日本ラブコメ大賞2019:Ⅳ 豊穣の象徴

第15位:おやじでも女子学生と孕ませ多重婚ができる法律ができました黒瀧糸由・置弓枷・Miel[パラダイム:ぷちぱら文庫]

 さて俺は世界のラブコメ王なのでラブコメのあらゆる可能性を追求する事に余念がないのでエロゲーもたしなみます。とは言えこのオールナイトラブコメパーカー・日本ラブコメ大賞は原則として書籍に与えられるものなので小説版をピックアップするが、話の筋だけ言うと40歳にもなってファミレスでバイトするうだつの上がらない主人公はしかし勃起不全や極小性器が問題化している日本にあってとてつもなくでかい性器を所有していたのであり、言わば「貴重品の中でも最上級の、王様のチンコを持っている」のであるから意中の清純ヒロイン(女子高生)を獲得するわけであり、ついでにと言うか清純ヒロインの友達のギャル風ヒロイン(女子高生)も獲得するのであった。

 まあ元はエロゲーなので深く考えずに読めばいい。それに主人公が「40歳にもなってファミレスでバイトするうだつの上がらない」とはラブコメ的には花丸であって、こういう主人公がどんどん増えてほしいものだが、それはともかくその後も王様チンコに魅了された両ヒロインは嬉々として40男主人公と性交渉を行い(公園のベンチで公開プレイ、道端で公開プレイ、重婚結婚式で招待客を前にして公開プレイ)、歓喜の雄叫びを上げ、主人公(=読者)は王様チンコ、国宝チンコのおかげで特別広報部長の職にも就くのであった(深く考えなくてよろしい)。そう、世の中には孕ませ多重婚というものがあるのだ。いいものだ。

「あたしは主人公が好きなの!愛してるの!主人公は違うの!?」

「た、たださ…俺って、こういうところ似合わないから…つばさちゃんが、変に思われたらやだなあって…」

「あのね!主人公は、佐々木つばさ様が好きになった凄い人なの!王様チンポを持っている凄い人なんだから!自信、持ちなさい!」

   

「二人を…お嫁さんに…それとちんぽ奴隷にするからね。毎日、オマンコが壊れるくらい、セックスしよう。種付けしまくって、何回も孕ますからね」

「主人公…嬉しい…」

「主人公さん…はう…すてきぃ…」

   

第14位:ふたりのひみつコテングワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL

ふたりのひみつ (WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL)

ふたりのひみつ (WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL)

 エロ漫画はラブコメよりもラブコメ的である。なぜなら性交渉場面が描かれるからで、性交渉及びその前後の過程を含め、一対の男(主人公)と女(ヒロイン)の愛の姿を赤裸々に描き、身体の結びつきによってより一層絆を深めていく様子を描く事で、「地味で平凡で冴えない男」が「美人でスタイル抜群で性格もいい女」を手に入れた事を読者は深く味わう事ができるからである。

 しかし本作は性交渉そのものよりもそこへと至るヒロインの甘さが特徴的であって、主人公にぞっこんなヒロイン(「私も…先生のお嫁さんになりたいです」)もちょっとからかってやろうという軽い気持ちのヒロインも「明日は戦いなんだからっ」と意気込むヒロインも既に主人公と付き合っているヒロインも、目の前にいる特徴のない、どこにでもいるような主人公(=読者)と性交渉を行いたいと口に出さずとも意味ありげな態度を取り、それを主人公(=読者)側も何となく意識し、しかしその態度はフェロモンを発するというよりも「主人公とまずはイチャイチャしたい」という甘くかわいらしい欲望でありそれをヒロインの豊満な身体で表現させている事に特色があった。

 そして花に吸い寄せられる蝶々のように主人公はヒロインを押し倒す事になるが、発端はあくまでヒロインであり、その発端は「甘く柔らかい欲望」であるから性交渉にも激しさや荒々しさはなくイチャイチャとした雰囲気が維持され、主人公(=読者)はヒロインを押し倒し組み伏せながらも「ヒロインに愛された」とさえ錯覚してしまうのであった。結局最後まで甘いままだったが、これはこれでいい。

 とは言えエロ漫画の宿命、短編集であるから玉石混交、ただ流されるまま性交渉へとなだれ込むものもあったのでこの順位に落ち着いた。次回作に期待している。

 

第13位:エルフハーレム物語三船誠二郎ティーアイネットMUJIN COMICS]

エルフハーレム物語 (MUJIN COMICS)

エルフハーレム物語 (MUJIN COMICS)

