少女探偵は帝都を駆ける/芦辺拓[講談社:講談社ノベルス]

少女探偵は帝都を駆ける (講談社ノベルス)

少女探偵は帝都を駆ける (講談社ノベルス)

 

 1936年の大阪の人々は現代文化を謳歌していた。ジャズに映画にラジオに地下鉄に漫才、連載小説がひしめく娯楽雑誌、芸能スキャンダルの載る新聞、朝に妻と喧嘩したサラリーマンの夫が出勤途中に電報で詫びのメッセージを送る、という84年後のメール文化と変わらぬ生活水準の中で起こるのは謎と怪奇の殺人事件である。帝都・東京では明智小五郎の活躍が新聞紙面を賑わしていたが、商都・大阪では16歳の女学生が事件の真相を暴くのであった。

 とは言え16歳の生娘にはパートナーが必要であり、そのパートナーとは少々頼りない新聞記者(恐らく20代後半)で、探偵小説に夢中の16歳女学生としがない新聞記者は大坂の街を駆け抜け、遭遇する事件にはエノケン一座や満州国皇帝・溥儀の来阪が関係するのだからその豪華絢爛さは昭和戦前史に格別の思い入れがある読者にはたまらない。そうとも、戦前の時代を白黒映像で見るからその時代が暗くどんよりとした風に見えるだけであって、1936年も2020年も変わらない。むしろこっちの時代の方がロマンがあって血沸き肉躍るではないか。何が携帯電話にインターネットにSNSだ、俺はこの時代にタイムスリップしたい。いや。やがて来る本当の「暗くどんよりとした時代」はお断りであるから本書を読んで我慢しよう。

 とにかくエレリイ・クヰーン、アガサ・クリスチイ、ディクスン・カァ等の「同時代作家」の翻訳書が書店にずらりと並び、日本作家では「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」等の「新刊」が出て、常日頃から探偵研究に余念がない少女探偵は事件に遭遇、或いは事件に遭遇した相棒からその事件の詳細をヒヤリングして真相に迫っていくわけだが、商都大阪の気風なのか同時期に明智探偵が帝都東京で遭遇した事件のような凄惨さや不気味さはなく実にあっけらかんとしている。大阪には「情緒」「粋」といった江戸っ子的感性よりも「ボケとツッコミ」に代表される乾いた人工的な感性が性に合っているのであり、入り組んだ複雑なトリックとは対象的に少女探偵も相棒新聞記者も大阪の街を軽快に駆け抜け、そこはロマン溢れる1936年の大阪なのだからやはりたまらない。というわけでこの時代にタイムスリップする決心がつきました。行ってきます。

   

 で、何が彼女をそんなにソワソワさせたかというと、それは一冊の分厚い新刊雑誌だった。ご存じ「新青年」の夏期増刊号「探偵小説傑作集」である。

 近頃は――と言っても、昔の事は知る由もないのだが、すっかりモダンボーイのための教科書となった「新青年」が、年に二度ばかりの増刊号ではここぞとばかり探偵小説、それも翻訳物を満載するのがならわしとなっていた。

 今回の呼び物はS・A・ステーマンなる聞いた事もない作家の三百枚読み切り長編「模型人形殺人事件」――惹句によれば、「密室内の殺人は描き尽くされて余すところがない。これに代わる謎の殺人は何か? 本編は堂々この質問に答えた。曰く、「殺害の際傍らに犯人のいない殺人!」」だそうで、これで興味を引かれるなという方が無理だろう。

 加えて、今号にはこの間「ぷろふいる」で初めて短編に接して以来、気になっているアメリカの新進作家、エラリー・クヰーンの作品が「首吊り曲芸師」「幽霊館殺人事件」「髯を生やした女」と一挙に三本も訳載されているではないか。他にドロシー・L・セーヤースというこれも未知の女流の短編が三本立て、それにマッカリーの地下鉄サム・シリーズ等、掌編も含めれば五十本もの小説が楽しめる。

 これで買わなければ探偵小説ファンの名折れみたいなものだが、あいにく値段がちと高い。「キング」「講談倶楽部」や「講談雑誌」に比べれば二倍から三倍もするし、もともと割高な「新青年」の通常号に更に上積みされている。

   

SF、ラブプラスはメンテ中、やっぱり胸はでかい方が

2019年10月~

  

   

   

  • さすがに今日は休みなので小松左京と古本屋①世田谷文学館小松左京展(17時前に入ったら客がほとんどいなかったのでじっくり見れました。天皇陛下のおかげです) pic.twitter.com/OQ4Ol7zULK posted at 21:35:19
  • さすがに今日休みなので小松左京と古本屋②ブックオフ吉祥寺駅北口店(探していた本がありました。天皇陛下のおかげです) pic.twitter.com/dALSLP2suF posted at 21:37:10
  • せっかくなので小松左京全集も1冊買っときました。 ちなみに小松作品で好きなのは「復活の日」「さよならジュピター」「エスパイ」「時間エージェント」…いかん読みたくなってきたな。 pic.twitter.com/fMmEtro7on posted at 21:46:59
  • 会社での話。 「これからは残業しません、定時で帰ります」と突然宣言した女(30代総合職)がいまして、俺「まあ仕事が終わればね、定時で帰っても誰も文句言わんからね」 女「それとこれとは別問題ですね」 俺「…じゃあ、仕事終わらんのに帰るってのかい?」 女「そういうわけでもないんですけど」 posted at 23:31:07
  • 俺「あのー、残業せず定時で帰るようにね、仕事の効率とか生産性を上げるのは大事よ。ただ、今はね、皆、金も人もない中で残業したりして頑張っているわけだから」 女「でも、残業しないって決めたんです。今年の私の目標です」 俺「わかった、じゃあ他の人に手伝ってもらうしかないですな」 posted at 23:35:22
  • 2、3日後 女「皆さん、忙しいようだし、私も仕事の引き継ぎとかで余計に時間がかかるし…」 俺「まあそうですわな。だからね、将来的には残業ゼロ、定時で帰るという事を目標にしてね」 女「でも今年の目標にしちゃったんです」 俺「…」 という感じの会話が俺以外にも3~4人と繰り広げられ、 posted at 23:39:21
  • いい加減面倒臭くなった女の上司(女)が「もういい、あの子に仕事与えないで」となった結果、一般職や派遣と同じ仕事しかしなくなったら次はその一般職・派遣グループから「総合職で私たちより給料高いのに何で仕事は私たちと同じなの」となって、またしても面倒臭くなった上司(女)は posted at 23:43:25
  • 人事部長と話してその女に異動(千葉の子会社に出向)を命じて、女は総合職なのに「私、東京以外で働くのは嫌です」と言い更に「今まで給料低いのに頑張ってきたのに」と言って、上司(女)がうっかり「それはあなたが残業を一切しなかったからでは」とか言いだしたもんですったもんだの上に posted at 23:48:12
  • 割増退職金を払ってその女に円満退職してもらう事で円満に終わったわけですが、この話の恐ろしいところは一連の騒動の中で得たもの、教訓となった事が何一つないところで、いやはやこれからこういう事が増えるのかと思うとサラリーマンは最高、いや辛いところですなあ… posted at 23:51:22

   

  • 神保町の秋の古本祭りは何やかんやで毎年行くわけですが、夜になって提灯や裸電球が本棚を眩しく照らしている光景が風情があっていいですなあ。 pic.twitter.com/8NwfX4iDDz posted at 21:58:30
  • 秋だ連休だ古本図書館古本①神田古本祭り・特選古書即売展(またわけわからんものを買ってもうた、まあ400円やしいいか) pic.twitter.com/fAWdVzVQ7H posted at 22:34:04
  • 秋だ連休だ古本図書館古本②神田古本祭り・神保町ブックフェステバル〜ブックス@ワンダー(ビール飲んだおっさんが俺の目の前で盛大にビールをこぼした) pic.twitter.com/5EOaPr47nI posted at 22:39:03
  • 秋だ連休だ古本図書館古本③板橋区立蓮根図書館(何でそんなところに行ったのかって…さあ…都営三田線だからじゃないですかね… pic.twitter.com/xeYS1xbUp9 posted at 22:42:01
  • 秋だ連休だ古本図書館古本④ブックオフ西台高島通り店(最後は気楽にブックオフでいい休日でしたね pic.twitter.com/3OWLsWzVCk posted at 22:46:34

   

2019年11月~

    

    

   

   

  • さてこそパレード図書館古本屋①1時間前に着いたくらいではこうなるわなあ pic.twitter.com/cMcNbLvK1a posted at 22:46:00
  • さてこそパレード図書館古本屋②さいたま市立北図書館(金あるんやろなあ…地方の田舎の図書館とは雲泥の差よ…) pic.twitter.com/EUoRBn6hXo posted at 22:48:34
  • さてこそパレード図書館古本屋③ブックオフ大宮ステラタウンpic.twitter.com/uex2UjhVFs posted at 22:51:51
  • 本棚の前に立っているとジョンレノン風の髪型をした外国人がいきなり「スミマセン、コレ、ヨメナイ」 俺「ん?216円」 ジョンレノン「ハイ?ナンエン?」 俺「216円。ニヒャク、ジュウ、ロク、エン」 ジョンレノン「ニヒャクジューロク!ヤスイ、アリガト」 俺「どうも」 posted at 22:58:47

   

  • 会社での話。 若くて美人で、仕事は大した事ないのに高飛車で、それでも若くて美人な女性がいまして、いつの頃からか陰で「エリカ様」と言われるようになったんですが、当の本人もその容姿に自信があると見えて「私はエリカ様よ」的な態度に出る事がままあって、そういう時の周りの女性社員の posted at 22:44:05
  • 煮え湯を飲んだ表情と言うか雰囲気がね、たまらんなあ…という事なんですが、そこにもって今回の事件でしょう。俗物たる俺はね、明日からの会社が…非常に楽しみですね…うひひひひ。 posted at 22:47:19

   

    

    

  • 2019年も残り1カ月ちょいですが、2019年の我が目標の一つに「ツイッターの有効活用、ツイート増、あわよくばまたバズらせる」がありまして、まあ…本屋古本屋図書館の写真撮っとるだけじゃあ無理やろねえ… あと、しがないサラリーマンの愚痴もねえ、面白味ないしなあ…来年以降はどうするかなあ… posted at 01:11:22
  • まあ結局写真載せるぐらいしかできませんが故郷から東京へ戻る時も図書館古本屋本屋①神戸市立三宮図書館(神戸書店マップ2019をゲットした) pic.twitter.com/N9wmlG98XA posted at 19:30:19
  • まあ結局写真載せるぐらいしかできませんが故郷から東京へ戻る時も図書館古本屋本屋②ブックオフ三宮センター街店(ここらへんなら目をつぶっても歩ける自信あります) pic.twitter.com/ImrHb7iUNo posted at 19:32:08
  • まあ結局写真載せるぐらいしかできませんが故郷から東京へ戻る時も図書館古本屋本屋③ジュンク堂書店三宮店(長居し過ぎて新幹線に遅れそうになった pic.twitter.com/B9pDoGDJsn posted at 19:40:08
  • @shomotsubugyo すごいですなあ…。 コミティアはともかく、文フリは行きたかったんですけどね(昭和前期蒐書家リスト買いたかった)。こっちは仕事の関係で仙台→大阪→神戸で、いつものように図書館ブックオフとらのあなでした。 蒐書家リスト、大変な反響のようですね。頑張って下さいませ。 posted at 22:55:14

   

2019年12月~

  • そんなわけでついにこの季節がやってきました日本ラブコメ大賞2019(tarimo99.hatenadiary.jp/entry/2019/12/…)、一方的な評価基準を一方的に押し付ける、この狂気の世界に君は耐えられるか? しかし俺は明日朝早くから出張なので(6時に家を出て7時には新幹線に乗らなきゃいけないのよ)もう寝ます。 posted at 22:31:33

  

  • しかしながら人生は短いのだ、自分の本当に好きな事やりたい事をやるべきだというわけで日本ラブコメ大賞2019は20位から11位まで行ってみようか♪ゴー(tarimo99.hatenadiary.jp/entry/2019/12/…)、今年の目玉は posted at 22:39:32
  • 今年の目玉は「僕の心のヤバイやつ」「社畜と少女の1800日」「さくら江さんはグイグイ来すぎる」などです。 しかし相変わらずダラダラと長い文章ばかりで嫌になるな、次はもうちょっと簡潔に書いて…書けるかな?というか来週も出張入ってたか、どうしよう、どうにでもなれ。 posted at 22:42:40

   

  • 今週も色々ありましたがラブコメがある限り俺は死なないのだ狂気の笑いがこだまする恐怖と愛と優しさの果てに日本ラブコメ大賞は10位から1位まで行ってみようか♪ゴー(tarimo99.hatenadiary.jp/entry/2019/12/…)。今年の目玉は posted at 22:09:23
  • 今年の目玉は「おもいがおもいおもいさん」「狐のお嫁ちゃん」「アリソンは履いていない」、そして1位の「ブラック学校に勤めてしまった先生」などであります。 さて残るは成年編か、平日は忘年会が目白押しで時間取れんしなあ、またいつものように情動のままに書く事になりそうですなあ… posted at 22:12:25

   

  • あのーですね、ラブコメだエロ漫画だ萌え絵だ2次元だと深く入り込んでいくのはいいんですが、さすがに2〜3週間もそればっかりだと食傷気味なので、やっぱり汚い埃くさい古本とか図書館の世界も必要なわけですね。 posted at 19:15:08
  • なので図書館と古本屋①杉並区立今川図書館(寒い、雨だ、寒い) pic.twitter.com/jePYk9U2Jx posted at 19:49:52
  • なので図書館と古本屋②古書西萩モンガ堂(ワクワクする品揃えで目移りしてしまいますね) pic.twitter.com/sCPv3xIDaU posted at 19:57:34
  • 「個人名のついた研究会の会誌」展という事なので「小松左京マガジン」だ。 pic.twitter.com/JTAEEwz6ZF posted at 20:01:03
  • @shomotsubugyo やあこんばんは。 小生は17時頃行きました。ニアミスだったようですな。 posted at 22:01:59

   

  • 昭和前期蒐書家リスト、届いた。いやあ、面白いねこれは。 遠い昔の先輩達に負けないように、俺も蒐書家として頑張ろうという気になりますね pic.twitter.com/TQhED3sld0 posted at 23:11:22

  

  • 昨日は17時頃より納会スタート→酔っぱらった若手社員が喧嘩しだしたのを仲裁→その他の若手の酔っぱらいを21時頃に解放→残った中年〜老人の酔っぱらいと23時頃まで→今日は今日で posted at 14:32:52
  • 今日でクリスマス休暇でやってきた海外支店の白人のおっさん(日本語ペラペラ)を神保町に案内→新宿伊勢丹に連れていって同僚と案内役チェンジ→家に戻って日本ラブコメ大賞2019へ(今から書く…今から? posted at 15:00:15
  • @shomotsubugyo 日本大好きな外人を神保町に案内しとりました。 芸は身を助けるって本当にあるんだなと妙に感動しましたね。 posted at 15:03:18

   

