちょうどいいのである。いやほら、俺って平成変態糞野郎だからね。
ラブコメにおいて「押しかけ女房」は基本中の基本、ありふれた手法だが、本作では突然見知らぬ女と一つ屋根の下で暮らすことの驚きと戸惑いと期待が実に自然且つコミカルに表現され、読んでいてこれほど楽しくなる作品も珍しい。「親子はやっぱり裸のスキンシップ」と言って一緒に風呂に入ろうとするところなど母子相姦ものを好物とする俺にはなおさら(以下略)。
21位:スラムオンライン/桜坂洋[早川書房:ハヤカワ文庫JA]
- 作者: 桜坂洋,toi8
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/06/09
- メディア: 文庫
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更にこの平凡でどことなく陰気な感じのする主人公になぜか可愛い同級生が話しかけてきたりしてラブコメとしても申し分ないのだがなぜこのような順位になったかというと実はこの主人公は結構格好つけ野郎なのであった。不良に絡まれても平然としたり(殴られるだけだが)その後村上春樹の小説の主人公のように「人間の体は三分の二が水分で、皮の袋に血を詰めたようなものだって。だから、怪我をすれば血が吹き出る」「僕は狼なんかにはならないよ。そんなにカッコよくはなれない。まだ、あのときの負けを返してないから。どっちかって言えば、まだ僕は豚なんだと思う」などとキザったらしいことを言うのでカチンと来て21位となった。いや俺の器がめちゃくちゃ小さいのかもしれんが、まあもうちょっと自然にやれんもんかね。それとも俺もそんなキザったらしいことを平然と言えるようになるべきかね。うーん。