 分類としてはハーレムもの、且つエルフもの…となるのであろうが、どうもそういう分類では測り切れない、測ってはいけないような迫力あるヒロイン達であった。何せ出てくるエルフヒロイン達は皆が皆胸も大きければ身体も大きく、対する主人公が童顔、ショタ風、痩せ型なので性交渉もヒロイン達に挟まれる、埋もれるという構図になってしまっている。それでも女性上位、逆レイプ的な印象がないのはヒロイン側が主人公を愛している、それも溺愛的に愛している事がわかるからであった。

 そしてなぜ溺愛しているのかと言えば主人公がかなりの性豪だからで(「すげえ精力だよな、五人とも一発で孕ませるなんて」「三代渡って孕ませるとは」)、3人、4人、5人、或いはそれ以上の、胸もでかいがガタイもでかいエルフヒロイン達を前にして主人公は一歩も引かず精を放ち孕みに孕ませるのであり、エルフヒロイン達は主人公(=読者)のオスとしてのたくましさに屈服しメスの悦びを知り、その悦びを半永久的に提供するオスにやられてしまうという寸法である。

 何度も言うようにラブコメのエロ漫画においてやるべき事はヒロインが「地味で平凡で冴えない主人公(=読者)」に性的に積極的に奉仕し、それ自体に喜びを見出す姿を描く事である。それによって主人公(=読者)は無敵となり、欲望のタガを外し、無限に快楽を追求する事ができ、勝者の喜びと支配者の優越を手中に収める事ができる。「エルフのヒロイン達が積極的に身体を開く」だけではラブコメにならない、「地味で平凡で冴えない主人公(=読者)」が一発奮起して押し倒し、組み伏せ、支配し、支配の悦びを浴びたヒロインが主人公(=読者)に協力しつつハーレム性交渉を堪能しつつ極上の快楽を味わう時にそれらはラブコメとなるのである。ヒロイン側から性交渉を仕掛けてきたとしても最後は主人公によって征服する(孕ませる)事によってラブコメとしての完成度は格段に高くなるのである。

 というわけで本作は優れたラブコメであるが、いかんせん肉布団状態なので主人公の存在が時々霞んで「ヒロイン達に快楽を与える存在」に成り下がっている部分もあるのが惜しい。また主人公のやや幼い顔立ちが読者の感情移入度を低下させてしまっている。しかし特筆すべきはこれほど多くのヒロインに囲まれ、長時間の性交渉描写を描きながらその勢いを失速させる事なく、短過ぎず長過ぎず終える事であり、非凡なセンスを感じさせよう。ハーレムにおいて大事なのは飽きが来ない事なのである。とても良かった。次回も渾身のハーレムを期待している。

「子と孫と曽孫が同時にできるのか、楽しみじゃのう」

「私にも子と孫、妹ができるなんて、この年で」

「私には子供と妹、更に叔母ができるとは、なんか複雑だな」

    

第12位:妹とエッチするのは、お兄ちゃんの義務だよねっ!しのぎ鋭介ティーアイネットMUJIN COMICS]

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 さてこちらの表題作もハーレムだが全員妹で、と言っても長女、次女、三女…などではなくパラレルワールド的設定によって全員がたった一人の妹として登場するのであり(「私の世界は異次元からの侵略者と戦争になっているの」「皆がここに集まったのは私の時空転移に巻き込まれたから」)、その是非はともかく、では妹とは何かという事だが、その前にそもそも近親相姦とは何かについて説明しなければならない。なぜなら近親相姦とラブコメは相性がいいからで、「どうしてこのような地味で平凡で特徴のない男(=主人公)が美人で巨乳で性格もいい女(=ヒロイン)に愛されるのか」に対する言い訳として「ヒロインは男の肉親(妹、姉、母、いとこ、等)であり、幼い頃から慕っていたからだ。そしてその思慕が男女の肉体的愛情に転化したのだ。それはもう理屈ではない」と言えば一応の納得が得られるからである。恋愛相手は選べるが家族親戚は選べない。そして家族親戚の間には他人には想像もできない血の愛情があるのであり、それが恋愛に発展する事もなくはない。

 更にその中でも「妹」という存在は生まれながらにして「兄」の下にいて兄の支配下にあり、且つ兄の支配にいる事を当然としているので兄(=主人公=読者)は罪悪感を感じる事なく自分の所有物とする事ができ、そのような存在が二次元のセオリーに則って「美人で巨乳で性格もいい」のだから、これほど便利なものはないのである。というわけでややツンデレな妹を筆頭に次々とやってくる妹(単なるデレ、お姉さん系、猫系、眼鏡っ子、戦士?)を相手に主人公は性交渉に励み、時に一人、時に複数であっても妹ヒロイン達は兄(=主人公=読者)への一途な愛を表明する(「お兄ちゃんの童貞は絶対渡さない!」「お兄ちゃんのおち○ちんをハグする感じで…」)のであり、その一途な愛が躍動感のないやや平板な性交渉描写と呼応して静けさを生み、その静けさは妹ヒロインの主人公(=読者)への愛の深さを印象付け、ハーレムの安定化に成功しているのであった。成年版ラブコメもラブコメが主眼であるのだから性交渉が激しくなくても構わないのであって、ヒロイン→主人公(=読者)への愛が深ければ深いほど、主人公(=読者)は満足し、快楽は長続きしよう。刺激には終わりがあるが、愛に終わりはない。

