もうあきらめよう

 俺はただ政局を楽しみたいだけなのだが、最近は柄にもなく「〜でなければならない」と偉そうな事ばかり言っているようなのでこれからしばらくは少し距離を置くことにしよう。というのも「2月25日に野田首相と谷垣自民党総裁が極秘会談」のニュースでマスコミが馬鹿騒ぎしているのが心底馬鹿らしくなったからで、何度も言っているようにリークされたということは「リークされてもいい」からリークされたのである。権力者が本当の大勝負をかけて何かをしたなら、それがいとも簡単に外に漏れるはずがない。「リーク」には、必ずリークによって一定の効果を狙う権力側の仕掛けが施されているのである。政治は情報戦であり、その「武器」である情報に踊らされてはならない(また「〜ならない」と言ってしまった)。
 会談の詳細はわかっていないが、「野田が自民党の要求する解散総選挙を受け入れ、代わりに自民党が消費税増税法案を受け入れる」という内容であったらしい。つまり二大政党のトップが「消費税増税法案成立−解散総選挙」で既に合意しているから無駄な抵抗はやめよというのがリークする側の狙いである。そしてこのリークによって「消費税増税解散総選挙」の道が開かれたかといえば否であろう。反発だけが大きくなって法案成立のハードルは上がったし、自民党に至ってはこれから国会審議でいかに民主党と対決姿勢を打ち出しても裏で通じているのではという疑念が生まれることになった。更に言えば消費税増税に最も強く反対しているのは小沢グループであるから自民党の立ち位置は不明確なものとなり、それは9月に任期が切れる谷垣の地位を脅かすものとなる。このリークによって漁夫の利を得たのは民主・自民の反執行部派であり、そんな事もわからないマスコミはもう信用しない方がよい。
 また解散が明日にでも行われるようなニュースが連日続いているが、解散には大義名分と戦略が必要となる。「解散しない」のであれば大義名分も戦略も必要なくじっとしていればよいが、建前とは言え国権の最高機関である立法府の人間の首を一斉に切る行為に大義名分がなければ途端に引きずり下ろされよう(「菅おろし」や「麻生おろし」を思い出せばよい)。特に今回は「大震災・原発事故による非常時」と「二大政党のトップが共に消費税増税に賛成」なのであるから、選挙をしても争点はほとんどない。大体、増税を主張して選挙を戦うことができる人間が何人いるだろうか。民主党の1回生議員だけが厳しいのではない。先週も言ったように「金がないから増税しろ」と言うのはほとんど脅迫で、それでは国民は納得しない。官僚にとって消費税を上げることはなるほど正義であるが、民主主義は「正義を掲げる聖人が無知な大衆を導く」ような都合のいいものではない。民主主義は「最悪の制度」である。消費税を上げることによって国家国民の生命と財産が守られると無知な国民が納得することが必要で、それが2009年マニフェストであった(「行政の無駄を徹底的に削減した後に、消費税増税の審判を仰ぐ」)。そのマニフェストを野田は放棄しようとしているのである。
 前原政調会長が「言うだけ番長」と呼ばれて激怒しているらしいが、前原に限らず今の政府・民主党幹部そして自民党幹部は皆「言うだけ」である。首相であれ与党幹部であれ、汚れ役を引き受けて結果を残す人間はいなくなり、政界全体を見渡してプレイヤーとマスコミを騒がせて適当にガス抜きをさせながら最後にまとめる人間もいなくなった。そこで「そういう人間がいなければならない」と言うのはもうあきらめよう。戦後の長い期間をかけてそのような人間(田中角栄竹下登小沢一郎)を排除してきた先にあるのが今の日本政治の姿である。