  • エロ漫画を読み続けラブコメを読み続け2019年を駆け抜けた皆さんお疲れさまでしたお待たせしました、日本ラブコメ大賞後半戦・成年(エロ漫画)編です(tarimo99.hatenadiary.jp/entry/2019/12/…)。一方的な評価基準を一方的に押し付ける、その狂気と愛と優しさに満ちた文章に君は愕然俺は茫然で行ってみようか♪ゴー posted at 00:03:18
  • そのオーストラリア人のおっさん「tarimo99 が好きそうなやつ買ってきたよ」 俺「…まあ好きですけどね」 「24ドルもしたけど、それよりもこれをワイフに見られないよう隠す方が大変だったよ」 「そりゃそうでしょう」 「やっぱり胸はでかい方がいいよ。ha,ha」 pic.twitter.com/3LStT4pv9L posted at 08:15:00
  • @gosplan1019 @manga_works やあこんばんは。いつもありがとうございます。 今年も相変わらずの偏執狂でやってしまいました。わはは。 あとは貴殿のベストを読んで年越しと致したく、宜しくです。 posted at 22:06:25

   

   

  • @manga_works こんにちは。 前回に引き続き、素晴らしい作品でした、こちらこそ感謝です。 2020年も先生のご活躍を確信しております。 posted at 12:49:23
  • @shomotsubugyo お疲れさんでした〜 ちなみにとらのあなメロンブックスでは今日コミケ で売られていた同人誌群が既に多数委託で売られておったです。 posted at 18:06:25
  • @gosplan1019 お疲れさまでした。 今年もgosplanさんのエロ漫画評を参考にさせてもらいました。 来年もお互い頑張りましょう。 posted at 18:39:37
  • 読書好き、本好きならむしろ「世の中は受験勝者であれば成功できるほど甘いものではない」ってのがわかるはずなんだがなあ。 でもこういう人はいますね。学歴高いのに転職を繰り返している人とかね。 twitter.com/tmaita77/statu… posted at 18:49:32
  • @gosplan1019 NO 童顔巨乳 NO LIFE posted at 18:53:57
  • @shomotsubugyo そうですねえ、今はもう「自分の推し何とか」に没頭すればそれでいいって考えが浸透しちゃってますからねえ。 まあその方がよりディープな世界に没頭できるわけですが、「自分が知らない世界」にもひょいと首を突っこむ事ができるのが読書家の特権なのにねえ posted at 20:18:27
  • Q「日本ラブコメ大賞とは何ですか?」 A「非常に権威のある賞です。長年やっております」 Q「誰がやっているんですか?」 A「世界のラブコメ王である俺がやっております。だから権威があります」 Q「賞金は出ますか?」 A「うーむ…」 twitter.com/manga_works/st… posted at 23:20:13

日本ラブコメ大賞2019:Ⅳ 豊穣の象徴

第15位:おやじでも女子学生と孕ませ多重婚ができる法律ができました黒瀧糸由・置弓枷・Miel[パラダイム:ぷちぱら文庫]

 さて俺は世界のラブコメ王なのでラブコメのあらゆる可能性を追求する事に余念がないのでエロゲーもたしなみます。とは言えこのオールナイトラブコメパーカー・日本ラブコメ大賞は原則として書籍に与えられるものなので小説版をピックアップするが、話の筋だけ言うと40歳にもなってファミレスでバイトするうだつの上がらない主人公はしかし勃起不全や極小性器が問題化している日本にあってとてつもなくでかい性器を所有していたのであり、言わば「貴重品の中でも最上級の、王様のチンコを持っている」のであるから意中の清純ヒロイン(女子高生)を獲得するわけであり、ついでにと言うか清純ヒロインの友達のギャル風ヒロイン(女子高生)も獲得するのであった。

 まあ元はエロゲーなので深く考えずに読めばいい。それに主人公が「40歳にもなってファミレスでバイトするうだつの上がらない」とはラブコメ的には花丸であって、こういう主人公がどんどん増えてほしいものだが、それはともかくその後も王様チンコに魅了された両ヒロインは嬉々として40男主人公と性交渉を行い(公園のベンチで公開プレイ、道端で公開プレイ、重婚結婚式で招待客を前にして公開プレイ)、歓喜の雄叫びを上げ、主人公(=読者)は王様チンコ、国宝チンコのおかげで特別広報部長の職にも就くのであった(深く考えなくてよろしい)。そう、世の中には孕ませ多重婚というものがあるのだ。いいものだ。

「あたしは主人公が好きなの!愛してるの!主人公は違うの!?」

「た、たださ…俺って、こういうところ似合わないから…つばさちゃんが、変に思われたらやだなあって…」

「あのね!主人公は、佐々木つばさ様が好きになった凄い人なの!王様チンポを持っている凄い人なんだから!自信、持ちなさい!」

   

「二人を…お嫁さんに…それとちんぽ奴隷にするからね。毎日、オマンコが壊れるくらい、セックスしよう。種付けしまくって、何回も孕ますからね」

「主人公…嬉しい…」

「主人公さん…はう…すてきぃ…」

   

第14位:ふたりのひみつコテングワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL

ふたりのひみつ (WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL)

ふたりのひみつ (WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL)

 エロ漫画はラブコメよりもラブコメ的である。なぜなら性交渉場面が描かれるからで、性交渉及びその前後の過程を含め、一対の男(主人公)と女(ヒロイン)の愛の姿を赤裸々に描き、身体の結びつきによってより一層絆を深めていく様子を描く事で、「地味で平凡で冴えない男」が「美人でスタイル抜群で性格もいい女」を手に入れた事を読者は深く味わう事ができるからである。

 しかし本作は性交渉そのものよりもそこへと至るヒロインの甘さが特徴的であって、主人公にぞっこんなヒロイン(「私も…先生のお嫁さんになりたいです」)もちょっとからかってやろうという軽い気持ちのヒロインも「明日は戦いなんだからっ」と意気込むヒロインも既に主人公と付き合っているヒロインも、目の前にいる特徴のない、どこにでもいるような主人公(=読者)と性交渉を行いたいと口に出さずとも意味ありげな態度を取り、それを主人公(=読者)側も何となく意識し、しかしその態度はフェロモンを発するというよりも「主人公とまずはイチャイチャしたい」という甘くかわいらしい欲望でありそれをヒロインの豊満な身体で表現させている事に特色があった。

 そして花に吸い寄せられる蝶々のように主人公はヒロインを押し倒す事になるが、発端はあくまでヒロインであり、その発端は「甘く柔らかい欲望」であるから性交渉にも激しさや荒々しさはなくイチャイチャとした雰囲気が維持され、主人公(=読者)はヒロインを押し倒し組み伏せながらも「ヒロインに愛された」とさえ錯覚してしまうのであった。結局最後まで甘いままだったが、これはこれでいい。

 とは言えエロ漫画の宿命、短編集であるから玉石混交、ただ流されるまま性交渉へとなだれ込むものもあったのでこの順位に落ち着いた。次回作に期待している。

 

第13位:エルフハーレム物語三船誠二郎ティーアイネットMUJIN COMICS]

エルフハーレム物語 (MUJIN COMICS)

エルフハーレム物語 (MUJIN COMICS)

 分類としてはハーレムもの、且つエルフもの…となるのであろうが、どうもそういう分類では測り切れない、測ってはいけないような迫力あるヒロイン達であった。何せ出てくるエルフヒロイン達は皆が皆胸も大きければ身体も大きく、対する主人公が童顔、ショタ風、痩せ型なので性交渉もヒロイン達に挟まれる、埋もれるという構図になってしまっている。それでも女性上位、逆レイプ的な印象がないのはヒロイン側が主人公を愛している、それも溺愛的に愛している事がわかるからであった。

 そしてなぜ溺愛しているのかと言えば主人公がかなりの性豪だからで(「すげえ精力だよな、五人とも一発で孕ませるなんて」「三代渡って孕ませるとは」)、3人、4人、5人、或いはそれ以上の、胸もでかいがガタイもでかいエルフヒロイン達を前にして主人公は一歩も引かず精を放ち孕みに孕ませるのであり、エルフヒロイン達は主人公(=読者)のオスとしてのたくましさに屈服しメスの悦びを知り、その悦びを半永久的に提供するオスにやられてしまうという寸法である。

 何度も言うようにラブコメのエロ漫画においてやるべき事はヒロインが「地味で平凡で冴えない主人公(=読者)」に性的に積極的に奉仕し、それ自体に喜びを見出す姿を描く事である。それによって主人公(=読者)は無敵となり、欲望のタガを外し、無限に快楽を追求する事ができ、勝者の喜びと支配者の優越を手中に収める事ができる。「エルフのヒロイン達が積極的に身体を開く」だけではラブコメにならない、「地味で平凡で冴えない主人公(=読者)」が一発奮起して押し倒し、組み伏せ、支配し、支配の悦びを浴びたヒロインが主人公(=読者)に協力しつつハーレム性交渉を堪能しつつ極上の快楽を味わう時にそれらはラブコメとなるのである。ヒロイン側から性交渉を仕掛けてきたとしても最後は主人公によって征服する(孕ませる)事によってラブコメとしての完成度は格段に高くなるのである。

 というわけで本作は優れたラブコメであるが、いかんせん肉布団状態なので主人公の存在が時々霞んで「ヒロイン達に快楽を与える存在」に成り下がっている部分もあるのが惜しい。また主人公のやや幼い顔立ちが読者の感情移入度を低下させてしまっている。しかし特筆すべきはこれほど多くのヒロインに囲まれ、長時間の性交渉描写を描きながらその勢いを失速させる事なく、短過ぎず長過ぎず終える事であり、非凡なセンスを感じさせよう。ハーレムにおいて大事なのは飽きが来ない事なのである。とても良かった。次回も渾身のハーレムを期待している。

「子と孫と曽孫が同時にできるのか、楽しみじゃのう」

「私にも子と孫、妹ができるなんて、この年で」

「私には子供と妹、更に叔母ができるとは、なんか複雑だな」

    

第12位:妹とエッチするのは、お兄ちゃんの義務だよねっ!しのぎ鋭介ティーアイネットMUJIN COMICS]

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 さてこちらの表題作もハーレムだが全員妹で、と言っても長女、次女、三女…などではなくパラレルワールド的設定によって全員がたった一人の妹として登場するのであり(「私の世界は異次元からの侵略者と戦争になっているの」「皆がここに集まったのは私の時空転移に巻き込まれたから」)、その是非はともかく、では妹とは何かという事だが、その前にそもそも近親相姦とは何かについて説明しなければならない。なぜなら近親相姦とラブコメは相性がいいからで、「どうしてこのような地味で平凡で特徴のない男(=主人公)が美人で巨乳で性格もいい女(=ヒロイン)に愛されるのか」に対する言い訳として「ヒロインは男の肉親(妹、姉、母、いとこ、等)であり、幼い頃から慕っていたからだ。そしてその思慕が男女の肉体的愛情に転化したのだ。それはもう理屈ではない」と言えば一応の納得が得られるからである。恋愛相手は選べるが家族親戚は選べない。そして家族親戚の間には他人には想像もできない血の愛情があるのであり、それが恋愛に発展する事もなくはない。

 更にその中でも「妹」という存在は生まれながらにして「兄」の下にいて兄の支配下にあり、且つ兄の支配にいる事を当然としているので兄(=主人公=読者)は罪悪感を感じる事なく自分の所有物とする事ができ、そのような存在が二次元のセオリーに則って「美人で巨乳で性格もいい」のだから、これほど便利なものはないのである。というわけでややツンデレな妹を筆頭に次々とやってくる妹(単なるデレ、お姉さん系、猫系、眼鏡っ子、戦士?)を相手に主人公は性交渉に励み、時に一人、時に複数であっても妹ヒロイン達は兄(=主人公=読者)への一途な愛を表明する(「お兄ちゃんの童貞は絶対渡さない!」「お兄ちゃんのおち○ちんをハグする感じで…」)のであり、その一途な愛が躍動感のないやや平板な性交渉描写と呼応して静けさを生み、その静けさは妹ヒロインの主人公(=読者)への愛の深さを印象付け、ハーレムの安定化に成功しているのであった。成年版ラブコメもラブコメが主眼であるのだから性交渉が激しくなくても構わないのであって、ヒロイン→主人公(=読者)への愛が深ければ深いほど、主人公(=読者)は満足し、快楽は長続きしよう。刺激には終わりがあるが、愛に終わりはない。

 本作は「和姦」という言葉がよく似合う落ち着いた良ラブコメだが、その代わり華がなく、落ち着き過ぎている印象もありこの順位となった。しかしいいものはいい。今後も純愛和姦路線に期待している。

    

第11位:恋乳ているず あんこーるmomi[文苑堂:BAVEL COMICS]

恋乳ているず あんこ~る! (BAVEL COMICS)

恋乳ているず あんこ~る! (BAVEL COMICS)

  • 作者:momi
  • 出版社/メーカー: 文苑堂
  • 発売日: 2019/08/29
  • メディア: コミック

 ラブコメにおいて必要な事は一にも二にも「地味で平凡で冴えない男(=主人公=読者)に美人で巨乳できらびやかな女(=ヒロイン)をぶつけ、性交渉までゴールインさせる」であるから、画力は問わない。ラブコメに対する情熱、才能、天性の勘があれば後はどうでもよい。俺は世界のラブコメ王だ。

 とは言え最低限の画力は必要で、同人誌ならともかく正規(性器ではない)の出発物なのだから、プロとしてのこだわりは見せてもらいたい。などとわざわざ言うのは後半の短編がどうしようもないからで、エロ漫画の宿命・短編集ゆえの玉石混交以前の問題であった。顔と身体のバランスが取れていない、腕が細過ぎる、かと思えば顔がでか過ぎる、等、等、根本的に構図がおかしい。また主人公もヒロインもずっと口をあけていて違和感ばかりが目立ち、それら諸々が気になってストーリーに集中できなかった。前半の短編は普通なのだから描き直せば良かったのだ。そうすれば3位以内には入れたはずだ。

 しかしながら俺は世界のラブコメ王でありラブコメに寛容なのでこの程度にして、各短編はほぼ全てが

①何となくお互い意識し合っている男(=主人公)と女(=ヒロイン)

②特に女(=ヒロイン)の方は主人公(=読者)に興味津々

③ふとしたきっかけから性交渉

④性交渉後にはヒロインの主人公(=読者)への愛情はMAXになる

 という手順を踏んでおり、まだ性交渉前の恋人同士になる前からヒロインは主人公(=読者)を好いている事を読者に認識させ、しかしそれは淫乱又はただ欲望のはけ口として主人公を求めているわけではい、いやそのような事は想像できないほど純真で可愛らしいヒロインを登場させ、それでも主人公を一途に求めさせ、身体を開き、愛する主人公に抱かれたヒロインは悦びを全身で表現するのである。そのヒロインの魅力はただひたすら「主人公(=読者)に抱かれた」のみによるものであり、それによって読者は無敵となり、欲望のタガを外し、無限に快楽を追求する事ができよう。また性交渉が終わった後も主人公(=読者)とヒロインがその愛を確かめ合う余韻も用意されており(「ココロもカラダも本当の意味で一つになれたであります」「き…今日は…で…電車の中で…エッチですか」)、成年版ラブコメの基本を全ておさえたお手本と言えるものであった。だからこそ惜しい惜しい。本作はリバイバル版という事だが、描き直してリ・リバイバル版を作ればよい。3位以内になる事を世界のラブコメ王が保証しよう。

   

第10位:好きの吐息スピリタス太郎ジーオーティー:GOT COMICS

好きの吐息 (GOT COMICS)

好きの吐息 (GOT COMICS)

