本のリストの本/南陀桜綾繁・書物蔵・鈴木潤・林哲夫・正木香子[創元社]

本のリストの本

本のリストの本

 

  生活や仕事で必要となる以上の本を読む人、いわゆる「度を越した読書家」「本の虫」「書痴」等々、言い方は色々あるが、そういう種類の人が世の中には一定数いるわけだが、そういう人達が本を読むスピードがべらぼうに早いわけではない。ごく一部の特殊な人だけが次から次へと本を読む事ができ内容を頭にインプットできるのであって、それ以外の大部分の人達にそんな能力はなく、且つ働いているのだから、一日で一冊か二冊読むのが関の山である。しかしそういう人に限って次から次へと本を買う。読んでいない本(積読本)が家にたんまりとあるのに性懲りもなく本屋や古本屋に行って「面白そうだ」「何となく気になる」「昔買ったかもしれんが家のどこにあるかわからんのでとりあえず買っとけ」等々の理由で買うのである。

 しかし本屋古本屋で買うのは所詮は視界に入った範囲のものであって、視界に入らなかったもの、或いは売り切れ・絶版になったもので「面白そうだ」「何となく気になる」「昔買ったかもしれんが家のどこにあるかわからんのでとりあえず買った方がいい」本があるのかもしれない。そのため「度を越した読書家」「本の虫」「書痴」は新聞・雑誌に紹介されている本をチェックしたりメモしたりするが、それらは新刊に限定されているから片手落ちである。新刊ではない、場合によっては絶版になっているもので、しかし「面白そうだ」「何となく気になる」「昔買ったかもしれんが家のどこにあるかわからんのでとりあえず買った方がいい」本が世の中にはあるのである。「度を越した読書家」「本の虫」「書痴」はなぜかそう信じている。そのため「好きな作家の著作を全て読む」ためにその作家の全著作リストを見るのであり、「好きなジャンルや分野、興味のあるジャンルや分野の本を全て読む」ために関連する書誌・年鑑等を見るのである。

 そのようにして「度を越した読書家」「本の虫」「書痴」は、「本のリスト」にどことなく愛着を覚え、次第に色んなリストを見たい気もしてくる。「好きな作家の愛読書」や「落ち込んだ時に読めば気分が晴れる本」といったオーソドックスなリストもいいが、もっとニッチでマイナーなリスト、或いはこれまでにない切り口のリストも見てみたい。そうしてまだ出会っていない、しかし「面白そうだ」「何となく気になる」「昔買ったかもしれんが家のどこにあるかわからんのでまだ出会ってないのでとりあえず買った方がいい」本がある事を知れば、「度を越した読書家」「本の虫」「書痴」は喜ぶのである。

 というわけで前置きが長くなったが本書は「度を越した読書家」「本の虫」「書痴」にとっては実に楽しい本であった。「名曲喫茶に積まれていた本のリスト」「新潟県を舞台にした文学作品のリスト」「本好きの子供、そして大人も一緒に読みたい本のリスト」「(戦時中に)国が価格設定した古本のリスト」「戦前の新聞雑誌全てのリスト」等によって、面白そうだ、何となく気になる、或いはそういうテーマだから出会う事ができた本が載せられており、ワクワク感がたまらない。またそのリストの背景にその人の人生の一部分が投影されている場合もあり(「ランボーがアフリカで母親にせがんだ本のリスト」「戦没学生達の手記に残された本のリスト」等)、本と人が長い年月をかけて築いてきた信頼関係の強さを感じる事ができよう。本は所詮、本でしかないのに、その選択の前提、手法、或いは思い入れによって、リストに載った時に魅力的に輝いてしまうのである。何とまあ不思議な事だが、それが本と人がここまで共存共栄できた理由なのだ。「〇〇に関する本のリスト」…いい響きですねえ。

   

 というわけで俺も「私を作った十冊の本たち(リスト)」を作ってみました。高校・大学時代以来繰り返し読んでいる本で、①②が政治、③~⑤が筒井康隆及びSF、⑥~⑨がラブコメ、⑩がその他です。

①「田中角栄VS竹下登鈴木棟一講談社講談社+α文庫)

②「小説 吉田学校」「小説 永田町の争闘」戸川猪佐武角川書店(角川文庫)

③「脱走と追跡のサンバ筒井康隆角川書店(角川文庫)

④「虚航船団」筒井康隆、新潮社

⑤「SFアドベンチャー徳間書店

⑥「ふたりエッチ」克・亜紀、白泉社(JETS COMICS)

⑦「聖凡人伝」松本零士小学館小学館文庫)

「みゆき」あだち充小学館(少年ビックコミックス)

⑨「ストップ!ひばりくん!!」江口寿史双葉社双葉文庫

⑩「三四郎夏目漱石角川書店((角川文庫)