10位:学園祭破天荒/稲元おさむ[朝日ソノラマ:ソノラマ文庫]
- 作者: 稲元おさむ,大橋薫
- 出版社/メーカー: 朝日ソノラマ
- 発売日: 1996/09
- メディア: 文庫
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転校先の高校の学園祭ではサバイバル・ゲームが行われる。それは全生徒が各チームに分かれ、ペイント弾を打ち合ってそれが当たった者を即死者として最後まで生き残ったチームが優勝というものであり、まあ何でそんな阿呆らしいことをと思うがそれは主人公も同じであって、しかしこのような非現実的な展開に平凡な高校生が巻き込まれるというのも男のロマンである。特に配属されたそのチームの可愛い女とゲームを機会に仲良くなれるかもしれず、駄目なら駄目でペイントが当たるだけで大したことはないのでよく考えれば面白そうではないか。そうかこういう方法もあるのだ。
主人公の喜劇は続く。ゲーム開始前日には不良に「おい、お前のチームの可愛い子ちゃんと俺が二人っきりになるようセッティングしろ」と脅され、当日その女には「私、主人公みたいな人、嫌いじゃないよ」と満更でもないことを言われ、間髪入れず別の女に「駄目よ、女。主人公はあたしと付き合ってるんだから」などと言われあれま俺そんなにカッコイイのいやこれには裏があるぞと思っているうちにサバイバル・ゲームスタート、実は主人公の属するチームは優勝候補と目されているほどすごい腕前を持った者ばかりであり(特にヒロイン。トリガーハッピーらしい)その仲間たちの後ろにノコノコついていって適当に打ったらそれが百発百中で一躍学校中の注目の的になってしまうのである。毎度おなじみの「ただの平凡な主人公が偶然ヒーローになってしまう」であり、ラブコメの最大の魅力はこの、平凡な主人公が本来は運動神経が優れてイケメンで社交性があって死ねボケのために用意された華々しい地位になぜか身を置くことができたことによる優越感(いくら運動神経良くてイケメンで金あるか知らんが勝ったのは俺じゃぐわはははははは)とその激しいギャップによる笑いにあるのは諸君御高承の通りである。そのようにして各人各様の想いとしょうもない悪だくみとそれに悪ノリする者たちによる混乱に流れ流されながらも主人公はこのゲームを渡りきるのである。これもまた一つの楽しい青春であり、立派なラブコメである。異世界だロボットだとテーマを広げるのはいいが結局尻切れトンボで終わる阿呆みたいなラノベとは違い、本作のようにいい意味で「小さくまとまった」作品があれば俺もわざわざ10年以上前の本を探す必要もないのだがなあ。
9位:My Merry May Believe/KID・水島空彦[ジャイブ:CR COMICS]
My Merry May Believe (1) (CR COMICS)
- 作者: KID,水島空彦
- 出版社/メーカー: ジャイブ
- 発売日: 2006/10
- メディア: コミック
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しかしこの少々強引な設定が男女の恋愛模様を絡めるとなかなかのドラマになるのであって、先生は既に別のロボット女を選んだのでその黒髪ロング眼鏡っ子は振られたわけである。また街に一つしかない診療所の女医者も先生に懸想し振られ、時は流れ7年経ったらその先生そっくりな主人公が来たわけである。これはチャンスだと競う二人であるが、一方先生の方は瀕死の重態であり、先生には助かってほしいがもし先生が助かれば主人公は用無し(要は死ぬ)となりそれも困る。それぞれの想いが交錯し緊迫感を生むが、一方で主人公をめぐっての黒髪ロング眼鏡っ子と女医者の大胆アタック合戦も並行して行われそんなに緊迫でもないのかああこれがラブコメかと妙に納得してしまう不思議な作品なのである。
いわゆる悲恋もの、生と死をミックスした恋愛ものをラブコメ的にあるいはオタク的に(何せ主人公ロボットやからね)したものが本作である。感情移入するはずの主人公がロボットでは平凡も何もあったものではないが、ロボット的な描写(皮膚の下に金属が見えたりひじからマシンガンが出てきたり)は全く無くこれロボットっちゅう設定やないとあかんのかとさえ思えたので選考上の障害とはならなかった。それに女二人が最初から惚れているのである。なぜ惚れているのかというと昔好きになった人と同じ顔をしているからであって、これはうまい。ここを「運動神経がいいから」「かっこいいから」「不良にからまれたのを助けてくれたから」「捨て犬を世話してくれたから」と阿呆丸出しの理由にしては全てが台無しになるが、顔が似てるだけでええなら俺かてチャンスあるんちゃうのんと希望も湧いてこよう。そして最後、二人同時に好きになった主人公は「まだ優柔不断のままでいよう」となって終わるのである。いやあやっぱりラブコメはこうでなくては。素晴らしい。
