コミックマーケット2011夏

 しかしながら行かないのかというとそうではない。「コミケに行くのは気が進まない」が、それでも「コミケに行かないのに東京にいる」ことに何となく罪悪感を感じたから去年の夏は「裏京都毒探偵」を行ったわけで、やはり行った方がよいわけである。しかし俺のような「マニアック、排他的、濃密、エリート」といった90年代後半までのオタクの雰囲気をいまだに求める時代遅れオタクがコミケに行って、そのような時代遅れオタクな考え方はまさに時代遅れだと知らされるのも嫌である。先月コミケカタログは買ったが、行く気はあまり起こらなかった。しかし2年前コミケに行った時の記事を読んで、これを書いた時の俺は26歳であり今は28歳であり、今年行かなければ来年は29歳になるという当たり前のことに気が付いた。常に体調の良くない俺があの真夏の炎天下の長蛇の列に付き合うことができるのはこの年齢が最後かもしれない。いや来年は死んでいるかもしれないということでまず昨日行くことにした。
 その昨日の一部始終についてはツイッターでも現地中継という形で諸君に発信したが、お目当ての同人誌を3〜4冊買うぐらいの軽い気持ちで参加したのに10時頃から50分以上も炎天下で待たされ心底うんざりしたもののいざその目的のサークル(LAS系の同人誌)のところに行ってみると今回の新刊だけでなく去年冬や去年夏の同人誌も売っていたのでそれらも買うことにして、ほほうこれは得をしたと気を良くして他のサークルのテーブルも回って、もちろんほとんどはアマチュアの自己満足作品でしかないが面白そうなエロゲーもあったので3枚ほど買うことにした。その後もしばらく回って時刻が12時となる頃に帰って、家に戻って戦利品を取り出してああ結構買ったなあ、でも何かおかしいなあと思いながら布団を干して掃除機をかけて、あれ俺全然疲れてへんがな、列に並んどった時は気分が悪くなったぐらいやのになあ…と思いながらまだ時間あるので家を出て図書館へ行くことにした。どうやら罪悪感がなくなって元気になったらしかった。

  
 そして今日であるが、寝る前に水分を十分取ってクーラーをガンガンにきかせて扇風機の風をひたすら足に向けて寝て、8時50分頃に起きて9時1分に外に出てビッグサイトへ自転車で向かった。昨日使った帽子はまだ昨日の汗の臭いが残っていてプーンとするが鼻がひん曲がるほどではないので構わず被る。今日は…昨日よりも少し暑いか。まあまだ9時だから昼どうなるかわからん。そんなに時間もかからずにゆりかもめ線路の下に到達、ここまで来ればもう着いたようなものだ。


 有明駅付近に自転車を置いてビックサイトへ向かって歩けば蟻のように人が密集して歩いている。はて俺の経験によれば3日目はそんなに混まないはずだが、ああそうか前回は確か11時過ぎとかに家を出たからか。今回は前回と違って買いたいものが結構あるので早く来たのだ。とは言え昨日みたいに炎天下で50分も待たされはせんだろうと簡易トイレで小便をして(鼻がひん曲がりそうな異臭が漂っていた)列の最後尾へ向かって歩く。


 こりゃ…待たされるわということで仕方なく列に並んで本を読む。白い頁に太陽の光がまともにあたってかなり眩しいが昨日も同じようにこの直射日光の下で本を読んだので今日はいささか慣れている。本の内容はヒトラーが首相に就任する1933年までのドイツの政治状況を分析したというもので、ヒトラー政権誕生を許してしまった社会民主党の実態・思想について詳細な分析が加えられてあった。「ファシズム政権を阻止できなかった社会民主党を呪縛した思考様式の一つに、『進化論的進歩信仰』がある。『歴史は必ず進歩をもたらし』、『理性は必ず勝利する』という信仰が奈落への予知能力を麻痺させる」…。夢中で読んでいたら30分以上が過ぎて、気が付けば列が動き出していた。喉が渇いたので鞄から魔法瓶を取り出して水を飲むがあまりの暑さにやられたのかぬるくなっていた。
 案内の人が「もっと早く歩いて歩いて、前の人との間が空いてますよ、歩いて歩いて」と言うので早足で歩くも前の人との距離は広がる一方であったがやがて会場に入り、すし詰め状態が待っていた。しかし炎天下でないだけマシだ。そろそろ耐え難い臭いがしてきた帽子を取って目的のサークルへ行くことにする。



 諸君もよくわかっているように俺はいわゆる大手サークルには興味がないので「A」から順に行く必要はないが、まあまだ時間に余裕があるから「A」から順に回ろうと思うも早速長蛇の列が目に入ったのでそこまでやってられんわいと「C」あたりから回ることにする。とは言え事前に調べたサークルが全ていいというわけではない。一応カタログと、そのサークルのホームページをできるだけ見るようにしたが、やはり俺が求める「男女が穏やかにユーモラスに恋や愛を育む」ものというのは少数派なのだからどうなるかわからない。しかし事前にノーチェックだったのにおや、と目に入るものもある。そしてコミケに参加する度に思うことだが普通の本屋ではないのだから「どうぞ読んで下さい」と言われてもそんなに大っぴらに読めるものではない。読んだところでこりゃいかん買えんと戻す時の俺と売り手の間の一瞬流れる気まずさは人生でそう経験しないものだ。それにしても…疲れませんなあ。喉が渇くとすぐ水を飲むのがいいのだろうか。アマガミラブプラス(寧々)、LAS、その他の同人誌で良いものがあれば買っていこう…とどんどんどんどん500円玉と千円札が払い出されていった。今日朝の時点で千円札が14〜5枚、500円玉が3〜4個あったのに家に帰って財布を見たら千円札1枚と百円玉が2個しかなかったので1万5千円は出費したということか。
 あらかた目的のサークルを回ってまだ13時前だったので大手サークルの長い列に加わって(これが東館の外だったので臭い帽子を取り出した)、財布を見たら千円札が2枚しかなかったのでこれで終わりとして、13時半頃に東館の周りをグルッと1周して出口へと向かった。建物の隅や日陰には大勢の人たちが座り込んでいて、俺より5〜10歳くらい若いであろう彼らを見ていると本当に自然で自由な感じがして俺のように「エロ漫画を買うには罪悪感というスパイスがなければならない」などと言う時代遅れオタクとは違うんやなあとしみじみ感じた。俺のような時代遅れはとっとと帰った方がいいかもう十分楽しんだからな、家に帰ってアイスクリームでも食べながらブログを更新しようと有明駅まで歩いて、自転車に乗って家へと向かったのであった。