 本作は「和姦」という言葉がよく似合う落ち着いた良ラブコメだが、その代わり華がなく、落ち着き過ぎている印象もありこの順位となった。しかしいいものはいい。今後も純愛和姦路線に期待している。

    

第11位:恋乳ているず あんこーるmomi[文苑堂:BAVEL COMICS]

恋乳ているず あんこ~る! (BAVEL COMICS)

恋乳ているず あんこ~る! (BAVEL COMICS)

  • 作者:momi
  • 出版社/メーカー: 文苑堂
  • 発売日: 2019/08/29
  • メディア: コミック

 ラブコメにおいて必要な事は一にも二にも「地味で平凡で冴えない男(=主人公=読者)に美人で巨乳できらびやかな女(=ヒロイン)をぶつけ、性交渉までゴールインさせる」であるから、画力は問わない。ラブコメに対する情熱、才能、天性の勘があれば後はどうでもよい。俺は世界のラブコメ王だ。

 とは言え最低限の画力は必要で、同人誌ならともかく正規(性器ではない)の出発物なのだから、プロとしてのこだわりは見せてもらいたい。などとわざわざ言うのは後半の短編がどうしようもないからで、エロ漫画の宿命・短編集ゆえの玉石混交以前の問題であった。顔と身体のバランスが取れていない、腕が細過ぎる、かと思えば顔がでか過ぎる、等、等、根本的に構図がおかしい。また主人公もヒロインもずっと口をあけていて違和感ばかりが目立ち、それら諸々が気になってストーリーに集中できなかった。前半の短編は普通なのだから描き直せば良かったのだ。そうすれば3位以内には入れたはずだ。

 しかしながら俺は世界のラブコメ王でありラブコメに寛容なのでこの程度にして、各短編はほぼ全てが

①何となくお互い意識し合っている男(=主人公)と女(=ヒロイン)

②特に女(=ヒロイン)の方は主人公(=読者)に興味津々

③ふとしたきっかけから性交渉

④性交渉後にはヒロインの主人公(=読者)への愛情はMAXになる

 という手順を踏んでおり、まだ性交渉前の恋人同士になる前からヒロインは主人公(=読者)を好いている事を読者に認識させ、しかしそれは淫乱又はただ欲望のはけ口として主人公を求めているわけではい、いやそのような事は想像できないほど純真で可愛らしいヒロインを登場させ、それでも主人公を一途に求めさせ、身体を開き、愛する主人公に抱かれたヒロインは悦びを全身で表現するのである。そのヒロインの魅力はただひたすら「主人公(=読者)に抱かれた」のみによるものであり、それによって読者は無敵となり、欲望のタガを外し、無限に快楽を追求する事ができよう。また性交渉が終わった後も主人公(=読者)とヒロインがその愛を確かめ合う余韻も用意されており(「ココロもカラダも本当の意味で一つになれたであります」「き…今日は…で…電車の中で…エッチですか」)、成年版ラブコメの基本を全ておさえたお手本と言えるものであった。だからこそ惜しい惜しい。本作はリバイバル版という事だが、描き直してリ・リバイバル版を作ればよい。3位以内になる事を世界のラブコメ王が保証しよう。

   

第10位:好きの吐息スピリタス太郎ジーオーティー:GOT COMICS

好きの吐息 (GOT COMICS)

好きの吐息 (GOT COMICS)

 ラブコメとはヒロイン側から主人公へ積極的に出なければならない。つまり成年版ラブコメにおいてはヒロイン側が積極的に身体を開かなければならないが、だからと言って「男なら誰でもいい(棒なら何でもいい)」等の淫乱にしてはならない。あくまで世間一般の範囲内、読者が違和感を感じない範囲で積極的に性交渉へと導かなければならず、性交渉時においても積極的に快楽の提供を行わなければならず、性交渉終了後もその積極性を失ってはならず今後も自分が積極的に出るから主人公はただ自分を抱いてくれればいいと表明しなければならない。そうする事で主人公(=読者)もまた積極的に性交渉に応じる事ができる。大事な事は主人公こそが主人公という事で、ヒロインは主人公に対応する存在に過ぎない。しかし読者(=地味で平凡)の代理たる主人公(=地味で平凡)が積極的に出るためヒロインは様々な対策を打つのである。