 ラブコメとはヒロイン側から主人公へ積極的に出なければならない。つまり成年版ラブコメにおいてはヒロイン側が積極的に身体を開かなければならないが、だからと言って「男なら誰でもいい(棒なら何でもいい)」等の淫乱にしてはならない。あくまで世間一般の範囲内、読者が違和感を感じない範囲で積極的に性交渉へと導かなければならず、性交渉時においても積極的に快楽の提供を行わなければならず、性交渉終了後もその積極性を失ってはならず今後も自分が積極的に出るから主人公はただ自分を抱いてくれればいいと表明しなければならない。そうする事で主人公(=読者)もまた積極的に性交渉に応じる事ができる。大事な事は主人公こそが主人公という事で、ヒロインは主人公に対応する存在に過ぎない。しかし読者(=地味で平凡)の代理たる主人公(=地味で平凡)が積極的に出るためヒロインは様々な対策を打つのである。

 そこで本作であるが、各短編のヒロイン達は最初はそれほど積極的ではないように見えるがしかしいつの間にか主人公と性交渉を行おうと誘導しているのであり、その積極性は最初がおとなしい分、スイッチが入った時の変化は目を見張るものがある(「さあ兄さん?兄さんの大好きなメイドですよ?ちんちん勃起しちゃいました?」「私おっぱい大きいし主人公君を、私から離れられなくすればいいんだ」)。そして性交渉においても快楽を提供すると同時に主人公(=読者)への愛を表明しそれによって快楽の絶頂を迎え、終了後もその快楽が主人公ただ一人からもたらされた事を伝え、今後もただ一人の主人公のために自分が豹変する事を伝えるのである(「私先生の…ヒロインになれました?」「これからもたくさん、教育してくださいね、ご主人様」)。またそれら一連の展開が早いというわけではないが当然のように成立しているため気を抜いて読んでいると主人公とヒロインがいつの間にかカップルとなって困惑するぐらいだが(下記参照)、それは作中の主人公も同様で、しかし主人公(=読者)はやや困惑しつつも隣にいる女が恋人である事を喜び、今後もヒロインを通じていつでも性的欲望を解放する事ができる楽しみも得るのであった。

 とは言えエロ漫画の宿命、各短編の中には主人公側からヒロインへ積極的に出るものもあり、この順位となった。惜しいなあ。次回作に期待している。

①ストーカーによる謎の手紙に悩んでいる

②妹が妹の友達ヒロインに相談

③友達ヒロイン「私が彼女役になればストーカーもあきらめるだろう」、奇妙な恋人関係がスタート

④友達ヒロイン「ではこれからはもっと凄い事を見せつけてやりましょう」

⑤狙い通りストーカー謎手紙はなくなったが主人公と友達ヒロインが恋人関係に

    

第9位:異類婚姻譚-狐嫁と結婚しました-上原りょう・ユキバスターZ[フランス書院フランス書院美少女文庫

異類婚姻譚 ―狐嫁と結婚しました。― (美少女文庫)

異類婚姻譚 ―狐嫁と結婚しました。― (美少女文庫)

 一般ラブコメであれ成年ラブコメであれ、いわゆる棚ボタ展開は大事にしなければならない。間違っても棚ボタを馬鹿にしてはならない。地味で平凡でおとなしい上にオタクだったりチビ、デブ、ハゲであったりする主人公(=読者)が極上なヒロインと性交渉が可能となるには棚ボタ的な事件や理由が必要であり、それによって主人公とヒロインの結びつきさえ確保すれば、成年版ラブコメなのだから後はめくるめく快楽の世界に埋没すればいいだけである。

 というわけで本作であるが以下の導入部が素晴らしい。主人公の実家の父親が亡くなり、墓参りに行ったところ、

「…あ、あなたは?」

「志津と申します。仰る通り、狐でございますわ。去年からお父様のところにご厄介になっておりました。実はお父様から主人公さんがこちらに戻ってきた際に是非、嫁になってもらいたいと仰って頂きまして」

「そ、そうだったんですか」

(中略)

「ですから、主人公さんとお会いできる日をずっと心待ちにしておりました。不束者ではございますが、これからよろしくお願いいたします」

志津が上目遣いに見つめてくる。

「え、いきなりっ!?」

「主人公さんは、お付き合いをされている方がいらっしゃるんでしょうか?」

「いませんけど…」

「でしたらっ」

志津は近づいてくると、主人公の胸にしなだれかかる。着物ごしに柔らかな感触が伝わった。

「か、からかってるんですか」

「いいえ、本気ですっ」

(中略)

「ぼ、僕なんかでよろしければ…あの、よろしくお願いします」

「うれしいっ」

 今にも泣きだしそうだった志津が破顔する。まるでひまわりのように輝いた笑顔を前に、主人公も無性に嬉しくなってしまう。

志津は主人公の首に腕を回すと、更に密着してきた。

「おっと…」

主人公は慌てて志津を抱きとめた。

「これからよろしくお願いいたしますねっ!誠心誠意、妻としての務めを果たす所存でございますっ!」

 柔らかな感触と共に、唇を塞がれる。どれだけ彼女の唇に我を忘れていた事だろう。

「び、びっくりした…。ずいぶんと積極的なんだね…」

 この導入部だけでお腹いっぱいであるが、そのようにして始まる新婚描写は甘くひたすら甘く、異類(狐)嫁であるから「私達の世界だと子供を生してないと夫婦とは言えないんですから」という事で子作りのために激しく甘い愛の対話が展開され、見事妊娠したとしても「私、もう…我慢できないんですっ」となって更に性交渉をねだり、妊婦でありながらセーラー服を着せて誰もいない校舎で性交渉を行い、際どい水着を着させてやはり性交渉を行い、子供が生まれた後もやはり愛しあいたいまだ子供が欲しいとして「い、いくらでもおつゆをくださいぃっ!私、主人公さんとの子供なら何人でも欲しいんですぅっ!」となるのであり、抱かれる度に幸せに震え乱れるヒロインを前にして主人公(=読者)は奮い立つのであった。いいものだ。本作の原作である同人誌版も合わせて読めばなおいい。今年一番癒されたラブコメであった。

     

第8位:恋慕ダイアリーひなづか涼文苑堂:BAVEL COMICS

恋慕ダイアリー (BAVEL COMICS)

恋慕ダイアリー (BAVEL COMICS)

  • 作者:ひなづか凉
  • 出版社/メーカー: 文苑堂
  • 発売日: 2018/04/28
  • メディア: コミック

 成年版ラブコメであっても主人公は「地味で平凡で冴えない」のだから、原則として自分からは動かない。そのためヒロイン側から動かなければならず、積極的に身体を開かなければならないが、痴女でもない限り理由もなく開いてくる事はない。やはりそこにはヒロイン→主人公への恋心があった上での身体の関係でなければならず、恋心と言っても最近はヤンデレ的な不気味なものやドロドロとしたものが主流となりつつあるが、やはり少女漫画的な健康的な恋心がオーソドックスで一番楽しかろう。そして少女漫画的な恋心となると所詮男性作者では女性作者には勝てない。ここに誤解があって、ラブコメは我々男達のものであるが、作者が女性である事までは否定しない。世界のラブコメ王は実力主義である。

 というわけで本作であるが、登場するヒロイン達は少女漫画的であるから幼くても大人ぶり、おっちょこちょいで、時々主人公にちょっかいをかけられてはそれにいちいち反応して一喜一憂し、自分の思い通りにいかなければすぐ怒るくせに自分のワガママを指摘されると不機嫌になってしまう困ったちゃんなわけだが、一方でラブコメであるから主人公(=読者)に対してストレートに好意を表現し、少女漫画的な単純さで「とにかくもう、主人公が好き!」という事でヒロインは主人公を前に幸せを全身で表現するのであり(「もう主人公は、ヘンタイな上にドンカンです。私がいっぱいアピールしてるのに、全然気がついてくれナイ…」「ご主人様に可愛いって言われてうっ嬉しくて…」「やあっと二人きりだ~、これ以上お預けは無理だよ~」)、それを見る読者は愛らしいペットを手に入れたような錯覚にすら陥ろう。また既に付き合っているカップルであれば、更なるプレイに突き進もうとして(睡眠姦やエログッズ)ヒロインは戸惑い、しかし快楽に流され、それでもヒロインの主人公への愛は変わらない、いやより一層強化され、戸惑いつつも深みにハマり、幸せを全身で表現していた少女は愛を全身に包んだ淑女と変貌するのであり(「もっと本当の私知ってほしいです」)、そのような変化を他ならぬ主人公(=読者)がもたらしたと知った時、読者は支配者の優越を意識し快楽は何倍にも強化されるのであった。

 とは言え女性作者の限界は主人公がいずれも「ややイケメンでスレンダー」で統一されている事で、これでは読者は主人公と同一化が難しい。また男性作家なら「どこまでヒロインをおちょくればいいか」「どこまでヒロインを性的に翻弄すればいいか」を感覚としてわかっているので歯止めがきくが、女性読者だとそうはいかず主人公が「ただの性格の悪い奴」となっている短編もあり、順位としてはこのあたりとなった。だからラブコメは難しい。しかし次回作に期待している。

     

第7位:ぴゅあ×シコ×みるくぎうにう[ジーオーティー:GOT COMICS]

ぴゅあ×シコ×みるく (GOT COMICS)

ぴゅあ×シコ×みるく (GOT COMICS)

 ラブコメにおいてヒロインは母性的である事が求められる。とは言え母親の役割をしろというわけではない。主人公は「地味で平凡で冴えない」がそのくせ性的欲望だけは一人前であり(むしろ女にモテない分たまっている)、しかし好きな女、気になる女を前にしても何もできず、好きな女気になる女が他の男になびきそうになると不機嫌になり、不平不満愚痴を垂れ流しながら誰かに癒されたいと思っているのであって、そんな愚かな主人公(=読者)を優しく包みこみ、その欲望を受け入れ、受け入れながらも主人公に対し微塵も見返りを求めない、なぜなら主人公と性交渉ができた事でヒロインは既に幸せであり奉仕する事に悦びを見出しているからである…という、母親以上に母親的な役割がヒロインには求められるのである。

 言わば究極の「都合のいい女」であって、そんな女が二次元であっても存在するのかと言われるがそこは世界のラブコメ王なので見つけてくるわけだが、本作のヒロイン達もそのような慈愛と快楽に満ちたすばらしい女達なのであった。仕事に疲れた夫(=主人公=読者)を癒す妻(=ヒロイン)から始まり、同級生、幼馴染、職場の後輩、等の各ヒロインは母性的な優しさで主人公に甲斐甲斐しくお世話するのでありアピールするのであり(「主人公君の手、あったかいなと思ってその…駄目かな?」)、その時点でヒロインが主人公に対して好意を持っているのは主人公(=読者)も何となく察してはいるがあと一歩が踏み出せない主人公に対してヒロインは優しく身体を開くのであり(「大丈夫です任せてくださいっ、初めてですががんばりますのでっ」)、性交渉へと進んだ途端それまでの反動から欲望を激しく滾らせる主人公を包み込むのであり(「泣かないで、痛かった?ごめんね、よく見えなかったよね」)、なお且つヒロイン自身が快楽の雄叫びをあげる事で主人公の負担感や迷いはなくなり、主人公(=読者)は更に激しく性交渉の中に入り込む事ができるのであった。

 繰り返すが主人公が「地味で平凡で冴えない」「積極的ではない」からと言って性交渉においても受け身であればいいというわけではない。むしろ主人公(=読者)が積極的になるためのラブコメ的世界でありヒロインなのであって、この世界に自分の欲望を受け入れてくれる場所があると知った時、主人公(=読者)は無敵となり、欲望のタガを外し、束の間の勝利を得るのである。本作はその格好の手本となる良作であった。それにしても最初の新婚夫婦短編は格別で(「早くガチガチの夫ちんぽ、あなたの形の妻んこにハメて」「妻んこ孕ませてぇっ」)、このような短編があと3~4作あれば1位になっていただろう。今後も女性作者ならではの前述の「母性やや強めヒロイン」を描いて頂きたい。次回作に期待している。

    

第6位:イジラレ愛上陸[ワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL]

イジラレ (WANIMAGAZINE COMICS)

イジラレ (WANIMAGAZINE COMICS)

 さて2019年一番の問題作であり大作である本作は色々な読み方が可能で、

①勧善懲悪。悪の限りを尽くした女を主人公が懲らしめ、謝罪させる

②催眠と洗脳によって、ヒロイン達が主人公と積極的に性交渉する

③ヒロインの心の奥底まで操作し、主人公への愛を植え付ける

④ハーレム

 になるが、そのどれを取っても優れた成年版ラブコメであった。ラブコメにおいて「勧善懲悪」という概念はないが、悪の限りを尽くす女達の被害を受ける主人公がその女達に逆襲する事は「地味で平凡で冴えない主人公が物語の中心に躍り出る」という事で立派なラブコメとなり、よくあるのはそこで「たった一人の善人のヒロインがやってきて主人公に協力する、更に性的に身体を開く」的な展開だが、本作の場合主人公(=読者)に対応するのはあくまで悪ヒロインのみである。そして逆襲の方法として「催眠・洗脳」を使い、その過程でヒロイン達が主人公に積極的に性的に奉仕するのであり、催眠によって心を支配されているのだからヒロイン達の奉仕は嫌々ではなく心からの奉仕となる。

 但しこの催眠による奉仕の方法も手が込んでいて、「アイツの赤ちゃん…絶対妊娠してやる」「ファーストキスも童貞も何もかも、恋人とするはずだった事全部あたしらが奪ってやる」としてヒロイン達の意識にある「主人公をいじめてやる」が「逆レイプしてやる」となり、更に「子供を作ってパパにしてやる」となり、主人公側から何もせずともヒロイン達は昼夜問わず性交渉をせがむのであった。そして自信を深めた主人公は更に「ケツ穴ハメハメ(の後は女が口便器となってチンポ掃除)」「オナニー見せつけ」「屋外ワンワン交尾」「ハメ撮り記念撮影」等を行い、美人でスタイル抜群だが性悪な女達から性交渉を要求され媚びられるのであり、そのあまりの都合の良さに主人公(=読者)は狂喜するが顔には出さずしかし性的な快楽は十分に享受し、「ラブラブ子作りセックス」に至っては「僕専用のお嫁さんのま○こ」として完全に征服するのであった。それらは元をただせばヒロインによる悪事が発端なのだから、主人公(=読者)は罪悪感を微塵も感じる事なくヒロイン達に欲望をぶつける事ができよう。

 ここまででも完成度が高いが結果として妊娠したヒロインをめぐってもう一山場があり、ここでヒロインは催眠術にかかっていたとは言え自らの意思でデブでブサイクな主人公に積極的に性交渉をせがみ恐ろしいほどの痴態を晒していた事を知り、絶望し、洗脳が完了し人格を変えさせられた副ヒロインの姿(「駄目よ?いずみちゃん、旦那様にそんな口のきき方したら」)を目の当たりにして「『あたし』が『あたし』でなくなっちゃう」と恐怖するが、そこで主人公が「今まであなた(ヒロイン)がやってきた事じゃないですか、人が苦しむところ、嫌がるところを見て、あんなに愉しそうにしてたじゃないですか」と宣告、傲慢で性悪の女王様気取りの女を屈服させ勝利し、且つヒロインは人格を書き換えられ(「主人公の赤ちゃん産んで喜ぶ女に」)、子供を産む幸せを知った従順な女となるのであり、見事ハーレムを築くのであった。素晴らしい。勧善懲悪、主人公(=読者)の性欲処理、勝者の喜びと支配者の優越が揃った傑作である。

    

第5位:しすたーずサンドイッチキャンベル議長ジーウォーク:ムーグコミックス

しすたーずサンドイッチ (ムーグコミックス)

