3 天の声解散(20→11)

第20位:DoLL/岡戸達也[講談社アフタヌーンKC]

DoLL(2) (アフタヌーンKC)

DoLL(2) (アフタヌーンKC)

 「押しかけ女房」型ラブコメではその押しかけ女房ヒロインに主人公が振り回されるというのが基本的な構図になるが、よほどのマゾでない限り突然やってきたヒロインに生活を振り回されるのは迷惑な話であって、とは言え本当に迷惑千万みたいな顔をして陰険な雰囲気を出すわけにもいかないしラブコメの主人公はおとなしいし自分から波風立たせることはないのでまあいいかとなる。しかしながら27歳となり対人関係の苦さを経験した俺としては、本作のように主人公とヒロインの間にある種の険悪な空気、決して理解できない壁が存在しながらも淡い関係性を維持するストーリーは非常に魅力的であった。何度も言うがラブコメとは主人公が平凡で地味ならばそれでいいのであり、最後に主人公が死のうが殺されようが超現実の世界に紛れ込もうが構わない。
 20歳前後と思われるヒロインは五体満足で恵まれた生活をしてボーイフレンドもいるにもかかわらず「何かが違う」と悩んで悦に入っているただの阿呆スイーツ((笑)も入れておくか)である。一方50歳前後と思われる主人公はまさしく枯れた中年男(既婚だが別居中)であり、「そこだけ(快楽だけ)でいいだろ、面倒くせえ、男と女の機微とか愛とか恋とかどうでもいいんじゃ」と言い切り、用途はわからないがダッチワイフを所持している。俺も是非こんな中年になりたいと思うが、それはともかく阿呆スイーツ(笑)であるヒロインと、自分なりの変態道を行こうとする主人公には理解できない溝が存在するのである。昔主人公に恋したヒロイン(そして今も淡い想いを抱いている)は何とかその溝を狭めようとするが枯れた中年男にとってはもう恋愛事はどうでもよく、若い女に相手にされるのは悪い気はしないが正直言って面倒臭いのであり、その二人のどうしようもない壁を象徴するのがダッチワイフであった。うーん、渋いねえ。
 「押しかけ」型ラブコメには「強引で少々頭の弱いヒロインに振り回される」ことで「こいつは頭が弱い(良く言えば不思議ちゃん、悪く言えば阿呆)からこのように強引なのだ」と精神的に優位に立つ快楽がその裏に隠されているが、更に本作の場合主人公を50男に据えたことで「50男に何をやっとるんだこの女は」と感じることもできよう(まあそれはひねくれ過ぎかもしれんが)。そして容易に想像できることだが結局主人公とヒロインの間には何も起こらず何ということもない結末を迎えるのであり、この作品ではそうするしかなかったと言えるし、その結果このような上位でも下位でもない順位になったのもこの作品ではそうするしかなかったと言えよう。
   
第19位:えむ×えす/さのたかよしグリーンアロー出版グリーンアローコミックス]
えむ×えす 上―MOTHER×SISTER (GAコミックス)

えむ×えす 上―MOTHER×SISTER (GAコミックス)

 しつこいようだがラブコメの条件は「主人公が平凡で地味」であることで、その条件を満たせば作品が持つ「軽い」「重い」などさして重要ではない。頭を空っぽにして読めるエロ漫画もどきの軽いものであっても人類の滅亡がかかった重いものであってもそのそれぞれの世界でいかにして主人公が活躍するか(「平凡で地味」を維持したままで)が重要なのであり、「風見鶏トライアングル」(2007年6位)の作者による本作はその「軽さ」を縦横無尽に駆使させて主人公はヒロイン2人の間を絶妙なバランス感覚で行き来する。この場合の「軽さ」とは主人公が義理の母と妹と関係を持ちながらそこに罪悪感を感じさせないテンポの良さのことを言うが、その「軽さ」の中に時々「重さ」(ヒロインの主人公に対する真剣な想い)を投げ込みながらあくまで「軽く」するのは作者の独壇場と言える。それによっていくらストーリーやキャラクターが暴走しようとも常に一歩手前に踏み止まり、読者は安心して肩の力を抜けることができよう。
 本作の場合ヒロインは義理の母と妹であり当然展開としてはエロくなる(特に母ヒロインの巨乳ぶりと過保護ぶりは自慰に使…やめておこう)が、「暴走の一歩手前」で踏みとどまる形で各話を刻んでいるのでエロさは感じられず、しかしながらヤることはヤッているのであるからエロは中途半端になるが、それを「軽さ」という作品全体の勢いで中和しているので非常に居心地が良くなっている。これはハーレムによる居心地の良さというよりは「ハーレムになる直前の居心地の良さ」とでも言うべきもので、常に最後まで行かないながらも美味しいところは頂いてしまうというラブコメの快楽と直結しよう。とにかく本作は文句なしなわけである。
 にもかかわらずこのような順位となった理由はただ一つ、主人公が爽やか好青年タイプで変質者をやっつける正義漢だからである。全くもう、この主人公が普通のヘタレ変質者であったら間違いなく3位以内には入っていたというのになあ。うまいこといかんなあ。
     