 そこで本作であるが、各短編のヒロイン達は最初はそれほど積極的ではないように見えるがしかしいつの間にか主人公と性交渉を行おうと誘導しているのであり、その積極性は最初がおとなしい分、スイッチが入った時の変化は目を見張るものがある(「さあ兄さん?兄さんの大好きなメイドですよ?ちんちん勃起しちゃいました?」「私おっぱい大きいし主人公君を、私から離れられなくすればいいんだ」)。そして性交渉においても快楽を提供すると同時に主人公(=読者)への愛を表明しそれによって快楽の絶頂を迎え、終了後もその快楽が主人公ただ一人からもたらされた事を伝え、今後もただ一人の主人公のために自分が豹変する事を伝えるのである(「私先生の…ヒロインになれました?」「これからもたくさん、教育してくださいね、ご主人様」)。またそれら一連の展開が早いというわけではないが当然のように成立しているため気を抜いて読んでいると主人公とヒロインがいつの間にかカップルとなって困惑するぐらいだが(下記参照)、それは作中の主人公も同様で、しかし主人公(=読者)はやや困惑しつつも隣にいる女が恋人である事を喜び、今後もヒロインを通じていつでも性的欲望を解放する事ができる楽しみも得るのであった。

 とは言えエロ漫画の宿命、各短編の中には主人公側からヒロインへ積極的に出るものもあり、この順位となった。惜しいなあ。次回作に期待している。

①ストーカーによる謎の手紙に悩んでいる

②妹が妹の友達ヒロインに相談

③友達ヒロイン「私が彼女役になればストーカーもあきらめるだろう」、奇妙な恋人関係がスタート

④友達ヒロイン「ではこれからはもっと凄い事を見せつけてやりましょう」

⑤狙い通りストーカー謎手紙はなくなったが主人公と友達ヒロインが恋人関係に

    

第9位:異類婚姻譚-狐嫁と結婚しました-上原りょう・ユキバスターZ[フランス書院フランス書院美少女文庫

異類婚姻譚 ―狐嫁と結婚しました。― (美少女文庫)

異類婚姻譚 ―狐嫁と結婚しました。― (美少女文庫)

 一般ラブコメであれ成年ラブコメであれ、いわゆる棚ボタ展開は大事にしなければならない。間違っても棚ボタを馬鹿にしてはならない。地味で平凡でおとなしい上にオタクだったりチビ、デブ、ハゲであったりする主人公(=読者)が極上なヒロインと性交渉が可能となるには棚ボタ的な事件や理由が必要であり、それによって主人公とヒロインの結びつきさえ確保すれば、成年版ラブコメなのだから後はめくるめく快楽の世界に埋没すればいいだけである。

 というわけで本作であるが以下の導入部が素晴らしい。主人公の実家の父親が亡くなり、墓参りに行ったところ、

「…あ、あなたは?」

「志津と申します。仰る通り、狐でございますわ。去年からお父様のところにご厄介になっておりました。実はお父様から主人公さんがこちらに戻ってきた際に是非、嫁になってもらいたいと仰って頂きまして」

「そ、そうだったんですか」

(中略)

「ですから、主人公さんとお会いできる日をずっと心待ちにしておりました。不束者ではございますが、これからよろしくお願いいたします」

志津が上目遣いに見つめてくる。

「え、いきなりっ!?」

「主人公さんは、お付き合いをされている方がいらっしゃるんでしょうか?」

「いませんけど…」

「でしたらっ」

志津は近づいてくると、主人公の胸にしなだれかかる。着物ごしに柔らかな感触が伝わった。

「か、からかってるんですか」

「いいえ、本気ですっ」

(中略)

「ぼ、僕なんかでよろしければ…あの、よろしくお願いします」

「うれしいっ」

 今にも泣きだしそうだった志津が破顔する。まるでひまわりのように輝いた笑顔を前に、主人公も無性に嬉しくなってしまう。

志津は主人公の首に腕を回すと、更に密着してきた。

「おっと…」

主人公は慌てて志津を抱きとめた。

「これからよろしくお願いいたしますねっ!誠心誠意、妻としての務めを果たす所存でございますっ!」

 柔らかな感触と共に、唇を塞がれる。どれだけ彼女の唇に我を忘れていた事だろう。

「び、びっくりした…。ずいぶんと積極的なんだね…」

 この導入部だけでお腹いっぱいであるが、そのようにして始まる新婚描写は甘くひたすら甘く、異類(狐)嫁であるから「私達の世界だと子供を生してないと夫婦とは言えないんですから」という事で子作りのために激しく甘い愛の対話が展開され、見事妊娠したとしても「私、もう…我慢できないんですっ」となって更に性交渉をねだり、妊婦でありながらセーラー服を着せて誰もいない校舎で性交渉を行い、際どい水着を着させてやはり性交渉を行い、子供が生まれた後もやはり愛しあいたいまだ子供が欲しいとして「い、いくらでもおつゆをくださいぃっ!私、主人公さんとの子供なら何人でも欲しいんですぅっ!」となるのであり、抱かれる度に幸せに震え乱れるヒロインを前にして主人公(=読者)は奮い立つのであった。いいものだ。本作の原作である同人誌版も合わせて読めばなおいい。今年一番癒されたラブコメであった。