しすたーずサンドイッチ (ムーグコミックス)

 とは言え明るく楽しく気軽に、催眠・洗脳などといった回りくどい事をせずとも各ヒロインの自発的意思によってハーレムを築くのが一番よい。そこで本作であるが、

①同居中の妹ヒロインが兄(=主人公)を誘惑、性交渉へ

②妹ヒロインと主人公の性交渉を知った姉ヒロインが負けじと主人公を誘惑、性交渉へ

③妹ヒロインと姉ヒロインで主人公をめぐって争いつつそれぞれが性交渉、時に3P

④妹ヒロインと主人公の性交渉を見て妹の友達ヒロインも参戦

⑤妹ヒロイン、姉ヒロイン、友達ヒロインによる「誰が好きなの!?誰としたいの!?」「誰が一番良かったですか?」的な性交渉、ついに主人公ダウン

⑥反省した妹ヒロインと姉ヒロインによる仲直り性交渉、ハーレム状態の是認、友達ヒロインもやってきて…

 のそれぞれが要領よくまとめられており、それでいて短いわけではなく各ヒロインとの性交渉もたっぷりと描かれ、今までいかに主人公(=読者)が好きだったか(「お兄ちゃん以上の人なんて…私にはいないんだもん」「私が好きな主人公さんがそんな酷い主人公さんになっちゃうのは許せないです」)、今までどれだけ我慢してきたかが表現され(「じゃあ家出て二人で一緒に暮らしてくれる?」)各ヒロインのキャラクターを丁寧に掘り下げる事に成功している。なぜなら作品世界が主人公と妹ヒロイン・姉ヒロイン・友達ヒロインとの性交渉に集中されているからで、主人公と妹ヒロインと友達ヒロインが高校生であることの他は何も言及されず(姉ヒロインは学生か社会人かわからない、また三兄妹は同じ家に住んでいるが親もその同じ家に住んでいるのかわからない)、そもそもなぜ主人公を好きになったのかの説明もされず、そのような説明をする暇もないほどひたすら主人公への誘惑合戦、性交渉、主人公をめぐっての3ヒロインの諍いに集中している(下記参照)ので読者はひたすらこの愛欲の世界にのみ集中し、スレンダー且つ巨乳のバランスの取れたヒロイン達の肉体に目をうるわし興奮し、ハーレムを断固として認めなかったヒロイン達が最後の最後にハーレムを認めるところもすっきりする。背景や小道具などキャラクター以外の画の粗さも目立つが、その思い切りの良さに敬意を表してこの順位としよう。やはりラブコメとはハーレムだ。

「この土日で私達とデートしてもらうから!そこで姉妹じゃなくて女の子としてどう思うか見てもらうの!ってわけで勝負よお姉ちゃん!」

「主人公とのデートは順番って言ったでしょ?」

「本当は今日私だったじゃん!それにお兄ちゃんもお姉ちゃんなんかより私とする方がいいよね!?」

「(胸の)大きさよりも気持ちの問題ですよね!?私、主人公さんの事大好きですもん!」

「あらそれなら私の方が勝ってるに決まってるじゃない」

    

第4位:恋愛スペシャリテ/emily[文苑堂:BAVEL COMICS

恋愛スペシャリテ (BAVEL COMICS)

恋愛スペシャリテ (BAVEL COMICS)

  • 作者:emily
  • 出版社/メーカー: 文苑堂
  • 発売日: 2018/03/30
  • メディア: コミック

 今は亡き「ポプリクラブ」(2006・1位)の香りがする作品である。純愛和姦の総本山だった当雑誌の晩年に活躍した作者は過去にも登場しており(2014・7位「らぶコロン」)、安心して買える作者でもある。とは言え本作は軽快なラブコメが多かったポプリクラブの片鱗は残しつつもヒロインの愛は重く、主人公もその愛につられて固く決心するところに特色があった。

 もちろんヒロインによる主人公への愛は重ければ重いほどよい。「地味で平凡で何の取り柄もない主人公」は地味で平凡で何の取り柄もないのだから自分に自信がなく、まれに見る幸運によってヒロインを手に入れ性交渉に至ったとしてもなお不安が残る。なぜなら簡単に手に入れる事ができたものは簡単に手元から離れていくのが世の常だからであり、そのためラブコメにおいてはヒロインが主人公(=読者)の手元から離れて行かないよう、つまりフラフラと軽く流されていかないよう対策を施さなければならない。それは非凡な状況下における共同体験であったり困難に立ち向かう共同作業であったり、或いは誰にも言えない反社会的な行為による共犯意識かもしれない。それによってヒロインの主人公(=読者)への愛が重くなり、ヒロインを主人公(=読者)の隣にとどまらせる事ができよう。成年版ラブコメにおいては特殊な性癖の共有・快楽の共同作業などが考えられるが、そこまですると大事になってとてもポプリクラブ的な純愛あふれる性交渉にはならない。

 しかし本作は立派に純愛あふれる性交渉へと遂げている。なぜならヒロインの愛が重いのであって、行きずりの関係であっても再会後の関係であってもヒロインはいとも簡単に主人公に抱かれ、なぜ抱かれたかの理由を明示せず性交渉を繰り返す事で主人公に支配される事を望み主人公に性的に奉仕するのであり(「いっぱいかけてね、アイリは主人公お兄ちゃんのものだから」)、永遠の愛を表明し「私(ヒロイン)にとっては主人公と、主人公との性交渉が全てだ」を全存在を使って主人公にぶつけるのであった(「このまま子を宿し、旦那様の子を生み、皆で暮らしたい」「私が生きられるのは、あなたという、鎧を身につけているから…」)。言わば愛に生きる重い女が描かれており、そこまで自分を曝け出したヒロインに主人公(=読者)は男として奮い立ち、腕を広げヒロインを抱きしめ、責任を取る事を決意し(「夢だけ見ながら現実に安住するのはもう止めた、その代わり、大切な人と暮らし家族を守るという夢に向かって進む」)、その決意を経た上での性交渉は厳粛になるのであった。やはり男はこうでなくてはならない。そこまで自分を投げ出してきたヒロインを生涯かけて守り抜くと決めた時、「地味で平凡で何の取り柄もない主人公」も愛に生きる、たった一人のヒロインのためのたった一人のヒーローとなるのである。

  

第3位:黒ギャルちゃんはキミだけが好き跳馬遊鹿メディアックス:MDコミックスNEO

黒ギャルちゃんはキミだけが好き♥ (MDコミックスNEO)

黒ギャルちゃんはキミだけが好き♥ (MDコミックスNEO)

 珍しくテクニック的、画力的な事から言うとヒロインの豊満さが素晴らしい。特に乳房と乳輪の描き分けのバランスがうまい。乳房も乳輪も女性の美しさの象徴であり、これらをふくよかに描く事でヒロインの魅力を最大限発揮させ、ふくよかと言っても決してだらしなくはない、しかしふくよかさとそれによる豊かさを最大限に表現している。これは天性のものであろう。

 そして各短編のヒロイン達はその豊満さから発揮される大らかさと優しさで地味で平凡で何の取り柄もないような主人公達をけしかけ(「Hの相手…したげよっか?」)、アプローチし(「だって…こうでもしないとアタシの事、女の子として見てくれないじゃん」)、誘惑するのであり(「自分で言うのもなんだけど…すごくエッチな身体になったつもりなのに…」「いつまでも子供だと思われるてるのくやしいから…主人公興奮させてエッチさせてって言わせてやる!」)、多少の設定の不自然さがあってもその大らかさの前では問題にならない。ラブコメとはいかにして主人公(=読者)が気持ち良くなるか、それもリスクを負わず最短で、最大限の快楽を享受できるか、であって、それを違和感なく、または違和感があっても最後まで読ませる事が求められるのであり、本作は大らかさによってそれを易々とクリアしている。

 かくして性交渉へと移行すれば主人公(=読者)はますますその神々しく美しいおっぱいに魅了されるのであり、大らかである=やや単純でもあるヒロイン達は主人公に抱かれる事で単純にも主人公を愛してしまうのであり(「さっき浮気なんかしないって言ったよな、ウチ…主人公の優しさとデカチンに惚れちまった」)、更なる快楽を要求するのであり(「でもこんなにおチンポとおマンコの相性良いんだもん、きっと出会う運命だったんだね」「俺も…オナホよりも気持ちいいマンコのナズナ、離したくない!」)、それによって主人公はヒロインに包まれつつも攻める、攻めつつも包まれるというアンビバレンツな欲望に夢中になり、その精を激しく放つ事ができ、しかも性交渉後はタイトルにあるように「(ヒロインは)キミだけが好き、キミだけに夢中」になるのであった。主人公(=読者)はまるで女神のようなヒロイン達を手に入れたわけだが、なるほど日本では古来よりふくよかな女性は豊穣の象徴として奉られていたのであり、遠い祖先の男達はそんな女神に憧れを抱いてきた。そして女神は人間ではないから、地味で平凡で冴えない男であっても気持ち良くしてくれるのである。今、そんな女神を我々は祖先に代わって抱く事ができた。素晴らしい、ラブコメとは男のロマンだ。

  

第2位:ひとりじめなぱたワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL

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 さて繰り返し述べてきたのはラブコメとは「地味で平凡で何の取り柄もない男(=主人公=読者)」になぜか美人でかわいくてスタイルも良くて性格もいいヒロインがくっつく、そして成年版においては快楽を提供するというものであった。しかしながら「主人公とヒロインがくっつく」と「快楽を提供する」をわずか20~30頁で表現するとどうなるか。主人公とヒロインがくっつく事に重きを置いて、「快楽を提供する」事がおざなりになる場合がある。なぜなら主人公は「地味で平凡で何の取り柄もない男」であるから、どうしてそのような「地味で平凡で何の取り柄もない男」がそんなヒロインを獲得したのか説明しなければならず、獲得した後は「地味で平凡で何の取り柄もない俺でも女が手に入った」という感動が先に来て性交渉まで意識がいかない場合もあるからである。

 しかし人生と同じで、そのようなヒロインと、では今後どのようなめくるめく生活を送れるか、又は愛情たっぷりの幸せな生活を送れるのか確かめたいと思うのが人情であって、しかし「めでたしめでたし」のその先は想像する他ないのが現実に生きる我々の辛いところだが、ラブコメだけは違う。ラブコメはめでたしめでたしで終わった後の生活を描く事ができる。なぜならそこに生活の諸問題がないからで、例えば同棲したとすれば生活費はどうするか、お互いの仕事とプライベートの時間をどう合わせるか、親への連絡等はどうするかといった重苦しい問題が横たわり、それら生活の垢は彼と彼女を蝕む危険性もあるが、ラブコメにおいてはいくら付き合おうがその後結婚しようが「妻はいつまでも夫(=主人公=読者)にぞっこんで、いつまでも若く身体も瑞々しく、性的奉仕もそれ以外の奉仕も厭わない」のである。だからその後の幸せな生活を描く事も可能なのである。

 そこで本作であるが、既に付き合って肉体関係を結んでいる主人公とヒロインの2人の間には何者も闖入できない世界があり(「すっかりやらしい体になっちゃったね」「あなたのせいですからね」)、性交渉によってその世界は燃え上がり、或いはどこまでも深く落ちていき(「だってこれ以上一緒にいたら、おじさんと離れるの怖くなっちゃうよ…」)、どんなに快楽を貪ろうともすぐそばに相手がいるのだからどこまでも行けるという安心感が付与され、更に快楽を貪る事ができるのであった。もちろん同棲の場合はまだ結婚していない、即ち社会的に認められていない関係なのでやや後ろめたさもあるが、その後ろめたさを感じさせないほどにヒロインは主人公(=読者)のために性的に奉仕するのであり、奉仕する事に悦びを見出しているのであり、それによって主人公(=読者)はその深みにはまり込む事の甘美さを感じるのであった。

 つまり本作は1位でもおかしくなかったが、2人の深い性交渉描写に注力する事で主人公が「地味で平凡で何の取り柄もない男」かどうかを確認できないのがネックとなって惜しくも2位となった。しかし良かった。

   

第1位:色めき出す世界美矢火文苑堂:BAVEL COMICS

色めき出す世界 (BAVEL COMICS)

色めき出す世界 (BAVEL COMICS)

  • 作者:美矢火
  • 出版社/メーカー: 文苑堂
  • 発売日: 2019/01/30
  • メディア: コミック

 エロ漫画は時にラブコメよりもラブコメ的である。なぜなら性交渉を描かざるを得ないからで、性交渉、つまり裸になって自分をさらけ出し、身体の奥深くで繋がる事で、「地味で平凡で何の取り柄もない男」も「美人でかわいくてスタイルも良い女」も自分が本能に支配されたただの人間である事を知り、しかしそんな人間である事の素晴らしさと相手への愛おしさを知るからである。

 というわけで作者は過去にも1位を獲得しているが(2017年・1位「純愛リリシズム」)何と今年も1位となった。もちろん1位となったのはラブコメ設定のうまさ(「たまたま隣の席になったマブい?ハクい?ギャル」「まあまあ普通の自分に自信のない凡庸な男子がカワイイ彼女をゲットするにはどうしたらいいと思います?」)、どうせ自分は一生色恋には無縁だとあきらめている主人公を引っ張るヒロインの積極度(「積極ってなんだよ!どうしたらいい…」「好きって告白しろよ!」「好き同士ですし…先生は私に好かれてるって自信もってくれていいんですよ」)等が優れていたからだが、目玉であるおじさんものの傑作中編「逃避行」の、息詰まったような生活を送るサラリーマン主人公(20代後半~30歳前後?)と、青春の暗い一面にとらわれてしまった女子高生ヒロインが偶然と運命によって始めてしまった逃避行(「オジサン…私を買いませんか?」「私を『ユウカイ』してくれない?」)を通じてお互いの心を探り合い、寂しさを埋め合い、それまでの人生で経験した事のないような特殊な、しかし静かな二人だけの環境の中で愛が芽生え、愛を感じ、その愛が快楽を生み主人公もヒロインも乱れ、その快楽の協奏曲がまた愛を増幅させ、二人の絆を強くする物語が息を呑むほどの美しさと完成度だったからである。そしてこれはまぎれもなく純愛であった。しかも性交渉を克明に表現しなければならないエロ漫画だからこそ到達した純愛である。

 所詮我々は灰色の世界、いやもっと不確かな灰色の世界で生きて行かなければならないのであり、その現実を忘れるためラブコメその他の華やかな世界に逃げる事もあるが、しかし灰色の世界はやって来るのであり、向き合わなければならない。だが心配ない、向きあった先にはヒロインと愛が待っている。灰色の世界で迷っていたからこそ2人は出会ったのであり、逃避による濃密な2人の時間、お互いの弱さをさらけ出し、お互いの身体をぶつけあった2人には2人だけの世界が作られ、向き合う事を決意し、世界に色がついたのだ。そして主人公(=読者)は救われ、癒され、希望を持つに至るのである。それでこそラブコメだ。ラブコメこそが希望なのだ。

日本ラブコメ大賞2019:Ⅲ ラブコメは常にアップデート

第10位:宇崎ちゃんは遊びたい!ADOKAWA:ドラゴンコミックスエイジ

宇崎ちゃんは遊びたい! 2 (ドラゴンコミックスエイジ)

宇崎ちゃんは遊びたい! 2 (ドラゴンコミックスエイジ)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/02/08
  • メディア: コミック
 

