まぶらほ〜またまたメイドの巻〜/築地俊彦[富士見書房:富士見ファンタジア文庫]

 おいこら。
 何をしとんのじゃ。俺の顔に泥を塗る気かこら。この「まぶらほ」メイド編は世界がその利権漁りに奔走するという「日本ラブコメ大賞」2007の第2位の座を特別に与え給うた記念すべきものであって、当然俺の意向というものを十分考慮しなければならんのだ。そしてこの俺がいわゆる「レズもの」に対して憤怒と憎悪を持って対峙し死闘を繰り広げその殲滅のためならば悪魔とも手を握るということを知った上でこのような、ページを開いてすぐのイラストからもうレズ全開でっせと言わんばかりのことをするのか。一体どうするつもりなのだ。俺を挑発しておるのか。もう昔言い尽くしたので言わないつもりであったが多くのオタク男たちがレズものを好むのは(或いは「美少年の主人公」を好むのは)そこに「汚らわしさ」がないからであって、この場合の「汚らわしい」とは男を作品内に登場させることによってどうしても醸し出される現実感であり男の読者が作品内で男の存在を嗅ぎつけることによって発生する男の生理の感覚である。自らを糞袋と認識できない軟弱なオタク男たちはそのような「汚らわしさ(むさくるしさ)」を嫌い、今日も今日とて二次元の女たちによる薄っぺらい饗宴に逃避するのだ。つまりレズものを読むような奴はエイズの痴呆のアルツハイマーであって死んで出直してこいボケがそんなもん書くなただでさえ趣味丸出し読者置き去りのミリタリーハードボイルドまがいの自己満足に付き合ってやっているのだからいい加減にしやがれ、こんなことをするようではもう買わんぞ読まんぞ。
 というわけで激しく取り乱しましたが、それもやむを得ないのでありまして世界のラブコメ王として「主人公は平凡でそこらへんにいる男がモテモテ」を絶対条件とする俺がレズ(もどき)話を手に取るとまあこういうことが起こるのは当然なのでありましてこれは俺が悪いのではなく出版側が悪いのであって「日本ラブコメ大賞」という最高峰の恩恵を受けていながらこんなことをしておったのでは(そしてそれを許しておったのでは)俺の命にかかわるのだ。ああ腹が立つ、腹が立つのだがこのまま怒りに身を任せるわけにもいかないのでいつものように感想を述べましょう。「まぶらほ」の最大の魅力は主人公をめぐって花も恥らう女子高生たちが策略と憎悪と乙女心を駆使してライバルたちを蹴落とし主人公を何とか我が物にしようという過激さにあるが、本メイドシリーズではメイドの本分である家事と戦闘に秀でた優秀なメイドが主人公を「わたし(たち)のご主人様」と慕い、そんなメイドたちを殺意を持って倒そうとするヒロイン(夕菜)の超過激絵巻が展開され楽しめよう。更に作者の趣味である「ミリタリー用語」が戦闘メイドを通して飛び交い、武装メイドたちのハードボイルドチックな会話が単細胞の勧善懲悪のお子ちゃま富士見ファンタジア文庫とは思えない雰囲気を醸し出し非常に楽しいが、いかんせん作者が楽しみすぎて肝心の「主人公をめぐって女二人が争う」描写がどんどん少なくなってしまっているのが難点であった。要所要所であるにはあるが、それらは「リーラ対夕菜」シーンばかりで肝心の主人公はやれ誘拐されたり一室に軟禁されたりとどんどん存在が薄くなって、そのかわり大して意味もないレズもどきのサービスシーンが本書では盛りだくさんで俺のみならず諸君も大いに憤慨しよう。ああまた腹が立ってきたが、唯一の救いはどのようなことがあってもこの二大ヒロインは主人公に対してそれはもう狂気を超越した愛情を持っているということであって、その強さたくましさは全て愛する男を想う心から発せられたものでありだからこそ本作は優れたラブコメなのである。ちなみに繰り返すが、俺はリーラ派ね。これ重要。
  
「待ってください!」  
夕菜が叫んだ。ネリーが足を止め、リーラが振り向く。
「なにか?」
「わ…わたしも連れて行ってください」
喉から絞り出すように言う。
リーラの目が細くなる。
「どうしてですか?」
「どうしてって…奥さんですから…」
「その奥さまのおかげで、主人公様はさらわれてしまいましたが」
   
「…さて、本題なんですけど」
「なんでしょう」
「主人公さんはどこにいるんです?」
「それを知ってどうするのでしょう」
夕菜はむっとした。
「わたしは主人公さんの妻です!さらわれたんだから、助けるに決まっています」
「妻、ですか」
リーラの口調は変わっていないものの、夕菜はその裏を感じ取り、激昂する。
「妻なんです!リーラもわたしのことを奥様と呼んだでしょう」
「呼ぶだけなら、ここでも呼べますが」