貧窮問答1 混迷夜曲編

タモリさん。あなた、本気ですか」
「あの、tarimoです」
「ああ失礼。それはそうとtarimoさん。あなた、本気なんですか」
「ええと、何がでしょう」
「何ってあなた、こんなこと書いて大丈夫ですか」
「はあ。あの、俺何か変なことでも書きましたかね」
「書きましたよ。何ですかこの『俺の認めるラブコメ』というのは」
「ああ、あの、まあその、俺の価値観に沿ったといいますか、好みといいますか、まあ俺の望む『ラブコメ』というのがありまして、で、いくら広告に『ラブコメ』と表示されていてもそれが俺の好みといいますか、まあ俺の琴線に触れないこともありますので、まあ」
「つまり世間でいう『ラブコメ』とあなたが考える『ラブコメ』は違うということですか」
「まあそうなります」
「しかしそのあなたの言われる『ラブコメ認定基準』というのがまた問題なんです」
「ええと、何がですか」
「『主人公は男であること』というのは、どういうことですか」
「ええと、いやまあやはり俺はその男ですからね。女が主人公のを読んだところで、その、あまり面白くないといいますか、感情移入できないといいますか」
「つまり女が主人公であっては読む気がしないと」
「まあ、その、そうなりますかねえ。あの、一応読んでるときはその主人公になりきったつもりで読みますからね。女ですと、その、どうしても生理的に、えと、感情移入できないですし」
「で、なぜ『高校生以上が望ましい』んですか」
「え。ああ、それはまあ、やはりお色気をですね、出してほしいですからね、高校生ぐらいならですね、その」
「高校生以上なら性的な描写もありえるから望ましいということですか」
「いやあのまあ、そういう事なんですがね。あとやっぱり中学生や小学生だとね、感情移入の問題がその、ありますからね。はっきり言ってもう遠い存在ですからね。もうすぐ俺も社会人になりますからね、それが」
「え。ちょっと待ってください。ということは主人公に対峙するヒロインは中学生でも小学生でもいいということですか」
「は。あ、そうですね、まあヒロインがどうであろうとそれはね、まあ問題はないですね」
「しかしこの『主人公の内面性は(a)極めて普通もしくは人畜無害もしくは一般人の平均的レベルであること(b)またいい人でもなく悪い人でもなく正義感が強いわけでもなく良心の呵責に耐えられるほどの悪人でもなく、世間の偏見・噂・視線を気にしてしまうという極めて平均的な社会的人間であること』というのは、どういう事ですか。単なる平凡人であれということですか」
「いやその、それはね、要するに『平凡』の定義の問題でして、平凡な生い立ちなんだけど実は柔道三段だとか、平凡な青年とか書いておきながら実はナンパ野郎だとか、平凡な少年なんだけど喧嘩大好きだとか、そういうのではなくてですね、本当におとなしいといいますか、気が小さいといいますか、世間的な小市民の代表のような、そういう人物がやはりですね、主人公として物語展開上の鍵を握るというのがですね、いいんではないかと」
「しかしそんな漫画がありますか」
「まあほとんどないんですが、ですからその、それに近いものがあればですね、いいなあと思うわけですね」
「では、この『主人公の外部表示性は容姿においては平凡以下であることまた服装髪型等は社会的生活上の実際に鑑みて普通以下であること』というのも、やはり平凡であれということですか」
「ええと、ちょっとその違ってくるんですがね、で、あの、すいません」
「何ですか」
「あなたは誰ですか」
「まあまあそれはいいじゃないですか。続きをどうぞ」
「いや続きと言われてもですね」
「お願いしますよ。タモリさん」
「tarimoです」
「ああそうでした。あははははは」
「はあ」
「…」
「…」
「…」
「…ええとですね、あの、まあ要するに容姿といいますか、顔がですね、まあ男前だとね、シラけるといいますかね。俺の顔もこんなブサイクですからね。やっぱりね」
「なるほど。確かに」
「…」
「…」
「…」
「…あの、失言でした」
「ええと、まあそれでですね、あとやっぱり髪型とか服装とかに気を遣う男というのもね、ちょっと感じが悪いといいますか、少なくとも俺はあまり好きになれないので、やはりそれは、感情移入の問題からもですね、駄目なんじゃないかなと」
「なるほど。だから『社会的生活上の実際に鑑みて普通以下であること』が、つまり服装等に神経質なわけではないが平凡人として日常生活を送る程度の用意は必要であると言いたいのですね」
「まあそうです」
「しかし次が問題なんです。この『主人公の性的スタイルにおいてはいわゆる『オクテ』であり結果として女性の方が積極的に行動するように物語展開上もしくは人間関係上仕向けられていること』というのは、何ですか」
「は。何ですかといいますと」
「ですから、どうして『女性の方が積極的に行動するように』なるのですか」
「いやまあ、それ言われると弱いんですがねえ。まああの、その、好みとしかいいようがないのですが」
「あなたはマゾですか」
「え。あ、いや、あの、むしろサドの方だと思うんですが、いやいやあの、これ以上は、はい」
「要するにタモリ、じゃなくてtarimoさんは自分が惚れずに相手が自分に惚れるというパターンの方が気持ちいいと考えるのですか」
「は。ええと、まあそうはっきりと言われるとですね、ちょっとあの、困るんですが」
「察するに、あなたはナンパをしたり女に軽口を叩くような男を非常に嫌っているようですね」
「まあそれはね、非モテの王道といいますかね、そういうのはやっぱり好きにはなれないですからね。それよりはやはり、オクテといいますか、そういう男がね、意外にモテたりするような作品を読むとね、やはり嬉しいといいますかね。俺もあの、まあ、女と話すのは苦手なわけですからね。それはね」
「つまりあなたの求める『ラブコメ』というのは、極めて平凡で女と話すことすらできないあなたに代わってあなたの願望を叶えてくれるものなわけですね」
「は。いやあ、まあ、そうなりますかねえ。お恥ずかしい限りですが」
「いえいえ。フィクションに自分の願望を求めるのは恥ずかしい事ではありません」
「はあはあ。それはあの、その、どうもありがとうございます。で、あなたは誰ですか」
「…」
「…あの、ちょっと、おいこら。何処に行くんだよ。待てこら。おい」