 まずラブコメから離れた一般的な話をしよう。中学生時代、高校生時代、大学生時代において、いわゆるオタク的な暗い男が女子一般と話す事はまずない。今でこそ「スクールカースト」等といった便利な言葉があるが、そのような言葉がなかった時代でも「スクールカースト」的な風習はあったのであり、「女子と気軽に冗談を言い合う」「お互いにボケたりツッこんだりする」「気安く腕や肩などをさわる」事は夢のまた夢であった。しかし我々は、本当はそのような事をしたかった、漫画やドラマに出てくるようなめくるめく大恋愛が無理でもせめて友達としてざっくばらんに話せたらどんなにいいだろうと思いつつもほとんど、いや一言も話す事なく青春時代は終わり社会人となってしまった。

 もちろん社会人になると若い女だろうが妙齢の女だろうが仕事ができると評価された途端に話ができるようになり、場合によっては内容のない雑談であっても聞いてくれたりするので社会人とは何といいのだろうと思ったりするのだが、話はそこから本作に行く。というのも本作は主人公(=読者)とヒロインに恋愛関係はない。もちろん全くないという事はなく後輩ヒロインの方はその気がある風だが、それは裏の顔であって、メインは後輩ヒロインが先輩主人公に絡んでくる日常である。「絡んでくる」と言っても肉体的に絡むのではなくややウザい感じに「遊びましょうよ」「ご飯食べに行きましょうよ」「先輩どうせぼっちなんだから相手してあげますよ」と言ってくる方の絡んでくるであり、「どっちかというと一人でいる時間の方が好きで落ち着くんだ」という主人公にとっては面倒臭い存在であるが、一方で後輩ヒロインは女(爆乳)でありながら全幅の信頼を置いて男である主人公(=読者)に声をかけてくるのでありじゃれ合おうとしてくるのであり、「~っス」「~っスか」という男くさい口調も手伝って主人公も気軽にボディタッチができる(鼻を上に引っ張る、尻を叩く、頭のてっぺんをチョップ)のであり二人で飯を食う事もできるのであり、何だかんだでその「SUGOIDEKAI」胸にも気安く(?)触れる事ができるのであった。

 ラブコメとは主人公(=読者)が積極的に動けない・動いてはならない分、対応するヒロインが積極的になるものであり、そうするとストーリー展開上主人公とヒロインが恋仲となる事が自然である(だからヒロインは積極的に立ち回る)が、ヒロイン側が積極的に立ち回る事ができれば恋仲でなくてもその形式的な条件は満たしている。とは言えヒロインは主人公(=読者)に構ってほしくてしょうがない(「遊びたい時にだけ遊ぶ都合のいい女扱いっスか」「昨日からまだずっと腰痛いんスよ。先輩のせいっスよ」「先輩と一緒にお酒飲んでみたかったんスよ」)のであり、第三者から見れば立派なバカップルである。また主人公はヒロインのおかげで常識人的にツッコミ役になりきる事ができ、且つ何だかんだで楽しい休日を過ごす事ができ、読者にとっては極上の青春体験となろう。とは言え主人公・ヒロイン以外の周囲の会話がやや不自然、芝居臭いところが気になった。舞台廻しこそ自然に、さりげなくするべきなのである。しかしいいものはいい。

「あとうちは布団一組しかないから…」

「一緒に寝ます?」

「一枚ずつ分け合うんだよバカタレ!」

   

「ちゅーしたら起きますかね」

「なにす…」

「やっぱり起きましたか。冗談ですよ、じょ・お・だ・ん」

「…」

「ところで先輩、もしかしてちゅーした事ないんスか~」

   

第9位:おもいがおもいおもいさん/矢野としたか白泉社:YOUNG ANIMAL COMICS

おもいがおもいおもいさん 1 (ヤングアニマルコミックス)

おもいがおもいおもいさん 1 (ヤングアニマルコミックス)

 

  いやはや惜しい惜しい。主人公もヒロインも中3~高1というのは幼過ぎだ。ヤングアニマルに連載するのだからせめて大学生、高校生でも高校2年生ぐらいにすべきであった。そうすれば一気に性交渉まで突っ込めたかもしれない。そこまでいけばこのヤンデレブコメは1位か2位になっていたはずだ。とは言え…そうなったらなったでこのヤンデレヒロインの魅力は半減したかもしれない。

 ラブコメのヒロインは皆多かれ少なかれヤンデレ的要素を持っている。「美人で巨乳で性格も良い」ヒロインが「地味で平凡で何の取り柄もない主人公(=読者)に惚れる」など普通ならありえないが、それを「ありえる」とするからには世間からの視線や常識を屁とも思わない強い思い込みを含んだ好意や愛が必要となり、それは一歩間違えれば精神的に病んだ状態となる危険なものとなる。しかしそこは二次元の勝利で、どれだけ重い言葉を吐かれても所詮は「怒った顔もかわいい」程度ですむのであり、主人公(=読者)は「自分はこんなかわいい女(=ヒロイン)に愛されているのだ、つまり俺はすごい存在なのだ」と自尊心も大いに上昇しよう。とにかく本作は素晴らしい、どれだけ素晴らしいかは下記にある徹底的なヤンデレ的名言を見れば一目瞭然で、主人公(=読者)はその重たい重たい愛に癒されると同時に戦慄するのであるが、それも二次元であれば許されるのである。しかし前述したように主人公はまだ15歳、16歳であるから(「主人公君8月生まれだよね、って事は高3で学生結婚が可能だね!楽しみだな~、2年ちょっと」「けっ…こん…?」「…結婚する気もないのに告白してきたの?」)本格的にドロドロしないのが物足りず、主人公が純粋にヒロイン一筋であるのもやや物足りない。もちろんラブコメの主人公は浮気などしないが、それは「地味で平凡で冴えない自分を誰も相手にしてくれないから言い寄ってくる女で満足する」という結果でしかなく、機会があればハーレムを求めるのが人の世の常である。とは言え浮気や不倫にはリスクがつきものなので目の前のいい女には鼻の下を伸ばすのが関の山だが、そのような浮気的危機があれば、ヒロインはヤンデレ的手法で主人公(=読者)に永遠の愛を誓わせ、手足を縛る事ができただろう。しかしまあ、本作は素晴らしい。ヤンデレ万歳。

「他の女の子と仲良くしないでね、私といる時に他の女の子見ないでね、連絡先とかも全部消して」

「私達付き合ってもう3日になるよね、なのに手も繋ごうとしないなんて、本当に私の事好きなの、本気で結婚する気あるの」

「という事は80歳まで生きるとしたら、あと65年もイチャイチャできるね」

「決して浮気をせず生涯私だけを愛してくれて4人の子供達のいいお父さんになってくれて」

「つまり主人公君はもう家族だから私達は永遠に一緒だって事だよね」

「結婚して子供が産まれたらパパママ呼びになっちゃうんだよ、つまり私達が名前で呼び合えるのはあと4年しかないんだよ」

「そのためにあと7年も待たせる気?私はその間ずっと『早く孫の顔を見せろ』って言われ続けるんだよ」

「これから70年も支え合っていかなきゃならないのにこの程度の事で」

     

第8位:性欲の強過ぎる彼女に困ってます。sakuメディアファクトリーMFC

性欲の強すぎる婚約者に困ってます。sakuメディアファクトリーMFC

 

性欲の強すぎる婚約者に困ってます。 (MFC)

性欲の強すぎる婚約者に困ってます。 (MFC)

  • 作者:saku
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/05/23
  • メディア: Kindle
 

 ラブコメの主人公は地味で目立たずおとなしいので、ストーリー展開上どうしても対するヒロイン側が積極的に出る事になる。それによって主人公はヒロインに引っ張られるが、かと言って主人公(=読者)を被害者にしてはいけない。ヒロインがストーリーを引っ張る事は許容するが、ヒロインが主人公に対して殴る蹴るの暴行、或いは罵詈雑言の限りを加えてはならない。当たり前の話だ。地味で目立たずおとなしい、或いは勉強も駄目スポーツも駄目だからと言ってその者を殴ったり蹴ったり罵倒していいはずがないのだ。しかもそのようにしてひたすらヒロインに殴られ蹴られ罵倒されても「トホホ…」ですますような性的倒錯者が90年代には当然のようにいたのであり、その暗黒時代に耐えた事が俺を世界のラブコメ王たらしめているわけだが、それはともかく、なぜラブコメの主人公は地味で目立たずおとなしくなければならないかと言えば、読者の大半つまり俺も諸君も地味で目立たずおとなしいからであって、ではなぜ俺や諸君は内面に激しくドロドロとしたものを抱えていながら、それはもう激しいものを抱えていながら地味で目立たずおとなしいのだろうか。それはそういう態度を取る事が一番リスクが少ないからそうしているのであって、特に女性関係においてそれは顕著で、少しでも性欲や欲望的な事を表に出せばそれはセクハラ・パワハラ・DV等となって犯罪者扱いされる世の中だからである。

 しかし不思議な事だが女性が性欲等を前面に押し出しても犯罪者扱いされず笑い話ですんでしまうのであり、その是非は置いて、そうであればそれを積極的に活用するのがラブコメであり、かくして女(=ヒロイン)側が積極的に出るのも自然なのであり、その勢いに乗って主人公もその欲望を前面に出す事ができよう。

 また女(=ヒロイン)側から積極的に性的アピールをする事で、男(=主人公=読者)側からすれば「傷物にされた」等の主張をされる心配もなく、男として責任を取らなければならないといった重苦しい罪悪感からも解放される。そして二次元であれば大抵の事は性交渉によって解決するのであり、ヒロイン側が性生活に興味津々で性欲過多であっても、それは主人公(=読者)への愛情として笑い話で処理されるのであり(「彼を虜にするフェラテク」「俺が寝ている間にAV見ながらオナニー」「見られたいし興奮されたいし襲われたい」)、その処理の過程で主人公(=読者)も気が向いた時には性生活を楽しむ事ができよう。そしてここまで愛情たっぷりの生活を送る事ができたのなら主人公(=読者)も最後の最後には背伸びをしてプロポーズを成功させ、一生語り継がれる武勇伝も獲得でき、ヒロイン側も一生の思い出と幸せを獲得できるのであった。めでたしめでたしであって、このようなうまい話はもちろん現実にはありえないが、現実にはありえないからと言ってそれを描いてはいけないわけではない。ラブコメは現実を超越するのである。

「今日は秘密兵器があります!チョコレート味の食べても平気なローション」

(中略)

「まずい…いつものしょっぱい方がいい…」

「俺いつもしょっぱいの!?」

       

第7位:黒船来襲少女!/藤坂空樹竹書房:BAMBOO COMICS COLORFULSELECT]

黒船来襲少女! (バンブーコミックス COLORFUL SELECT)

黒船来襲少女! (バンブーコミックス COLORFUL SELECT)

 

 「エロではないが、非エロでもない」「性交渉シーンが多いが、性交渉的場面以外の見所も確保する」と言えばこの竹書房双葉社の独壇場であり他の追随を許さない。本作においても魅力的なヒロイン(「好きじゃなくても、カラダだけでいいよ、主人公がシタい時だけシていいから」「カタくなった、うれしい」)・悪女的なヒロイン(「たくさん…主人公君の濃いの出たね…これが私の元気の素」)・性交渉の間で揺れ動く男心、社会的立場(組織と自分、組織の人間関係と自分、組織にいる事によって得られるメリットとデメリット、等)によって揺れ動く自負心、をうまく噛み合わせ、陰気ではっきりしない主人公像を表現する事に成功しているのであった。

 当たり前の話だが、男たるもの女の尻を追い掛けているだけではいけない。仕事をしなければならない。女ならば家事手伝いや実家暮らしや気楽な派遣もしくは非正規の仕事でも何という事はないが、男というものは仕事において遮二無二努力し、輝かなければならない。とは言え仕事一筋の仕事人間というのも所詮「女の尻を追いかけ回しているだけ」な男と「馬鹿の一つ覚え」という点では同じである。やはり会社・仕事の合間に女が出てこなければならずその女を使いこなさなければならず、その女は地味で平凡で暗い主人公(=読者)にもすぐに心を開いてくれる、明るく健康的なひまわりのような女でなければならない。本作のヒロインはまさにそのような理想的なヒロインであって、はっきり明示はされていないがアメリカからやってきたヒロイン(「正真正銘の美少女」)は憧れの日本にやってきて主人公が住むマンションの隣の部屋に住むのだがふとしたきっかけで知り合いとなるのであり(「トイレ貸してくださイ!」「刃物もクスリも持ってませン、わ私日本に来たばかりデ、悪いコトしませんから」)、アメリカ的な明るい社交性とヒロインの持つ爽やかな魅力、そして過去この日本ラブコメ大賞に登場した事のある作者(2009・15位「ヴァージンげーむ」、2008・7位「ももいろミルク」、他)が描く細く豊満なヒロインの姿態は主人公(=読者)の生活に笑顔を運んでくれるのであり、上司女(仕事のためなら女の武器を使う、且つ溜まった時は主人公を性欲処理等に使う)にいいように使われるだけのうだつの上がらない主人公(=読者)はいつの間にか救われるのであった。

 特に後半、「身体の関係でもいいから」と主人公に抱かれようとするヒロインの描写は対応する性悪上司女との比較で美しく純粋に表現され、性交渉を経て美しさに磨きがかかり、その美しさは主人公によるものと認識された時、読者は主人公と共に大いなる幸福に包まれ、力を得て、これまでの他人にいいように使われた人生から訣別する(「お断りします、好きな人ができました、もう貴女とはしません」)事ができ、ヒロインとの新しい人生をスタートさせたのであった。つまり主人公(=読者)は生まれ変わったのだ。ラブコメとは再生の物語である。

    

第6位:佐藤くんは覗ている。/ゆきの竹書房:BAMBOO COMICS BC

 耳が痛い話だが女にモテるためには努力しなければならない。スポーツ、勉学、ファッション、社交性、会話能力、等、等を強化して、自分は「強い」「かっこいい」「賢い」を世間社会一般から獲得しなければ女は振り向かない。つまりヒロインを射止めるには努力しなければならない。しかし何度も言うようにそのような努力をしても優秀にはなれない、或いは様々な理由から努力できない男も大勢いるのであり、更に言えば血と汗と涙でそれらの諸能力を獲得したとしても女にモテる事が確定するかと言えば神ならぬ人の世の常でそうとは限らない。そのような理不尽に耐える男達のための「救い、癒し、希望」としてラブコメがあるわけだが、そうは言っても天から女が降ってくるわけではないのだから、「アプリ(このアプリを使えば女の考えているコトがわかり人生バラ色間違いなし)が舞い込んでくる」という設定にしたのが本作である。アプリ、というのが現代的でいいではないか。ラブコメは常にアップデートしなければならない。

 しかしながら「女の考えているコトがわかる」と言ってもその女が自分に悪意を持っていたら(或いは何の興味も持っていなかったら)そのような女に近づくわけにはいかないのだからラブコメとはならない。自分に対してやや好意めいたものが芽生えた、或いはもともと好意を持っているからこそのこのアプリの出番となるわけで、導入当初は