     

第8位:恋慕ダイアリーひなづか涼文苑堂:BAVEL COMICS

恋慕ダイアリー (BAVEL COMICS)

恋慕ダイアリー (BAVEL COMICS)

  • 作者:ひなづか凉
  • 出版社/メーカー: 文苑堂
  • 発売日: 2018/04/28
  • メディア: コミック

 成年版ラブコメであっても主人公は「地味で平凡で冴えない」のだから、原則として自分からは動かない。そのためヒロイン側から動かなければならず、積極的に身体を開かなければならないが、痴女でもない限り理由もなく開いてくる事はない。やはりそこにはヒロイン→主人公への恋心があった上での身体の関係でなければならず、恋心と言っても最近はヤンデレ的な不気味なものやドロドロとしたものが主流となりつつあるが、やはり少女漫画的な健康的な恋心がオーソドックスで一番楽しかろう。そして少女漫画的な恋心となると所詮男性作者では女性作者には勝てない。ここに誤解があって、ラブコメは我々男達のものであるが、作者が女性である事までは否定しない。世界のラブコメ王は実力主義である。

 というわけで本作であるが、登場するヒロイン達は少女漫画的であるから幼くても大人ぶり、おっちょこちょいで、時々主人公にちょっかいをかけられてはそれにいちいち反応して一喜一憂し、自分の思い通りにいかなければすぐ怒るくせに自分のワガママを指摘されると不機嫌になってしまう困ったちゃんなわけだが、一方でラブコメであるから主人公(=読者)に対してストレートに好意を表現し、少女漫画的な単純さで「とにかくもう、主人公が好き!」という事でヒロインは主人公を前に幸せを全身で表現するのであり(「もう主人公は、ヘンタイな上にドンカンです。私がいっぱいアピールしてるのに、全然気がついてくれナイ…」「ご主人様に可愛いって言われてうっ嬉しくて…」「やあっと二人きりだ~、これ以上お預けは無理だよ~」)、それを見る読者は愛らしいペットを手に入れたような錯覚にすら陥ろう。また既に付き合っているカップルであれば、更なるプレイに突き進もうとして(睡眠姦やエログッズ)ヒロインは戸惑い、しかし快楽に流され、それでもヒロインの主人公への愛は変わらない、いやより一層強化され、戸惑いつつも深みにハマり、幸せを全身で表現していた少女は愛を全身に包んだ淑女と変貌するのであり(「もっと本当の私知ってほしいです」)、そのような変化を他ならぬ主人公(=読者)がもたらしたと知った時、読者は支配者の優越を意識し快楽は何倍にも強化されるのであった。

 とは言え女性作者の限界は主人公がいずれも「ややイケメンでスレンダー」で統一されている事で、これでは読者は主人公と同一化が難しい。また男性作家なら「どこまでヒロインをおちょくればいいか」「どこまでヒロインを性的に翻弄すればいいか」を感覚としてわかっているので歯止めがきくが、女性読者だとそうはいかず主人公が「ただの性格の悪い奴」となっている短編もあり、順位としてはこのあたりとなった。だからラブコメは難しい。しかし次回作に期待している。

     

第7位:ぴゅあ×シコ×みるくぎうにう[ジーオーティー:GOT COMICS]

ぴゅあ×シコ×みるく (GOT COMICS)

ぴゅあ×シコ×みるく (GOT COMICS)

 ラブコメにおいてヒロインは母性的である事が求められる。とは言え母親の役割をしろというわけではない。主人公は「地味で平凡で冴えない」がそのくせ性的欲望だけは一人前であり(むしろ女にモテない分たまっている)、しかし好きな女、気になる女を前にしても何もできず、好きな女気になる女が他の男になびきそうになると不機嫌になり、不平不満愚痴を垂れ流しながら誰かに癒されたいと思っているのであって、そんな愚かな主人公(=読者)を優しく包みこみ、その欲望を受け入れ、受け入れながらも主人公に対し微塵も見返りを求めない、なぜなら主人公と性交渉ができた事でヒロインは既に幸せであり奉仕する事に悦びを見出しているからである…という、母親以上に母親的な役割がヒロインには求められるのである。

