図書館雑誌 2013年4月号〜7月号[日本図書館協会]


 以前書いた事があるが、高校生の頃の俺は図書館で働きたかった。なぜかと言うと本が好きだから、ではなく、一日中黙々と本の整理だけして誰とも触れ合わず単調で静かな毎日を送れると思ったからだが、大学に入って司書課程の授業を受けてそんな考えは子供の甘っちょろい考えであることを思い知らされた。教壇に立った「図書館学」の専門家達は口々に「図書館は情報のサービスセンターとして、積極的に市民に奉仕する」「これからの図書館はただ本の貸出をすればいいのではない。図書館の機能を市民にアピールするのだ」と口角泡を飛ばし檄を飛ばしたので、内向的で口下手で閉じた世界にこもることを何よりも得意とする俺に司書は無理だと早々にあきらめ、更に「図書館司書」などという職業はそもそもなくて、例えば市立図書館で働くためには市の職員として採用されなければならず市の職員として採用されたとしても希望通り図書館に配属になるわけではないし配属されても数年で異動してしまうという過酷な(残酷な)現実を知って司書について興味自体がなくなってしまった。とは言え司書資格は一生に一度の事なので取りはしたが、まあ俺は一利用者として図書館を傍観するだけなんやろうなあ…と大学卒業証書と同時にもらった「司書の資格を有する」証明書を見ながらしみじみと考えた。まだ22歳の頃だ。
 それから長い長い時間が経って俺も30歳となって、この間に図書館を利用しながら生きてきたが、図書館が「情報のサービスセンター」となって「貸出優先主義から情報提供主義へ」脱皮を遂げたとはどうも思えない。相変わらず図書館というのは本がたくさんあるところで、本棚から離れたところに閲覧席があってそこで本を読んだり勉強したりする…のが基本スタイルで、市民が「情報を求めて」図書館に殺到する事はないし、「憩いの場」として朗らかに談笑している姿も見た事がない。むしろカウンターにいる人達の名札には会社の名前が書かれ(指定管理者の人達)、閲覧室で居眠りをしていると警備員が注意しに来たりしてギスギスした雰囲気すら醸し出している。一体どうなっとるんだと思った俺はついに会費を払って日本図書館協会に入会する事にした。
 というわけで前置きが長くなったが(いつもの事か)定点観測として向こう1年はこの雑誌についてレポートしていくことにするが、4月号でいきなり「レファレンスの有用性やその効果について、行政や図書館を利用しない人達に、どのように理解してもらうかが大きな課題」と書いてあってがっかりした。そんな事は10年以上前、俺が司書資格を取ろうとしていた頃から言われとった事ではないか。あれから10年以上が経ったというのにまだその課題を克服しておらんかったのか…と呆れ、「公益認定延伸」の文字の意味がよくわからずに更に困惑する。こういう業界団体が公益に認定されなかったら何なのだ、淡々と書かれてはいるがこれはえらい事ではないかと思っていると次の5月号で「文部科学省による本法人運営の改善通知」の存在について知ってこら大変や、つまり面白くなってきたぞと読み進めると「内部管理体制が極めて脆弱であること、不適切且つ必要性の乏しい取引によって債務が膨らみ、数年度に渡り資金繰りに窮していること」「(これらに対して)十分な改善を図ろうとされなかったことは、誠に遺憾であります」等と書いてまるで週刊誌で槍玉にあげられる独立行政法人のようであったが、いやむしろそうして槍玉でも何でもいいからマスコミに取り上げられる事が日本図書館協会知名度アップにつながるのでありつまりそういう作戦かもしれぬとしばらく週刊誌に目を通してみたが、特に取り上げられてはいないようだった。何をしとるか、知名度アップの千載一遇のチャンスではないか。
 6月号では「(協会は)財政再建の途上」「委員交通費の支出停止や職員人件費の大幅カット、理事の責任寄付4,200万円等、あらゆる制度・事業の抜本的見直し中」と書かれ、7月号に至っては「日本図書館協会の新たなスタート」として特集が組まれたが、半ばヤケクソのように「問題を先送りしてきた」「運営の危機的状況を先送りして見えなくさせるため、短期借入金へ依存し、自転車操業を繰り返してきた実態」と告白したものの、結論は「ひとまわり身の丈を小さくした新生日本図書館協会がスタートする」という情けないものであった。どこに「身の丈を小さくする」などという業界団体・圧力団体があるのか、「図書館が国民生活の発展に寄与するため、より一層我々は頑張って予算をぶんどって(税金を多くもらって、税金を免除してもらって)」と言うのが普通の業界団体だろう。もちろん財政再建コンプライアンスや業務の高度化はやらなければならないが、そんな事は赤字だろうが黒字だろうが法人である以上絶対にやらなければいかんのだ。業界団体が身の丈を小さくするなどと後ろ向きな事を言ってどうする、どの業界団体だって税金から1円でも多く毟り取ろう(できるだけ税を免除してもらおう)とない知恵を絞って頑張っておるのではないか。そんな事で「図書館の設置は中学校区1館」(文科省による「図書館の望ましい基準」に対する日本図書館協会の意見書)の実現や「(視覚障害者のための)図書資料の製作をボランティアに依存している児童サービス」の現状の改善、そして「図書館員の7割が非正規雇用職員が占めている」という日本の図書館の地位が低いことの象徴のような大問題を解決できるのかね。「ひとまわり身の丈を小さくする」という釈明の姿勢のなかに、ただ身を縮めてしばらくじっとしていれば嵐は過ぎ去るだろうという事なかれ主義的な姿勢が見え隠れする。業界団体は常にファイティングスピリットを忘れてはならないはずだ。
 というのが4〜7月号を読んでの俺の感想ですが、もちろん日本有数の図書館業界誌なのだから(違いましたか?)真面目に面白い記事も多数存在しておりました。日本全国の開館・改修したばかりの公立・私立・大学・専門等の図書館を紹介する「新館紹介」、図書館のみならず文化センターや研究所でのレファレンス事例も紹介した「れふぁれんす三題噺」、小図書館・地方の資産家による私設図書館・動物園の図書室等を取り上げる「小規模図書館奮戦記」、等、等を読むと、ああ世の中というのは広いし奥深いなあ、俺は図書館の事を何一つわかってなかっんやなあと大変勉強になりました。会費9,000円払った事だし、このレポートは8月号以降も続きますよ。