青い鳥を告発しろ/三浦朱門[福武書店:福武文庫]

「さあ、というわけで皆さんお待たせしました。今や日本で最低にして最高と言われる狂気の糞ブログ・『ラブコメ政治耳鳴全日記』読書感想文の時間であります。見た目は大人、頭の中身は小学生並みの単細胞視界不良な勧善懲悪阿呆馬鹿糞スイーツを今日は何人殺せるかなというわけでどうですか最近調子は」
「…」
「なるほど。そのようなわけで本日ご紹介致しますのは7月1日に会社をズル休みして神保町のブックス@ワンダーで210円にて買いました本書であります。なぜズル休みしたのかというとあの日もし俺が会社に行っていたら必ずや○○○処理について俺が貧乏くじを引いてしまうであろうことはわかっていたからであります」
「…」
「そんなことは本書の内容と全く何の関係もないのでありますがしかし本書を買った時の俺をめぐる状況というのはこれ一つのドラマなのでありまして、そのドラマというのは『本書を買ったあの日あの時あの場所』を通じて思い起こされるものなのであります。俺はそうして残り少ない人生を過ごすのです」
「…」
「というわけで本書ですが、舞台は昭和46年、大学院生同士が結婚をするところからはじまります。しかし結婚とは言っても実社会に出ていない学生二人のことですからどこか子供くさい、おままごとの延長のような感じで結婚しても今ひとつ『自分たちはこれからの長い年月を一生二人で過ごしていくのだ。二人で金を稼ぎ、支えあいながら生きていくのだ』という覚悟がつかないわけです」
「はあ」
「結婚早々それぞれの実家に居候したり、友人や親兄弟の平穏に見えてなかなか大変な人生の片鱗を覗いたりしてそれなりに社会で生きていくことの辛さや喜びを肌で感じるようになるわけですが、やがてこの夫婦に決定的な危機が訪れるわけであります。とは言えもちろん本書は大衆小説でありユーモア溢れる青春グラフィティですから心配はいりません。ちゃんとハッピーエンド、めでたしめでたしで終わり読後はすっきり眠れます」
「…」
「つまり何が言いたいのかというとまあ大体わかると思いますが本書もまた立派なラブコメであるということです。今では考えられないことですが、このような平凡な青年を主人公とする小説が昔はあったわけであります。もう繰り返し何度も言っているので繰り返しますが昔はこのような平凡な名も無い庶民を主人公とした『大衆ユーモア小説』なるものがあったのであります。それが日本人の粋でありまして、にもかかわらず戦後アメリカ的なヒーローに憧れてしまいこのような物語は忘れ去られたのでありまして、あれ俺は何を言っているのでありましょう」
「…」
「とにかく結局は夫婦は仲直りして丸くおさまるのですが、どういう風にしておさまると思いますか」
「…ああ、そうですね、やっぱり夫が『僕は今まで君に理想を追い求めていた。そんな浅はかな僕をどうか許してくれ。これからはありのままの君を愛し続けるよ』と言うんじゃないですか」
「なるほどなるほど。いかにも糞スイーツの合コンのヤリマンらしい想像でありますが」
「今何ておっしゃいましたか」
「いや何でもないです。ええ、これがですね、夫はですね、夫の兄夫婦からアドバイスを受けるわけです」
「はい」
「どんなアドバイスだと思いますか」
「さあ…」
「兄夫婦はですね、こう言うわけです。『ぶん殴れ』と」
「今何ておっしゃいましたかっ!?」
「まあまあ落ち着いて下さい。これは俺が言っているのではなくて兄夫婦が言っているのでありまして、いや俺をぶん殴らないで下さい。つまりですね、義姉はこう言っているのです。『女にはね、実家のことも、世間のことも忘れて、ただの妻になりたい、という気持ちもあるの。夫が友人なのだか、勉強上のライバルなのか、夫なのかわからないじゃ困るのよ。夫には夫になりきってほしい。そのためには、なぐられても仕方がなかった、というようななぐりかたが必要なのよ』と。どうです」
「駄目です。そんな前時代的な、敗北主義的な、阿呆のような考え方は断じて許しません。排除します」
「いや前時代的といいますか、これは昭和46年の作品ですからね。前時代的で当然でしょうが」
「それでもそんな本が出回っていること自体が駄目です。罪です。あなたを現行犯逮捕します。民間人でも逮捕はできるのです」
「おお。久し振りですなそのセリフ」
「茶化さないで下さい」
「いやいやまあ俺を逮捕できるならしてみろということで今日はこのへんで。皆さんもっともっと本を読みましょう。そうすれば今までの常識は音を立てて崩れ、自分だけのものさしを見つけることができるでしょう」