さてさて今年も残すところあとわずかとなり俺の命もあとわずかかどうかはわからぬがわずかであるとしてそれがどうしたというのだ俺がラブコメなのだ。そのようにして日本ラブコメ大賞2007はいよいよ最終段階へと入り1位が発表されるのだが前にも言ったように今年は近年稀に見る混戦模様であって、どれが1位になってもおかしくないがどれになっても物足りないというこの二律背反を俺はいかに克服したか。とくとご覧あれ。
10位:キミキス アンソロジーコミック[エンターブレイン:マジキューコミックス]
9位:キミキス/東雲太郎・エンターブレイン[白泉社:JETS COMICS]
キミキス アンソロジーコミック(1) (マジキューコミックス)
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2006/07/26
- メディア: コミック
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キミキス 1―various heroines (ジェッツコミックス)
- 作者: エンターブレイン,東雲太郎
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2007/02/28
- メディア: コミック
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ゲームの方は未プレイであるが、キスにドキドキする女子高生たちと主人公(俺)という図式は考えてみれば久しぶりではないか。いやまあ待てエロゲーでそんなものはゴマンとあることは知っておるが、いざそういう直球ギャルゲー漫画版というのが本当にあるのかね。ファミレスが舞台とか変身するとか魔法使いとかではなく本当にただの学園ものでクラスメイトや先輩や後輩と放課後一緒に帰るだけで胸が高鳴るような作品というのは実はほとんどないのであります。最初は他の人より少し気が合うだけだったのがやがて気になる存在となりキスへと至るというのはまさに青春ではありませんか。もちろん俺は女と付き合ったことなどないが実際の話現実もこんな感じではないのかな。
そこで俺は問いたいのだが、一体いつから漫画というのが現実を離れてロボットやら神様やら、あるいは突然娘がやってきたとか女子高に男一人が潜入するというような非日常が舞台になってしまったのかと思うのである。そのような突飛な設定を最初から用意しなければ話を広げることができないのは明らかに想像力の貧困及び怠慢なのであって、本作のようにどこにでもいるような高校生の誰にでもありえるような物語にもかかわらず面白く描く者こそ真のストーリーテラーでありラブコメであると俺は信じるのである。俺の提唱するラブコメ世界においてはヒーローなどいらぬ。
などと言っておきながら他方で本作のもう一つの魅力である「現実にはありえない都合のいい女」を求めるお前は何なのだという声が聞こえてきそうだが、その通りそれこそラブコメの永遠の課題なのであるということでここは一つ逃げるとして白泉社版における自然にお互いが好きになっていることが違和感なくストーリーに溶け込んでいる描写力というのはなかなかのものである。これは作者の力というよりこの原作の持つ魅力と言ってよく、ギャルゲーというのもまだまだ捨てたもんではないな。更に言えば時々びっくりするくらいエロいのもまたいいですな。
8位:謎の彼女X/植芝理一[講談社:アフタヌーンKC]
- 作者: 植芝理一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/08/23
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ラブコメにも冒険があってしかるべきである。即ち平凡で普通のおとなしいどこにでもいる青年がなぜか不思議な場面に遭遇するというやつである。お前それはさっきキミキスの時に言ってたことと違うやないかと思われるであろうがまあしばし待て俺は何も宇宙船に乗れとか妖怪と戦えなどとは言っていないのであってあくまで日常の範囲内でしかし「事実は小説より奇なり」と言うのはひろく万民に認められているわけであるからやはり通常では考えられないことが主人公にふりかかった方がラブコメとして面白いと言っているのである。そして本作がそれにてきめんなのであって、つばを飲ませたり常人ならぬハサミさばきを披露したかと思えば「私はあなたの彼女よ」などと言う女はまさに謎で飽きることがなくこれも冒険の一種と言えよう。こういう冒険なら大歓迎である。
