3 勝者の喜び・支配者の優越・無限の快楽

第10位:姉恋/柚木N’ [茜新社:TENMA COMICS]

姉恋 (TENMAコミックス)

姉恋 (TENMAコミックス)

 何度か言った事があるが近親相姦ものでは「姉」が一番難しい。妹ならば生まれた時から自分より下の立場にいるので主人公はたやすく自分の思い通りにでき、母ならば母性を頼ってどこまでも甘える事ができる。しかし「姉」は自分より上の立場にいるが母の持つ巨大な母性に比べれば大した事はない。要は中途半端なのであって、特に性交渉において主人公側がどういう風に臨めばいいのか(妹ならば征服感を味わう事ができる、母ならば無限の母性に包まれる事ができる)戸惑う事になる。
 しかし作者はさすが姉ものに強いだけあって(2010年2位「姉コレ」)、姉の長所を最大限に活用し短所をできるだけ薄める事に成功している。即ち姉として、主人公の年上としていざという時は弟(=主人公)を守れるようになろう、弟をリードできるようになろうと性交渉でも優位に立とうとするが(「主人公の精液の処理だって私がしなきゃ…」「坊ちゃまの性欲処理をして差し上げます」)、所詮は年齢が近いので男としての弟に形勢逆転され、今度は弟に甘えようとするところ(「やっぱり女の子として一番になりたいよ」「これからご主人サマにお仕えします」)が弟の征服感をくすぐるという描写である。普段は上の立場にあった姉が実はか弱い女だったと知り、そこに近親相姦というタブーの味が加わればますます征服感が満たされる。それによってヒロイン(=姉)が完全に主人公の手中におさまった事が明確になる。しかし姉は姉なのだから、母ほどではないにしろ母性に訴えて普段は甘える事ができ(姉の方も「弟がかわいくかわいくて仕方ない」と思っているので存分に甘える事ができる)、適当なところで今度は支配する事ができる。そのように描くのはテクニックと力技の両方が必要である。特に中盤の姉3人によるハーレムは豪華絢爛で、かわいい弟のためならばどんな事でも行うという覚悟が性交渉と結びつき弟(=主人公=読者)は芯から癒されよう。
 ただし短編集の宿命か編集の怠慢か、短編全てが姉ものではない(ただの先輩、年上)のでこの順位となった。「たまには主人公(=弟)に甘えてみるのもいいかなあ、後ろから抱っこされるの嬉しいな」のような描写がたんまりあればもっと評価したのだが。
   
第9位:マニアックデイズ/まりお[ワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL]
マニアックデイズ (WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL)

マニアックデイズ (WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL)

 成年編でも評価するところは一般編とほとんど同じで、ヒロインが主人公に対してどれほど愛情を持って接しているか、或いはその愛情はどれだけ持続しそうかが重要となる。大事な事なので何度でも繰り返すが「主人公は地味で平凡で冴えない」「ヒロインが積極的、しかし主人公より前には出ない」というのはこの日本ラブコメ大賞では当たり前なのであって(そうでないものはそもそもここで取り上げない)、成年漫画である以上男と女が出て来て性交渉に至るのは始めからわかっているのであるから、その性交渉へと至る愛情のキャッチボールが肝要なのだ。近親相姦ものであれば家族であるから愛情を持っている或いは愛情が持続するのは当然であると安心して読むことができるが(それが近親もののメリットである)、普通の男女であればそうはいかない。
 そこで本作であるが、性交渉の始まる前、もっと言えば始まって1頁か2頁で既にヒロイン側が主人公に好意を持っている(もしくは直截的に関係を持つ事を要求している)展開となっている、或いは既に誘惑態勢に入っているので安心して物語に入る事ができた。後はその関係が刹那的なものでないか(「ただ淫乱なだけ」「何となく寂しいから」等)だが、性交渉においても快楽に埋もれそうになりながら必ずヒロイン側から主人公に愛を示すのでこちらも安心でき、それどころか従順になり甘えん坊になり(「私まだ今日好きって言ってもらってないもん」)、主人公側は性交渉時も性交渉後も愛を表明される事で安心しつつ快楽に身を任せる事ができよう。
 また手を変え品を変え主人公と交わるヒロイン達は最後にはアヘ顔までさらすが、それも絶妙にマイルドに抑えられており、主人公(=読者)は性交渉の快楽に流されそうになりながらもあと一歩のところで冷静に全体を見渡す事ができ、ヒロインより上位に立つ事ができ、ヒロインからの甘えにも余裕を持って対処する事ができるのであり、非常に安定感のある良作であった。ただし俺はショタものは好きではない事だけは付け加えておこう(何が「僕のくしゃいミルク」だ)。
    
