(Ⅲ)幻滅問答

「そんなわけで今回は『土曜日の女』こと土曜日の女さんが全面的に仕切るということですね」
「は。突然呼んだと思えば何ですか。しかもタイトルが『シリーズ23』ってなってるじゃないですか。またあなたの個人的祝祭イベントですか。何で私はこんな時しか呼ばれないんですか」
「じゃあ今日も出番なしということで宜しいですか」
「待ちなさいっ。いつものあなたの愚痴だらけの文章なんぞもう読みたくありませんっ。さっさと兵庫県の糞田舎とやらに帰ったらどうですか」
「それは俺のセリフであって、俺だって好きで東京に来たわけではないのだ。あなたこそさっさと『貧窮問答』の続きを…。何ですか」
「それはもう私の方はいつでも準備OKなんですけどねえ。誰かさんが去年の3月からずっと『忙しい』とか『しんどい』とか言ってついに1年以上経ってしまいましたねえ。本当にねえ」
「…」
「で、今日はまた何を」
「ラブコメですが」
「またですか」
「またです」
「…今更ですけど、どうしてあなたはそんなにラブコメにこだわるのですか。もっと楽しいことが他にもあるでしょう」
「例えばどんなことです」
「それはまあ20代で独身で男で東京に一人暮らしなわけですから、合コンとか、ライブとか、映画とか」
「なるほど、つまり俺に阿呆になれと」
「あなたは何を言っているのですか」
「いえ、ただの個人的な所感です」
「そんなことだからいまだに周りの人から警戒されるんです。さっさと都会風の軽薄な若者に染まりなさい。演技でもいいから」
「いやです」
「おや、金のためならプライドも吐いて捨てると公言しているあなたがですか。今の非社交的で寡黙なあなたでは間違いなく会社側は何かやりますよ」
「なに、むしろどこかの地方の子会社に飛ばされた方が俺にとっては楽ですから」
「つまり今の自分を変える気はないと」
「もう俺の人生の目的は決まってますので」
「ラブコメを探し読み続けることがですか。或いは本を読み続けることがですか。このように電子空間に文章を発信し続けることがですか」
「そうです。ですから会社の仕事とか、東京とかいうのは俺にとっては二の次でしかありません」
「本屋や電気屋もないそれこそ辺境の地に転勤になっても構わない?」
「もちろんです。いまやインターネットがあり宅配便があります。何の心配もありません。たとえ海外に転勤になったとしても。もう俺に怖いものはない」
「それにもかかわらずあなたは、いまだに会社に行くことをいやがり、ろくに人と話せないではないですか。自らの道を見つけた人が、どうしてそんなに臆病なのです」
「それはまあ彼らが飲んだくれの女好きの阿呆であるにもかかわらず社会人としてのキャリアは俺よりはるかに長くまた会社にとって有能な人材であるからです。しかしそれも俺が長く働き続けることによって解決するでしょう」
「…」
「で、エロゲーの話ですが」
「いや待ちなさい待ちなさいそれだけは許しません」
「五反田のヘルスに行ってより一層二次元の素晴らしさを」
「た、逮捕します。あなたはもう人間ではありませんっ」
「あんたこそホストクラブとか行っとるだろうが」
「私はあのようなアバズレ女とは違いますっ」
「しかし合コンはお好きのようですが」
「それはまあ、普通の感覚でしょう」
「もうそこがいかんのだよ。最近の女というのは本当にスケベになった」
「だからあなたは何を言ってるんですか」
「どうして女が合コンとか平気で言えるのですか水着を平気で人前にさらすのですか平気でエロを全面に押し出すのですかそれによって淫靡感や背徳感が薄れ女に魅力がなくなって秋葉系が増えロリコンが増え少子化になりお見合いパーティーが増えるのだ。であるから『爆笑結婚』の続きを書くことができないのだそうだあなたを含めた女たちのせいなのだ理想の女は常に二次元なのだ惚れてしまえばアバタもエクボ手鍋さげてもいとやせぬの女や出てこい。ではさようなら」
「何とも愚かな23歳ですこと」
      
つづく