Ⅱ 妄想戦記

 結婚が必ずしも幸せに結びつくものではないように、病気が完治すれば全てがうまくいくものでもないのである。同じように出世や金や名誉もそんなに大したものではないのである。昔から薄々そうではないかと思ってはいたが社会人となり東京の醜悪なる宴を経験した今はそう断言できるのだ。俗世間の物事にとらわれずあらゆる重圧から泰然としていたい。果てなき抗争を遠くから眺めていたい。去年の今頃もそう願いながら今年の俺は荒れ狂う病魔と暗躍する社内抗争の渦に飲み込まれていった。生きていくのが嫌になるとは思わぬ。だが東京一人暮らしの俺は死のうと思えば簡単に死ねるわけで、その事実に愕然とする。そのようにして人生の階段を上りながら俺は日々秋葉原や中野まんだらけやBOOKOFFを探訪しラブコメを求めたのである。我が人生のかすかな光明が差し始めた2006年を振り返り日本ラブコメ大賞がスタートする。賞金1000万及びトロフィーは株式会社はてなから出ます。
    
 というわけで今回は一般部門の順位を発表する。とは言え今年は選考方法の変更(双葉社竹書房など一般コミックと成年コミックの境界線上にある作品は各々俺の判断により一般部門・成年部門へ割り振る)によりノミネート数が50作品と去年より大幅増になり(成年部門は大幅減の17作品)、時間が有り余っているひきこもりでもニートでもない俺はさすがに50作品全てを紹介する時間はないので上位30位を述べることにする。第一「オールナイトラブコメパーカー」に認定されたらその全ての作品について俺が熱く語ってくれると思ったら大間違いなのだ。日本ラブコメ界の権威、ラブコメ生き字引と言われる俺を轟かせたいならもっともっと頑張り給え諸君。何。あなたは狂っているですと。その通り。だから俺が死ぬまで待っておけ。
    
第30位 HAND MAID メイ/春眠暁[ソニー・マガジンズ:SONY MAGAZINES NOVELS]

 今から6年前、俺がうら若き高校三年生だった2000年の夏にWOWOWにて放送されていたアニメはごくわずかな人たちしか興味を示さずそのごくわずかな人たちが容易に
予想したように今や完全に忘れ去られてしまった。そのアニメは「HAND MAID メイ」と言い、まだメイド喫茶がなかった頃のメイド風ドタバタラブコメアニメであった。今なお俺を巣食う「過去に戻りましょう」電波は遥か6年前のアニメのノベライズにまで手を出したのである。本作品はラブコメとしてなかなかのものだが、ラブコメが陥りやすい「主人公を『いい人』にするあまり全く人間味のない『いい人』にしてしまった」典型のような作品であり昔録画したビデオがあっても本が手元にないと不安だからという理由で12月2日に古本市場AKIBAPLACE店で買ったただそれだけの代物である。しかし本作品に触れることは若かりし高校時代を思い出すことでもありありがたくもある。まあ従順なメイドにツンデレな大家の娘にロリにと割合楽しめるしな。そういえば俺がはじめて買った同人誌(三宮のメロンブックスで買った)は本作品のエロいやつであった。
       
第29位 もとかの/東鉄神双葉社:ACTION COMICS]

 さて本書は去年までなら成年部門として扱うところだがそもそも成年マークがついてないので一般部門とした。しかしちまたでは規制だ何だの言っておきながらよくまあこんなエロいのが一般コミックとして許されるもんだ。中学生でも買えるんだからなあ。俺が中学生の時にこんなエロラブコメがあったらどんなに良かったことだろうと思うが、本作品は主人公と元彼女と現彼女の間で行われるエロい方のラブコメである(要はどっちともやるのである)。どっちつかずの優柔不断な主人公や作者の描く肉感的な女の身体は俺の好むところであるが、主人公が金髪なところと一瞬だけであるがレズを連想させるような描写があるため29位となった。金髪はともかくレズはもう本当にええ加減にせえよと言いたい。死ねこのボケ。俺は共和党を支持する。
    
第28位 コイネコ真島悦也小学館:サンデーGXコミックス]

 本書には苦い思い出がつきまとうのである。なぜなら本書を買ったのは6月4日であり、その日は簿記3級試験日の一週間前であったからだ。俺はまるであの頃のように目の前にある義務から逃げ自らの快楽に閉じこもったのである。案の定俺は試験に落ちそれが10〜11月の猛勉強へとつながるのであるが、試験が終わった今でも本書を読む度にその罪悪感とそれに伴う快感が呼び起こされるのである。で、本作品であるが主人公が中学生であるからしてこのような順位となったが(もはや感情移入などできぬ)、ヒロイン(人間に化けることのできる猫)の描写には目を見張るものがある。ラブコメの女というのは概して積極的でありそれが笑いを生むのであるが、その「積極性」はラブコメというよりただのコメディに堕としてしまう危険性があり、もちろんただのコメディであっても構わないのだがその「女が積極的になる」ことによる笑いの質自体はそんなに高いものではなく結果ラブコメとしても一作品としても中途半端に終わってしまうのが常であった。しかし本作品の場合はその積極さを笑いに転換させ且つラブコメの形式を保ちつつもその笑いをより一段と高みへ持っていくことに成功しているのである。これは「マカロニほうれん荘」以来の快挙と言えよう。逃げる快楽もいいが立ち向かう快楽もいいものだ。
      