第8位:抱きしめなさいっ!/青木幹治コアマガジン:ホットミルクコミックスシリーズ]
 何度も言うように「ツンデレ」というのはラブコメと相性が悪い。照れ隠しであっても「私が主人公を好きになるわけないから」「私とあんたじゃ釣り合わない」などと言われてはこちらは「ああそうですか」と引き下がって幕を閉じるしかない、つまりラブコメにはならんのである(その証拠に一般編でツンデレものは一つもなかった)。何度でも繰り返すが、ヒロインから積極的に好意や愛を表明しつつ誘惑しなければ主人公側は何もできないのである。
 しかし表題作はジャンルは一応「ツンデレ」の範疇に入るだろうがかなり変わったツンデレであって、学年で一番人気のある成績優秀なヒロインは「瞬時に相性ぴったりの相手を選んだ」がそれが「友達いなくて休み時間は人気のないところでウロウロしているタイプ」の主人公だったのでそれを自ら認めるわけにはいかない(ここまでは普通のツンデレのパターン)が、抱かれたいがために媚びた格好をする、好きになる言い訳を用意するために回りくどい言い訳をする、と主人公のためにひたすら努力する姿が見れるのであった。つまりヒロインこそ主人公に振り回されているのであり、そうする事でヒロインにとって主人公の存在がいかに大きいかが伝わり、その後行われる性交渉は嫌でも盛り上がる事になる。一般部門のラブコメ主人公ならば「ストーリーの鍵を握る」程度でいいが、成年部門であればはっきりと主導権を握る事が必要であり、本作はそれに成功している。
 作者は日本ラブコメ大賞の常連であり(2009年11位「さよなら、おっぱい」、2011年3位「OnlyYou」)安心して読める作者の一人であるが、特に本作は「主人公の事が好きで好きでたまらないがそれを素直に言えず回りくどい方法で伝えてしまう、或いは終始無表情で接してしまう、しかし好きで好きでたまらない事は容易にわかる」性格のヒロインが多いので微笑ましく、変な話だが性交渉自体は興奮する(自慰に使える)ものではないがラブコメとして見た場合その完成度は非常に高く、更に「好きで好きでたまらない」まま性交渉(相互変態行為)へと至るから満腹感まで得てしまうのであった。満腹満腹。
 「今日は卒業式だったが…俺達はいつの間にか恋の課程まで履修していたのか…」「若者らしく爛れて乱れた青春を送りたかったのに…」「彼はなめたい私はなめられたい逆はダメ、何てお似合いの二人、私達きっと出会うために生まれてきた」。
     
第7位:らぶコロン/emily[マックス:ポプリコミックス]
らぶコロン (ポプリコミックス)

らぶコロン (ポプリコミックス)

 俺が信頼してやまない「ポプリクラブ」(2006年1位)レーベルであるから読む前からラブコメの要件を満たす事は確実であったが、本作は全体的にフワフワのマシュマロのような丸っこいヒロイン達がその外見に比して積極的に激しく主人公を求め、かなり激しいにも関わらず淫乱さが感じられないので読後非常に驚いた事が印象に残っている。これは一体何だとしばらく考えたが、何の事はない作者が女であるからヒロインが芯から淫乱になれないだけなのであった。もちろんそれが悪いと言っているわけではない。むしろ男が「積極的なヒロイン」を描こうとするとどうしても「エロ」や「淫乱」が本能的に醸し出され、その雰囲気に影響されてそのヒロインはただ快楽を貪るだけに陥ってしまう危険性があるが、女の場合はそこまでの本能はないから「積極的なヒロイン」を描いても男が描くより格段にマイルドになるのである。
 という事ならば女が描けば全て解決ではないかとなるが、女が描く男(主人公)はどうしても「女の理想」が入ってしまうためラブコメの主人公に必須である「地味で平凡で冴えない男」とはならない事が多いのであり、ヒロインが淫乱であるか否かは大した問題ではないが主人公が「地味で平凡で冴えない男」か否かというのは死活問題なので結局女の作者は信用できないとなる。編集が指導・チェックすればいいという事もあるが、女による「女が考える男」の感覚は油断している隙にストーリーや台詞やストーリー全体の雰囲気に忍び寄りラブコメを破壊させるのである。これはもうどうしようもない。女は男ではないからだ(当たり前だが)。
 しかし本作の場合はかなり「地味で平凡で冴えない男」設定がしっかりしている(時々綻びが見える時もあるが)ので安心して「女が描く『主人公に積極的に立ち向かうヒロイン』」に没頭する事ができた。ヒロイン側から「先輩、彼女…いますか」「先輩のこと本当に好きだから…」と震えながら主人公に告白し身体を寄せる描写は男には太刀打ちできない愛らしさがあり、「1週間も主人公に会えなくて寂しいから、(主人公の精液を下着につけて)枕元に置いて匂いを嗅ぐの」という天然の新婚バカップルぶりは男が描くとギャグめいてしまうが、女が描くと微笑ましいで済んでしまうのである。
 だからやはり女が描けば全て解決ではないかとなりそうだが、繰り返しになるが女が描くと「甘い」「マイルド」としかならず、地味で平凡で冴えない主人公が美人でかわいいヒロインを支配するという事にはならない、つまり本当の意味で「ものにした」事にはならないのであって、順位的にはこの辺りが妥当となる。ラブコメにはもちろん癒しや救いが必要だが、何よりも希望こそが必要なのであり、「地味で平凡で冴えない主人公が美人でかわいいヒロインを支配する(もちろん強制的な関係ではなく、ヒロイン側が望んで)」事がゴールである事を忘れてはならないのである。というわけで次へ行こう。
 
