爆笑結婚3 革命編

奈良県が『合コン』メルマガ、少子化対策で出会い支援:独身男女に出会いの場を提供し、少子化に歯止めをかけようと、奈良県は新年度から、レストランなどで開く合コンなどの日程を希望者にメールで配信する企画を始める。また、既婚者や結婚間近のカップルのなれ初めなど経験談を8月から公募し、「幸せなふたりの出会い100選」としてまとめたうえ、入選作を「恋愛マニュアル本」として出版する。県によると、4月から、県内のレストランやホテル、スポーツ施設などと協力して〈結婚応援団〉を結成。合コンやお見合いパーティー、スポーツ大会を企画してもらい、その日程や参加方法などを県のホームページ(HP)に登録した男女にメールマガジンで知らせる。新年度の当初予算案にPR費やHP作成費など1700万円を盛り込んだ。担当者は『たくさんのカップルを成立させ、少子化対策の一助にしたい』という」(讀賣新聞2月21日夕刊記事より抜粋)

   
「と、まあそういうわけでしてね」
「はあ」
「このように少子化に対する官民あげての対応策が行われているわけです。なぜならこれが最優先政策課題だからです」
「そうですか」
「じゃあ、お見合いパーティーに来てくれるかな?いいとも!はっはっはっは」
「…」
「あの、タモリさんですよね」
「tarimoだ」
「ああtarimoさん。どうでしょう、お見合いパーティーには」
「いやその、やはりそれはねえ」
「そうですか。ですがねえ、その、皆さんお出でになるんですよ。他のくじ当選者の方は」
「はあ」
「ところがその、女10人男9人ですとね、これは大変なことになる可能性があるんですよ」
「…」
「何せこの、女性というのは自尊心が強いですから、もしその場にいた女性9人が結婚相手を決めたのに、自分一人だけ売れ残ったというのでは、やはりですね」
「…」
「自分一人が売れ残った、つまり自分には女性としての魅力がなかったということがですね、まあ他の人に知れ渡るわけですね。そうなると最悪の場合裁判沙汰になることも考えられます」
「え。裁判」
「はい。まあ一種の名誉毀損といいますか、侮辱といいますかね。そうなるとやはり私の責任問題、ではなくて、どうせ市役所の職員どもは私のような出向組の民間人に罪を被せる気だろうと思いますね、いやいやとにかくですね、是非とも出席していただきたいわけですね」
「あの」
「はい」
「ふと思ったのですが、もしくじにあたった人に既に恋人がいたらどうするのですか」
「ああそういう人の場合ですね、その恋人とすぐに結婚してもらえれば出席の義務はなくなります。何せ結婚して出産してもらえばいいわけですから」
「はあ。で、今回は」
「ええそれがですね、今回はタモリ、いえtarimoさんを含めた男女20人全員そのような人はいなかったわけでして」
「しかし、あの、何といいますか」
「はい」
「その、俺以外の皆さんは、まあ普通の人なのでしょう」
「普通の人、と言いますと」
「ですからその、まあその、異性とのお付き合いを経験したことのある人なのでしょう」
「うーん、まあそうでしょうねえ。くじにあたった人はtarimoじゃなくてタモ、いやtarimoさんが最年少で22歳、次に若いのが24歳の女性ですからね。最高が41歳の男性です」
「いやその、そういうことではなくてですね」
「はあ」
「ええと、大変恥ずかしいことなのですが」
「はい」
「この、あの俺はですね、ええと、経験が、あの、ないのです」
「…」
「…」
「…あなたまさか、その歳で童貞ですか。え。もしもし。もしもし。もしもし」
     