第18位:先輩熱/まだ子[実業之日本社マンサンコミックス
先輩熱 (マンサンコミックス)

先輩熱 (マンサンコミックス)

 「先輩・後輩」という関係は学校か会社でしか存在しない、いわば公的な関係を表すものだが、先輩後輩の関係にある男女が私的な恋愛関係に発展しても一方でそのような公的な関係を持続せざるを得ないということで一種のドライブ感覚を堪能することもできよう。ただし会社ではなく学校となると公的な関係といっても大したことはないが、本作の場合「一風変わったヒロイン」を登場させることによって「先輩」であることを意識させることに成功している。ラブコメにおいては平凡で地味な主人公に相対するヒロインは非凡であることが求められるが、本作では「子供っぽく、背伸びをして、自分のやりたいようにやりたいのになかなかできないもどかしさから困った行動に出る」ヒロインばかりを登場させ、そのような異質な人間だからこそ「先輩」なのだ、という図式に持ち込んでいるところが本作の最大の魅力であろう。
 各短編の主人公とヒロインの話がいずれも甘酸っぱい典型的な学園ものながらあまり「リア充」の匂いがしないのもヒロインが先輩でありながら先輩っぽくない(大人っぽくない)から主人公がヒロインに協力して何かしら共同作業をしているように見えるからであろう。しかしページを開いて最初に「幼児体型の先輩」「飛び級で年下の幼馴染が先輩に」という回りくどい「先輩」を持ってきたのは理解に苦しむ。これでは特に興味はないがまあ読んでみようという人を追い出すようなものではないか。作者というよりは編集側の怠慢であろう。
 平凡で地味な主人公が一風変わった先輩ヒロインに振り回され、やがて結ばれる本作はラブコメとしては合格点であるが、前述したように先輩ヒロインたちはいずれも「もどかしい」先輩ばかりで、それはそれで愛らしいが公的な関係と私的な関係を把握していないので少しチグハグな印象も与える。「先輩」をヒロインに据えたことの魅力とラブコメとしての魅せ方が一致していないのであって、作者個人の「先輩」に対する並々ならぬ熱意は買うがパンチ力に欠けるというのが正直な感想で、決して悪いわけではないがこの順位となった。
 あと、この縫いつけたような不自然な乳首は何とかならんかね。勃たんよ。
  
第17位:よめはいむ/西野映一実業之日本社マンサンコミックス
よめはいむ (マンサンコミックス)

よめはいむ (マンサンコミックス)