①アプリを使ってヒロインの(本音の)望みをかなえよう

②その結果ヒロインの好感度を上げて、徐々にヒロインを籠絡しよう

 となるはずだったが、アプリによってヒロイン達の本音が露わになると次第にヒロイン達の方が(他人の心を見ようとする主人公よりも)危ないキャラクターとして描かれてしまうのであった。ここがやや混乱するところで、主人公(=読者)はいつの間にか童貞狩り(成功例なし)が趣味の処女に襲われそうになり、幼馴染みでヤンデレ気味のストーカーに襲われそうになり(「趣味:主人公君の盗撮・盗聴・観察日記をつける」「主人公君、あの女どもは何かな?主人公君にはヒロインだけいればいいよね、それともヒロインの愛を試してるのかな?嫉妬してほしいのかな?そんな事しなくても(以下略)」)、上記2人は副ヒロイン級扱いでメインヒロインは2人いるのだがその2人も副ヒロインの暴走と欲望に感化されて結局暴走気味に主人公へアプローチをしかける事になり(「どうせ洩らすならもういっその事主人公さんに見られたい」「エッチな同人誌みたいに、無理やり奪います」)、危険な修羅場的なハーレムとなって、最後は天下の公道で「心を覗いた責任取ってくれるのよね?」とせまられたまま強引にフェードアウトとなるのであった。

 しかし1巻完結ならこのような終わり方も許されよう。読者はその勢いに翻弄されながらも「修羅場ハーレムができた」→「主人公(=俺)はやばい修羅場を経験した、それはもうすごかった」という読後感と共に、「自分は女にモテた」という記憶をインプットできよう。それでよい。人生に勢いが必要なようにラブコメにも勢いが必要なのだ。

      

第5位:狐のお嫁ちゃん/Batta[KADOKAWA:角川コミックス・エース]

狐のお嫁ちゃん (2) (みんなのコミック)

狐のお嫁ちゃん (2) (みんなのコミック)

  • 作者:Batta
  • 出版社/メーカー: eBookJapan Plus
  • 発売日: 2017/09/28
  • メディア: Kindle
 

 さて続いてはいわゆる動物擬人化ものである。擬人化によって美しい女となった動物女との恋物語は民話の世界から当たり前のように存在しているわけだが、擬人化をラブコメで扱うメリットとしては

①人間とは違う。つまり人間社会ではモテない主人公(=読者)にも惚れる可能性が大いにある。又は惚れても違和感がない(人間ではないので)。

②人間社会や世間に染まっていない。つまり女尊男卑な昨今の風潮に染まっていない。

③発情期がある。性的な交わりを正当化できる(発情期だから仕方なく交尾しているという言い訳が得られる)。

 があるが、一方デメリットとしては

①人間とは違う。つまり人間社会とは違う価値観や美的基準がある可能性がある

②人間社会や世間に染まっていない。つまり主人公(=読者)が一から人間社会の常識や世間のしがらみを教える必要がある

③発情期がある。逆レイプ的に性交渉を強要される恐れがある。

 等もあり、動物擬人化ヒロインを恋人又は嫁にしたのでめでたしめでたし、とはならない可能性もある。それに当たり前の話だが人間には人間が一番なのであり、過去の動物擬人化ものとしては下記ぐらいしかなかった。

モンスター娘のいる日常」(2014・8位)

狼と香辛料」(20122013・5位)

魔法少女猫X」(2007・5位)

「いぬみみ」(2007・15位)

コイネコ」(2006・28位)

もののけ・ちんかも」(2004・6位)

「BOX」(2004・8位)

「おとぎストーリー 天使のしっぽ」(2002・6位)

 しかも「狼と香辛料」以外はコメディに重きを置いているので真面目に主人公(人間)とヒロイン(動物)が生活している描写はなされないのが常であったが、本作は基本的に二人の結婚後の生活が描かれ、いかにして人間社会に溶け込むか(獣としてどこまで許容できるか)、から始まって、今後の生活設計(子供はいつ作るかその場合の養育費等は)、風邪をひいたらどうするか、お互いの親との付き合いをどうするか(異類の文化にどこまで付き合えるか)、また経済的な問題(養育費をどう稼ぐか)、等、等が次から次に発生して飽きる事がないが、ヒロインである狐のお嫁ちゃん(330歳、「物心ついた頃世は生類憐みの令で野犬が溢れて狐にとっては地獄のような世の中じゃった」)は人間ではない・人間社会や世間に染まっていないからそれら面倒臭い問題に愚痴の一つもこぼさず愉快に乗り越えていくのであり(「発情期はまだまだ続くぞ、気を取り直して今晩も交尾じゃ」)、それによって主人公(=読者)はヒロインに愛されている事を実感し、擬人化ヒロインを守ろうという静かな決意さえ生まれるのであった。

 この格差社会・女尊男卑の社会では人間の女に愛される事が絶望的になってしまった。つまり「擬人化ヒロインが目の前に現れる」事も「人間の女に愛される」事も同じくらいありえないのならば、大多数の男達は前者を取るだろう。それがラブコメの本質だ。

     

第4位:○○デレ井上よしひさジャイブ:CR COMICS DX

○○デレ(2) (CR COMICS DX)

○○デレ(2) (CR COMICS DX)

  • 作者:井上よしひさ
  • 出版社/メーカー: ジャイブ
  • 発売日: 2011/09/07
  • メディア: コミック
 

  繰り返し言及しているようにラブコメの主人公は「地味で平凡で冴えない」のだから、いわゆるオタクにするのが一番手っ取り早い上に読者は感情移入しやすい。そしてヒロインもオタクにする方がよい。その方がオタク主人公(=読者)の特殊な生態及び特殊な性癖を難なく理解する事ができ、万事うまくいくように思える。

 しかしヒロインもオタクであるという事はそのような理解の助けとなる反面、オタク的生活が基盤にあるという事でヒロインには主人公(=読者)以外に優先する対象が存在する事になり、主人公(=読者)の存在感の低下、また主人公(=読者)への依存心を薄める事に繋がる。ラブコメとはヒロイン→主人公へと一方的に愛情が先行するものという方式と矛盾しよう。主人公に向けられるべきエネルギーがオタク趣味へと向けられては困るのである。依存心が強ければ強いほど主人公の存在感が大きくなり、また対恋愛の力関係でも有利になるからである。

 そのため今までのラブコメでは「ヒロインもオタク」と言いながら実態は「オタクに理解がある」程度のマイルドな感じにするのが定番であった。本作の各ヒロインもコスプレ趣味、漫画家志望、声優志望、BL作家、同人作家、等とそれぞれ濃いオタク趣味を持っているが、しかし男オタク(=主人公=読者)に都合のいい存在(オタクに理解があり、主人公のオタク趣味全般を温かく見守る)としてキープされている。主人公のオタク趣味に対して同族嫌悪に陥る事はなく、自分のオタク趣味はその道を極め一人荒野を目指すような熾烈なものではない事も描写され、しかしオタク趣味は楽しいから続けるという事で主人公側に「自分もオタク趣味を捨てなくていいんだ」という言い訳を与え、むしろそのオタク趣味によって主人公(=読者)とヒロインは出会う事ができたというまとめへと落とし込んでいるのであった。

 つまり本作はよく言われる「いい歳してオタクだから彼女ができないのだ(結婚できないのだ)」という常識を否定しているすごいものなのであった。なぜそんな事ができたかと言えば二次元のセオリーに則って女オタクヒロインは女オタクにも関わらず美人でスタイル抜群で性格もいいのであり、そのため主人公はヒロインを意識し、しかし主人公はオタクであるからヒロインに声をかけることもできず向こうから話しかけてきてもほとんど言葉が出ないが、そこへ優しい偶然を与えてきっかけを作り、お互いの関係を発展させるのである。そしてなぜ「お互いの関係を発展」できたかと言えばヒロインもオタクだからである(「オタク同士ひかれあったんだね、きっと」「せっかくオタクの神様が彼に会わせてくれたんだもの」)。素晴らしい。ラブコメとはこのように都合の良い展開を通じて弱者(オタク)を救ってくれるのである。オタクな我々は癒され、救われ、希望を持ち、今日も偏見と闘うのである。

    

第3位:BOYS BE…~young adult~/イタバシマサヒロ玉越博幸富士見書房:ドラゴンコミックスエイジ]

BOYS BE… ~young adult~ 2 (ドラゴンコミックスエイジ た 6-1-2)

BOYS BE… ~young adult~ 2 (ドラゴンコミックスエイジ た 6-1-2)

 

 

 おお。何と。「BOYS BE…」(2000・19位)ではないか。2019年になってまた「BOYS BE…」と再会を果たす事ができるとは思わなかった。というのは俺と「BOYS BE…」の出会いはかなり古く小学生の頃に読み始めていた(行きつけの散髪屋に置いてあった)からであり、小学生にとって、本作に出てくる高校生主人公達のもどかしく甘酸っぱい、しかしほのかな色気のある瑞々しい青春ストーリーはかなり刺激的であった。

 しかしながらやがて出会った「天地無用!魎皇鬼」(1997年・1位)、そして「ふたりエッチ」(1998年・1位)の壮大さと深さは俺の人生を変え、ラブコメそのものがライフワークとなって今や世界のラブコメ王として降臨しているわけだが、「天地」「ふたりエッチ」を知ってしまった後では「BOYS BE…」の甘酸っぱく瑞々しいが刺激の少ない物語は俺の琴線に触れず、2000年に備忘程度で19位とした後長い間俺の記憶と本棚の奥にしまわれていたわけだが、しかし日本ラブコメ大賞に認定された以上俺は見捨てなかったのであり、俺のような体験をした当時の少年達(今の30代~40代)は大人になってまた「BOYS BE…」を復活させたのでありそれは見事この日本ラブコメ大賞の3位を射止めたのであった。心からおめでとう。

 しかしながら当時「BOYS BE…」を読んでいた、俺を含めた「恋に興味津々だが恋に臆病な少年達」は大人になってどうなったか。社会の厳しさに触れ、将来の不安に襲われ、酒の味を覚え、しかしやはり恋に臆病なのは変わらず、周囲にいる女達はそのような初心な少年達とは住む世界が違う遠い世界に行ってしまったではないか。しかし「BOYS BE…」の世界は違う。確かな財産も才能もなく、これといって特徴もない、むしろおっちょこちょいで慌てん坊で早とちりな主人公達はしかし目先の学業や仕事や自分の将来に真摯に向き合うのであり、時に怠惰に流されてもそのような自分を反省し後悔するのであり、そんな彼らにも遅い春は訪れる。真摯に、一生懸命に生きた彼らにはヒロインの方から優しく声をかけてくれるのである。

 思えばかつての「BOYS BE…」もそうだった。ヒーロー揃いの「少年マガジン」の片隅で、悩める読者を体現したような主人公達は世界の滅亡も野望もなくただ与えられた課題を地道に真剣に乗り越えようとしていたのであり、そこにヒロイン達は優しく声をかけ、きっかけを与えてくれたのだ。あの時代にはそんな漫画を優しく微笑んで認めてくれる度量があったが、今の「少年マガジン」、いや少年誌にそんな作品は成立しない。善と悪、富と貧乏、華やかさとみすぼらしさの対比の中で、漫画さえも全てが切り捨てられる時代となってしまった。しかしラブコメだけは違う。クラーク博士が言った「ボーイズ・ビー・アンビシャス(少年よ大志を抱け)」を胸に、かつて少年だった俺は今後もラブコメを追い求め続けよう。

   

第2位:アリソンは履いてない/ねんど。[竹書房:BAMBOO COMICS]

アリソンは履いてない 2 (バンブーコミックス)

アリソンは履いてない 2 (バンブーコミックス)

 

 繰り返しになってしまうがラブコメであればよい。ストーリーはありきたり、画力も優れているわけでもない、それでもラブコメとして優れていればよい。「ラブコメとして優れた」とは「地味で平凡で冴えない主人公」が何のリスクを負わずとも辛く悲しく痛い代償を払わなくても「美人でかわいくて胸も大きくてスタイルもよくて…」なヒロインを得る事ができ、それを何の違和感もなく主人公もヒロインも周囲の世界も受け入れることができる事を言う。そのため設定もありきたりでよく、本作も

①主人公が無職

スマホゲームからヒロインが出てくる

③色々な面倒事に巻き込まれる

 というそれだけのものであるが、その話の進め方がかなりうまかった。更に整理すれば

①ヒロインがスマホゲームから突如としてやってくるドタバタとなかなか信じられない主人公

②いつの間にか主人公の家に居着いてしまうヒロイン1

③ヒロイン1を追ってやってきたヒロイン2との戦い

④更にやってきたヒロイン3とヒロイン1の戦いとそれを静観するヒロイン2

⑤お互いの戦闘とその後やはり主人公の家に居着いてしまうヒロイン1~3

⑥更に追ってやってきたヒロイン4とヒロイン1の戦い、それに加わったり加わらなかったりするヒロイン2とヒロイン3

 となるわけだが、このように終始ドタバタしながらもややアホっぼい妹、こたつでカップ麺を食うヒロイン1~3、モミモミ(「女の子の体(おっぱい)をモミモミして魔力を回復させるあの操作」)、キレのあるセリフ(「君がいたこの4日間、ちょっと迷惑だったけどトータルで言うと楽しかったよ」「私はねえ、耳は付いてても、聞く耳は持ってないのよ!」)等が挿入され緩急自在、読んでいて楽しく、しかし癒されるという極上の読書体験であった。またヒロイン1、ヒロイン2、ヒロイン3…と登場させるタイミングも絶妙で、1巻で3人を出してもカオス感がないのはこの1~3をやや険悪にしているからで、それによって主人公(=読者)とヒロインが個別にストーリーを作り上げ、しかし主人公に危害を加える場合には一時的に団結し、しかし相変わらず険悪さは維持する事によって主人公の存在感を飛躍的に上げているのであった。

 しかしまあ、以下の4頁を見ればいかに本作が楽しいものかわかるであろう。とにかく楽しかった。そして本作を象徴するセリフがこれであろう。「どうしよう、困った事態だけど悪い気はしない」。

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第1位:ブラック学校に勤めてしまった先生/双龍日本文芸社:COMIC HEAVEN COMICS

ブラック学校に勤めてしまった先生(2) (ニチブンコミックス)

ブラック学校に勤めてしまった先生(2) (ニチブンコミックス)

 

 さて2位が「とにかく楽しい」ならば見事1位となった本作は何と言うか。「とにかくすごい」である。とにかくすごい。ここまで振り切った作品は20年以上の歴史を誇るオールナイトラブコメパーカー・日本ラブコメ大賞の中でも前代未聞である。

 ラブコメの主人公はヒロイン側によって一方的に惚れられるのを常とする。しかもその惚れられる理由は読者にとって一般的でなければならず、繰り返しになるが、「容姿淡麗」「スポーツ万能」「天才(IQなんとか)」等の特殊な理由を根拠にしてはならない。そのため一目惚れが一番よいが、一目惚れ効果が何人も続いたらそれは「一目惚れ」が持つ特殊性がなくなってしまう。

 そこで本作だが、女子校に赴任した新任教師主人公がまず開始4頁目から「まじ!?チョータイプなんだけど」「超タイプだから放課後にヤるねー」と言われる。いわゆる一目惚れである。そして一目惚れが何人も続くわけがないからそこでモテ期が終わって主人公とヒロインがヤるのかと言えばさにあらず、主人公はその超巨大というか富士山というかチョモランマというか、とにかくすごい性器(しかもオクロフィリア、ポリテロフィリア、多精子症)でもってその場にいる女子高生(全員黒い)及び保健医(「何このアダルティ」)を釘付けにしてしまうのであり、その性器を目にしたが最後女子高生ヒロイン達は次々とその性器に一目惚れつまり主人公に一目惚れとなるのであり、その勢いのまま主人公争奪戦が始まる、しかし主人公はあくまで真面目に聖職者としての道を進もうとしているのであり、そんな主人公の思いなんか知らんわいとばかりにやはり主人公争奪戦が…という荒唐無稽なものだが、あまりにも女子高生ヒロイン達が次から次へと主人公(=読者)へ攻撃を仕掛けてくるのですごいすごいと圧倒され、読み終わった後は空虚感さえ感じ、その空虚感の正体を知ろうと再び読み始め、やはり圧倒され空虚感さえ感じ…を繰り返す。非常に特異な読書体験であった。ラブコメとはすごいのだ。

