Ⅳ ゴールデン大病

  
 第二次大病戦争は終わらず。
 というわけで今年も日本ラブコメ大賞もいよいよ大詰めであります。しかし本当に2006年という恐ろしい年が終わるのだろうか。そして2007年もまた人生の恐怖の大王が降ってくるのだろうか。ボーナスが入り、薬漬けの効果でやっと病状も安定して調子が出てきたかと思えば今度は仕事の方がやばくなってきやがった。金・仕事・病気この三つがきれいにそろったことは一度もない。人生なんてそんなものなんだろうか。学べや恋の夏期講習。
  
第10位 コーヒーもう一杯/山川直人エンターブレイン:ビームコミックス]

 さて今「これのどこがラブコメやねん」と思った不届者がいたら今すぐ出て行けこの野郎め。そんな奴はラブコメの認識が根本から間違っている無礼者なのだ。ラブコメであろうがなかろうが平凡で地味な青年を主人公にしていれば自ずから物語進行上ラブコメ描写は出てくるのだ。だから世に言う「ラブコメ」と俺の展開する「ラブコメ」は違うのだと何度行ったらわかるのだ何だあのふざけたメールの数々は。こんな時だけよこしやがって。というわけで本書はコーヒー好きの普通の人々が淡々と日常を生き非日常に巻き込まれてもやはり淡々と生きていくその一瞬を切り取った静かで穏やかで面白い漫画なのである。喜びも悲しみもコーヒーと共に飲みほせば自然と生きていく気力が湧いてきそうな不思議な魅力にとりつかれ見事10位となった。また本作品は今年唯一順調であった7月の8日・15日に購入されておりそれもまた本作品のイメージを一層良くしているのかもしれない。本というのは作品それ自体も去ることながらそれを買った時読んだ時の状況も非常に重要なのである。それが出会いというものだ。
  
第9位 はっぴぃ・ゆめくら/黒岩よしひろ双葉社:ACTION COMICS]

 いやさすがにTOP10ともなるとレベルの高い作品がどんどん出てきますなあ。これでこそ血眼になってラブコメを探し続けた甲斐があるというものです。何度も言うように双葉社の作品でありまあお気楽極楽にヤるわけだが、本作の場合その棚から牡丹餅的展開が群を抜いて妄想的であり意識的にハーレムを形成する心意気に脱帽である。読む俺はただひたすらこのラブコメハーレム的世界に没頭すればいいのであるがそれはこのように完全に妄想具現化した世界があるからこそ可能なのであって、もはや作者の感性と読者の感性の偶然の昇華でしか「没頭」などありえないのである。エロ小説家になりたい男を応援する女というのはもうそれ自体が男の妄想ですがいいもんですなあ。
   
第8位 愛しのかな/田中ユタカ竹書房:BAMBOO COMICS]

 さて田中ユタカである。純愛和姦の総本山とは俺のことだが永遠の純愛和姦作家と言えば田中ユタカである。ついに一般ラブコメ部門に登場というのは非常に喜ばしいことで本人もさぞかし嬉しいことでしょう。本書は発売日から一週間も経ってないはずの7月29日に古本市場AKIBAPLACE店にて350円で購入されたものであり、8月からはじまる第二次大病戦争と裏東京毒探偵突撃古本屋シリーズ直前の今となっては遠い遠い平和な日々の記憶と共に何とも切なく愛らしいラブコメなのである。幽霊の女と同棲するのは例によって少し鬱屈したところがある青年でありこの鬱屈さ加減は作者の独壇場である。また作者の描く女は全てそうだが主人公をほとんど盲目的なまでに愛しておりそれが快楽成分を増量させるのだが本作の場合女は幽霊という儚き存在であり快楽に加えて切なさまで増量させて何ともまあ憎たらしい。それにしてもただひたすら純愛和姦を描き続ける田中ユタカを見てると俺もラブコメ街道を邁進せねばと心は奮い立ちアレも勃起する。ラブコメ万歳。
   
第7位 ノベルズ・ふたりエッチ/克・亜樹白泉社

 さて本書は1998年度日本ラブコメ大賞第1位にして我が生涯の伴侶でもある「ふたりエッチ」の小説版である。本書でも縦横無尽に放たれるその猛烈にして最強なラブコメっぷりは素晴らしいの一言に尽き、本来ならば本作が1位になるに決まっているがこの「日本ラブコメ大賞」は一度その年の順位として表彰されたならば翌年以降は出場権はないとされており、しかれども小説版を読み改めて「ふたりエッチ」の偉大さに気付き全米が泣いたとあってはやはり初心に帰る意味も含めて上位でもなければ下位でもない7位にランクインさせたいのでそうしようというこういうわけであります。1998年から8年が経った今も本作は日本ラブコメ界の最古にして最強の作品でありこれはもう国民栄誉賞ものである。とにかくこんなセリフを聞かされちゃあ泣くしかないだろうよ。「危ない繁華街には夜はいっちゃだめですよ。喧嘩とかがおきたらまず逃げてください。止めにはいったりしないでお巡りさんを呼んでくださいね。誰か悪い人に絡まれたらとにかく反抗しないで早く逃げてください。どんなにみっともなくて、格好悪くてもいいんです。情けなくても誰かに笑われても良いからとにかく無事にうちに帰ってきてください。私だけは笑ったりはしません。どんなにひどい格好になっても私だけは笑ったりはしませんから」
  
