決められない政治

 消費税増税が成立して「これから『決める』政治が始まる」と言われたが、それから一ヶ月も経たずして参議院では首相問責決議が可決され、赤字国債法案や「一票の格差」是正問題については「決められない」ことがはっきりした。決める政治とは所詮「将来の消費税だけを決める政治」で、今年度の予算の執行に必要な手続きは後回しにされ、司法が日本国民の政治的権利が危ういと訴えても無視される。つまり誰も「国民の生活が第一」とは考えていないことがはっきりしたが、そこに小沢グループ民主党離党から始まり来年の参議院選挙まで続くこの政局の狙いがある。
 今回の消費税増税が「民主党自民党の政策を丸呑みした」と言われて久しいが、そうではなく民主党自民党を引き込んだというのが俺の見方である。もともと野田政権は参議院過半数を有していないのだから、自民党公明党と協力しない限り問責をやられたら一発アウトであった。どうにかして協力を引き出すしか生き延びる道はなく、そのために消費税増税野田首相の就任早々から持ち出されてきたのである。しかし自公にしてみればいつでも現政権を追い込めるのであり、国民から反発される消費税に協力する必要はなかった。ところが民主党内で消費税増税に賛成と反対で壮絶な戦いが行われ、特に強硬に反対に回ったのが小沢グループであることから自公は野田側についた。これで小沢の息の根を止めることができるかもしれないと考えたからである。
 かくして自公は民主党内の争いに引きずりこまれ消費税増税は成立したが、それから1ヶ月も経たないうちに今度は問責決議を可決して「対決モード」に入った。その理由を自民党は「(近いうちに解散すると言いながら)解散しなかったから」「信頼関係が崩れたから」と言うが、国民には何がなんだかわからない。むしろ「消費税だけを決めてそれ以外は決めない」ことで自民党が「増税の党」であることが強調される。更には赤字国債の問題も一票の格差の問題も棚上げして民主・自民ともに党首選へと関心が移り、当たり前の話だが民主党代表選にしても自民党総裁選にしても党内の話であって国民には関係がない。しかし両党ともそれに気付かないから国民はソッポを向き始めている。
 もしどちらか或いは両方の党首が代わったとしても、総選挙が行われ自公両党が過半数を取ったとしても、参議院では自公合わせても過半数には遠く及ばないのだから「決められない政治」は続くことになる。その現状を打破するために小沢は民主党を離党して機動力のある小政党を組織した。民自公3党体制(=消費税だけを決める政治)を壊すためにである。時同じくして大阪維新の会が政党化に向けて動き出し、安倍元首相に誘いをかけて自民党を揺さぶろうとしている。最も安倍が自民党を離党するのはかなり非現実的であるが、大阪維新の会との関係を強調して自民党総裁選を有利に運ぶつもりのようである。しかしそれは自民党最大派閥・町村派の分裂を誘い、自民党の分裂は民自公3党体制そのものを分裂させる危険性を孕んでいるのである。
 いずれにせよ「決められない政治」のままでいいはずがないが、民主・自民の党首選の動きを見ているとこれで「決める政治」が始まるとは到底思えない。何度も言っているように権力闘争に勝ち抜いた者だけが弱肉強食の政治の世界で生き残ることができるのであり、今の両党の争いを見ていると学級会レベルで、だから中国や韓国が牙を剥いて領土を横取りしようしても何もできないのである。アメリカを頼りにしてとにかく波風を立てないようにしていればいいという冷戦思考から抜け出せない官僚に頼るだけだからこうなるのだ。実にどうしようもないが、1年以内に総選挙か同日選挙がある。そこでは消費税が争点になり、官僚支配の体制と戦い続けてきた小沢にとっては最後の戦いになり、国民は日本の行方を選択しなければならない。それがこの政局の狙いである。