参議院を忘れるな

 去年の秋に書いた通り、この国は「スキャンダル狂い」の国である。マスコミも国民も血に飢えた鮫のようにスキャンダルに飛びつく。ウィキリークスがまかり間違えれば世界を混乱に陥れようとしている時に歌舞伎俳優の酒乱による事件について連日放送され、来年度予算案が固まった時に女優による泥沼不倫劇がTV画面を埋める。「人の不幸は蜜の味」それらに興味を持つのはわからんではないが、そのようなスキャンダルを公共の電波を使って大々的に放送して何とも思わない神経がわからない。
 政治家のスキャンダルと言えば酒や女ではなく「金」であり、小沢は去年マスコミの格好の餌食であった。「政局よりも政策が大事」というマスコミは一方で「『政治と金』こそが大事」としてどれだけ小沢が正論を吐こうとも頑として耳を貸さず、検察が不起訴と判断しても「お前は悪人に違いない」と食い下がり、検察審査会による議決が出た後はまるでお祭り騒ぎであった。これでは子供たちに「いじめのやり方」を教えているようなものだというのが俺の正直な感想であったが、その小沢いじめに「反小沢勢力」が飛びつき、それら「反小沢」の背後にはいつものように官僚の姿が見え隠れした(予算案そっちのけで個人攻撃に終始してもらえば、予算案はそのまま可決する)。もちろん小沢側も黙って手をこまねいているわけではないので参議院選挙直前に辞任することで勝つ環境を整え、臨時国会では「自分の政倫審出席を取引に予算を通せ」と何度も執行部にメッセージを送ったが、いずれも現在の政権幹部によって台無しにされた。去年の参議院選挙直後に書いたように、現在の政権幹部は「正しいことを言えば皆ついてくる」という幼稚な考えしか持ち合わせていないからである。
 政権幹部もマスコミも忘れているが、参議院選挙で民主党は負けたのであり、その時点で菅内閣は総辞職するのが普通なのである。それでもまだこの政権が続いているのは「反小沢」という一点で政権やマスコミはもちろん、自民党においても一致しているからに他ならない。特に仙石官房長官は事あるごとに「反小沢」によって政権浮揚を図ろうとしているが、そのために「参議院で与党は過半数を持っていない」という最もシンプルで最も重大な壁に気付いていない。いや「正しいことを言えば(野党も)ついてくる」と信じているからそんな事は歯牙にもかけていないのかもしれないが、その「正しいこと」が「反小沢」であればマスコミはともかく自民党がいつまでも付き合うはずがない。そして問責決議案は可決され、参議院は仙石と馬渕国土交通大臣を認めないこととなり、その事実をひたすら隠そうとまた小沢の問題を蒸し返したものの、老練な小沢が「では政倫審に出ましょう」と言えばもはやカードはない。「参議院で思い通りにいかないから対策を講じよう」と考えているからこうなるのである。「参議院で思い通りにいかない」こと自体が既に致命傷なのだ。
 いよいよ通常国会が始まり、来年度予算案・予算関連法案が審議される。参議院過半数を持っていなかった福田・麻生内閣衆議院の3分の2によって何とか事なきを得たが、衆議院の3分の2を持たない菅内閣にとっては文字通り生きるか死ぬかの戦いとなる。その単純な事実に誰もが目をそらし、「正しいことを言えば皆ついてくる」と本気で思っている今の状況はまさに日本政治の(そしてマスコミの)危機的状況を示している。そして何度も言うが、国内の権力闘争(野党との戦いはもとより、明治以来の官僚制度との戦い)にすら勝てなければ、謀略に満ちた国際政治の世界で立ち向かえるはずがない。
 そのため2011年の政治の鍵を握るのは依然として政治の表も裏も知り尽くした小沢であることは間違いないが、仙石を頂点とする(と言っていいだろう)反小沢勢力が自民党との大連立に踏み切れる可能性もないではない。しかしながらここに来て菅と仙石の関係が代表選・内閣改造後の蜜月関係からやや距離を置いているのが気になるところでもある。「脱小沢」にも「反小沢」と「(とりあえず今は)反小沢」があって、菅首相は間違いなく後者である。まずはそのあたりに注目しながら今年も政局について論じていきたいと思います。