 しつこいようだがラブコメの大原則は「複数の女性に言い寄られる、それも平凡で地味な男(主人公)が」であって、その「ハーレム感」を出すにはやはり実際に主人公の右腕と左腕をヒロインたちに引っ張られる絵が必要になろう。しかしまあ、俺も大人になったのでそれほどその構図にこだわることもなくなったし実際に複数のヒロインを華々しく登場させたところで複数のヒロイン全員を魅力的に描きまたラブコメ話として絡ませることは実は難しいのであり、結局最後はグダグダになって終わるという作品をもう何度も見てきた。しかしながら本作では主人公は複数のヒロインを相手とするも、「とにかく色んな女と1ヶ月暮らして、性交渉して、一番セックスの相性が合った女と結婚せよ」と言われてそれぞれのヒロインと1対1で暮らすのであり、主人公(=読者)は1人のヒロインをじっくり味わうことができ、それでいてほのかにハーレム気分も味わえるのである。これは今まであったようでなかなかなかったものである。
 複数のヒロインと関係を持ちながら常に1対1で展開していくことで罪悪感から解放され、その解放感をそのままエロに転化させていることに本作の特色がある。「アパートの一室で主人公とヒロインが暮らす」という設定がそうさせているのであろう。やはりアパートで同棲するカップルというのはいつの時代もエロいのだ。そしてわざわざ上へ下への大騒動を描かずとも設定がしっかりしていてキャラクターが魅力的で主人公が平凡であればそれだけでラブコメたりえるのであるということを再認識させられた。ただし「キャラクターが魅力的」と一言で言ってもそれには二重にも三重にも用意されたエピソードが必要であって(これは後に出てくる「アマガミ」で述べる)、本作ではヒロインたちは現れては消え現れては消えを繰り返し、しかも必ず性交渉をしなければならないという制約があるのでキャラクターの魅力を伝えるハートフルなストーリーは付け足し程度でしかないため読後はほとんど印象に残らなかったというのが正直な感想である。各キャラクターをそれこそ等分に扱っているから薄味となってこの順位に甘んじてもらうことになった。それにしても本作の性交渉シーンは効果音というか吹き出しが多くて読みにくいな。
    
第16位:ロマンス地獄/むつきつとむ実業之日本社マンサンコミックス
ロマンス地獄 (マンサンコミックス)

ロマンス地獄 (マンサンコミックス)

 ラブコメであれば全ての門戸を開放することにしているので昼ドラ的な修羅場話でも一向に構わないが、一昔前のトレンディドラマのように(今のトレンディドラマのことはよく知りませんので)ヒロインが主人公と主人公の知人とヤッている(つまり穴兄弟がいる)式の展開はあまり好きではない。別に「処女しか認めない」というわけではないが、ラブコメとは「通常なら女にモテない男が女にモテる」物語なのであって、ヒロインが主人公以外の男と関係を持ってそれを少し後悔する程度でつまり何とも思わないのでは主人公がそのヒロインとヤれたのは主人公がモテるからではなくただそのヒロインがヤリマンだったということに堕落しよう。もちろん「女は皆淫乱で阿呆である」というのが俺の持論だが、ラブコメの世界でそんな事をやられてはたまらない。「真面目な純愛の上に複数の男と関係する」ヒロインというのもありえるだろうが、ラブコメが「モテない男の願望漫画」であることを忘れてはならない。童貞は嫉妬深いのだ(何を言っとるんだ)。
 長々と愚痴を書いたが別に本作を批判したいわけではない。主人公をめぐるヒロイン姉妹(姉は天真爛漫、妹は積極的に主人公にアタック)の駆け引きは両者の主人公に対する真剣な想いが溢れ緊張感がある一方で和気藹々としていてまさにロマンスである。しかしながら途中で姉ヒロインは主人公と関係を結んでおきながら主人公の知人ともヤるのであり、最後に「実は主人公の子供を身篭ったので妹の気持ちを慮ってそれを隠すために別の男とヤッたのだ」と説明され主人公もそうかそれなら一からやり直そうとハッピーエンドで終わるが、やはり少し納得いかない部分があるのは致し方ないだろう。もしそういうストーリーでなければ本作は10位以内は確実に入っていたはずだ。うーん。ラブコメの基本原則を根底から崩しかねないことをされても困るよねえ。
   
第15位:僕のカノジョは18才/早野旬太郎[日本文芸社:NICHIBUN COMICS]
僕のカノジョは18才 1 (ニチブンコミックス)

僕のカノジョは18才 1 (ニチブンコミックス)