「大好きな人のためならマーコ何でも出来るし!センコーなんか怖くねーし!主人公がド変態でも全部受け入れて最&高のエッチしてみせるし!」「主人公の生徒は皆主人公ッチン●を狙ってる!アタシも狙って当然だ!」「はああああ!?アタシだって真っ先に目つけてるし!?主人公ッチン●ガチラブだし!?」「マジない!主人公ッチの事マジラブだもん!」「えええだっておっぱいだしぃ、主人公ッチ嬉しくないのー!?」「先生のチン●がふざけてるしなに今の超パないはよ挿れたいし」「ムラムラやばばだったら昼休みいっぱいしよ!」「私のが締まりパないよスポーツ得意だから」「主人公先生って赤ちゃんプレイ好きなんですか!?パねええ私得意なんですよ後でしますぅ!?」…というわけで最&高の主人公(=読者)争奪戦の余韻に浸りながら日本ラブコメ大賞2019を終わろう。次は日本ラブコメ大賞2019成年部門編です。

日本ラブコメ大賞2019:Ⅱ 安穏で平穏な生活を送るだけが望みの

第20位:妻に恋する66の方法/福満しげゆき講談社:イブニングKC

妻に恋する66の方法(1) (イブニングコミックス)

妻に恋する66の方法(1) (イブニングコミックス)

 

 さて作者は「僕の小規模な生活」「うちの妻ってどうでしょう」(2008・1位)「僕の小規模な失敗」(2008・5位)以来の久々の登場となったが、その後甲斐性もないのに子供を2人も作り、連載は打ち切られ、日夜どうしようもない不安に駆られつつも妻を観察する事で束の間の平安を保つのであり2008年当時から変わっていなかった。そして社会性皆無な作者(「ずっと家にいると、外に出るのが怖くなったりするのです」)が結婚し子供をもうけた事自体が奇跡なのにその妻は美人(と思われれる)で、作者は漫画家であるから一人黙々と漫画を描き、孤独や寂しさに押し潰されそうになったとしても「わっ。家に女いる!」という驚きと共に妻を再認識するのであり、それが「妻に恋する」に繋がるわけであるが、同じく社会性皆無な読者にとっては本作を読んでいる間だけは主人公(=作者)と共にその喜びを分かち合う事ができるのである。これもラブコメの一つの形と言えよう。

 とは言え主人公(=作者)はひねくれ者なので「妻は美人だよ、ちょっと身体がずんぐりむっくりしているだけ」「九州が育んだ丈夫なボディ!」「じゃあ妻もあれぐらいオッパイ大きくなってよ!」「フンゴフゴフゴ」と妻をダシにするのであり、妻の方も子供を2人産んで年齢を重ねた今となってはもう人生やり直しなど望むべくもなく、このうだつの上がらない亭主の尻を叩いて何とか生活していかなければならない。その夫(=作者)と妻が醸し出す小市民的なしょうもない諍い(「女のマタに一生懸命トーン貼ってるとこずっと見ないでくれる?」「皆が皆、常におなかが減っているわけじゃないんだよ」「ダメやっか~、カカトの事描いちゃダメやっか~」)はユーモアと安定感があり、読ませるのであった。まあ世の中の大半の夫婦はこうして老いていくのだろう。

「私の可愛いエピソード、なんか描けたとね?」

「くっ!35歳のくせになんて図々しい」(妻の発言に反感を持っても口には出さないであげよう)

 

第19位:変女/此ノ木よしる[白泉社:YOUNG ANIMAL COMICS]

  ラブコメの主人公は「地味で平凡で冴えない」が原則であるから、主人公側から積極的に動いてはならない。とは言えそれではストーリーが展開しないので、対応するヒロインが積極的にならなければならず、それは恋愛展開についても同様となる。ヒロイン側から積極的に好意や愛情を主人公(=読者)にアピールしなければならない。そのような、「『美人でスタイル抜群なヒロイン』にも関わらず『地味で平凡で冴えない主人公』に積極的に関わる」という意外性の構図がラブコメなわけだが、かと言って主人公(=読者)がひたすらヒロインに振り回されるだけでは主人公(=読者)は疲れるだけであって、主人公がストーリーの中心、或いは中心たる人物・存在・事件の鍵を握るように仕向ける事が必要となる。だから主人公なのであって、ただヒロインに「からかわれる」「オモチャ的に消費される」存在ではラブコメとして作品一般としてもどうしようもない。

 そのため変(態)女に振り回される(「毎日オナニーしているのに、あの勃起角度が保てるなんて」「主人公さんは毎日オナニーなさるので、精子に良い食材をふんだんに使った特製(弁当)ですよ」)主人公、だけではラブコメにならないが、一方で変(態)女ヒロインは不器用だが真面目な主人公に徐々に惹かれ信頼していく事も描かれており、そうなる事でヒロインは安心してより一層変態度を増して主人公を振り回してゆくのであるが、そこで副ヒロイン(主人公の従妹で主人公を幼い頃から慕っている)が表れたところで主人公・ヒロイン・副ヒロインに微妙な三角関係が生まれ、ヒロインの変態度は時に先鋭的に、時にグダグダになり、副ヒロインはより主人公への気持ちを意識しつつ変態的ヒロインに巻き込まれ、主人公は最初から最後まで翻弄されているとは言え読者にはその時々の騒動はヒロイン・副ヒロインの主人公に対する戸惑いやアピールに端を発したものである事がわかり、ラブコメへと姿を変えるのであった。さすが過去1位を受賞した経験を持つ作者で(2017・1位「こっみくすたじお」)、そのあたりは憎たらしい。

「オカズができて良かったですね、私も今日の事、オカズに使います」

「えっ!?今日何か使える事あったか!?」

   

第18位:僕の心のヤバイやつ/桜井のりお秋田書店少年チャンピオンコミックス]

僕の心のヤバイやつ 2 (少年チャンピオン・コミックス)

僕の心のヤバイやつ 2 (少年チャンピオン・コミックス)

 

  「スクールカースト」「陽キャ」「陰キャ」と言った言葉が使われ出したのはここ5年程であるが、もちろんそのような言葉が使われるはるか昔からそれらを意味する事象はあった。そして陰キャな少年達はより陰気に、よりネガティブに、暗く深い谷底へと降りていくき、思春期や青春期の傷は一生残り、大人になってもリア充を妬み嫉み、やがてネトウヨその他になってSNSその他でひたすらリア充その他を叩く底辺な人間に成り下がるのであった。

 しかしながら我々にはラブコメがある。ラブコメにはそのような「陰キャ」な人間でもラブコメができるという夢物語があり、その夢の体験を通して優しさを取り戻し、真人間へと更生するのである。世の中からラブコメがなくなったらえらい事になるというのはそういう事だ。

 話がそれたがそのようにして「陰キャ」である事を強く自覚している主人公は陰キャをこじらせた上に「中二病」にも罹っており(「僕が今最も殺したい女だ」「クソクソクソクソ女、そうやって底辺を見下している事を絶対に後悔させてやる」)対処のしようもないが、そこに「陽キャ」であるはずのヒロイン(学校イチの美人、雑誌でモデルもやっている)をぶつけ、もちろん陰キャ陽キャ、水と油のはずの二人が同じ世界、同じ空気を共有する事はありえないが、偶然と幸運の重なりによって陽キャヒロインがややアホである事が判明し(「学校でねるねるねるねを作ろうとする女」「ねるねるねるねやプルーチェを料理だと思っているのか」「私はゴミ箱に捨てていないので、違います」)、対する陰キャ主人公は相変わらず中二病でありネガティブ思考が基本であり(「そもそも僕なんかと外で二人きりになって恥ずかしい…そんな涙かもしれん」「僕と二人でいるのを見られたりしたら、著しいイメージダウンである」)、いじらしい、まどろっこしいというより面倒臭いだけの男だが、そのような面倒臭い中二病の主人公も陽キャアホヒロインに恋をしている事に気付くのであり、陽キャアホヒロインの方も自分のやや特殊な個性を正面から受け止めてくれる主人公を次第に意識してしまい、更にわけのわからない行動に出てしまうのであるが、ヒロインのその「わけのわからない行動」が主人公が発端になっている事で読者は癒されるのであった。

 また「ヒロインに振り回される主人公(=読者)」を基本としながらも時々はヒロイン側が主人公に振り回されるのであり、そのような攻守交代を経てだんだんと二人のみの独特の世界ができあがっていくのも非常に居心地が良い。かくして「スクールカースト」を乗り越える事ができるかもしれない。希望、それがラブコメだ。

「…トイレだよ」

「トイレは上にしかないだろ」

「あっ。そうなんだ間違えた~。じゃあね」

「やれやれ。…僕と…喋りに来たのか…?」

  

第17位:パラダイスウォー/梶島正樹・水樹尋[講談社講談社ラノベ文庫 

パラダイスウォー2 (講談社ラノベ文庫)

パラダイスウォー2 (講談社ラノベ文庫)

 

  小説とは何か。「活字で描かれた漫画」か。そうではない。小説とはあらゆる形式から自由なものであり、世間的常識の下にある嘘や偽善を暴くためのものである。老若男女全てが支えあい助け合うと言うが本当は老人と女だけが得をしているのではないのか、多様性の名の下に特定の層が優遇されているのではないか、愛は金では買えないというが本当にそうか、戦争反対と言うが本心では戦争したいのではないか(そして自分は絶対に負けない、死なないと思っているのではないか)、自分以外は皆不幸になれ但し自分だけは幸せになるのが当然だと思っているのではないか、等、等、人間の奥底にあるどうしようもない真実を探り当ててきたのが小説であり文学である。そしてそこから話は俺のラノベ嫌いへと繋がるが、今や権威と化し旧来の伝統に凝り固まってしまったミステリー、SF、漫画とは違い、せっかく自由な形式が保障されているにも関わらず出てくる作品は相変わらず「正義感が強い」「『友達(仲間)は大事だ』とか言う」「雨に濡れているからと言って捨て犬に傘をさして自分は(以下略)」、等、等な主人公ばかりであって、これだけ多様性が叫ばれている時代に金太郎飴のように同じ性格をした主人公だらけなのはどうしたわけだ。小説だろう、自由だろう。俺やお前のような、地味で平凡で冴えなくて、貧乏で、むっつりスケベで、チビでデブでハゲで、プライドだけは大きくて、世間体を気にして、器が小さくて、そんな主人公がしかし美人で可愛くて巨乳でスタイル抜群な女にモテモテになるやつを作ったらどうだ。小説ならそれができるのだ。

 話がそれたが本作もまたそのような「お人好し」系の主人公であり、もちろん悪人や筋金入りのワルよりはお人好しの方が読者としては感情移入しやすいが、「でも、今はちょっと頑張ってみたいんだ」「俺が一緒にいるから、安心して」「誰だって言いたくない事の一つや二つ」、等、等の歯が浮くような台詞が散りばめられると主人公=読者の図式が成り立たなくなってしまい、それでは「自分とは関係ない誰かがモテている」という胸糞悪いだけの話となってしまう。ラブコメとは主人公=読者であり、その主人公がモテる事で読者もモテる、それによって読者は救われるのである。

 とは言え本作はラブコメの老舗である「天地無用!魎皇鬼」(1997・1位)に連なるシリーズであるから及第点になるのは保証されていたのであった。主人公には前述したような「いい人過ぎる」面があるが、突然のサバイバルによる不慣れな生活や宇宙の命運を賭けた戦いに圧倒されながらも4人の美少女と1人の露出狂的美女が主人公をサポートするのであり、主人公は読者にとってリアルでなければならないがヒロイン側がいくら突飛な設定(美人でスタイル抜群で性格もいいのになぜか主人公に好意を持っている)でも問題はない。要はいかにして地味で平凡で冴えない主人公を中心にして盛り上げていくかという事であり、本家本元の「天地」主人公は特殊な家柄の人間な分、感情移入が難しいところもあったがこちらは本当にただの一般人なのでその分感情移入も容易で読みやすくもあった。

 またラノベなのだから文体や文章の不自然さ、説明を会話文で切り上げてしまう粗っぽさは問われない。何しろ本作は「天地無用!」シリーズなのであり、SF的設定も胸躍るものがある。「天地無用!魎皇鬼」第5期がいよいよ始まるが、本作もアニメ化してもらいたいものだ。

   

 第16位:脱童貞の相手は…まさかのアイツ!?ぽろりブラスト出版:comic gloss]

脱童貞の相手は…まさかのアイツ!? (Comic gloss)

脱童貞の相手は…まさかのアイツ!? (Comic gloss)

  • 作者:ぽろり
  • 出版社/メーカー: 星雲社
  • 発売日: 2017/03/18
  • メディア: コミック
 

 

 本作はいわゆるライトなエロ漫画であり、成年指定されていないエロ漫画である。この分野だと竹書房双葉社少年画報社が長く第一人者であるが、こちらの電子書籍・配信系のレーベルも馬鹿にできない。なぜならとにかく量が多いのであり、量が多ければその中にキラリと光るラブコメも多くなり、世界のラブコメ王たる俺はその類まれな嗅覚と選択眼でひょいと掴み出す事できる。世界のラブコメ王は新興勢力の味方である。

 で、本作はまず絵が上手いわけではない。キャラクターは普通だが背景が雑で、特に時々出てくる食卓の貧相さはかなりのものであるが、主人公・ヒロイン1(主人公の義妹)・ヒロイン2(主人公の恋人)による三角関係、それと並行する性交渉の進行は非常にスムーズであって、

①同棲中のヒロイン2とようやく性交渉へと至るはずの主人公はヒロイン1の妨害にあう

②事故と偶然によってヒロイン1と性交渉をすましてしまう

③その後も一つ屋根の下でヒロイン2にばれずにヒロイン1と性交渉へと至ってしまう

 と進むのであるが、この小規模感、場面展開の少なさがキャラクター・背景・その他小道具含め全てが平均的な画力とマッチして安定感を出している。また主人公とヒロイン2との性交渉を阻止しようとするヒロイン1のいじらしさ、直球さ(「お兄ちゃんはあたしだけのものなんだから」「チャンスよ!これで彼女に幻滅されちゃえ!」)、やや子供っぽい言動・髪型(ミッキーヘア…でいいはずだ)と、対するヒロイン2の天然且つ主人公を信頼し切っている大らかさ、しっとりと大人びた風貌(基本薄着、ロングヘア)、その間に立って右往左往しつつ欲望を放出する主人公という構図も安定感を持っており、偶然の結果であっても稀有なものである。

 またヒロイン1・2が「なぜこんな中途半端な主人公を慕っているのか」の理由もなく次々とラッキースケベが発生するのも良い。理由を考える暇もなく主人公(=読者)は次々と「おいしい目にあう」のであり、それによって読者はいつの間にか自然に主人公と同化し、この困った三角関係に困惑しつつ、ヒロインによるヤキモチ等のおいしいところを味わう事ができよう。こういうものがあるから電子書籍も油断ならない。これからも探し続ける事にしよう。

   

