SFアドベンチャー1984年1月号[徳間書店]

 そんなわけでやってきました現実地獄三丁目五番地糞たわけ。7月28日の五反田の風俗店(ヘルスだよソープはないからねあそこには)ではなく遊古会で買った本書はその名の通りSF雑誌である。やはりこの頃のSF雑誌を見ているとほとばしるパワーが感じられる(もっとも当時はSF冬の時代と言われていたが)。今のSFマガジンや名前は忘れたが徳間書店から出ているSF雑誌を手にとって見る気にもならないのは星・小松・筒井ほどではないにしろ読者に衝撃を与えるようなストーリーテラーがいないからであって、これは何もSFに限ったことではなくミステリーや純文学にも言えることであるから俺も最近はノンフィクションを好んで読むようになった。もうかなり長く続いている新書ブームの原因はそこじゃないのかね。
 どういうわけかミステリーは海外のものをよく読むがSFは国内のものをよく読むのでそうなるとSFアドベンチャーは格好の風俗嬢である。長編短編エッセイ何でもござれでその時代の空気や風潮を1冊に濃縮しているのが雑誌であり今や完全に浸透し拡散したSFがこれほど濃く1冊にまとまっていては俺などすぐ酔っ払ってしまう。横田順彌の駄洒落にひっかけたユーモアSFや眉村卓不定エスパー」のようなロマン溢れるスペオペは特に俺の好むところだがこういうのは最近ないよなあ。物理学や生物学を駆使したハードSFもいいがやはりワクワクドキドキする興奮がほしいわけですよ。風俗に行く時みたいに。
   

今日からヒットマン5/むとうひろし[日本文芸社:NICHIBUN COMICS]

 8月18日にまんだらけ中野店で210円で購入。どうしてお前はそう210円とか350円とかにこだわるのだと言われるがそこは大事で譲れないので俺頑張るよ。2006年度日本ラブコメ大賞1位となる本作はあいかわらず面白いの一言に尽きよう。平凡なサラリーマンがなぜか殺し屋稼業も受け持つことになり運とハッタリと偶然で毎回間一髪のところで敵を倒すのであり読んでるこっちは毎回ハラハラして体力を使うがこの既婚のサラリーマン主人公のパートナーである女が既婚の主人公にぞっこんな描写が楽しくいやらしいし妻も十分健康的にいやらしいのでそういう点がラブコメなのでいいということです。まあそれは今まで散々言っておるからいいとして、いわゆる平凡な人物である主人公を非凡な状況下に追い込みながら主人公をあくまで「平凡」の枠内にて活躍させるストーリーというのは実は大変難しいのでありそういう意味でも本作はまことに稀有な作品(サラリーマンと殺し屋の両立を不可侵なものにしている)なのである。それにしても210円は安い安い。
 

元禄御畳奉行の日記/神坂次郎[中央公論者:中公新書]

 まだ続きます。7月7日に神保町古書モールで210円で買った本書は江戸時代花の元禄期に生きた下級武士の日記を紹介したものである。かつて明治以降にしか興味がないとして江戸以前の歴史書を全く読まなかった俺だがそれはこの大日本格差帝国では歴史イコール江戸時代もしくは戦国時代という考えが大多数でありそのような大多数のなかに入りたくなかった哀れな自意識過剰青年の抵抗でしかなかったのである。おお哀しみ給え泣き給え俺の余命は不明。
 で、本書であるが日記であるから当時の生活の息遣いが感じられて大変面白い。特に元禄泰平の世に浮かれて愛欲にうつつを抜かす当時の人々の姿が新鮮であり俺など「江戸時代=武士の恐怖支配の時代」という偏見で凝り固まっていたから時に驚愕してしまった。街中で前妻と現妻が大喧嘩をして「汝の女陰を引き裂かんと大言」したり、畳屋女房と馬方女房がこれまた大喧嘩をしてついには脇差を引っ張りだして殺し合い、憎い馬方女房を殺した畳屋女房は思い残すことはないと切腹するが駆けつけた男たちに止められると血まみれの傷口に両手の指を突っ込み疵口を引き裂いて死んでしまうくだりなど、現代では凄惨そのものだが当時はこれが三面記事的事件だったのでありどこかユーモラスな感じまでしてしまう。当時の人々と現代の我々の大きな違いの一つは「死」への感じ方であり、当時は市中引き回しの上打ち首獄門や切腹などが日常的に行われていたわけで人の死や自分の死に対してひときわ冷静である。日記にも平気で「喉を切り自害」「腹を切り自害」「腹から腸が一面に噴出し」等が書かれていて、そういう所にテレビの時代劇ではわからない歴史の醍醐味というものがあるのではないかな。