第6位:あのね、わたしね/真田鈴[マックス:ポプリコミックス]
あのね、わたしね (ポプリコミックス)

あのね、わたしね (ポプリコミックス)

 で、次が…またしても「ポプリクラブ」レーベルで…またしても作者は女性であった。最近多いなあ…まあこの日本ラブコメ大賞は完全な実力主義なのでラブコメとして優れているならば手放しで称賛しよう(先に言っておくが、1位の作品も作者は女である)。「女だから優遇しろ」などと叫ぶからおかしな事になるのだ、こっちはいいラブコメを見つける事に人生をかけているのだから男だから女だからとせせこましい事にこだわっている暇はないのだ、いいラブコメだったらちゃんと評価してやるから黙れ。
 とは言え本作が「地味で平凡で冴えない男」設定をちゃんと守っているかと言えばそうではない。作者が女であるから当たり前だが主人公達は例外なく男臭さがないどころかヤワな印象さえあり、それでも本作が優れているのは主人公の設定云々よりもヒロイン達の積極さが非常に自然でスムーズである事で、男が「積極的なヒロイン」を描くとどうしても「胡散臭さ」「ご都合主義」を感じてしまうが、本作の場合性交渉前→性交渉の流れは他の凡百の成年漫画と変わらないながらもそこに嘘が入りこむ余地がないのである。地味で平凡で冴えない、自分から女に挑む事ができない主人公にヒロイン側は積極的にというより母性的に包み込む(「母性」は男作者ではどれだけ努力しても表現できない)のであり、しかしいざ抱かれるとなれば恥じらい戸惑い、しかし好意を持っている主人公と性交渉に臨む事ができたのだから喜び、喜ぶ事に戸惑い恥じらいつつも更に喜ぶという複雑で微妙な女性の心理を性交渉時において実に自然に描く事ができており、その様子を見ることによって主人公(=読者)はそのような複雑で微妙な女性という存在を手に入れた事に深い満足を覚えるのであった。加えて本作の場合ヒロインは全員処女で統一されており、「処女なのにここまで積極的に向かってくる」事で自分(=主人公)はそれほど偉大な存在なのだという自尊心も満たす事ができよう。
 もちろん複雑で微妙な女性の心理を描写すればするほど刺激は少なくなり成年漫画としてはマイナスとなるが、何度も言うようにラブコメにおいては興奮できるか否か(自慰に使えるか否か)は関係ない。積極的に主人公にアプローチしながらも(目の前で自慰をする、逢い引きを仕掛ける、初対面の男の部屋に上がる、等)性交渉にもつれ込むと涙を浮かべつつ従順になるヒロイン達が読者に癒しと勇気を与えよう。こんなラブコメがあってもいい。特に「バイトの先輩」と「瓶底眼鏡の女助教授」の、母性と幼さなさが同居する描写(「何だろ、この甘酸っぱいっていうか何とかしてあげなきゃって気持ちは」)は非常に良かった。対して後半のネトゲ部云々はいらんというか、台無しだ。あれさえなければ3位以内であった。うまい事いかんなあ。
   
