大安売り時代の憂鬱

 ところで左にある「リンク海戦 死闘編」には、無料動画サイトである「ファイルマン」「画箱」が置かれている。これらは過去のTV番組や歌謡曲映像やアニメや今となっては放送できない過激な映像などが無料で見れる大変ありがたいサイトである。俺は家にインターネット回線をつないでないので専らインターネット喫茶でこれらを楽しむのであるが、もし家に回線をつないでいたらそれこそ24時間このサイトばかり見ているであろうことは容易に想像できる。最近は「YouTube」もよく観る。あれもいいですな。俺が高校中学小学の頃はTVが全てで、ビデオ録画しなければその映像は二度と見ることはできないという、一種の恐怖さえ抱いたものだが、今の高校中学小学生はその恐怖から解放されるているわけか。
      
 今の一人暮らしの俺の家にはTVがあるのだが、思えば実家暮らしの頃も俺の部屋にTVはあった。確か俺が中学生の時、俺の部屋にTVが置かれたのだ。そのTVは2001年の大学入学と同時に我が家族を襲った未曾有の経済危機のどさくさのうちになくなってしまった。それ以後我が家にTVはリビングにある1台となり、それから今年2月にTVを買うまでの5年間、俺はTVとほとんど接することがなく日々を送っていた(アニメを録画するぐらいであった)ことになる。5年を経て改めて「自分だけのTV」を持つことになった今、2001年以前の慣習に沿って見る番組といえば、言うまでもなくアニメ(ただしラブコメは「ああっ女神さまっ」しかないのが悔しい。東京はUHF系アニメも見れぬしな)、報道番組、ガキの使い、そしてCDTVである。
 土曜深夜に放送されるあのCDTVを見ていると、日頃から同世代の若者を罵倒しておきながらやはり俺もこの時代の若者であることを意識せざるを得ない。ただそれは屈辱であると同時に嬉しくもある。今、自分が確かにこの2006年に生きているということが、時代の最先端風俗である音楽に接することで実感できるからである。
 俺がいわゆる歌謡曲に夢中になったのは中学生の頃(95年〜96年、ちなみに俺がオタクに目覚めたのは97年4月1日である)で、その頃のヒット曲というのはミリオンヒットのことであった。今では考えられないというか、あの頃の栄華がかくも無残に変わり果ててしまったのかと愕然とするというか、とにかく今と違って日本の若者は皆多かれ少なかれ歌謡曲に深く夢中になっていたのである。翻って現在はどうかというと、確かに今も若者の風俗の最先端は歌謡曲であるが、どうもそんなに心深い部分まで共鳴することがないように見えるのだ。それはCD売り上げの低調傾向に明らかであり、CDTVに紹介される曲たちのあまりの回転率の良さにかつてのCDTVを知っている俺は驚愕するのである。大体声優の歌やアニメの主題歌がオリコンTOP10に入るのは何も声優やアニメ主題歌が優れているわけからではなく、それ以外の一般の歌謡曲が全く振るわなくなったから一定の購買層を持つそれらが相対的に上位に出るようになってきただけなのである。それにしてもかつての時代を知っている俺からすればまあ何という変化だろう。第三次アニメブームの頃(96年〜97年)はあんなド下手声優の歌や反ラブコメアニメの主題歌など無視されていたというのに。
 で、思い出話が続くが、10年前も俺はCDTVを見ていた。あの頃関西では確か深夜2時頃から放送しており、自分の部屋で深夜にTVを見るという妖しき背徳感の中で数々のヒット曲を聴いていた。それらの曲は幾度も幾度もTVに登場しては俺を楽しませてくれたし、気に入った曲はTSUTAYAに行って借りていた。当然その頃インターネットなどなかった。だがTVとCDで不自由はしなかった。
        
 話は最初の無料動画へと戻る。いやあのような著作権違反のサイトに限らず、今や歌謡曲はインターネットでの試聴や電子配信でかつての絶頂期であったあの頃よりもっと手軽にもっと安く手に入れることができた。大安売り時代の到来。昔は歌謡曲のプロモーションビデオなどTVでしか見ることができず(それも大抵一部分に過ぎない)、ビデオで録画しない限り永遠に見ることができなかったが、今「YouTube」で検索すればそんなものは無料でいつでも見ることができる。便利になったなあと感心する他なく、気が付けばそれ以外に何の感慨もない。そのようにしてCD売り上げは更に低調を続けるであろうし、歌謡曲の世の中に流通する回転率は更に高くなり(要するに聞いて捨てるのである)、いつかはB’zの曲も売れなくなるのだろう。別にそれが悪いことだと言っているわけではない。既に90年代は完全に過去のものとなり、2000年代も半分が過ぎた。これから俺の周りの世界はどこへ行くのか全くわからぬが、この目でしっかりと時代を見つめそして書き続けよう。なるほどあの頃、95年頃の初々しき中学生だった俺も言っていたではないか。「書け、そして死ね」と。
      
次回予告:
「毎夜毎夜俺を襲うあの奇妙な夢は何なのか。言語化できぬ前に意味さえわからぬ。あの世界はもう一つの世界におけるもう一つの常識と論理によって成り立っている狂気の世界なのだ。いやその狂気の世界にとってこの世界こそが狂気。惨劇を嗤い、絶望に狂笑。誰かが俺を呼んでいる。いや俺が好むのは彼らの音楽であってあの刺青あの空々しいパフォーマンスは大嫌いなのだ。東京の第二章、敵はあの超巨大高層ビルにいる全ての奴らだ。最後の抵抗は故郷とロマンスの香りがする『脱走と追跡の読書遍歴14 バカヤロー会館』をお楽しみに」