第27位 幻影博覧会冬目景幻冬舎幻冬舎コミックス

 さて本書はいわゆるラブコメではない。ただし広義の、俺の言うところのラブコメであるからして述べさせていただこう。第二次大病戦争の足音が聞こえ始めた4月16日に買った本書は、昭和初期の東京を舞台にしがない私立探偵とその助手で正体不明の女が事件を解決していくというロマン溢れる作品である。もうこの「昭和初期」という時代設定がたまらなくロマンではないか。作者のあまりトーンを使わぬ白黒の濃淡を駆使した絵も古めかしさを醸し出して非常にいい感じである。ほとんどの人々は戦前を「言論の自由のない暗黒の時代」としかイメージしていないようだが、それは今の観点から見てそう思うのであって、生まれた時からその時代にいたらそれはそれで楽しいことは多々あったはずなのである。当時の人々がエログロナンセンスに興じる光景と現在の人々がオタクに興じる光景は実は同じなのかもしれない。帝都東京万歳。
      
第26位 ゆめりあナムコ桂遊生丸メディアワークス:DENGEKI COMICS]

 ゲーム業界と言えば今や日本の成熟した産業の一つである。それ故パターンも決まっており、ラブコメ関係で言えば、①エロゲーにしろギャルゲーにしろまあまあ売れる(もしくは話題になる)②漫画となる③アニメとなる④忘れ去られる、のサイクルを一作品毎に繰り返すのである。そのようにして市場に大量に流出するゲームソフト群から頭一つ抜け出ることのできた作品のみが漫画化され俺の手元に届けられるのである。で、本作品はと言うと夢の中で何かと戦い夢から覚めても夢の中の可愛い子がいてというご都合主義の最たるものであり俺は好きだ。俺はロリコンではないがラブコメである以上全て受け入れるのだうわはははははは。わははは。
   
第25位 まぶらほColorful Comic/築地俊彦浅草寺きのと・駒都え〜じ[角川書店:角川コミックスドラゴンJr]

 さて本書は俺と因縁が深い「まぶらほ」のコミック版である。過去この作品を通じて今のオタク業界或いはオタクと呼ばれる素晴らしき人々に苦言を呈してきたこともあったが、ラブコメを愛する俺の心は普遍にして不変なのである(意味不明)。しかし本書はその1巻が発病前の2月4日に古本市場AKIBAPLACE店で買われ、2巻にして最終巻が発病後そして簿記試験勉強前の10月9日にBOOKOFF目白店で買われたことを考えると、全くこの一年色々あったよなあと感動する他ない。そう言えば「まぶらほ」と俺は2002年以来の長い付き合いだが、今年が一番濃い付き合いだったのではないか。俺を襲う「過去に戻りましょう」電波により2月から3月にかけて、寝る前は必ず録画しておいたアニメ版「まぶらほ」(おお。兵庫県糞田舎時代の産物)を見て寝るという生活を繰り返していたのだからな。あ。そうだそうだ思い出した確か本作品の小説をはじめて読んだのは2002年晩秋の大学のバカでかい図書館で、当時夜間学生だった俺は授業にも出ず誰もいない夜の図書館でただひたすら本を読んだものである。俺がいつも座っていた端の方の席には夜必ず中東系の留学生が座っていて、何やら化学系の雑誌をつまらなさそうに読んでいた。毎日毎日俺と同じように夜そこに座っていたあの中東人はどうしているのだろう。で、本作品であるが作画は女なので「主人公を『いい人』にするあまり全く人間味のない『いい人』にしてしまった」症候群に陥ってしまっている。またか。阿呆め。男でもこの症候群にかかる可能性は高いが、女は99%この症候群に降伏してしまうのだぞ。それが何故わからんのだ。ただ「まぶらほ」というネームバリューのみでこの順位に来ただけの話だ。出直して来い。
 
第24位 甘詰留太短編集 きっとすべてがうまくいく/甘詰留太白泉社:JETS COMICS]