 何事も中途半端は良くないが、別に悪いわけではない。中途半端にエロであったり平凡で地味な主人公が中途半端にモテるというストーリー展開がいい場合もあろう。結局はいかに読者を楽しませ満足させるかなのだが、翻って本作はというと中途半端というよりもところどころ不安定であった。キャラクターをその独特のアクの強い線で描いてその存在感を際立たせる一方で主人公とヒロインの関係は強固なようで壊れやすく、壊れやすいようでいて強固でもあるので読むこちらは身構えてしまう。
 それは結局ラブコメにおいて主人公をいかに描くべきかという問題であって、本作の場合「30歳の冴えないサラリーマンが18歳のピチピチ女子高生と付き合う」という素晴らしい設定である反面その30歳の冴えないサラリーマンが18歳ヒロインと性交渉をしようとして常に寸止めで終わる、を繰り返すので読者はいつまでも安心して読めないのである。少年誌ならともかく、明らかに少年誌ではない大人向けのメディアを使って散々ヒロインたちの裸を出しておきながら寸止めを常にオチとして使われてもチグハグな印象しかない。もう「寸止め」がショーとして成立する時代ではないのだ。
 「寸止め」に限らず、本作では30歳の冴えないサラリーマンが18歳のヒロインと付き合う上で様々な困難(もちろんコメディ的な「困難」)にぶち当たり、常に「ヒロインと別れてしまうかもしれない」という恐怖心が横たわっているが、本来ラブコメにおいてそのように主人公が女性関係において苦痛を感じるのはタブーなのである。他のどんな些細なことでも悩んでいいが、「平凡で地味で女性関係において恐怖心を持つ」はずの主人公が女性関係による不安から解放されることがラブコメの暗黙の了解であって、読んでいてなぜ主人公がこのような情けない目にあわなければならないのかと苛立ちを隠せなかった。
 繰り返すが、「30歳の冴えないサラリーマンが18歳のピチピチ女子高生と付き合う」という素晴らしい設定もヒロインの18歳でありながら熟女のような全身これエロい身体もこの苛立ちによって相殺されてしまうのである。またヒロイン以外の女とも寸止め的事件に巻き込まれるが、寸止めであれば他のヒロインと絡ませてもあまり意味がないではないか。ただでさえ正ヒロインとヤれず鬱憤がたまっているのに他のヒロインともできないというのはラブコメにおいては邪道であろう。しかしながら本作が優れたラブコメであることは間違いない。ああ、これが普通にヒロインとヤッておったら5位以内に入れたであろうになあ。
    
第14位:シカクのセンセ!/板場広志竹書房:BAMBOO COMICS]
[rakuten:book:13487706:detail]
 「お前は長ったらしく難しいことを書いとるが、要はモテない男が棚ボタ的に女とヤることができればそれでいいんだろう」と問われたら「はいそうです」と答えるしかない。しかし俺が難しく書くのはその「モテない男」のモテない度はどれくらいでなぜモテるようになったのか、或いはどれだけ労力を使わずに苦痛を感じずにそれでいて複数の女と性交渉を持つことの違和感を読者に感じさせずにストーリーを展開させることができたかを具体的な事例でもって評価するのがこの日本ラブコメ大賞だから難しく書くのである。一口に「モテない」と言ってもその形態は様々なのであり、「棚ボタ」にも様々な形があろう。それらを馬鹿にすることなく快楽に惑わされることなく考えることが俺の使命なのだ。
 というわけで本作の場合だがストーリー云々よりまず作者の描く超スレンダーでありながら爆乳の女キャラクターにどうしても目が行ってしまって物語部分が後追いとなるのが欠点であるが、本作はただのエロ漫画ではないのであり一読するとただヤッているだけに見えるが様々な仕掛けが施されている。
 主人公は就職先が見つからないフリーターであり(293社に不採用)、義理の母親(この母親がもうたまらん)が経営するカルチャースクールに通うことになって期待通り主人公は義母ともそれ以外の女ともやるのである。それ以外の女はともかく何故義母ともやるかというと「あの人(主人公の父親、故人)は私の全てなの、だからあなた(主人公)からあの人のDNAを欲しい」からであり、これはかなり上級者向けだがそれはともかくそのようにして「母」が主人公を求め続け(「今からあいつ(主人公)を犯しに行く」)それに逃げながら主人公は彼女をはじめ様々な女とヤるのであるが、強烈な「母」の存在感によってハーレムを意識させず、むしろより一層快楽的な世界を成立させているのである。ハーレムとは主人公によって他のヒロインを一方的に支配する構図であるが、本作の主人公は性交渉をすることによってヒロインを支配する一方で巨大なる「母」の存在を意識しているのであり、支配しながらも「母」に安住することもできるというアンビバレンツな人間関係を堪能できるのである。場当たり的な偶然で複数の女とヤることでその迫力は何倍にも増し、非常に「美味しい」物語と言えよう。それにしても「セクシー」という言葉は作者のためにあるような作画力には脱帽ものである。
  