第5位:あまくちバージン/牧野坂シンイチワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL]
 何度も言うように自慰に使えるか使えないかはどうでもよい。ラブコメとして優れていればよい。そしてエロ漫画なのだからヒロイン側から主人公に対して積極的に身体を開かなければならず、しかしその行為は主人公への愛を表明するための手段に過ぎないようにしなければならない。そのあたり、本作は非常にうまく整理ができている。特に性交渉前の主人公とヒロイン(及び副ヒロイン)との関係の整理が丁寧且つ秀逸で、主人公と付き合い始めたばかりのヒロインが感じるときめきと焦り(「昔の事なんか忘れるくらい気持ち良くなってもらえるようにいっぱいいっぱい頑張りますから」)、年上のヒロインが年下の主人公を誘惑しようとする仕草と表情、密かに想いを寄せる主人公がいなくなる時のヒロインの驚きと溢れる想い、幼い頃から主人公だけを想い続けるヒロイン(「ずっとお前一筋だっつーの」)、先輩に全力で甘える後輩(「たった今、成立しました、私達はカップルです、だからします、H」)等、それらの導入部は全て成年漫画とは思えないクオリティであり、一般編であっても5位以内は狙えただろう素晴らしいものであった。最もそれから先になると息切れを起こしているというか、性交渉前に愛を表明した結果性交渉へとなだれ込んだのに性交渉の最中に愛の対話がやや忘れがちになっているのが惜しくもある。しかしながら性交渉が終われば主人公とヒロイン(及び副ヒロイン)はまた愛の世界を構築するので余韻は非常に良く、そうすると余計に途中の息切れが惜しく思えてしまう。
 とは言え「主人公は地味で平凡で冴えない」「ヒロインが積極的、しかし主人公より前には出ない」という要件を満たさない反ラブコメ作品が跋扈する血も涙もない世の中にあって本作もまた希望である事に変わりはない。地味で平凡で冴えない主人公と結ばれる事を決意したヒロイン達は積極的というより果敢に性交渉へと挑み、その結果主人公との快楽を手に入れ喜びの声を上げるのであり、その性交渉の喜びを主人公の姿に反響させる事ができれば文句なしの1位となっただろう。次作に大きな期待をしている。
 ところでヒロインの母にシコシコされながら「主人公さんがヒロインと結婚してこの店継いじゃえばいいのよ」の場面は…皆さんどう思われますか。俺は結構好きだ(何じゃそら)。
   
第4位:ポルノスイッチ/Hisashi[ワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL]
 何度でも強調したいので何度も言うが、「エロいかエロくないか」という基準は日本ラブコメ大賞成年版において一切考慮されない。むしろエロくしようエロくしようとするとその分だけラブコメ描写が減るばかりか、主人公だけに向けられるべき色気が拡散して主人公の存在が低下するのが常であり有害なのである。しかしながらまれに「色気」を主人公だけに向けられるよう調整する事ができ、それによってラブコメとエロを両立する事ができる優れた作品があって、本作もその仲間入りをする事になった。
 各短編において、性交渉前〜性交渉直前の段階で既に濃密なフェロモンを醸し出すヒロイン達はほぼ例外なく主人公に好意または愛を露骨に表現し主人公だけに向けて色気を放出するが、それにしては溢れるほどの色気を醸し出して主人公達は精を絞り取られるのであり(そのため汁の量がかなり多い)、しかし決して「男なら誰でもいい」といった淫乱ではない事を読者に確信させる力強さがある。「精を絞り取る」よう仕向けたのはヒロインの主人公(=読者)に対する想いそのものに他ならないのであり、それに気付いた読者は疲れを感じながらも精神的な満足感と優越感を深く感じる事ができよう。
 また本作ではヒロイン達の台詞が絶妙で、「愛が足りないわ、もっと深く愛して」「もう女の子を簡単に家に入れちゃダメだからね」「彼氏彼女なら…いいでしょ」「好きな人には自分から誘っちゃうけど、好きって言葉は主人公から言って欲しかったの」「この傷が治って私を忘れそうになったら…また来るね」というような、ヒロイン側が積極的に性交渉へリードしながらも最後の一押しは主人公に委ねるという、「女から男への誘惑」の基本を押さえた台詞で主人公側をヒートアップさせる事になるのであった。最初から最後までヒロインが積極的になってしまえば主人公は終始受身となってしまいただのマゾの物語に成り下がってしまうのであって、最終的には主人公側がヒロインを手中におさめなければならないのである。しかし地味で平凡で冴えない主人公が積極的になるのはなかなか難しいからヒロイン側が誘導する必要があり、本作ではヒロイン達の誘導によって主人公(=読者)は野獣化し欲望の限りを尽くす事ができ、しかも容易に愛を手に入れる事ができ、ヒロインとの新たな世界が始まる。それが成年版ラブコメの正しい姿なのであり基本なのであり、本作を読んで大変勉強になった。
   