 言わば究極の「都合のいい女」であって、そんな女が二次元であっても存在するのかと言われるがそこは世界のラブコメ王なので見つけてくるわけだが、本作のヒロイン達もそのような慈愛と快楽に満ちたすばらしい女達なのであった。仕事に疲れた夫(=主人公=読者)を癒す妻(=ヒロイン)から始まり、同級生、幼馴染、職場の後輩、等の各ヒロインは母性的な優しさで主人公に甲斐甲斐しくお世話するのでありアピールするのであり(「主人公君の手、あったかいなと思ってその…駄目かな?」)、その時点でヒロインが主人公に対して好意を持っているのは主人公(=読者)も何となく察してはいるがあと一歩が踏み出せない主人公に対してヒロインは優しく身体を開くのであり(「大丈夫です任せてくださいっ、初めてですががんばりますのでっ」)、性交渉へと進んだ途端それまでの反動から欲望を激しく滾らせる主人公を包み込むのであり(「泣かないで、痛かった?ごめんね、よく見えなかったよね」)、なお且つヒロイン自身が快楽の雄叫びをあげる事で主人公の負担感や迷いはなくなり、主人公(=読者)は更に激しく性交渉の中に入り込む事ができるのであった。

 繰り返すが主人公が「地味で平凡で冴えない」「積極的ではない」からと言って性交渉においても受け身であればいいというわけではない。むしろ主人公(=読者)が積極的になるためのラブコメ的世界でありヒロインなのであって、この世界に自分の欲望を受け入れてくれる場所があると知った時、主人公(=読者)は無敵となり、欲望のタガを外し、束の間の勝利を得るのである。本作はその格好の手本となる良作であった。それにしても最初の新婚夫婦短編は格別で(「早くガチガチの夫ちんぽ、あなたの形の妻んこにハメて」「妻んこ孕ませてぇっ」)、このような短編があと3~4作あれば1位になっていただろう。今後も女性作者ならではの前述の「母性やや強めヒロイン」を描いて頂きたい。次回作に期待している。

    

第6位:イジラレ愛上陸[ワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL]

イジラレ (WANIMAGAZINE COMICS)

イジラレ (WANIMAGAZINE COMICS)

 さて2019年一番の問題作であり大作である本作は色々な読み方が可能で、

①勧善懲悪。悪の限りを尽くした女を主人公が懲らしめ、謝罪させる

②催眠と洗脳によって、ヒロイン達が主人公と積極的に性交渉する

③ヒロインの心の奥底まで操作し、主人公への愛を植え付ける

④ハーレム

 になるが、そのどれを取っても優れた成年版ラブコメであった。ラブコメにおいて「勧善懲悪」という概念はないが、悪の限りを尽くす女達の被害を受ける主人公がその女達に逆襲する事は「地味で平凡で冴えない主人公が物語の中心に躍り出る」という事で立派なラブコメとなり、よくあるのはそこで「たった一人の善人のヒロインがやってきて主人公に協力する、更に性的に身体を開く」的な展開だが、本作の場合主人公(=読者)に対応するのはあくまで悪ヒロインのみである。そして逆襲の方法として「催眠・洗脳」を使い、その過程でヒロイン達が主人公に積極的に性的に奉仕するのであり、催眠によって心を支配されているのだからヒロイン達の奉仕は嫌々ではなく心からの奉仕となる。

 但しこの催眠による奉仕の方法も手が込んでいて、「アイツの赤ちゃん…絶対妊娠してやる」「ファーストキスも童貞も何もかも、恋人とするはずだった事全部あたしらが奪ってやる」としてヒロイン達の意識にある「主人公をいじめてやる」が「逆レイプしてやる」となり、更に「子供を作ってパパにしてやる」となり、主人公側から何もせずともヒロイン達は昼夜問わず性交渉をせがむのであった。そして自信を深めた主人公は更に「ケツ穴ハメハメ(の後は女が口便器となってチンポ掃除)」「オナニー見せつけ」「屋外ワンワン交尾」「ハメ撮り記念撮影」等を行い、美人でスタイル抜群だが性悪な女達から性交渉を要求され媚びられるのであり、そのあまりの都合の良さに主人公(=読者)は狂喜するが顔には出さずしかし性的な快楽は十分に享受し、「ラブラブ子作りセックス」に至っては「僕専用のお嫁さんのま○こ」として完全に征服するのであった。それらは元をただせばヒロインによる悪事が発端なのだから、主人公(=読者)は罪悪感を微塵も感じる事なくヒロイン達に欲望をぶつける事ができよう。