第6位 ボーイズ・オン・ザ・ラン花沢健吾小学館ビッグコミックス

 あの「ルサンチマン」の衝撃も去ることながら、本作もまた非常に衝撃的である。いわゆる「現代のダサい男」、貧乏でもなく学歴が低いわけでもないがとにかく全然前に進めない愛すべき等身大ダメ男の物語である。アオリ文も「痛い男たちへ」「ヒーローは、現れない」「頼む、頑張れ、頑張ってくれ」と素晴らしい。俺自身はけだるい敗北感を抱えているわけではないが(ラブコメや政治やその他自分の世界を持っているつもりなので)、やはり大人になる社会で働くということは色んな意味で疲れることは事実だ。いつの間にか俺は少しでも疲れをなくすためとりあえず愛想笑いをして腰を低くする術を覚えそれに抵抗する気もないが本作の主人公の気持ちは手に取るようにわかるのだ。まあ月曜から金曜まで我慢すれば土曜日曜と好きなことできるから大人っていうのも割と楽しいんだけどね。それに今俺は事務部だから営業することもなく大変気楽でたまに楽しかったりするしなあ。本作品はその1巻が前年の2005年12月30日にジュンク堂書店三宮駅前店漫画館で購入され、2巻が12月3日にBOOKOFF中野野方店で購入されたものである。ちなみに前年12月30日は2006年度書籍購入戦の初日であり、その2006年度書籍購入戦は12月3日をもって終了したわけであるから今年の書籍購入戦は本作にはじまり本作で終わったのである。もちろんこれは狙ってやっているのです。やはり物事には粋がないとね。
 
第5位 新世紀エヴァンゲリオン 碇シンジ育成計画高橋脩・GAINAX[角川書店:角川コミックスエース]

 2001年冬。人生史上最悪にして最大の危機をもたらした我が家限定の経済恐慌の荒波に乗って俺の書籍購入費は4ケタを切っていた。ちょうど第一次大病戦争の一番苦しい時でもあったその頃、大学で無料でインターネットができるパソコン室なるものがあることを俺は知った。それが俺とLASの出会いであったのだ。LASと言うのは(言うのも恥ずかしいが)「ラブラブ・アスカ×シンジ」つまりアスカとシンジを使って自由に電子空間で二次創作しましょうそしてアスカとシンジをくっつけましょうというものであり、映画「THE END OF EVANGELION」を真っ向から否定するアマチュア作家たちのその姿勢には共感を覚えた。もちろん素人が書く小説なのだからたかが知れているがその中にはなかなか秀逸なラブコメもあったのだ。
 俺はラブコメ至上主義者だが作品が全てにおいてハッピーエンドでなければならないとは思ってはいない。だがこの「エヴァ」とそれから「ナデシコ」もそうだがあのラストは明らかにやりすぎである。おおかた当時の第三次アニメブームの中で浮かれ騒ぐマスコミが気に入らなかったのだろうが滅茶苦茶をすればいいというものではない。そのようにしてほとんどの人々はあの映画を無視して自らの納得いく二次創作(アスカとシンジのラブコメ)に走り俺もまたそれに参戦したのである。あのときの熱中症的なLASへのこだわり(無料でプリントアウトできるということで一日にLAS小説を200枚もプリントアウトした)はもうないがやはりこんなに幸せそうな学園ラブコメエヴァを見せられると嬉しいものがある。しかし最近のモロ商業狙いなエヴァ祭りにはついていけんな。あんなひどいラストにしておいて何が「クロニクル」じゃ。最初からラブコメにしておけば良かったのだ。ああ、2001年に本書があれば狂喜したに違いないのだがなあ。欲しいときに欲しいものはなく、欲しくなくなった時にそれは表れる。俺の人生そればかり。
 
第4位 デビルエクスタシー/押見修造講談社ヤンマガKC]

 こういうのがやっぱり欲しかったわけですよ。女で構成されている悪の秘密結社(というかサキュバス軍団)に立ち向かう地味で平凡な男とその男を手助けする秘密結社の女。あるようでなかったラブコメ冒険譚である。どうも冒険が欠けているなと言うことで帰省中の9月15日に兵庫県の糞田舎で少し冒険して遠くの大型古本屋まで(あの伝説の古本市場西神戸店)自転車漕いで手に入れた本書は解放的なイメージがある。女を悪の秘密結社として攻撃される側に置きそれに立ち向かう平凡な男というのも確かに俺にとって解放的ではあるな。今はなぜか女がやたらとはしゃぎ正義の厚化粧をひけらかし男の方が悪役であることが多いからな。ラブコメ万歳。女を支配してこそ快楽。こんなこと言っていいのかな。
  