8位:家政婦と暮らす100の方法/ポン貴花田[双葉社:ACTION COMICS]
- 作者: ポン貴花田
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2007/09/28
- メディア: コミック
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また本作で主人公とヒロインはそれこそ1話目からヤりっぱなしであるがそれでも飽きないのはそこに隣りに住む幼馴染を微妙に絡ませているからである。ここがミソで、普通なら主人公はこの幼馴染とも早々にヤッてしまうところだが意地っ張りの幼馴染に主人公はそういった感情すら思いつかず(ヒロインは当然気付いている)、しかしこの幼馴染は主人公が気になって主人公とヒロインの合体の様子を覗き見したり想像したりしては一人で慰めるということで性交シーンのマンネリ化を防いでいるのである。これには俺も驚いた。いやはやハーレムじゃハーレムじゃと騒いで阿呆の一つ覚えみたいにヤらせろヤらせろと本性丸出しで言うものだからこういう事になるのである。それに自分(主人公)を想って自慰をする女を見れるというのもまた非常にいいではないか。こういう風にして我がラブコメ世界はどんどん幅広く、柔軟に、強靭になっていくのですね。ちなみに本作2巻を8月ぐらいから常に探していたが(もちろんBOOKOFF等で)ついに今年中に見つけられなかった。来年早々に買うことにしよう。
7位:ももいろミルク/藤坂空樹[竹書房:BAMBOO COMICS]
ももいろミルク (バンブー・コミックス VITAMAN SELECT)
- 作者: 藤坂空樹
- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 2007/07/17
- メディア: コミック
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さて主人公は入社1年目でブログをしてるだけなのに「ネットの達人」とか言われ女性下着を取り扱ってる部署に配属されもちろん役に立てないわけであるから自己嫌悪に陥るが優しい女の先輩に励まされやる気を出すわけである。これがいい。いきなり仕事バリバリできるような奴が主人公では面白くないし仕事と称して女先輩と接する時間が多ければ多いほどラブコメ的な期待もできよう。更にやる気を出してせっせと残業に励む主人公に弁当まで作って夜食を届ける女先輩に二人の距離は急速に縮まり、これまた俺の経験則で悪いが仕事を毎日遅くまで一緒にやることで連帯感が生まれるのでありもしこれが年頃の男と女ならばと俺は何度思ったことであろう。
というわけで一度ヤッてしまえば後は実は未亡人だったとか前の旦那もこの職場におったとかでっかい企画任されたけどこれも前の旦那がやってたんやなあとか数々の障害を愛と性欲のパワーで押し切ってめでたしめでたしである。それに本作のように「女だらけの職場に男一人でその男が立場的に一番下」だと大抵は見下されたりパシリ扱いされるのが常だが、本作ではちゃんと一人前の男として接してくれるところも評価できよう。ヒロインを含めて女4人に主人公1人という小さな職場なんだからどうせなら全員攻略してもいいような気がするが、それだと性交シーンが多くなって日常の職場シーンが少なくなり、「職場ではあんなにキビキビとしてしっかりした女がベッドの上じゃこんなに従順でいやらしくなって」という社会人ものの楽しみがなくなってしまうのでやはりこれで良かったのである。深夜のオフィスで服を着たまま性交する場面もなかなかにそそるが、普通の服装であっても胸や胸の谷間が強調され働く大人の色気をプンプン振り撒き、実際に女従業員が下着を試着してそれを仕事とはいえ間近で鑑賞できる職場で奮戦する主人公にとにかく万歳。こういうラブコメがもっともっと増えてほしいね。
6位:オレたま/原田重光・瀬口たかひろ[白泉社:JETS COMICS]
オレたま 1―オレが地球を救うって!? (ジェッツコミックス)
