ジョークなしでは生きられない/阿刀田高[新潮社:新潮文庫]

 その通り、ジョークなしで生きられますまい。勤勉で真面目に、波風立たせることなく冒険することなく小さく狭くなって生きていても死ぬのが早まるだけであります。どうせ死ぬのなら、軽いジョーク重いジョーク、深いジョーク浅いジョーク、明るいジョーク暗いジョーク、真面目なジョークふざけたジョーク、エッチなジョークスケベなジョーク、身も蓋もないジョーク偽善だらけのジョーク、言葉遊びのジョーク意味不明のジョーク、男のジョーク女のジョーク、若者のジョーク老人のジョーク、面白いジョークつまらないジョーク、等、等を定期的に補給して、軽やかに生きたいものです。というわけでジョークを紹介して今日はさようなら(なお、一つだけ、俺が作ったものがあります)。

   

 新婚旅行から帰ったマリーが目を泣き腫らしている。心配顔の母親に婿殿が説明。「マリーは処女じゃなかったんです。いきなり僕の上に乗ってやり始めるんですから」。びっくり仰天、母親が娘に詰問すれば、「だって、ママはいつもそうしてたじゃないの」。

    

 パリの下町に住むおばあさん。富クジの当たり番号は何番だろう。日頃信心している聖母マリアさまに願をかけ、うかがいを立ててみた。すると願あけの夜、マリアさまが夢枕に現れ、パッとお尻をまくれば、左のヒップに1、右のヒップに7。さては17番が当たりクジかと思ってそれを買ったところ、これがてんではずれクジ。おばあさんが寺院の司祭に苦情を言えば、司祭が尋ね返して、「して、当たりクジは何番だったかな」「107番でした」「なるほど。マリアさまはいつも正しい。1と7の間に0があったのじゃ」。

   

 既婚者のサム氏と独身者のポール氏。二人は久々に飲んで騒いで、お開きとなってお会計。奥さんに財布を握られ、わずかなお小遣いしか支給されないサムは「独身貴族である君が奢るべきだ」と主張。そこでポールが「俺が払っても君が払っても結局は一緒だぜ」「どうして?」「だって先週、君の奥さんにお金を払ったんだからな」。

    

 初夜が明ける頃、新郎が不満そうに新婦に言った。「君、まだ昔の恋人が忘れられないんだな」「あら、どうして?」「さっき、君がトイレに立った時、僕はちゃんと見たんだぞ。君はベッドの柱に恋人の名前を書いて、ため息をついていたじゃないか」「恋人の名前?」「そうだ。正一君って言うんだろう、その人は」「あら、いやだ。正一は名前じゃないわ。回数のことよ」。

   

 (世界で一番ケチな民族であると言われている)スコットランド人が宝くじを二枚買ったところ、その一枚が特等に当たり、千ポンドの賞金をせしめた。大喜びするかと思いきや、とんと浮かない顔つき。「嬉しくないのですか?」と尋ねれば、「だって、これを見てくれ」と、もう一枚の宝くじを差し出して、「どうして、この一枚を買ってしまったのか。それを思うと、くやしくて、くやしくて」。

   

 アランが会社に出勤すると皆が何かヒソヒソと話していた。「おい、どうした?」「君、知らないのかい。昨日の夜、ジャンが家に帰ったら、奥さんがヨソの男とベッドで抱きあっていたんだ。頭にきたジャンがピストルを取り出して、その男の頭を撃ったんだ」「へえー」「叫び声を聞いて、俺が駆け付けたんだが、あんなに恐ろしい場面、見たことがないよ」。だが、アランは首を振って、「いや、世の中にはもっと恐ろしいことがあるよ」「そうかな」「うん。昨夜だからよかったんだ。一昨夜だったら、俺が殺されていた」。

    

 夫人が教会の懺悔室で告白した。「神父さま。私は毎朝、自分の姿を鏡に映して、その美しさに惚れ惚れとしてしまいます。これはやはり罪悪なのでしょうか」。神父は厳かに答えた。「マダム、ご心配なく、罪悪ではございません。ただの誤解です」。

   

 女性社員が叫んだ。「男性にはわからないことです。でも本当に辛いんです。苛々して仕事も手につきません。月に一日か二日、家で休めるだけの生理休暇を下さい」。男性社員も叫んだ。「女性にはわからないことです。でも本当に辛いんです。苛々して仕事も手につきません。一月に一万か二万、トルコ風呂で休めるだけの生理手当を下さい」。

    

 ジャンヌとマリイは親友同士。既に結婚しているマリイの家にやってきて、ジャンヌは苦しい恋の事情を打ち明けた。「彼は心から私のことを愛しているの。結婚してくれなきゃ死んでしまうって…」「あなたも愛しているんでしょ?」「もちろんよ」「じゃあ、問題ないじゃない。承諾してあげたら」「でも、彼には奥さんがいるの」「奥さんよりあなたの方が好きなんでしょ」「それは間違いないの。奥さんよりずっと、ずっと愛されているわ。離婚して私と正式に結婚したいんですって」「それなら思い切って進むべきよ。この世に純粋な愛ほど尊いものはないわ」「ええ。私もそう思うけど…何だかあなたに悪くって」。

   

 夕食後のひととき、夫婦がテレビを眺めていた。奥さまがため息をついて、「テレビ番組って、どうしてこうつまらないものしかないのかしら」「うん。タダで見られるものにろくなものはないさ」「それより、あなた、もう寝ましょうよ」と、奥さまが意味ありげな様子で誘いかけると、ご主人は憮然として、「しかし、タダでできるものにろくなものはないわい」。

    

 ライン川の川岸に学者風の男がやってきて、渡し守の少年にむこう岸まで舟を漕いでくれるように頼んだ。舟の中で男は、みすぼらしい少年をつくづく眺めて、「君は字が読めるかい」「読めない」「おやおや。君は一生の4分の一を無駄にしてしまったね。じゃあ計算はできるかい」「できない」「これは困った。君は一生の半分を無駄に使ったと同じことだ」。舟が川の中ほどまで来たとき大きな流木が舟底に当たった。少年は学者風の男を見上げて、「あなたは泳ぎができますか」「いや、できない」。少年は首をすくめ、上着を脱ぎながら、「ああ、あなたは一生を全部無駄にしてしまった」。少年が川に飛び込むと舟底の水がみるみる溢れてきた。

    

・ウミセンヤマセン(海千山千)…職場のハイ・ミスのこと。生みもせん、辞めもせん。

・タケネノハナ(高嶺の花)…銀座のホステムのこと。整形美女が多く、正しくは「高値の花」であろう。

・ドウビョウ(同病)…「俺、パイプカットの手術をしたんだ」「あら。あたしも不妊手術で入院してたのよ」「へえー。じゃあ、なぐさめあおうか」。

・メンクイ(面食い)…美人と付き合うと、とかく金がかかる。それで独りの時は、いつも即席メンを食っている男のこと。

・ラタイガ(裸体画)…「ルノアールは裸体画のモデルとよく寝たらしいね」「さあ、ルノアールのことはよく知らないけど、僕はいつもそうするよ」。