第15位:正しくない恋愛のススメ/東雲龍少年画報社:YKコミックス]

正しくない恋愛のススメ (ヤングキングコミックス)

正しくない恋愛のススメ (ヤングキングコミックス)

 

 ラブコメとは男にとって「都合のいい」ものでなければならない。それは例えば彼女いない歴=年齢で、女と目を合わせると顔が赤くなってしまうような、どう考えても春が訪れる事はない青年にも女が寄って来る…というものであり、そんな夢物語のような都合のいい話もラブコメなら可能である。という事で本作であるが、

①ぶつかったヒロインに「ねえ君、ちょっと時間ある?」

②ヒロイン「今は男でもエステとか行くのが普通なのよ。ウチの店、今だったらお試し価格で」主人公「…」

③その後紆余曲折あってヒロインの方からデートの誘い

④ヒロインは童貞喰いで、童貞を喰い終わったら関係も終了する事が判明(「私とえっちしたら…おしまい」)

⑤童貞を喰われてポイ捨てなどふざける、と逃げる主人公、追うヒロイン(「私は私のやり方で、主人公君の事、本気で落として行くから」)

⑥その主人公と同じバイト先の副ヒロインが参戦(「主人公は私と、明日出掛ける約束してるから、絶対駄目!」)

⑦ヒロインと副ヒロインが女のプライドを刺激されて主人公にアピール(「あの2人共…狭いんですが」「あんたがまたエロい事しないか監視するためよ」「私は隣に座りたいから」)、リア充状態

⑧主人公とヒロインは性交渉、更に主人公と副ヒロインも性交渉

⑨ヒロイン・副ヒロインを天秤にかけた結果、主人公はヒロインを選択

⑩ヒロインもいつの間にか主人公を好きになっていたので両想い、ハッピーエンド

 という事で、まさにラブコメとはこういうものですよという見本のような作品であった。これでもしヒロインが童貞喰い(他の男とヤッた事がある)でなければ迷わず1位となったところだが、世の中そううまくいかない。たとえばヒロインは童貞喰いを標榜しているが成功したためしがない、いわゆる「処女ビッチ」状態…とかであれば良かった。しかし主人公は二人の女を天秤にかけておきながら(ヤッておきながら)副ヒロインに「私は、告白もしたし、こうなるってわかってたし、これでいいの」「ほらっ、早く行って仲直りしてくるっ」と背中を押され許されるのであり、主人公(=読者)は罪悪感を微塵も感じず純愛気分でハッピーエンドとなり、至れり尽くせりとはまさにこの事であった。世の中のラブコメ、いや漫画が全てこうであれば俺もずいぶん楽になるが、そうもいかない。

 しかし…できればエピローグを入れてヒロイン・副ヒロインのハーレムエンドを見たかったなあ、そしたら1位にしてもよかったか。世の中そううまくいかない(ここで(笑)を入れておこう)。

    

 第14位:社畜と少女の1800日板場広志芳文社芳文社コミックス

社畜と少女の1800日 3 (芳文社コミックス)

社畜と少女の1800日 3 (芳文社コミックス)

 

  などと小難しい事を言っているがラブコメほど簡単なものはない。主人公を「地味で平凡で冴えない主人公」にすればいいだけであって、華やかさはなく、周囲から注目される事もなく、特別な才能があるわけでもなく、金にも人にも恵まれず、安穏で平穏な生活を送るだけが望みの何の取り柄のない人物を主人公にすればいい。そしてそこに女をぶつければいい。やがて物語は勝手に動き、転がり、スピードを増すだろう。人生だってそんなものだ。また主人公は何歳でもいいのであって、高校生なら高校生なりの、大学生なら大学生なりの、社会人なら社会人なりのラブコメはある。

 というわけで本作であるが、彼女がいない独身40歳の社畜男主人公はかつての高校の同級生(女)と「半年前に偶然街で会って立ち話をした」だけだというのにその同級生の娘(中学2年)が訪れてくるのであり、なぜその同級生が娘を主人公の家へ差し向けたのかは不明だが(主人公さんの住所が書かれたメモだけ残して「ここを頼れ」と…)困った主人公は「警察か専門の機関へ行けばいい」、しかし娘ヒロインは「母は…主人公さんを頼れと言いました。だからもしかしたら、近々ここに私を迎えに来るかもしれません」「どうか…私をここに置いて下さい…」、安穏で平穏な生活を送るだけが望みの主人公は「とにかく泣き止んでほしいというその場しのぎの安請け合い」で血縁なしの少女ヒロインとの奇妙な同居生活が始まってしまうが、14歳とは思えない健気で精一杯なヒロインの姿に心打たれ、延々と続く社畜生活で心が荒んだ(「生きるために仕事してるんだか仕事するために生きてるんだかわからなくなった」)主人公に彩りと安らぎと平穏が生まれ、会社の上司(既婚、やがてバツイチ)には迫られ、ヒロインの学校の担任と恋人関係になり…と物語は動き、転がり、スピードを増すのであった。

 作者は日本ラブコメ大賞の常連であり(2017・6位「脱オタしてはみたものの」、2015・8位「歳の差20/40」、他)、その年季の入った「スレンダー且つ巨乳」の艶のあるヒロインは本作でも健在だが、今までとは趣を異にして少女ヒロインと主人公の心が通い合う交流を丁寧に描き、SE会社での辛い実態(「最近の業績不振を理由に人員は増やしてもらえそうにないわ」)と社畜にならざるを得ない40歳男の実態(「まあだから俺みたいなのでも仕事があるんだよな」)も描き、その上で副ヒロイン1(ヒロインの学校の担任)、副ヒロイン2(同僚、バツイチ)との逢瀬を描く事で「人生の大半のクリスマスは楽しくなかった、20代の頃はいちゃつくカップル達を呪い、30代は年末進行に追われて12月の記憶すらなく…」だった主人公(=読者)はそれらヒロインにモテだした上に大変な事件の渦中に置かれるのである。いかにそれが大変だとしても(「現実的にこれからどうするつもり?この先ずっとその子の面倒見るの?でも主人公君はどうなるの?結婚もせずその子の親代わりとして生きていくの?」)、終わる事のない、救いのない社畜生活を営む我々読者にとって主人公の生活は一時の清涼剤となろう。そして明日も社畜となって頑張ろうではないか。ラブコメは明日への源なのである。

     

第13位:10Carats/いるまかみり芳文社芳文社コミックス]

10Carats (芳文社コミックス)

10Carats (芳文社コミックス)

 

 

 ラブコメとは優しさと不可分である。「優しさ」といってもそれはボランティアや募金といった即物的な事を言っているのではなく、この世界のあらゆる事を許容する事を言う(むしろボランティアや募金は人を選ぶという点で優しさとは正反対のものである、というのが俺の持論だが、それはともかく)。「平凡でおとなしいどこにでもいる男が、なぜか美人でスタイルのいい女と付き合う」物語となると途端に「どうして平凡でおとなしいどこにでもいる男が、なぜか美人でスタイルのいい女と付き合うのか。おかしいではないか」と糾弾する事に優しさはない。そういう事もあるのだろう、世の中には時に想像もつかない事が起こるものだ、と許容する事が優しさである。これだけ多様性が叫ばれているご時世でもひたすら自分の偏狭な基準や常識にとらわれ、且つそれを他人に強制する事が多いのは驚くばかりだが、それでこそ優しさを帯びたラブコメが引き立つというものだ。ラブコメとは思想でもあるのだ。

 「平凡でおとなしいどこにでもいる男でも、充実した人生を送れる」ためにはどうすべきか。仕事に精を出す、趣味に熱中する、四季を運ぶ日本を愛す、等色々あるが、ラブコメにおいては女を用意する。男は女によって変わるのであり、それが充実した人生に繋がるからである。もちろん男女の刺激的な恋愛の駆け引きなどは必要ない。むしろそういった、恋愛関係に付き物の葛藤や苦悩を主人公(=読者)が感じないよう優しく包み込む工夫がなされなければならず、本作はそのお手本とも言えるものであって、それぞれの短編にはややひねくれた主人公、やや自分の人生をドラマチックにしたい主人公、ただ部屋でくつろぐカップル、等が出てくるが、いずれもそれなりの「事件」を用意し(「ばあちゃんの通夜でばったり再会した幼馴染」「ものっそいパピヨンじゃねえか」「せめて女のヒモくらいは上手にこなしたいが、それすら満足にできていない」)、しかし何事もなく過ぎ、「何事か」あったとしても破滅を迎える事なく明日はやってくる事を示して穏やかに終わるのであった。

 また主人公とヒロインの会話が絶妙で、主人公に好意を持っている事を匂わせることで主人公の歓心を誘うが、それは「都合のいい展開」を露骨に感じさせない(「露骨に感じない」だけで、何となくは感じる)ギリギリの範囲で収まり、主人公(=読者)が戸惑う事もない。ラブコメのヒロインに求められるのはヒロイン側が積極的に立ち回りながらも決して主人公より前に出ないことであり、しかし愛情は持っているため「今すぐ抱いてほしい」という事を主人公がひるまない範囲で(或いは主人公が消極的という殻を捨てて積極的になってもいいと判断できるように)表明しなければならないが、その難しい役回りをごく自然に行わせている。それによって主人公(=読者)は救われ、癒され、希望が持てるのであった。ラブコメとは優しさなのだ。

    

 第12位:さくら江さんはグイグイ来すぎる/家田キリゼン芳文社:KIRARA TIME KR CIMICS

 「許嫁」というシステムはラブコメ的には大変便利なものである。わざわざ恋の駆け引き、惚れた惚れられたの面倒な諍いを起こす事なく主人公とヒロインは夫婦となるのであり、二次元の論理に従って主人公は地味で平凡な男なのにヒロインは「美人でスタイル抜群で性格もいい」且つ「主人公にぞっこん」なのであるから、こんなに楽な事はない…わけだが過去の日本ラブコメ大賞を見渡しても(下記参照)いわゆる小粒揃いの上に数も少なかった。

「許嫁協定」(2015・6位)

「はっぴい・ゆめくら」(2006・9位)

「すぱすぱ」(2003・11位)

藍より青し」(2002・18位)

 はてなぜこんなに少ない…としばし考えたが、実は「許嫁」という題材が難しいからで、まだ「嫁に来る事を許されている」程度で実際に同居して結婚生活をするわけではないのだからストーリー的に広がらないのであり、活用されないのも無理はない。しかし本作においてはヒロイン(「頭脳明晰、容姿端麗、わりと全校の憧れの的」「とにかく美人で、頭が良く、品行方正、学園のマドンナ」)はとにかく主人公にグイグイグイグイ強引にせまりまくるのであり(「ボディタッチで殿方のハートをラブゲッチュ」「マイクロビキニです」「愛の裸エプロンです」)、なぜそんなにグイグイ来るのかと言えば許嫁だからであった。

 また主人公(=読者)側からすれば「この時代に親が決めた結婚なんていいのかな」「自分はヒロインに比べて、平凡な人間だし…」と不安に思うところだが、ヒロインは率先して「私のどこが嫌いでお気に召さないのか教えていただけませんか」「主人公様の許嫁で本当によかったです」「許嫁10周年のプレゼント」と表明する事によって主人公(=読者)は前述の罪悪感から解放され、存分に独占欲を満たす事ができ、恋の駆け引きや面倒な諍いに巻き込まれる事なく安心してヒロインとの関係に没頭できる(「俺達ほっておいたって、そのうちけ…結婚するのは変わらないじゃーないですか」)のであり、ヒロインがグイグイ来るくせにいざ主人公からヒロインへ歩み寄ると途端に怖気づいてしまうところ(「覚悟の決まった分だけお見せしていきます」)も愛おしさを感じよう。つまり本作はいい事尽くしな大変に優れた作品であったが、いかんせん主人公・ヒロイン以外の出番が多く群像劇的になってしまっているのでこの順位となった。ラブコメとは主人公(=読者)のための物語なのである。自分以外の他人が誰かにモテたからどうだというのだ。

 話は変わりますが、作者のアイマスの同人誌(武内P×楓)もお薦めですよ。

   

第11位:ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?聴猫芝居石神一威・HisashiADOKAWA:電撃コミックスNEXT

ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った? Lv.3 (電撃コミックスNEXT)
 

 さて本作アニメ版は3年前に放送されており俺はその時に既に見ており、その時点で本作がオールナイトラブコメパーカー・日本ラブコメ大賞に該当する事はほぼ決定していたわけだが、この日本ラブコメ大賞は原則として書籍に与えられるものであり書籍を買った時に言及すればいいだろうと呑気な事を言っていたら3年が経ってしまいました。決して他意があったわけではない。そもそもこの日本ラブコメ大賞に認定される事は大変に名誉な事なのであり、来年以降も待っている作品が多々あるのだ。

 という冗談はさておいてネットと現実の区別がつかなくなった女子高生ヒロインが出てくる。主人公が、ではない。ヒロイン側がネットと現実の区別がつかなくなって、主人公のネットゲーム上のキャラクターの嫁となり(「初心者丸出しのアコに簡単なアドバイスをしたら懐かれてしまい」)、ヒロイン的には自分の夫=ネットキャラ(ルシアン)=主人公となり、現実でも嫁として自身の立場を主張するのであった。

 「ヒロイン側の一方的な思い込みや勘違い」によって主人公(=読者)へ積極的になる、というのは時々見られるが、本作の場合は小説家にキチガイじみたファンレターを送る傍迷惑な人間のようなものであって、「ネットと現実の区別がつかない」ようなおかしな女に付きまとわれては大迷惑だが、一方で2次元の法則に沿ってそのヒロインは美人で巨乳である。そして主人公(=読者)はネット上ではそれなりに格好つけたりはするものの現実ではただの常識的なオタク高校生なわけだからその驚愕の展開に慌てふためきつつもヒロイン側から嫁嫁嫁を連呼されるわけでありその言に乗ってリア充的な青春を謳歌できる(「コンビニで肉まんでも買って帰ろうぜ」「今日は2つにわけるアイスでも買って帰るか」「わけわからなくなったので、とりあえず私の夫は最高ですと主張しておきました!」)のであり、悪い話ではないのであった。

 ラブコメの主人公は決して能動的になってはならない。またヒーローになってはならない。なぜなら読者たる我々は能動的ではなくヒーローでもないからだが、では主人公がネットゲーム上でヒロインを射止めるのはどうか。その射止める過程で歯が浮くような浮ついた言葉を吐いたり、やや偽善的な優しさを見せたとしても、素の主人公が我々読者と同じ単なるオタクであればよい。誰でも正義面したい時期があるもので、しかし正義面してヒロインを助けたところそのヒロインがネットと現実の区別がつかないヤンデレでした、現実でも嫁嫁嫁と主張します、しかもその他のネトゲメンバーも巻き込んで…となって事態は複雑化するが、そこはフィクション且つコメディであるから収まるところに収まる(「ゲームのお前よりリアルのお前の方がずっと可愛い」「私もリアルのルシアンに会った後、もっともっと好きになりました」)のであり、結果としてネットとリアルを股にかけたオタクならではのリア充生活が描かれており、これはこれでいいだろう。現代ならではの青春だ。ラブコメとは青春、或いは青春を手に入れる事ができなかった者達のための追体験の場なのだ。

 しかしヒロインのセリフがいちいち面白いのも困るな(下記参照)。ストーリーに集中できない。

「うわあ…将来が約束されたお金持ちとか死ねばいいのに…」

リア充…敵はリア充…」

「もともと私なんかリア充してる普通の女子高生と戦って勝てるわけがなかったんです」