第13位:ワケありな彼女/音無響介芳文社芳文社コミックス]
ワケありな彼女 (芳文社コミックス)

ワケありな彼女 (芳文社コミックス)

 あかん、今年こそ無駄なく簡潔に書こうと思っていたはずが気が付けば長ったらしい文章をひたすら自己満足的に垂れ流して例年通りではないか。無駄なく簡潔に書こう。というわけで洗脳でもしない限りヒロインは主人公の言う通りにはならない(もし洗脳によって高嶺の花である女を思い通りにする作品があれば是非読みたい)。ラブコメのヒロインは基本的に「好き好き大好き主人公」であるが主人公の下僕・ペットではないのであって(もし洗脳によってヒロインを下僕やペットにする作品があれば是非読みたい)、男と女のことであるからいずれ軋轢が生じよう。その軋轢の場面をどう描くかは作者の自由だが、そのような厄介事を描きながらラブコメの本分である「ヒロイン側が平凡で地味な主人公にぞっこんで、主人公は恋愛的な人間関係においては何の心配をしなくていい」状態を維持しながら面白く読ませるにはかなりの深みが必要となる。恋愛関係が破滅に陥ってしまっては元も子もないのであるから、「雨降って地固まる」式の展開は危険と隣り合わせなのである。
 本作では主人公とヒロインの間にある亀裂(「ワケあり」な彼女の不信な言動)が生じ、主人公は不安を抱くが、本作の場合その主人公の不安をそのままストーリーとしてぶつけ、それがヒロインとの関係性を高めラブコメとしての展開をドラマチックに演出しているところに特色がある。またあくまでコメディをベースとして暗くならない気遣いもなされ、主人公・ヒロインともそれぞれの人生の悩みや喜びをひねくれることなく直球で表現して結末へとなだれ込んでいるので非常に後味の良いものに仕上げられているのである。大体こういう場合(要は主人公とヒロインの喧嘩)は極めて安易に和解して性交渉に臨むのが常であるが、本作ではきっちりと、それまでの二人のどこかよそよそしい関係を総括した上で次なる段階へと進んでいるのも好感が持てよう。
 本作はキャラクター描写、作画能力、ラブコメとしてのストーリー展開、エロとしての魅力のどれも平均点ながらそれらを合わせた総合力は固い岩盤のように頼もしいものがある。また最後に収録されている短編もダークでありながら決してバッドエンドではないという衝撃的なもので、こういう漫画に出会うとラブコメの前途は洋々であると嬉しくなりますな。
 
第12位:れすきゅーME!/巻田佳春秋田書店チャンピオンREDコミックス]
れすきゅーME! 1 (チャンピオンREDコミックス)

れすきゅーME! 1 (チャンピオンREDコミックス)