また本作の場合ヒロインが何を考えているか皆目見当がつかないが折に触れ「私は主人公の彼女で近いうちに色々なことをやる」と意思表示し読む者を安心させるのである。ヒロインが主人公に対して自分のことをどう思っているのかとか本当は他に好きな女がいるんじゃないかとヤキモキするのは一向に構わんが(むしろその方がラブコメ話として面白い)主人公がヒロインに対しそのような心労を負うのは主人公に感情移入し一体化している俺としては何としても避けたいところなのでありそのあたりについても本作はクリアーしているわけである。こういうのはなかなかないぞ。
ちなみに本作1巻もまた「2月の動乱」三日目の2月28日12時44分にBOOKOFF14号墨田両国店で買ったものである。いやあ改めてあの三日間はすごかったなあ。本作にしても何の予備知識もなくただ本棚を見た瞬間にビビッときたしなあ。あの研ぎ澄まされた瞬間を我が物とするためにはやはりもっともっと精進しなければいけませんね。
7位:逆境戦隊バツ[×]/坂本康宏[早川書房:ハヤカワ文庫JA]
- 作者: 坂本康宏
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/11
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本作はそのあまりの素晴らしさに紹介することさえためらわれるぐらいであるが、かいつまんで言うと怪物を倒すヒーローというのはコンプレックスを持った輩でないと駄目なのである。なぜなら自身が持つ強い劣等感こそがヒーローとしての力の源になるからであって、それにより主人公は一生縁がないだろうと思われていた社長と懇意になり(結局あやつられていたのだが)社内一の美女とデートの約束をしたりして周囲から羨望の眼で見られるのである(そうすると劣等感がなくなってきて怪物化の危険があるのだが)。これこそラブコメの醍醐味というものであって、パッとしない平凡な男が突如幸運に見舞われあれよあれよとめまぐるしく変化する周りに戸惑いながらも事件の中心として活躍するというのは大変いいものである。やっぱりね、ロマンですよ。
惜しむらくはサド女が出てくること(サドの俺がサド女を好きにはなれぬ)と、主人公の劣等感というのが工夫がない割りに延々と続くところが少し辟易することである。それはまあ俺も主人公も阿呆ではないので社会に何の役にも立たないことに劣等感を感じるのは当然であろうが、しかし我々は生活のためには嫌々働かなければならないのであり仕事ができないところでやはり金のために一生懸命働くというただそれだけでいいと俺は考えているので結局劣等感というものを過剰に強調する本作にはその点やや違和感を感じたのである。そんなに自分を劣等感の渦に放り込まなくていいと思うしデブでブサイクで女にもてなくてもラブコメや政治という趣味を持っていれば休日も退屈せず楽しく過ごせるのでやはり劣等感というものをほとんど意識しない俺には主人公の過剰なまでの劣等感にはあまり理解(感情移入)できず7位となった。まあそのあたりの感覚というのは俺の深層心理にまで関わってくるので難しいですな。特に俺のような頭のおかしい人間と諸君には深刻な乖離があります。
それにしてもハヤカワ文庫というのはこの先一体どういう方向性を狙っているのだろうか。この前田中哲弥の「大久保町」シリーズがハヤカワ文庫で再刊されていて驚愕したが、何かねライトノベルスになるのかね。かつて星新一小松左京筒井康隆をはじめとするSFの大御所たちがこぞって集結したこのレーベルをライトノベルスとかいう将来の見込みゼロなものにしないでほしいね。何度も言うが俺としてはそういう「ライトノベルス」を一般の文庫と一緒にしないでほしいのである。俺が抱いている「文庫」のイメージが完全に破壊されてしまうし、ライトノベルスに引っ張られて文芸作品全体の質がこれ以上落ちるのは一読書人として死活問題だからである。
ちなみに本作1巻は3月31日20時52分にBOOKOFF西台高島通り店で105円で買ったものである。このような3000円級の本を発売後四ヶ月で105円で買うことができた俺ってすごいと思いませんか思いませんねそうですね。
6位:風見鶏☆トライアングル/さのたかよし[竹書房:BAMBOO COMICS]
風見鶏☆トライアングル 2 (バンブー・コミックス NAMAIKI SELECT)
- 作者: さのたかよし
- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 2007/03/17
