ダブル党首選の意味

 9月の民主・自民両党のダブル党首選挙をマスコミは「国民不在の政局闘争」と冷ややかに評したが、実態はそんな単純なものではない。両党首選を観察すれば今の両党の問題と今後の方向性が鮮やかに浮かび上がってくる。
 まず民主党の方であるが、戦う前から野田首相が再選するのはわかっていたので投票結果等は大して問題ではない。注目すべきは民主党の有志が細野環境相に代表選出馬を要請するとの報道が出て、その後すぐに細野本人が不出馬を表明したことである。これが何を意味するかと言えば「解散総選挙の先送り」と「輿石幹事長の留任」である。
 もし細野が代表選挙に出馬すれば来たる解散総選挙を乗り切りたい民主党議員は雪崩を打って細野に流れるはずで、野田は十中八九負けることになる。逆に解散総選挙がないとわかれば何も将来有望(かどうか俺はよくわからんが、それはともかく)な細野が出る必要もない。つまり野田が解散総選挙を年内に行う気であれば細野は出馬せざるを得なくなり結果として野田は負けることになる。逆に解散総選挙を先送りするのであれば細野は不出馬となって野田の再選が確定するのである。「細野に出馬を要請」報道は「もし解散総選挙を年内に実施するのであれば野田を引きずり下ろす」というメッセージであった。そして細野が不出馬を表明したということは野田側から細野側に「解散総選挙の先送り」が伝えられたことを意味し、それは輿石幹事長の留任につながる。民主党内を「解散総選挙の先送り」で固めるためには輿石幹事長以外考えられないからである。
 一方の自民党総裁選で最も注目すべきは新総裁となった安倍元首相が党員票では2位だったことで、過去の自民党総裁選で党員票2位だった候補が総裁になったことはない。2位以下は辞退するのが普通だからで、それをやらなかったことは結局自民党が党員(つまり地方)を尊重せず、(安倍が惨敗させた)5年前の参議院選挙から何も変わっていないことを意味する。さすがに党員票1位の石破氏を幹事長に起用せざるを得なかったようだが、石破とて谷垣執行部の一員として民主党解散総選挙に追い込めなかった人物の一人であり、何も変わっていないのである。また安倍が「民主党との対決姿勢」を強調しているところを見ると谷垣前総裁と同じく(つまり変わらず)泥沼にはまり込むような気がする。
 そもそも「解散総選挙に追い込む」と言っても自民・公明を合わせた議席では過半数に遠く及ばないのであり、不信任案を可決させるには小沢氏率いる「国民の生活が第一」等の野党に協力を仰がなければならない。昨年の菅内閣への不信任案も小沢が賛成するとの期待にすがるしかなかった。今回も同じく自民・公明以外の野党を抱き込む必要があるが、一方で消費税の3党合意がある。3党合意を維持しながら、3党合意に反対する野党と協力することはできない。谷垣はその矛盾によって結局自滅したが、安倍総裁以下の新執行部がそれをどこまで理解しているかである。
 また今回の内閣改造が「論功賞内閣」で「反野田陣営からの起用はゼロ」なので、民主党が分裂するかもしれないとの期待を自民党は抱いているようであるが、野田と小沢の対立に手を突っ込んだ谷垣は「3党合意」と「近いうち解散」によって最後は引き裂かれたのであり、野田が民主党を「分裂含み」に見せることによって自民党は引き込まれてきたのであって、今回の内閣改造にもその芽が見えよう。しかし議席数が圧倒的に足りない自民党は他の野党のみならず民主党からの離党予備軍に頼るしか方法がなく、そこで「3党合意」をどうするか、このまま民主党と協力するのかという問題が浮上する。更に赤字国債法案や選挙制度改革法案が取引のカードとして複雑に加わる。特に赤字国債法案が成立しなければ早晩政府の財布は空っぽになり、そんな時にお互いに責任を押しつけあうわけにもいかない。ダブル党首選はこの複雑な政局の始まりでしかないのである。