 別に俺はこの作者嫌いじゃないけどね。ただ出版社や広報がこれでもかとばかりに「この作者はいいんですよすごいんですよ」とか言うものだから俺としてはあまり好きになれんわけですよ。そりゃすごいエロい絵ではあるけどさ、別にこれぐらいの絵なら他にいっぱい書ける人がいるわけでね。作者の名前を冠した題名までバーンと出すことはないでしょうよ。収録されてる40男と20女のやつはまあいいけどね。それだってラブコメとしてすごく優れているわけではないからね。平均より少し上、てなぐらいですからね。短編のいくつかは「主人公を『いい人』にするあまり全く人間味のない『いい人』にしてしまった」症候群にかかっているしね。それに俺としては作品を大事にしたいのに、やれ「Q&A」や編集者の紹介文を入れられても邪魔なだけでね(俺の「Q&A」より面白い「Q&A」があったら見てみたいね)。これは本作品ではなく今の漫画・ライトノベルズ・ゲームその他オタク産業全てに言えることですけど、何をそんなに大言壮語しているんですかね。どうも気に喰わんのよなあ。もう少し穏やかに、つつましく、スマートにできんのかなあ。結婚してもオナニーとかすんのかなあ。
  
第23位 妹あいどる/山本マサユキ講談社ヤンマガKC]

 さて8月よりはじまった東京23区のBOOKOFFを隈なく訪問する「裏東京毒探偵突撃古本屋」シリーズであるが、本書はそのシリーズの恩恵を受けて9月9日にBOOKOFF浮間舟渡駅前店で購入されたものである。東京のBOOKOFFの多さには驚嘆するしかないが、東京23区というのは本当にどこに行くにも電車で事足りるというのを再認識したものである。なるほど確かに都会だ。それにしても今まで本屋古本屋と言えば秋葉原や神保町や中野ブロードウェイにしか行かずそれらが俺にとっての東京の全てであったが、この「裏東京毒探偵突撃古本屋」シリーズにより各地の駅とその風景を訪れることによって俺は東京も我が兵庫県の糞田舎と大差ないことを身をもって実感することができたなどと本作品と関係ないことを言っているのはなぜかと言うと実は本作品はあんまりラブコメではないのである。だが幼馴染の妹分の女がある日突然就職もままならない三流学生(ヘタレ)のところにやってくるという導入部があるだけで俺は満足なのだ。あの主人公を『いい人』にするあまり全く人間味のない『いい人』にしてしまった」症候群に較べたらこっちの方が断然いいのだ。俺がラブコメだ。
 
第22位 まじしゃんず・あかでみぃ/榊一郎・BLADE[エンターブレインマジキューコミックス]

 さて本作品も既に「オールナイトラブコメパーカー」に認定されている小説のコミック版である。魔法学校に通う平凡な(本人は気付いてないが内に強力な力を秘めている)主人公とその主人公の下にやってくる女たち。即ちラブコメ。この極端にデフォルメされた絵に抵抗を覚える者もあろうが俺にとっちゃ「ラブコメなら何でもいいわい」である。本作品の場合、ラブコメによくある「主人公は普通で周りは変な奴ら」という図式をそのまま「魔法のできない主人公とその他の魔法学校の生徒」として適用し見事に成功しているところが評価できよう。犬のように主人公にまとわりつくヒロインがまたいいね。この「いいね」というのは非常にいやらしい意味での「いいね」です。なお、本書は4月10日に、今年一回だけ会社をズル休みした時に秋葉原メロンブックスで買いました。あの頃俺はまだ営業部にいてしんどかったけど一日休むくらいどうってことはなかったんだよなあ。今は事務部でそりゃ気楽だけど休めんし土曜も出なきゃならんもんなあ。
   
第21位 アネゴッ!!/環望竹書房:BAMBOO COMICS]

 さて本書は3月25日に五反田で遊んだ(風俗に行った)後、中野のまんだらけに行って買ったものである。そうですね、大体五反田には2〜3ヶ月に一回くらいの割合で行きますかね。値段ですか。1万5千円ですね。何の話だ。本作品も去年までなら成年部門として扱われるところだが一般部門とした。全くもうこんなのが成年マークついてないんだから今の中学生というのは(以下略)。自他共に認めるサドの俺が(えっ?)このような女を認めるのも納得いかないが本作品はなかなか秀逸なラブコメである。題名の通り頼れる姉御としてみんなに慕われているヒロインが弟分である主人公と二人きりの時だけ見せる何とも言えぬ蕩けっぷりは見ていて征服感に満たされるのである(えっ?)。ラブコメというのは多かれ少なかれ「ヒロインが主人公に惚れている」という状態に持ち込まれそれがいわゆる征服感として俺にとっては非常に重要な意味を持つが(えっ?)、「姉と弟」型ラブコメというのはこの征服感が味わえないので俺としては敬遠していたが本作品は見事そこをクリアしているのである。よくできましたと言いたい。
 
そんなわけで俺はラブコメにまみれるのであります。ラブコメ万歳、俺万歳。次は20位から11位までだ。CDTV方式なのだ。頑張れ俺。一体どうしたらYouTubeの動画はダウンロードできるのだ。どうして次から次へとわけのわからぬ仕事ばかり増えるのだ。どうしてまた俺が忘年会の幹事をしなければならんのだ。どうしてボーナス5%カットなのだ。時は2006年。