- 作者: 原田重光,瀬口たかひろ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2007/08/29
- メディア: コミック
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何度も何度も言っていることだが主人公が事件に巻き込まれる場合、その巻き込まれるきっかけというのが普遍的であることが絶対の条件である。例えば「女の子が道に倒れているから助け起こした」や「悲鳴が聞こえたから思わず来た」などという非現実的な、そんなもん警察呼べよというようなきっかけでは駄目なのであり、本作のように「立ち小便してたら人類の滅亡を一手に引き受けることになった」となればこれはもう俺にも君にもありえることであり、よって主人公と読者は同一化されるのである。そしてやってきた使者(ヒロイン)は当然の如く主人公を射精させようとするが、どういう訳かウブなお子ちゃまらしくなかなか射精させることができず、そうこうするうちに情が移ってしまい射精させようとする他の使者の邪魔をするどころか、主人公に言い寄ろうとするバイト先の女と別れさせたり魔法を使って寝ている主人公と戯れたりするわけである。これがまた最強に可愛いのであって、普段はツンデレで言うところのツンとして「主人公のことなんて別に何とも思ってないんだからねっ」的態度を取るのに主人公が寝ている間は魔法を使って「好きだよって言ってみろ」「ホッペにチューしろ」「おっぱいくらいならさわってもいいぞ」と好き放題やりまくるのである。やはり女も一皮むけばエロエロの変態ということか。
敵側から送り込まれた女スパイがターゲットと知り合ううちに許されぬ恋心を抱く展開というのはよくあるが本作もそれである。しかし普通恋心を抱くには「超A級スナイパーである私と互角の腕を持っているから」とか「辛い過去を背負っているから」とか「復讐を胸に秘めた影のある男だから」といった理由が存在するが、本作はそういう経緯は一切無視して気が付いたらこの小悪魔ヒロインは主人公に惚れているのである。それによって主人公と読者の同一化はますます強固なものとなり、本書を読みながら今日も今日とて自慰に励むわけである。いやー、うまいことまとめましたな。
5位:僕の小規模な失敗/福満しげゆき[青林工藝舎]
- 作者: 福満しげゆき
- 出版社/メーカー: 青林工藝舎
- 発売日: 2005/09/25
- メディア: コミック
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この漫画の主人公はとにかくものすごく平凡で陰気で目立たない高校生である。何かが違う、周りを見れば恋愛やスポーツなど華やかな世界で彩られているのに自分には何もない、このままでは「全てがダメになる」と思い、学校を辞めて働きながら漫画を描こうとしてもいざ書くとなると何を書いていいかさっぱりわからず、定時制高校でやり直そうとして漫画を描いたり柔道部を作ったりするがさっぱり入選せず柔道部でも後から入ってきた連中に主導権を取られ、「僕は『これに価値を感じるからまわりは気にしない』って強い意志を持って生きていけるタイプじゃない…」と煩悶し、自分はひょっとしたら社会に適応できない人間なのではと不安で夜も眠れず、運良く大学に行くことができてもやはり薄暗い地下みたいなところで大半の時間を過ごし、「大学の単位も先生が言ってる意味も周りの学生の言ってることも全然わからない」「大学からドロップアウトしても漫画で食っていくことも肉体労働で食っていくこともできないだろうからホームレスになってしまう」「みんな彼女とかいるのに僕には1度もそんなことはない」「とにかく苦しい」とよくわからないモヤモヤを抱え、知り合いのツテで偶然出会ったかわいい女(後に妻となる)に一目惚れして酒の力に頼って猛アタックし見事に振られ、それでもあきらめきれない主人公(童貞)はストーカー寸前の愚行を繰り返し、女は女で終始情緒不安定でまともとは言えず親からも見離され、その弱みにつけこんで同棲、女を説得しに来た女の家族と「まともな生活能力のない僕といるよりは実家に帰した方がいい。でも僕は彼女を帰さない…僕のために!」として人生初の勝負に出て何とか粘り勝ち、結婚するに至るのである。しかし人生は続き、いつの間にか社会適応能力を身につけた妻にせかされエロ漫画の持ち込みに行くが玉砕し、この先どうなるのだ…というところで物語は終わる。この先は「僕の小規模な生活」へと続くのである。