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今でこそ成年コミックはプロ顔負けの漫画が乱れ咲く大変華々しい舞台であるが、昔(といっても俺が高校生ぐらいの頃だから7〜9年前か)はひどかった。何がひどいと言って全てがひどかったのである。作画力・構想力・その他諸々とにかく「アマチュア」がやっていることが一目瞭然でありまさにその場限りの「エロ本」であった。最も当時はそういう「アマチュアっぽさ」が普通であったがとにかくプロではないから自己満足か適当な作品しかなかったのであり(そもそも「作品」というほどのものではない)当時から大和姦論者であり成年コミックラブコメ推進協議会会長(事務局:脳内)だった俺はずいぶんひもじい思いをしたものであり作者の作品もまた滅茶苦茶であったのだ。
では翻って本作はというと滅茶苦茶ではなく面白いのである。いや滅茶苦茶の片鱗はそこかしこに見えるのだがそれが物語全体に破綻をもたらすどころかむしろより面白くさせているのであって、これはもう作者の経験の賜物であろう。漫画読み10年選手のベテランの俺から言わせれば、時々こういう風に今まで滅茶苦茶の描き飛ばしをやっていた奴がふと面白い漫画を描いたりするわけで、当初滅茶苦茶にするつもりだったのだろうがいつの間にか話がうまい具合に出来上がって更に面白くなっちゃたりするのである。要は年齢と共に丸くなったということかな。俺も最近はラブコメ以外の漫画アニメゲームを見ても少し不快になるだけで昔のように怒り狂うことはないのだからずいぶん丸くなった。
本作はドタバタラブコメであり社会人又は大学生を主要人物に設定したというところがいい。またストーリー自体はあくまで「陽気なノリ」をベースにしながらコメディとして進行していくのであるが随所に微妙にして繊細な女心というやつが散りばめられていて読むものを興奮させよう。青臭い中学生高校生ではないからしっかりヤる時はヤるというのもよろしい。これこそ大人なラブコメである。そして特にとりえのない主人公をめぐって同僚と後輩兼従姉の2大ヒロインがそれぞれ主人公の気を惹こうと時に可愛く時にいやらしくアピールするというのはこれラブコメの最大の快楽であります。何度も言うがこれは青臭い子供の漫画ではないので主人公は両方ともヤってしまうのでありそれを知ってなお両女とも主人公を我が物にしようとするのでありそれは非常にラブコメ的快楽的でいいものですね。そこにせつない女心燃える女心が加われば文句なしであります(「なんでこんな男って思うわよ。でも仕方ないでしょ、好きなんだから」)。女という女は全部俺に惚れるっつうわけですな。いやあもてる男はつらいねえ。そうだねえ。いやあ。
5位:魔法少女猫X/おりもとみまな[角川書店:角川コミックスドラゴンJr]
- 作者: おりもとみまな
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/12/01
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本作は人と姿かたちがほとんど変わらぬ「獣人」ヒロインと主人公が、暴走する獣人たちを取り締まる役目を負わされるところからはじまるラブコメである。ただし普通のラブコメと違うのはヒロインと主人公のラブコメ的コミュニケーションが非常にSM的でありそれも主人公がヒロインを日常的に殴る蹴る罵倒するというところであって、マゾ的なラブコメ主人公にほとほと辟易していた俺は歓喜し射精した。ヒロインは獣人でありあくまでもペットであるからそのような描写も可能なのであるがいやはやなかなかいいものである。やはり女を力でもって圧するというのは何かこう男の原初的な欲望としてあるわけですな。ヒロインの方も「私はご主人様のペットですから。ペットはご主人様のために存在してますから。だから命令どおりに云々」と言うのであり人間の女とほとんど変わらない格好でそんなことを言われるというのはあなたなかなかない経験ですぞ。
というわけで本来なら5位どころか1位になってもおかしくない(中間報告ではそうだった)本作なのだが難点が2つある。一つは主人公が公務員の母を持ち暴走獣人(EVO)を取り締まるための保健所分室として秋葉原に居を構えるという点であって、それは君「平凡な主人公」ではないのだよ。平凡な主人公と称しておきながら柔道何段とかクラスの人気者だとか大金持ちというほどひどくはないがしかしこれは非常に特異である。だが何より許せないのは本作ではBOOKOFFに対する批判が描かれている点であって、まあ「批判」というほど強烈なものでも真面目なものでもなく作者としてはちょっとした皮肉のつもりで描いたのであろうし俺もそのぐらいは許容してもいいとは思うが、しかし休日にBOOKOFF等の大型古本屋に行くことがこの俺のひどい人生の少ない少ない楽しみの一つなのでありやはりそれについて俺は笑えなかったのである。
