図書館雑誌 2013年8月号[日本図書館協会]


 さて今回は「せっかく日本図書館協会の会員になったのだから『図書館雑誌』を読んで色々と意見を述べよう」という企画の第2弾です。前回は4〜7月号についてああだこうだと言ったので今回は8〜11月号について述べるつもりでしたが、8月号に「2012年度決算報告及び中期財政計画(2013−2015年度予算)」が載っていたのでそれについて述べる事にします。俺は図書館については素人ですが(司書資格は持っていますが)、東証一部上場会社で長い間決算をやってきましたのでその辺はまあそれなりに知識はあります。
(1)正味財産増減計算書(損益計算書
 収益(売上高)が568百万円、経常費用(営業費用・営業外費用)が550百万円で経常利益が18百万円残り、そこへ経常外費用(特別損失)が20百万円で最終的に2百万円の赤字であるが、これを廃止事業(映像事業と情報事業の一部)とそれ以外の事業に分解すると以下になる。
<廃止事業>(単位:百万円)

収益   147
経常費用 △192
経常外費用  △16
  計    △61

<その他事業>

収益   421
経常費用 △358
経常外費用   △4
  計     59

 その他事業の経常利益が59百万というのはまずまずと思えるが、収益の421百万円の中には「財政破綻を誘引した執行責任を負うための理事等からの寄附」が41百万円入っているので実力ベースでは18百万円となる。なお、後で述べるが、2013年度の予算では経常利益を38百万円と見込んでいる。
 廃止事業を除いた事業の収益・経常費用を更に細かく見てみると以下となる。
<収益>(単位:百万円)

出版事業 130
受取会費 121
情報事業  65
受取寄付金  47
広告宣伝収益  18
その他  40
  計   421

<経常費用>

人件費  84
印刷製本費  74
情報事業費  61
その他 139
  計   358

 先ほど「廃止事業を除いた」と述べたが、上記金額には「情報事業」も入っている。これは「正味財産増減計算書内訳書」に情報事業の収益・費用の全額が「廃止」に入らず、一部は出版事業や受取会費と同じ区分となっているからである。
 その情報事業だが、単純に見ると収益が65百万円で費用が61百万円となって差引4百万の黒字に見えるが、実際は人件費相当額や諸経費の相当額が追加されるのでやはり赤字である。
(2)貸借対照表
 資産は前年度1,188百万円から1,102百万円と86百万円減少し、「一回り身の丈を小さくした」、つまり資産の圧縮は行ったと言えるが、資産の内訳と減少の内訳は以下となる。
<資産>(単位:百万円)

現預金   34
売掛金   68
棚卸資産   70
土地  549
建物  354
その他   27
  計   1102

<減少内訳>

売掛金 △16
棚卸資産 △22
積立預金 △37
その他 △11
  計   △86

 資産の8割以上を固定資産が占めているのでもし評価減(減損損失)が発生したら大変な事になるというのが第一印象。土地は479平方メートルで簿価549百万円であり、国土交通省による近隣(中央区新川1丁目208番4)の地価公示価格は682,000円/平方メートルなのでこの土地を時価に換算すると約327百万円となるが、公益法人会計で時価換算して評価替えするのは時価が簿価より50%以上下落するほどのインパクトがある時ぐらいなので、これぐらいの時価なら今の簿価のままで大丈夫であろう。また棚卸資産(図書館関係出版物)が22百万減って現在の残高が70百万であるが、出版事業の年間売上高は130百万円であり、仮にこの金額が全て出版物販売によるものだとしたら在庫としては約6カ月分あることになるが(130÷12=11、70÷11=6.4)、図書館関係出版物の在庫の適正数量についてはわからない。誰か教えてください。
 負債も前年度441百万円から348百万円と92百万円減少、負債の内訳と減少の内訳は以下となる。
<負債>(単位:百万円)

買掛金  77
前受会費  17
長期借入金 179
その他  75
  計   348

<減少内訳>

買掛金  24
短期借入金 △80
前受会費  17
預り金 △59
長期借入金 △18
その他  23
  計   △93

 資産の側で売掛金が16百万円減っているのに負債の買掛金が24百万円増えているのが疑問だが、一方で預り金が59百万円減少しその他で23百万円増加しているのでこれらの科目間で振り替え処理があったと考えられる。短期借入金が80百万円減って残高は0となっており、これは資産の積立預金取り崩し37百万円・理事等からの責任寄附41百万円を財源として返済したと考えられる。
 解せないのは長期借入金18百万円減少と前受会費による増加17百万円で、これによってせっかくの18百万円返済が相殺されてしまっている。理事会議事録によれば、「幸い使う事なく、2013年に繰り越す事ができた」とのことだが、ではもらう必要があったのだろうか。
(3)2013−2015年度予算

   2012 2013 2014 2015
事業収入  226  173  147  147
会費収入  121  118  118  118
広告宣伝収入  18  15  14  13
寄附金収入  47  14   5   5
その他   9   5   5   5
 収益 計   421  325  289  288
人件費  △84  △92  △81  △81
印刷製本費  △74  △66  △70  △70
旅費交通費  △11  △11  △13  △16
通信運搬費  △19  △16  △19  △19
顧問料   △6  △15   △2   △2
情報事業費  △61  △27  −  −
その他 △103  △59  △63  △64
 事業費 計  △358 △286 △248 △252
 収支    63   38   41   35
長期借入金返済    △36  △32  △24
       2    9   11

 左端の2012年度分は廃止事業は除いた金額である。また「事業収入」のうち2013年度は「情報事業」が入っている。そのため2014年度以降の収入額147百万円からがイコール「出版事業」による収入であり、今後の収入規模である。2012年度が130百万円だから17百万円増加を見込んでいるが、まあこのぐらいは努力目標として妥当であろう。反対に「会費収入」を2012年度121百万円から2013年度以降118百万円と微減にしているのは弱気の表れで、定期総会議事録によれば「安定的な収入」として「会費、出版、研修、賃室」とはっきり言っているのだからこちらも努力目標を掲げたらどうか。
 一方の事業費であるが、印刷製本費が今年度並みで推移するには仕方がないとしても、「旅費交通費」や「通信運搬費」が今年度並みというのが少し疑問ではある。コストを削減する格好の材料であり、「毎年10%ずつ削減」ぐらい掲げてもいいのではないかな。
 しかし2013年度は収支が38百万円で借入金返済が36百万円とあるが…大丈夫なのだろうか。2百万円なんか簡単にひっくり返るだろうに。
(4)その他
 理事会他の議事録を読むと「将来の収入に不安要素があるが」と質問されて「資金繰りを着実にやって乗り切っていきたい」、「会費収入は大丈夫なのか、会費保留の動きも出ているが」と質問されて「具体的な拡充計画が今あるわけではない」と答えるなどちぐはぐな点もあったが、この決算・予算を見る限り「財政再建のため、公益法人認定のため、茨の道が続くが、何とか乗り切っていきたい」と切り詰めるところは切り詰めて何とかやっていこうとする協会側の姿勢は窺える。と言っても「特定財産の取り崩し」「理事からの責任寄附」といった奥の手はもう使えないわけで、2013年度以降どうなるか、しばらく様子見というところでしょう。今度、2013年度決算が出た時に、今回の予算と比べてまたああだこうだと言うことにしよう。