第3位:いきなり!ハーレムライフ/立花オミナ[ティーアイネットMUJIN COMICS]
いきなり! ハーレムライフ (MUJIN COMICS)

いきなり! ハーレムライフ (MUJIN COMICS)

 ハーレムラブコメ長編は非常に難しい事で有名である(俺がそう言っているからである)。通常のラブコメの要件(「主人公は地味で平凡で冴えない」「ヒロインが積極的、しかし主人公より前には出ない」)に加えて以下の3つの事が求められるからで、3つとは、
(1)ハーレムを構築した主人公が罪悪感を感じない
(2)ハーレムの構成員であるヒロイン達がハーレム及びハーレムにいる自分を肯定する
(3)ハーレムのヒロイン達それぞれを魅力的に描く
 であり、短編ならば「ハーレム→複数のヒロインと性交渉ができた」という「両手に華」感覚でフェードアウトする事も可能だが、長編であればこの3つをしっかりと確保しなければならないのである。
 とは言えまずはいかにして「地味で平凡で冴えない」主人公が美人でかわいくてスタイル抜群な女と性交渉ができたかを評価しなければならないが、あるヒロインは(なぜかわからないが)主人公の匂いに興奮し、あるヒロインは(なぜかわからないが)重度の主人公のストーカー(ロッカーに主人公の隠し撮り写真がたくさん、更に事後の写真を所持、主人公の貴重なショットを逃さないため職員室にカメラを仕掛けている)であり、あるドMヒロインはSっ気のある主人公に惹かれたのかどうかわからないが主人公に性的関係を要求するのであった。これだけでもラブコメとして十分満足のいく(「ハーレムのヒロイン達それぞれを魅力的に描く」)ものであるが、そのように「棚ボタ」的に主人公と向き合うヒロイン達が主人公に出会い性交渉を経験する事で性の喜びに開花し淫乱となるのがまた素晴らしい。つまり性の喜びを与え淫楽の世界へと連れて行くのは主人公であり、それによってヒロイン達が身も心も主人公のものとなった事が主人公(=読者)自身にはっきりと伝わり、ハーレムを構築した事の罪悪感が消されるのである。
 そのようにして後半から行われる怒涛のハーレム描写では既に身も心も主人公のものとなったヒロイン達の積極的な奉仕とそれによる快楽の世界が待っている。「私達全員で奉仕しますよ」「他人になんて戻れない」「女に生まれてきて…本当に良かった」と歓喜の声を上げるヒロイン達の姿に主人公(=読者)の征服欲は満たされ、「ハーレムの構成員であるヒロイン達がハーレム及びハーレムにいる自分を肯定する」事によって永遠に続くハーレムを確信したまま物語を終える事に成功しているのである。ハーレムものの醍醐味である「孕みエンド」がないのは残念だったが、とにかく読んでみればそのすごさがわかるので俺はこういう事は滅多に言わんのだが未読の人は是非読んで下さい。
  
第2位:義妹処女幻想/志乃武丹英富士美出版:富士美コミックス]
義妹処女幻想 (富士美コミックス)

義妹処女幻想 (富士美コミックス)