これはもうはっきりと言うが利害問題であって、出版側は高く売りたいし消費者側(俺)は安く買いたいわけである。だから俺はBOOKOFFを擁護する。文化の利益だか何だか知らんがそんなもののためにわざわざ高い金を出す奴がこの弱肉強食の21世紀ジャパンにいるわけがないというのが俺の考えである。それが経済というもので、BOOKOFF等を支持する宣言を今ここでしよう。そんなことをすると漫画産業が崩壊すると言うが、だからと言って法や政府の手厚い保護を求めるというのは諸君の大嫌いな公共事業と同じではないかね。所詮みんな自分だけは守ってほしいわけで、そんなんじゃ何の解決にもなりはしないのである。BOOKOFFに持っていかれないような作品を作れば問題ないだけだというのに。
4位:ハゲルヤ!/福本岳史・北河トウタ[角川書店:角川コミックスドラゴンJr]
- 作者: 北河トウタ,福本岳史
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2006/09/28
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主人公は普通の高校生であるが、どうやらハゲが進行しているらしいのである。それもお前のいう「平凡」というやつから逸脱しているではないかと言えばさにあらず、それは俺のような「平凡」な人間誰にでもふりかかる可能性がある病気的なものであって、俺はそこまで否定しない。「スポーツマン」「クラスの人気者」「親が金持ち」というのは限れた人間にのみ与えられ大多数の人間には手の届かないものであるからして拒絶するのであって、大体ハゲになるのは俺のようなうだつの上がらない男と決まっておるではないか。
などとハゲ論を言いたいのではなく、俺が考えたいのは主人公とヒロイン(ハゲ研究の美人教師)の関係性についてである。通常ラブコメでは「平凡な主人公」と「美人でスタイル抜群で云々なヒロイン」が懇意となるわけだが、他人同士が懇意になるには理由が必要である(平凡男と美人女ならなおさらである)。そしてその懇意になる理由というのはできるだけ普遍的、誰にでも起こり得る偶然的要素が大きいものであればあるほどよい。その考えからいくと「幼馴染」や「小さい頃結婚の約束をした」というのはあまり歓迎するべきはなく、「偶然出くわした事件で知り合いになる」パターンが望まれるのだがそのような話を作ることは非常に難しくもある。まあ「一目惚れ」ということで強引にくっつけることもできるが、ああいうのは本当に現実にあるのかね。あるのなら現実というのもずいぶんと都合がいいものだが、今度会社の女に聞いてみよう(無理・無謀・不可能)。とにかくそのような考えを念頭に置いてみると本作は非常に良く出来上がっているのである。
まずハゲに悩む高校生がいる、そして美人教師はハゲ研究に熱心である。そのようにして二人は懇意になるのであって、少々馬鹿らしい感じがしないでもないがこれほど明確な「懇意になる理由」があればよく言われる「ラブコメ=非現実的、もてない男の妄想」という社会認識も変わりラブコメはもっと発展するとも考えられよう。大体「電車男」があれだけ受け入れられるのだからラブコメは必ずしも嫌われ者ではないのだ。嫌われ者は俺だけで十分だ。
本作はいわゆる「真面目さがそのままコメディ的意味合いを持つ」作品である。美人教師は主人公を追い回すのであるがそれは「私の研究(ハゲ)に協力できるのはあなたしかいない」からである。美人教師と共通の話題で話ができるのは嬉しいが誰にも言えない秘密(ハゲ)についてとやかく言われるのはいやだと逃げる主人公、追う女。女のハゲに対する情熱たるや男子トイレまで追いかけてくる始末であり、このように女の方が主導権を握るシチュエーションコメディというのはどこかで見たことがあるような気がするのが、具体的な作品名が出てこない、よって本作は貴重なのである。
コメディというものが阿呆なこと、悪ノリすること、とりあえず騒ぐことだと誤解している輩が多すぎる気がする。もちろん作品や話の内容によってはただ阿呆のように悪ノリすれいいだけの時もあるが、コメディというのはユーモア精神に溢れているものをいうのであり本作のように「ハゲ研究に情熱を燃やす美人教師と、その研究対象に選ばれた主人公」という男としてうれしい状況にありながらしかしうれしくないしかし美人教師と二人っきりで会うという状況でどうしていいのかわからず右往左往する展開というのはなかなかつくり込まれた上質なユーモアと俺は考える。育毛ラブコメ万歳。
