爆笑結婚1 悲劇編

「もしもし」
「はい。こちら市役所の結婚対策調整課ですが」
「あの、市役所さんですか」
「はいそうです」
「結婚対策課ですか」
「はい」
「あの、今日郵便が来まして。あの、結婚適用がどうとか…」
「ああそうですか。失礼ですが、通知されたご本人さんですか」
「はいそうです」
「あのですね、2月1日付けで法律が施行されましてね。抽選で選ばれた独身の方はですね、同じく抽選された異性のかたのどなたかと結婚しなければならないんですね」
「はあ」
「とりあえずこちらとしましてはですね、一ヶ月後ぐらいに見合いパーティーというのをですね、結婚相談所と合同で開催しようかと思いまして」
「ええと、それはその、絶対出なければならないんでしょうか」
「まあそうですねえ。一応、法律上の義務ですからねえ。お仕事とかございますでしょうが、できることなら休んでいただいた方が。もちろん我々市役所の方でもお勤め先に出向いてですね、上司の方にお詫びといいますか、挨拶はさせていただきますが」
「いやそれはまあね、仕事サボれますからね。ははは」
「ははは」
「といいますか、あの、私はその、学生なんでして」
「いえ実はですね、この法律は学生であってもですね、20歳以上は全て適用されるんですよ」
「は。しかしその、生活というのがですね、あの、やはり大学とバイトでは、その」
「いえその点はですね、ちゃんと補助金というのが出ますからね。何せこちらとしても初の試みですから、幾分多めにですね、それは心配のないように」
「それにしても、あの、要するに異性といってもその、だいぶ年長の方もおられるのでしょう。何せ抽選では」
「いえいえその点もですね、実は違いましてね。今回の法律というのは少子化対策ですからね。やはり高齢の方はね、出産は無理なわけでして。年上といってもまあ35ぐらいまででしょうね」
「はあはあ。しかしやはりその、昨日まで他人だった人とですね、そういう結婚という大事業を、この原則しなければならないというのはですね、あの」
「まあ、確かにおっしゃるとおりなんですけどね。しかしやはり国会でも十分審議されましたし、やはり子孫を残すというのは社会的責任でして」
「ええ。そうなんでしょうね。ですがあの、やはりこの年齢で結婚というのは、あの、ちょっとね、やはりね」
「はいはい。そうでしょうねえ。そういう悩みみたいなものは当然あるでしょうねえ。あの、社会保険事務所にですね、この結婚対策法の専門官みたいな人がおりますのでね、そちらの方と代わりましょうか」
「ああ、はい。お願いします」
    
「もしもし。こちら社会保険事務所の結婚対策法専用窓口ですが」
「あの、社会保険事務所さんですか」
「はい」
「結婚対策法のことでですね、ちょっとあの、相談が」
「ああ、通知が来ましたか」
「はい」
「それはおめでとうございます」
「いやその、おめでたいといいますか、その」
「はあ」
「これはその、つまりお見合いをするわけですね」
「はい」
「で、そのお見合いに出席した女性の方の誰か一人とその、あの」
「ええ。原則結婚という形になります」
「ええと、それはですね、あの、やはり俺としてはですね、あの、結婚というのはその、まだ早いんじゃないかと」
「はあ。まあそういう考えもございますでしょうが、やはりこれは法律上の義務でして、正当な拒否理由がない場合は、やはりですね」
「はあ」
「結婚していただき、できることなら出産もしていただきたいと」
「いやそれはその、そうだと思うのですが、あの、その、俺はですね、この何と言いますか、女性の方とですね、あの、話をするというのは、その、苦手といいますか」
「ああその点ならですね、我々社会保険事務所の職員や業務委託している結婚相談所さんの方がですね、それはもう全面的にバックアップしていきますのでね。心配いりませんよ」
「ええと、しかしですね、まあ相手の女性の方もね、この、やはり俺のようなその、ブサイクをですね、見たくもないのでは」
「いやそんなことはないでしょう。もっと自分に自信を持ってください。男は顔じゃないですよ、やっぱりハートですよハート。ははははは」
「…いやそういうのではなくてですね、俺はですね、あの、その、実はですね、あの、ちょっと病気を抱えておりまして、あの」
「え。ああそうですか。それはその、失礼ですが手術のご経験は」
「ええと、ないのですが、その」
「一応ですね、正当な拒否理由として『著しく健康を害する者もしくは著しく健康状態がすぐれない者と医療福祉機関が認めた者』の項目がありますからね。その場合はですね、病院の診断書でも何でもいいですから、とにかく自分が病気であることを証明する書類をですね、お手数ですが社会保険事務所に提出してもらえますかね」
「あの、その書類をその、提出したら拒否できるんですかね。見合いを」
「いやそれはその書類を見てですね、我々が判断することになりますね。例えばただの腕の骨折とか、盲腸の手術といった診断書を出されてもね、それは拒否として受け入れ難いですからね」
「その、その病気の診断というのは、あの、やはり正式な医療機関といいますか、そういうのを介さないと、やはり。あの、自己申告ではなく」
「そうですね。自己申告ではですね、やはりちょっとこちらとしてもですね。何せ法律は守らなければなりませんからね」
「実はですね、あの、俺はですね、その、精神的にあの」
「はい」
「あのお、ちょっとですね、精神的に俺はですね、問題がありまして」
「そうですか。しかし電話から察するに極めて正常に思われますが」
「いえ実はですね、あの、その、まあこの、ふ、不感症と申しますか、あの」
「ああ。はい。不感症。勃起不全ですか。それでしたらあの、泌尿器科の方に」
「いやその、何せ田舎ですからね。泌尿器科など行ったら、村の人間に何と言われるか」
「はあ」
「それにその、医学的にはその、あの、俺のは何の問題もないのでして」
「はあ」
「精神的な問題だろうとですね、医者は言うんですがね。しかし俺はその、精神病院など行ったら、それこそ村八分にされてしまいますし、大体俺はそもそも正常ですし」
「そうでしょうね。喋り方も丁寧で」
「そうでしょう。ですからあの、つまり、実はですね、あの俺はですね、この」
「はい」
「ええと、なんと言いますか、あの、俺はですね、アニメや漫画が好きでしてね。その、いわゆる二次元のキャラクターには、あの、ちゃんと反応するといいますか。え。あの。もしもし。もしもし。あの。もしもし。もしもし。なぜみんな同じ反応をするんだ。もしもし。もしもし」