 ここまででも完成度が高いが結果として妊娠したヒロインをめぐってもう一山場があり、ここでヒロインは催眠術にかかっていたとは言え自らの意思でデブでブサイクな主人公に積極的に性交渉をせがみ恐ろしいほどの痴態を晒していた事を知り、絶望し、洗脳が完了し人格を変えさせられた副ヒロインの姿(「駄目よ?いずみちゃん、旦那様にそんな口のきき方したら」)を目の当たりにして「『あたし』が『あたし』でなくなっちゃう」と恐怖するが、そこで主人公が「今まであなた(ヒロイン)がやってきた事じゃないですか、人が苦しむところ、嫌がるところを見て、あんなに愉しそうにしてたじゃないですか」と宣告、傲慢で性悪の女王様気取りの女を屈服させ勝利し、且つヒロインは人格を書き換えられ(「主人公の赤ちゃん産んで喜ぶ女に」)、子供を産む幸せを知った従順な女となるのであり、見事ハーレムを築くのであった。素晴らしい。勧善懲悪、主人公(=読者)の性欲処理、勝者の喜びと支配者の優越が揃った傑作である。

    

第5位:しすたーずサンドイッチキャンベル議長ジーウォーク:ムーグコミックス

しすたーずサンドイッチ (ムーグコミックス)

しすたーずサンドイッチ (ムーグコミックス)

 とは言え明るく楽しく気軽に、催眠・洗脳などといった回りくどい事をせずとも各ヒロインの自発的意思によってハーレムを築くのが一番よい。そこで本作であるが、

①同居中の妹ヒロインが兄(=主人公)を誘惑、性交渉へ

②妹ヒロインと主人公の性交渉を知った姉ヒロインが負けじと主人公を誘惑、性交渉へ

③妹ヒロインと姉ヒロインで主人公をめぐって争いつつそれぞれが性交渉、時に3P

④妹ヒロインと主人公の性交渉を見て妹の友達ヒロインも参戦

⑤妹ヒロイン、姉ヒロイン、友達ヒロインによる「誰が好きなの!?誰としたいの!?」「誰が一番良かったですか?」的な性交渉、ついに主人公ダウン

⑥反省した妹ヒロインと姉ヒロインによる仲直り性交渉、ハーレム状態の是認、友達ヒロインもやってきて…

 のそれぞれが要領よくまとめられており、それでいて短いわけではなく各ヒロインとの性交渉もたっぷりと描かれ、今までいかに主人公(=読者)が好きだったか(「お兄ちゃん以上の人なんて…私にはいないんだもん」「私が好きな主人公さんがそんな酷い主人公さんになっちゃうのは許せないです」)、今までどれだけ我慢してきたかが表現され(「じゃあ家出て二人で一緒に暮らしてくれる?」)各ヒロインのキャラクターを丁寧に掘り下げる事に成功している。なぜなら作品世界が主人公と妹ヒロイン・姉ヒロイン・友達ヒロインとの性交渉に集中されているからで、主人公と妹ヒロインと友達ヒロインが高校生であることの他は何も言及されず(姉ヒロインは学生か社会人かわからない、また三兄妹は同じ家に住んでいるが親もその同じ家に住んでいるのかわからない)、そもそもなぜ主人公を好きになったのかの説明もされず、そのような説明をする暇もないほどひたすら主人公への誘惑合戦、性交渉、主人公をめぐっての3ヒロインの諍いに集中している(下記参照)ので読者はひたすらこの愛欲の世界にのみ集中し、スレンダー且つ巨乳のバランスの取れたヒロイン達の肉体に目をうるわし興奮し、ハーレムを断固として認めなかったヒロイン達が最後の最後にハーレムを認めるところもすっきりする。背景や小道具などキャラクター以外の画の粗さも目立つが、その思い切りの良さに敬意を表してこの順位としよう。やはりラブコメとはハーレムだ。

「この土日で私達とデートしてもらうから!そこで姉妹じゃなくて女の子としてどう思うか見てもらうの!ってわけで勝負よお姉ちゃん!」

「主人公とのデートは順番って言ったでしょ?」

「本当は今日私だったじゃん!それにお兄ちゃんもお姉ちゃんなんかより私とする方がいいよね!?」

「(胸の)大きさよりも気持ちの問題ですよね!?私、主人公さんの事大好きですもん!」

「あらそれなら私の方が勝ってるに決まってるじゃない」

    

第4位:恋愛スペシャリテ/emily[文苑堂:BAVEL COMICS

恋愛スペシャリテ (BAVEL COMICS)

恋愛スペシャリテ (BAVEL COMICS)