長々とストーリーを説明したのは本作の主人公である作者の鬱屈さと陰気さと嫉妬深さの底の深さ、恐るべき負のエネルギーがこの漫画の隅々に発散されているからである。俺も陰気さ・嫉妬深さには自信があるが作者とはベクトルが少し違うのであって、俺はその鬱憤を詩を書いたり日記に書きなぐったり本屋に足繁く通うことによって晴らし、女関係についてはアニメ漫画ゲームの二次元の女を鑑賞することで自らを慰めたが作者はそんなものでは我慢できず実際に学校を辞めたりボクシングジムに通ったりして心の空洞を埋めようとして更にむなしくなりそれでも「同級生の動向をたえず気にして妬んで寝込むほど」であるから就職もしていないのに同窓会に行って結局むなしい気分になるのであり、とにかく一人のみすぼらしい若者が小規模に彷徨を続けるのである。これもまた広い意味でラブコメであり大変結構だが、俺はボクシングジムに通ったり同窓会に行ったりはしない。ただ家で本を読むか妄想に浸るかである。そのあたりのベクトルが違うのだ。
作者や俺のような目立たない駄目人間には恋愛やスポーツなどという華やかな世界ではなくその種の青春がお似合いであり、俺も本書を読んでいちいち共感できたがやはり根本的に違和感があるのはそこに「死」があるかないかである。俺の場合は冗談でも何でもなく「いつ死ぬかわからない」という強迫観念めいたものがあって意味もなく本屋に行くのも意味もなく電車に乗って遠くへ行くのもいつ死ぬかわからない俺の糞のような人生にはお似合いだと思っていたが、作者の場合はとにかく意味もなく本屋に行くぐらいなら周りの若者のように意味のあることをしようと思い結局できず、「こんな日々がずっと続くのか」とこの先何十年と生きることを前提で悩んでいるわけである。また作者は現実の女に夢中になり結婚するが俺は厚化粧という鎧をかぶった現実の女に興味はさらさら無く二次元で腹一杯であり、社会人になって風俗の味を覚えてからはますます現実の女がどうでもよくなって一体現実の女の何がいいのか理解不能なのである。
そんなこんなで結局5位となったが、本書のように「恋愛やスポーツとは縁のない大多数の若者」の、直視したくないみじめさ・みすぼらしさを真正面から描き切った作品は非常に貴重である。本書もまた俺の提唱するラブコメの一つの到達点であろう。
4位:くっとろい奴〜キャバレー王物語〜/牛次郎・ビッグ錠[宙(あおぞら)出版]
- 作者: 牛次郎,ビッグ錠
- 出版社/メーカー: 宙出版
- 発売日: 2007/12/01
- メディア: コミック
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そんな愛すべき主人公は一つの信条を持っている。「わいみたいなニブイ奴のことを『くっとろい奴』ちゅうんやそうですわ。けどわいその『くっとろい奴』ちゅうのん好きでんねん。亀みたいにくっとろく生きていくつもりだす。皆がどんどんわいを追い越して行きよるけど亀は亀なりに黙々と自分の道を歩いて行くしかしようがおまへんねん。そら歩いて行く道には落とし穴もあるかも知れまへん。穴に落ちたら出ることだす、そんでまたノロノロ進むんや。そらちょっとずつしか進まへんけど…絶対前に進んでいるんだす。それでええやおまへんか」として、わいはわいなりのやり方でどでかい花火を一発打ち上げたると戦う姿を我々は万雷の拍手で迎えようではないか。やっぱりこういうやつをね、俺は待っていたわけですよ。
主人公は独特のマイペースさと度量の広さで傷心した美人ホステスを助けその美人ホステスと同棲するようになり、以後美人ホステスは縁の下の力持ちとして主人公を支えるようになる。その間にも一介のボーイから社長にまで上り詰めた「キャバレー太閤」と意気投合した主人公はその破天荒な発想と周到な準備によって次々と「キャバレー」の既成概念をぶち破り、主人公もまたキャバレー界を上り詰めていくのである。社長の愛人まで引き継がれこれぞ男の生き様である。
本作が素晴らしいのは、主人公はあくまで「くっとろい奴」として女も金も手に入れるのであり、ダイエットしたり整形したりオシャレに精を出すようなことはないということである。これが今の世であれば「君もそれなりに偉くなったのだからそれなりに身を整えて…」とわけのわからん進言をされまたそれを当然のように受け入れるところだが(2005年度1位「電車男」は脱オタクしてしまった)、自分は「くっとろい奴」としてここまで来たのだからこれからも「くっとろい」男で行くと胸を張って世間に挑戦していくのである。かっこいいねえ。これぞ男が惚れる男がいうやつですよ。俺もどんなに偉くなっても(もしもの話ね)ラブコメラブコメと恥ずかしがらず言い続けることにしよう。