3位:RaPuTEKI/ハザマ☆マサシ[講談社:シリウスKC]
- 作者: ハザママサシ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/08/23
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本来ならば俺は日曜に本を買うことはない。それどころか日曜は外出もせず月曜以降の地獄に備えて身体を休める(ひたすら寝る)のが常であるが、本書を買った1月下旬〜2月上旬というのは第二次大病戦争がまた本格的に再開するかもしれぬ瀬戸際にあり(結局杞憂に終わったが)2月4日の日曜日に俺は家でじっとしていることができず外出してしまったのである。まあ前日2月3日に訪問したBOOKOFF千駄木店の品揃えがひどかったというのもあるが、いやあ色々大変ですねえ。とりあえず死ぬその時まで生きようとは思うがねえ。
さて本作がどういう風にラブコメかというともう表紙を見ただけでわかるではないか。この表紙の絵から露骨に過剰に発せられる「ラブコメ臭」を感じられない奴というのが本当にこの世にいるのか疑問だが、諸君の予想通り本作は平凡な主人公(ただし頭はいい。数学の天才らしいが、まあそのあたりは許容しよう。俺も自分のことを「頭がいい」と勘違いすることはよくあるからな)に対して「好き好き大好き主人公」なヒロインが登場し密度の濃いラブコメが展開されるのである。ヒロインの行動全てが「好き好き大好き主人公」を源泉としており読む俺としては非常に心温まるわけであり、そこにヒロインのライバルがやってくれば二倍三倍面白さは増しほとんど無敵である。更にヒロインをはじめとして主人公にちょっかいをかける女というのがもちろん可愛いのだが少し頭のネジがゆるんだような個性的な面々ばかりでありそれによって主人公の「普通さ」が相対的に強調されるその描写は一級品である。お見事。普通のラブコメなら3巻分は必要であろうラブコメ量を1巻に濃縮した本作はこの先十年は手放せませんなあ。
しかし裏表紙の「ステキメモリアル&ラブハンティング」というのはどういう意味かね。何というかその、こっちの方が恥ずかしいわ。
2位:まぶらほ〜メイドの巻〜/築地俊彦[富士見書房:富士見ファンタジア文庫]
まぶらほ―もっともっとメイドの巻 (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: 築地俊彦,駒都えーじ
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2006/06
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本メイドシリーズはこれまで4巻が刊行され、今年俺はそのうち2・3巻を購入し読んだわけである。では1巻はというと3年前の2004年3月に購入し同年7月の「鉄血革命」により古本屋に売られているのである。話はそれるが「鉄血革命」とは俺が行った聖域なき構造改革であって、当時既に1000冊を越える書籍を抱えていた俺がその3分の2を必ず売るもしくは手放すことを断行した人生史上初の経済改革のことである。当時の俺の意気込みは鬼神もこれを避ける勢いであり(と俺は今振り返って率直に思うのだ)、残りの余生はこの売った本を再び取り戻すことを唯一の目的としようと毎夜毎夜涙に暮れたものである。俺は今でも鮮明に覚えているが7月27日・28日・29日の3日間に渡って俺は673冊を新鮮古本東西南北店(仮称)へ持っていき従業員を驚愕させたのである。3日目にまた来たときの従業員の驚いた顔(確か「野々村」という名前だった)は忘れられない。
そしてその鉄血革命による売放リストに本作1巻を含んだ理由はただ一つ、俺が繰り返し主張している「主人公を『いい人』にするあまり全く人間味のない現実感のない『いい人』にしている症候群」に陥っていたからである。本2巻・3巻ではそれほどでもないがこの外伝1巻ではひどかった。もちろん当時の俺(社会の荒波にさらされずぬくぬくとした大学生活で怠惰と惰眠を貪る)から見ての「ひどかった」であるが、手放すに足る条件を備えていたことは確かである。そのようにして本作と俺の関係は断たれ、3年後の7月15日(@古本市場AKIBAPLACE店。おお)に再会するわけである。
