青木を見て森も見る

 政局というのは永田町に関する全ての出来事のことであるから、百万千万の情報が跋扈すると言っても過言ではない。政府に与党に野党に官僚に業界団体に地方自治体に財界にと「政治」に関係するあらゆる人々の思惑が複雑怪奇に錯綜する現実絵巻なのであって、そのような現実絵巻を的確に把握するのは至難の技である。毎日毎日朝から晩までニュースを見て新聞雑誌を読んで赤絨毯に思いを馳せるわけにもいかないしそれでは逆に情報量が多すぎてパンクするだけであるが、幸いなことに日曜日に「サンデープロジェクト」を見て月曜日に週刊ダイヤモンドの連載「風雲、永田町/鈴木棟一」を読めば一週間の政局の経過は大体網羅できる。この二つの情報媒体は間違いなく信頼できると断言できる。話は変わるが大塚英志に代表される頭のおかしな人は「政治は国会とサンデープロジェクトにしか存在しない」などと言っているがそれがいかに阿呆の愚考であることは皆さんお分かりですね。
 で、今日の「サンデープロジェクト」には森元首相が出ていて、このオッサンは俺が政治に興味を持ち始めた2001年当時首相であった人でありそれから6年が経つのにまだこうやってサンプロに出て政局を赤裸々に語るというのは田中角栄竹下登のようなキングメーカーほどではないがやはりいくらかの力を持っているということである(何の力も持ってない弱小議員をサンプロが呼ぶはずがない)。小泉政権下で派閥はほとんど力を失ったが「森・青木(幹雄)ライン」は一定の力を持っていた。小選挙区下で派閥が弱体化しいい意味でも悪い意味でも政局の勘どころを押さえ政府・党・官僚・地方などをまとめる荒事師的実力政治家がいなくなる中、荒事師的能力を強力に秘めた「森・青木」を小泉も頼るもしくは認める他なかったのである。
 派閥政治・中選挙区下での自民党議員は小選挙区制とは違い「自民党」あるいは「民主党」という看板だけで当選することができなかったのであり、地盤や業界団体や党や派閥や政調会で生き残るためには相当の苦労と能力を必要としたものである。だからこそ地方や官僚や部下をコントロールする術を身につけることができたが、一方安部首相は初当選こそ93年総選挙の中選挙区制下であるがその次の選挙は既に小選挙区制下である。「小泉が派閥を壊した」とよく言われるが実質は小選挙区制移行と共に派閥はもう形だけのものとなっていたのであり、安部首相には中選挙区制下の自民党議員が持つ強烈な力、自分の周りにあるあらゆる政治的勢力を調整し統合する力が欠けているのである。これは前原民主党前代表にも言えることであって、結局今の政界のキーマンは与野党問わず中選挙区時代から生き残ってきた人たちである(麻生外相、中川自民党幹事長、小沢民主党代表、鳩山民主党幹事長)。いずれ彼ら中選挙区時代の人々も第一線から退くのであろうが、このままますます小粒の政治家だらけになる事は政局ウォッチャーたる俺にとっても、日本の国益にとっても非常に寂しいことではありますまいか。