3位:だめよめにっき/私屋カオル[双葉社:ACTION COMICS]
- 作者: 私屋カヲル
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2008/01/12
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夫婦の日常を描いた四コマは数あれど、本作が群を抜いてしかも3位までなったのはこの妻が夫に対して尋常ではない愛情を注いでおりそれがコメディとして成立し、更には癒され効果もあったからである。何せほとんど喋らずに夫に抱きついたり布団にもぐりこんだりするものだからそれだけ妻の夫に対する愛情が大きく見え、愛に飢えている俺には素晴らしく映るのである。
夫婦というのは当然ながらゴールインした後の「めでたしめでたし」以後の物語であるからドラマ性はほとんどない。浮気や不倫となれば話は別だがそれはラブコメではなく、その中でドラマ性を持たそうとすれば「ふたりエッチ」(1998年度・1位)のように性行為の勉強という別のドラマを用意しそれに付随して夫婦の日常的な愛を描く方法しかなく、別のドラマを用意できなければただのほのぼのエッセイになってしまう。だが本作の場合は特にドラマを用意したわけでもないのに妻が夫の一挙手一動に反応するという勢いだけで物語が展開されるという大変パワフルな作品なのである。どうやら作者もまた新婚1年目のようであり、恐らく新婚の有り余る幸せパワー(反吐が出るぜこんちくしょう)がこの作品を描かせたのであろう。ということは今は夫に極めて従順に炊事洗濯掃除をしているがこれが3年経ち5年経てばこの熱烈な愛も醒めてそれらもやらなくなってしまってこの作品の土台が失われることになるのだろうか。いやしかし1巻だけというのはもったいない。作者にはもっと夫婦生活とやらを謳歌してもらって(反吐が出るぜこんちくしょう)我々を癒してもらいたい。は。結婚ですか。いや俺はちょっと…ねえ。まあでも、うーん。
2位:描きかけのラブレター/ヤマグチノボル[富士見書房:富士見ミステリー文庫]
- 作者: ヤマグチノボル,松本規之
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2004/08
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絵を描く以外に取り柄のない主人公は偶然学校一の美人のヒロインと知り合いになる。どう美人かというとそれはもう男女共に尻尾を振って後ろをついていく奴がわんさかいるぐらいの美人であって、俺も諸君もそうだろうが主人公もそういう女はろくなもんじゃないと思って関わり合いにならないようできるだけ避けたり努めて話しかけないようにするのだがそれがヒロインには気に入らないらしく、弁当を食われたり教科書を女子ロッカーに置かれたりするのである。そのような戯れはもちろん素直になれない少年少女の裏返しの交流であり、互いのどうしようもない恋心に戸惑い弄ばれながら時に理解しあい時にすれ違い、大学進学や友人同士の諍いや親の死を乗り越えながら主人公とヒロインは結ばれるのである。いやあこれほど直球の恋愛小説は滅多にないね。特にこの、お互い何となく好き合っているのはわかっているのに本当に言いたいこと聞きたいことまで辿りつけずにすれ違いの日々を送るというのがいいね。まあラブコメっちゅうのはいきなり全裸で抱きついてくるような女ばかりだが俺は本作を真面目な恋愛小説として読んだので十分満足である。それに「取り柄のない平凡な主人公」が「学校一の美人」といい関係になるのだからもうそれだけでラブコメである。そこに親の死や友人の恋愛事情に巻き込まれたりして物語としての深みもあってとにかく素晴らしい作品である。
「わたしね、あんたと初めて会ったとき…」
「うん」
「あ、こいつ、わたしのこと好きだなって、そう思った。だから、あんたがわたしのこと、無視した時、すっごい頭にきたのね。なによ、好きなくせにって」
僕は黙っていた。
「だから、ずっとあんたを見てた。むかついたから」
「お前がむかついてたのは、知ってるよ」
「初めてだったのね」
「なにが?」