諸君も薄々わかっているだろうが、その通りその1巻さえなければあるいは「主人公を『いい人』にするあまり全く人間味のない現実感のない『いい人』にしている症候群」にかかっていなければ本作はぶっちぎり文句なしの1位だったのである。今回の選考において最も頭を悩ましたのはまさにこれなのであって、2・3巻においてはその「人間味のない『いい人』症候群」は全く出ていない(既にその「人間味のない『いい人』」的行動によってヒロインの心を掴んだのであるから、もはや「いい人」を誇示しなくていいのである)しラブコメ描写も豊富であるから1位にしてもおかしくはないが、しかしそれは世界のラブコメ王として君臨する(脳内の話だヒステリーユーモアだ、といちいち断らないと冗談が通じない奴が多くて困る)この俺が「主人公を『いい人』にするあまり全く人間味のない現実感のない『いい人』にしている症候群」を間接的に認めたことになりそれは絶対に避けねばならなかったのである。
しかしそのような1巻の汚点を考慮に入れてもなお本作は2位となるのである。なぜなら本作二大ヒロインの主人公への傾斜たるや尋常ならざるものでありそれはもう「ヤンデレ」の域を超えているのである。ヒロイン二人にとって主人公(俺)は「全て」であり、溢れんばかりの愛情が注がれほとばしる戦闘力はただひたすら主人公(俺)のためにつぎ込まれるのである。「好き好き大好き主人公」ではなく「愛愛愛そして愛」のレベルでありこれこそ俺が理想とするラブコメの姿である。対する主人公(俺)が「中流家庭」「精神的にかなりの貧乏性」と強調するところもまた良い。これで1巻さえなければなおよかったのだが、とにかく最強の軍事メイド(まあ細かいところは実際に読んでみて下さい)が平凡な主人公を守ろうそして我が物にしようとする展開には脱帽するのみである。ひたすら主人公への愛を宣言してはばからないイケイケゴーゴー女と、「自分を捨て、愛と真心をご主人様に捧げる」良妻女に挟まれる主人公(俺)。いわゆるラブコメというのは前者が強調されがちだが、いやはや後者もなかなか圧倒されるものがある。まさしくラブコメ。ああこのような作品に出会えて俺は幸せ者だ。
1位:ゾクセイ/松山せいじ[秋田書店:少年チャンピオンコミックス]
- 作者: 松山せいじ
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2007/05/08
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ラブコメの主人公には「どこにでもいるような平凡な男」であるという匿名性通俗性が求められる。そうでなければ感情移入できないし、感情移入できなければ(つまり主人公と自分が同じでないとすれば)そのラブコメは「自分とは違う誰かが女にもてる」だけの胸糞悪い唾棄すべき阿呆でしかないのである。その点本作では主人公(というよりヒロインの相手となる男)ははっきりと顔が描かれず、ご丁寧にも名前の部分が「○○」となっているのでエロゲーの名前変更機能のようである。まさしく究極の匿名性と言えよう。実際にこの○○の部分に自分の名前を入れてみたらこれこそ漫画と現実の融合というやつである。ぬわはははははは。
本作は正月帰省中の1月2日(@ブックトワイライト(仮称))、「2月の動乱」二日目の2月25日(@BOOKOFF糀谷駅前店)、更にまた帰省中の6月29日(@古本市場魚住店)に購入したものであり、それぞれ俺が今年最も元気な時期に購入されているのも1位となった遠因と言えよう。しかしやはり1位となった最大の原動力は本作の三つのコンセプトである「毎回違った属性の女を登場させ」、「その女と主人公を親密にさせ」、「その主人公というのははっきりと顔が描かれず更に名前も『○○くん』と表示させる」なのである。そしてこのようなどこにでもあるギャルゲーのような設定でありながら1位となったのは毎回毎回実に多彩なヒロインを登場させそのヒロインと名無しの主人公が違和感なく必ず懇意となるという展開を忠実に描き続けるその継続力によるものであり、この継続性こそが大混戦を勝ち抜いた最大の理由なのである。ラブコメというのは一度や二度なら誰にでもできるがそれを毎回毎回手を変え品を変え継続して何年もやるというのは実は大変なことなのである(俺ですら時に食傷気味になることがある)。まぎれもなく本作こそ日本ラブコメ大賞1位・今年最も優秀なラブコメ作品なのである。賞金1000万円は株式会社はてなの誰かから出ます(はてなスタッフの山田さんかな?)。
ああやっと終わった終わった、この長い長い愚痴もやっと終わったかと思うのはまだ早い。次は成年部門ですぞ。もはや生きる力も湧いてこない俺はただ勢いによってのみ今年を乗り切ります。