 ラブコメの王道・「押しかけ女房ヒロイン」にも「流され型」と「積極型」があって、「何かよくわからんがここに連れてこられた」と言う流され型ヒロインを相手にラブコメを展開させるのは多大な労力を要するが、いきなり「主人公のお嫁さんに」云々としてやってきてもらうと平凡で地味で自分から積極的に動くことのない主人公はヒロインによる津波のような好意に乗っかればいいだけなので非常に楽になろう。しかしながら「主人公のお嫁さんに」が発展して性的なことをあからさまに要求するヒロイン(「いつものように揉みしだいて下さい」「こうして擦り合えば主人公の猛りを抑えられる」)というのは飛びつきやすい反面扱いが難しくもあって、そこで主人公とヒロインが即座に性交渉できればいいが少年誌などではなかなか性交渉に至ることができず、その結果ヒロインの暴走ぶりだけが目立ってただの阿呆に成り下がって次第に収拾がつかなくなることが多々ある。最も本作については幸いなことに1巻しか俺の手元にないのでその「暴走」ぶりが賞味期限切れになる前に楽しむことができた。また本作は動と静の使い分けが巧みで、ストーリーとしては基本的にやかましくかしましいヒロイン2人が動き回るだけであるがそこに一瞬の空白のような「静」の場面(ヒロインがあまりにもエロ過ぎる発言をして主人公は一瞬フリーズしてしまう)を挿入することで自然に作品世界に入っていける工夫が読み取れよう。「動」と「静」を繰り返すことで、ヒロインが積極的に動くというのは所詮に積極的に動くことのできない主人公を動かすための方便に過ぎないということがよくわかるのである。
 つまり本作はかなり優れた作品なのであるが、後半よりヒロインの1人の従者的位置にレズまがいのキャラクターを放り投げたことでその価値を暴落させている。レズキャラというのは一時的にせよ話の回転を一気に活発にさせる威力を持っているが、ラブコメというぬくぬくとした居心地のいい世界において同性愛キャラというのは本質的に異質で、それまでに作品が培ってきた空気を破壊させる威力も持っているのである。そのためこの作品はそう長くはないだろう。残念なことだ。そして繰り返すように様々な制約の下で性交渉を実行できない主人公と性的に奔放なまでにアピールするヒロインというのは10年前の俺ならば目を輝かせて読んだであろうが今ではそんなに重宝しなくなった。もう若くないということだろうか。とにかくレズが出てきたせいで残念ながらこの順位となった。漫画は総合的なものなのであり、ラブコメもまた総合的なものなのである。
        
第11位:秘書課ドロップ/春輝[竹書房:BAMBOO COMICS]
秘書課ドロップ (3) (バンブー・コミックス DOKI SELECT)

秘書課ドロップ (3) (バンブー・コミックス DOKI SELECT)

 「平凡で地味で冴えないサラリーマンが下半身を武器に女を手に入れ出世もする」というサラリーマン向け官能小説を漫画にしたらこうなるという見本のような作品が本作である。何かの手違いで一流会社に就職した三流大学卒の主人公は一流会社の一流の美人を相手にヤリまくるのであるが、予想通りと言うべきか序盤はヒロインたちが上司先輩として君臨して主人公はマゾ的立場に甘んじなければならないのが辛いところである。もちろん徐々に主人公はその旺盛な性欲と立派なムスコによってヒロインたちを征服していくのであるが、その征服のテンポが遅く最初の方などまるでヒロインたちのセフレ扱いでありそれが響いて10位以内に入ることはかなわなかった。まことに残念である。
 曲がりなりにもちゃんとした「会社」を舞台にするわけであるから舞台装置としての会社は我々が日々過ごしている会社とできるだけ近いものでなければならない。「会社」として厳格に存在してこそラブコメの主要舞台としてのヤッたりヤられたり乱交パーティーの場としての価値が出るのである。その点、本作は一部上場企業のサラリーマンである俺が読んでとくに違和感を感じるものではなかったが、本作の優れているところはそこではなく主人公の立場を鮮明にしていることであろう。なぜかはわからないが簡単に身体を許すヒロインに囲まれた主人公はヒロインが簡単に身体を許すからこそ自分の価値について意識し常に一歩引いた立場で現状を把握するのであり、その自身の曖昧な立場が「会社」という巨大な組織を意識させ、その巨大な組織に何かしらの因縁があると思われるヒロインたちと主人公が関係を持つことでラブコメとして非常に広がりがあるものになっているのである。だからこそ主人公とヒロインの関係がなかなか親密なものにならないことが惜しまれる。もしヒロインたちの誰か一人でもいいから「好き好き大好き主人公」タイプにしていれば更に奥行きが広がったはずだからである。曖昧な立場や謎に翻弄される主人公に更に中途半端な関係(身体だけの関係)を押しつけては読者は整理できず、読んでいてどことなく窮屈な感じもしてしまう。そのあたりの気遣いがあれば本作は5位以内となっていただろう。