第3位 そにょもにょ/たつねこ一迅社:ZERO SUM COMICS]

 まず言えることは本作品の主人公は中学生である。故に感情移入できない。にもかかわらず3位に躍り出たのは何故か。ひとえにこのメイドが可愛かったからである、ではなくこれほど積極的でありながら可愛さ可憐さを放出しそれがいやらしくないキャラクターは稀だからである。ラブコメにおける女というのは積極的過ぎてはいやらしい方向に行くもしくは単なるギャグへと成り下がってしまうのだが本書のヒロインの場合は主人公に積極的に奉仕しながらその無垢な可愛さを極めて自然に展開させており、これこそ真の「癒し」であると言えよう。そうなのだこれは大いに反省すべき点なのだがラブコメにはワクワクドキドキや性的充足も必要だが「癒し」もまたラブコメを構成する重要なポイントであることを最近忘れていたのだ。5月5日に兵庫県の糞田舎で買った本書は荒れ狂う不安と恐怖を振り払うかのようにハーレムものエロゲー及び女を自らの肉奴隷に仕立て上げる官能小説を読み漁っていた俺を立ち止まらせた偉大なる一冊なのである。ああ本作の主人公が大学生、いや高校生だったら1位になったに違いないのになあ。何ともったいないことか。もっと考えたまえ。
 
第2位 CANVAS2〜虹色のスケッチ〜/F&C・FC01・児玉樹角川書店:角川コミックスエース]

 さて本作品は2006年という我が人生を代表する作品となるのであるが、奇妙なことにそれは本作がラブコメとして群を抜いて優れているからというわけではないのである。本当に客観的に作品単体として評価すれは本作はせいぜい10位であろう。だが本作と俺が出会った状況やその時の精神状態や当時の仕事・健康・その他の人生の側面が不思議な相乗効果を生み出し見事2位に選ばれたのである。俺はこの一年で本作を(番外編「エクストラシーズン」を含めると)4冊買っており、これは長いラブコメ購入戦記のなかでも極めて異例のことである(他には「ふたりエッチ」を同じく一年で4冊買ったことがあるくらい)。そしてそれら4冊それぞれの購入日はいずれも今年のターニング・ポイント、節目節目の時に買われているのである。一体なぜなのかは全くわからない。本作は簡単に言ってしまえば夢をあきらめた美術教師とその妹分的な女とのラブコメであり原作はギャルゲー(エロゲーだっけ?)であることからストーリーに深みもなければ壮大な世界設定もない。しかしその軽さが時に魅力を放つこともあるのだ。特に現実でややこしい状況に泣き笑い苦しみ喜んでいる時は、ふと本作を購入したくなるのである。今年の喜びと苦しみは本作を手に取ることで甦るのだ。
  
第1位 今日からヒットマンむとうひろし日本文芸社:NICHIBUN COMICS]

 イエイ。ついにやってきました2006年度日本ラブコメ大賞。栄えある1位に輝いたのは知る人ぞ知るサラリーマンスプラッタラブコメ(と俺が勝手に呼んでいる)の本書である。新婚のどこにでもいるサラリーマン(菓子メーカーの営業担当)に突如降りかかる災難はあれよあれよという間に平凡なオッサンを裏社会に生きる殺し屋に仕立てあげるのである。しかも主人公たる営業マンは持ち前の口八丁で同じく闇に生きる殺し屋を次々と倒し何とか平凡なサラリーマン(新婚)生活を保っていくのである。この、「営業マンとしての武器である話術」を使って裏社会の者どもを倒すというのがいいではないか。サラリーマンは無敵なのだ。サラリーマンという人畜無害の平凡な男が裏社会の阿呆どもを倒すという痛快無比の大活劇、更に主人公には妻がいるが何かとちょっかいをかけてくる女もいてラブコメ部分も満足満足である。ちなみに本書は第二次大病戦争と時を同じくしてはじまり現在も進行中の「裏東京毒探偵突撃古本屋」第一回目であるBOOKOFF早稲田駅前店にて8月12日に購入されたものである。これまでのように神保町秋葉原で踊り狂うのではなく東京23区に点在するBOOKOFFという大型古本屋を旅することによって「東京」そして俺自身を見つめなおそうというこの企画は本書によってスタートされたのであり1位となるのは自明の理であったとも言える。第二次大病戦争そして裏東京毒探偵突撃古本屋はいまだ終わらず、我が人生もいまだ終わらず。
 
 次は成年部門ですぞ!今年の最後までラブコメにまみれてしまえ。