 姉でも母でも妹でも、近親相姦ものであれば基本的に血が繋がっている方がよい。なぜなら近親ものの醍醐味は「家族→どんなに主人公が平凡で地味で冴えなくても(或いはどんなにひどい人間でも)家族だから愛している→家族愛が恋愛感情へ変換」という一連のやり取りが瞬時に成立するからで、後は成年漫画としての表現に徹してもよい(つまりラブコメ的理由に集中する必要はない)のである。では義理の場合はどうかという事だが、いくら家族と言っても血が繋がっていないのだからやはり主人公とヒロインの関係性(なぜヒロインは主人公に身体を許す事になるのか)から話を始めなければならず、性交渉へと至る事ができたとしても血が繋がっていないので強固な関係が構築されなければ主人公は不安を感じる(いつか別れてしまうのではないだろうか)事になる。
 しかし本作でそれは杞憂であった。どの短編においても義理の妹ヒロイン達が「義理の兄(=主人公=読者)しか見ていない」事は明らかであり、義兄の事を好きで好きでたまらないので全力でぶつかりつつもキュートさを失わないその愛くるしさは遊んでほしそうに寄ってくる子犬か子猫のようであった。また血は繋がっていないのでそれほど強力なものではないが家族である事の安心感も付与されて、主人公(=読者)は大胆に欲望を放出する事ができよう。そして細く整った作画で描かれる義妹ヒロイン達は一見すると清楚な雰囲気を持ちながらもその台詞から仕草まで全ては「お兄ちゃん(=主人公=読者)が好きで、お兄ちゃんに抱かれたい」を表現しており、義理とは言え妹であるため躊躇している主人公を何とかして誘惑しようと健気に拙い努力をする姿がまた愛くるしい。読者は「自分はヒロインにこれだけ愛されているのだ」という満足感を噛みしめつつ義理の妹であるというタブーを感じつつ性欲を解消する事ができよう。
 ラブコメとは地味で平凡で冴えない主人公がヒロインを支配する事が究極の目標であり、とは言えその支配の関係は強制されたものではなく合意されたものでなければならない。ヒロインを手中におさめる事で地味で平凡で冴えない主人公はその劣等感から永遠に解放され希望に包まれる事になる。その点、妹という存在は兄より下の立場にある事が自然であるから支配の関係になだれ込むのも通常の男女よりもたやすいのであり、なだれ込んだ後もその関係に違和感はない。それを十分に発揮しているのが本作であった。そして「お兄ちゃんなら赤ちゃんできてもいいよ」「妊娠すればお兄ちゃんと一緒にいられる」「お兄ちゃんのペットだけどお兄ちゃん大好き」等の、妹の特性を活かした台詞によって主人公は支配欲を満たしつつも愛しい妹を手に入れた事に喜び、一生かわいがっていく事すら決意して物語は終わるのである。妹万歳。俺はリアル妹いるけどね。
 
第1位:君がため心化粧/藤ます[ワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL]
君がため心化粧 (WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL)

君がため心化粧 (WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL)

 何度でも繰り返すが、優れた成年ラブコメとは美人でかわいいヒロインが地味で平凡で冴えない主人公に積極的に愛を表明する事であり、その愛を確認するために性交渉まで突入する事である。また性交渉の機会をヒロイン側が提供する事によって主人公側は何の負い目もなく欲望を放出する事ができるわけだが、欲望を放出しただけで終わってはならない。最終的には主人公がヒロインを支配するところまで到達しなければならず、それを成年漫画の文脈で表現するならばヒロインは「主人公(=読者)専用の性欲処理、肉便器」である事を自ら表明しなければならない。「肉便器」と言ってもそれは主人公のために身も心も捧げるという意味であって、ただの淫乱(「男なら誰でもいい」「挿入してくれるなら誰でもいい」)にしてはならない。主人公とヒロインの関係性の中でのみ「肉便器」の意味を見出す事が必要なのである。
 翻って本作であるが、性交渉前は清楚だったヒロインが主人公に抱かれるや否や快楽の渦にまみれ、「あなたのおちんぽ奴隷」「あなただけの『俺専用』性欲処理娘です」「あなたの専用生ホール」「あなたの匂いがついた専用のメス奴隷」と歓喜の声を上げながら忠誠を誓う描写が見事であった。地味で平凡で冴えない主人公が、なぜかヒロインに身体を寄せられ積極的にせまってきたので応えたところヒロイン達は簡単に「堕ちて」しまうのであり、その展開の早さに無駄はなく、しかしヒロインが「主人公専用」となった事の喜びを丁寧に描いている。そしてほとんどのお膳立てをヒロイン側が用意したとしても最後に堕としたのは他ならぬ主人公(=読者)なのであり、読者はひたすら勝者の喜び・支配者の優越・無限の快楽に酔いしれる事ができよう。これはラブコメというより夢物語であるが、そのような素晴らしい夢物語が各短編ごとに繰り広げられるので読者は力が漲る。エロ漫画を読んで「力が漲る」体験をした事が今まであっただろうか。ラブコメとは生きる希望を与えるものであり、性交渉を描く成年漫画なら尚更である。
 さてこれで日本ラブコメ大賞2014は終了となる。一般部門と同様に成年部門もまた一つの到達点に達したのであり、明けて2015年には2014年を超える更にすごい作品に出会えることを俺は確信している。