「もしもし」
「あ、こちら社会保険事務所の者ですが」
「はあ。もうその件ならけっこうです」
「え。まだ何も言ってませんが」
「どうせあれでしょうが、結婚適用の」
「はい。その件で」
「いやその件でと言われましてもね。こちとらもう行く気がしないのでね」
「しかしこれは法律上の義務なので」
「罰則がない義務など知りません」
「いえそう言われてもですね。私たちには子孫を残すという社会的義務があります。これは人間としての義務であり誇りであり道徳です」
「…」
「特に現在の少子高齢化の日本において、子供の減少は著しいのです。このままでは老人だらけの国になり老人は当然税金を払わずそれどころか年金をもらうということでますます国家財政は逼迫していきます。そうなると私たち公務員もリストラされてしまいます。それだけは絶対に防がなければなりません」
「…」
「大体ですね、どうしてそんなに頑なにお見合いパーティーに行くのを拒否するんですか」
「え。いやですから、その、俺は精神的に問題があると」
「知っています。二次元がどうとかでしょう。うちの社会保険事務所じゃそのことの話題で持ちきりですよ。それはもちろん異常ですよ。あんな漫画に。しかも何ですか、うちの所長がアダルトビデオを、まあ何て汚らわしい、そのビデオをあなたに送ったそうじゃないですか。もう男なんて信じられません。本当にそうですよ」
「…」
「私はあなたの日記を見ましたけど」
「え。誰の日記」
「ドブタメ政治耳鳴全日記を」
「いやドブタメじゃなくてラブコメ
「どっちでもいいんです。とにかく見ましたけど、まあ女は厚化粧だとか金をもらう術を知っても金を稼ぐ術は知らないだとか二次元の女こそ最高だとか言いたい放題ですねまったく」
「いえそれはまあ、金もらってるわけじゃないので、言いたいことだけを書くということに。それは」
「とにかくなぜそんなに出席を拒むのですか。私たちをそんなに困らせたいのですか。公務員はいじめられて当然とでも言いたいのですか」
「いやそんなことは」
「だったら出席なさい」
「嫌です」
「なぜです」
「なぜと言われても…。まず二次元にしか反応しませんし」
「反応。反応ってなんです」
「いやそれはまあ。その、あの、いわゆる一つの」
「…」
「まあ、所長さんにでも聞いてもらえば」
「…あ。そうですか。そういう意味ですか。わかりました。あなたは女性の敵です。敵ですっ。もう我慢ならないっ。こ、殺してやるわこの。あ。何すんのさ。ちょっと。やめなさいっ。私はキャリアウーマンなのよ。社会的地位が高いのよ。さわるんじゃありませんっ。二次元などという、あの汚らしいものに情欲を感じるなんて、この悪魔、ちょっと何すんのよっ(だんだん遠くなる声)」
「…あの、どうしました」
「ああもしもし。お電話代わりました」
「へ。代わったって、さっきの女の人は」
「ああ、ちょっと他の仕事の方が」
「そうですか。何かキイキイとやたらに甲高い声が聞こえますが」
「ああ、あれはですね、うちのその、マスコットキャラのカナリヤの声です。気になりますか」
「いえ気になるといいますか、聞こえにくいといいますか」
「そうですか。では完全に黙らせましょう。…。ああもう大丈夫です。静かになった」
「えっと、今すごい音が聞こえたんですが」
「まあ大丈夫です。おやつの時間になったら起きるでしょう。それはそうと、確か先週参考資料をこちらから送ったと思うのですが」
「はあ。あのアダルトビデオですか」
「そうそのアダルトビデオです」
「いやあ、一応見ましたけどね」
「どうでした」
「ええと、まあ第一印象としては」
「はい」
「まあ汚らしいと」
「はっはっは。それはそうだ」
「それと決定的に気持ち悪かったのは、女が、見ず知らずの男とやるという、その、人間としてどうなのかなと」
「まあそうですがねえ」
「更に愕然としたのは、女にしろ男にしろそこに愛の感情なり何なりが、その、ないということで、にもかかわらずやるというのが、見ていて非常に不愉快でした」
「…」
「お見合いにしたって、その、要するに昨日まで知らなかった人と、その、即結婚とはいかなくても結婚を前提とした付き合いを始めるわけでしょう。で、たった数ヶ月でその、結婚をするわけでしょう。そうするとですね、その、あれをするわけですね」
「まあそうですね」
「ええと、そこがね、あの、俺としてはね、どうも不可解でしてね」
「要するに何ですか、結婚もしくは結婚を前提とした付き合いをする以上両者に愛の感情がなくては駄目だと」
「まあね、そうですね」
「それが今日会ったばかりの人間と結婚するのは何事かと、そう言いたいわけですね」
「え。まあそうなりますか」
「なるほど。童貞が考えそうなロマンチックなヌルイ考え方ですな。あ。もしもし。もしもし。しまった彼に童貞は禁句か。もしもし。もしもし」
     
(以下、次週。童貞の何が悪い)