「人を好きになるの、初めてだった。だから、それが、好きだってことに気づくのに、三年かかった。バカみたい」
ちょっと怒りを含んだ返事がふすま越しに届いた。
「あんたのことはすごく好き。でも、これだけは直して欲しい」
「わかった」
「死んだほうがいいと思うぐらい、鈍感なとこ」
僕はちょっとむっとして、言った。
「ああ、直すよ」
「なんでわたしが、寝た後もこんなに話しかけてるか、少しは考えて」
僕は考えた。当然の結果、黙った。すると、ヒロインの疲れた声がした。
「ここまで言っても、わかんないのよ。あんたって人は」
「せめて、ヒントをくれ」
ため息が聞こえた。長いため息のあと、吐き出すようにヒロインは言った。
「一回しか言わないからね」
「うん」
「あのね」
「なんだよ」
無限に感じるような時間が過ぎたあと、ヒロインはゆっくりと言った。
「わたし、寒い」
1位:僕の小規模な生活/福満しげゆき[講談社:モーニングKCDX]・うちの妻ってどうでしょう?/福満しげゆき[双葉社:ACTION COMICS]
- 作者: 福満しげゆき
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/12/21
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うちの妻ってどうでしょう? 1 (1) (アクションコミックス)
- 作者: 福満しげゆき
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2008/04/28
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「僕の小規模な生活」は5位「僕の小規模な失敗」の続編でもあるがその完成度は桁違いである。なぜなら「失敗」はただ冴えない青年の愚痴や妬みを思いつくままに書き連ねるだけであったが(だからあんなにコマを小さくして所狭しとモノローグがあったのだ)本作ではそんな自分を嘆きつつも客観的に魅せることに成功しているのであって、その安定感が抜群なのである。「失敗」における主人公(=作者)のコンプレックスの大部分を占める「彼女が欲しい」が5歳下の見てくれは可愛い妻を持ったことで克服され、いい歳してバイトをしたり漫画の持ち込みをしては不採用となる自分のかっこ悪さを嫌味なく見せる力量がパーフェクトに発揮されているのである。「失敗」の最初の方では人の絵が「顔や目はでかく首から下が細く小さい」という典型的なサブカル系の病んだ絵だったのが「生活」が進むに従ってどんどん身体全体が太くなって顔も丸みが出てきて安定感を醸し出し、それに伴い愚痴や被害妄想も刺々しさがなくなってユーモラスになって大変読みやすく素直に楽しめるようになっていった。言わば主人公(作者)もそれなりに落ち着いてきて大人になったのであり、これは同じく今は落ち着いてサラリーマンをしている俺としても大変嬉しいものがある。
そして主人公(作者)はそれなりに評価され出版社のパーティへ行ったり編集者に接待されたりするわけであるが、それも結局は漫画が調子がいいからであり自分の腕に自信を持てるほどでもない主人公(作者)はどこかぎこちなく、酒の力を頼っては余計なことを言って後悔し、大手出版社のエリート達を前にしてびびりながら虚勢を張って更に後悔し、それを描くことで読む者を共感させるという優れた私小説ならぬ私漫画となっているのである。これが「うちの妻ってどうでしょう?」になると更に軽い内容となって妻の変なところや日常で思う愚痴や不満(「あいつもこいつもコネでやっているに違いない」「愚痴っぽくって何が悪い」「女性なんて性欲の対象としてしか見れない」)を「まあ僕みたいな冴えない男のただの愚痴という事でちょっとお聞きください」という感じで我々に訴えかけてくるのでありこれまた実に共感して読めるわけである。自分のことは棚に上げて「あいつは阿呆なのか」「実は相当頭悪いのでは」「行け、僕のポケモン」と毒舌になるところも妙に共感できる。とにかく俺や諸君のような冴えない青年がそのまま漫画になって不平不満不安愚痴嫉妬をわめき散らしそれを読んで俺や諸君は「ガッハッハ」と笑ってああ楽しいですなあとなるのであり、これこそラブコメの完成型なのである。いやあ生きてて良かった。こんな漫画があるんだからなあ。
さあ今年の更新は残すところあと1回であります。そして一年で最も恥ずかしい日本ラブコメ大賞成年部門を発表するのであって俺はまだ生きておりますぞ。