  • 作者:emily
  • 出版社/メーカー: 文苑堂
  • 発売日: 2018/03/30
  • メディア: コミック

 今は亡き「ポプリクラブ」(2006・1位)の香りがする作品である。純愛和姦の総本山だった当雑誌の晩年に活躍した作者は過去にも登場しており(2014・7位「らぶコロン」)、安心して買える作者でもある。とは言え本作は軽快なラブコメが多かったポプリクラブの片鱗は残しつつもヒロインの愛は重く、主人公もその愛につられて固く決心するところに特色があった。

 もちろんヒロインによる主人公への愛は重ければ重いほどよい。「地味で平凡で何の取り柄もない主人公」は地味で平凡で何の取り柄もないのだから自分に自信がなく、まれに見る幸運によってヒロインを手に入れ性交渉に至ったとしてもなお不安が残る。なぜなら簡単に手に入れる事ができたものは簡単に手元から離れていくのが世の常だからであり、そのためラブコメにおいてはヒロインが主人公(=読者)の手元から離れて行かないよう、つまりフラフラと軽く流されていかないよう対策を施さなければならない。それは非凡な状況下における共同体験であったり困難に立ち向かう共同作業であったり、或いは誰にも言えない反社会的な行為による共犯意識かもしれない。それによってヒロインの主人公(=読者)への愛が重くなり、ヒロインを主人公(=読者)の隣にとどまらせる事ができよう。成年版ラブコメにおいては特殊な性癖の共有・快楽の共同作業などが考えられるが、そこまですると大事になってとてもポプリクラブ的な純愛あふれる性交渉にはならない。

 しかし本作は立派に純愛あふれる性交渉へと遂げている。なぜならヒロインの愛が重いのであって、行きずりの関係であっても再会後の関係であってもヒロインはいとも簡単に主人公に抱かれ、なぜ抱かれたかの理由を明示せず性交渉を繰り返す事で主人公に支配される事を望み主人公に性的に奉仕するのであり(「いっぱいかけてね、アイリは主人公お兄ちゃんのものだから」)、永遠の愛を表明し「私(ヒロイン)にとっては主人公と、主人公との性交渉が全てだ」を全存在を使って主人公にぶつけるのであった(「このまま子を宿し、旦那様の子を生み、皆で暮らしたい」「私が生きられるのは、あなたという、鎧を身につけているから…」)。言わば愛に生きる重い女が描かれており、そこまで自分を曝け出したヒロインに主人公(=読者)は男として奮い立ち、腕を広げヒロインを抱きしめ、責任を取る事を決意し(「夢だけ見ながら現実に安住するのはもう止めた、その代わり、大切な人と暮らし家族を守るという夢に向かって進む」)、その決意を経た上での性交渉は厳粛になるのであった。やはり男はこうでなくてはならない。そこまで自分を投げ出してきたヒロインを生涯かけて守り抜くと決めた時、「地味で平凡で何の取り柄もない主人公」も愛に生きる、たった一人のヒロインのためのたった一人のヒーローとなるのである。

  

第3位:黒ギャルちゃんはキミだけが好き跳馬遊鹿メディアックス:MDコミックスNEO

黒ギャルちゃんはキミだけが好き♥ (MDコミックスNEO)

黒ギャルちゃんはキミだけが好き♥ (MDコミックスNEO)

 珍しくテクニック的、画力的な事から言うとヒロインの豊満さが素晴らしい。特に乳房と乳輪の描き分けのバランスがうまい。乳房も乳輪も女性の美しさの象徴であり、これらをふくよかに描く事でヒロインの魅力を最大限発揮させ、ふくよかと言っても決してだらしなくはない、しかしふくよかさとそれによる豊かさを最大限に表現している。これは天性のものであろう。

 そして各短編のヒロイン達はその豊満さから発揮される大らかさと優しさで地味で平凡で何の取り柄もないような主人公達をけしかけ(「Hの相手…したげよっか?」)、アプローチし(「だって…こうでもしないとアタシの事、女の子として見てくれないじゃん」)、誘惑するのであり(「自分で言うのもなんだけど…すごくエッチな身体になったつもりなのに…」「いつまでも子供だと思われるてるのくやしいから…主人公興奮させてエッチさせてって言わせてやる!」)、多少の設定の不自然さがあってもその大らかさの前では問題にならない。ラブコメとはいかにして主人公(=読者)が気持ち良くなるか、それもリスクを負わず最短で、最大限の快楽を享受できるか、であって、それを違和感なく、または違和感があっても最後まで読ませる事が求められるのであり、本作は大らかさによってそれを易々とクリアしている。

 かくして性交渉へと移行すれば主人公(=読者)はますますその神々しく美しいおっぱいに魅了されるのであり、大らかである=やや単純でもあるヒロイン達は主人公に抱かれる事で単純にも主人公を愛してしまうのであり(「さっき浮気なんかしないって言ったよな、ウチ…主人公の優しさとデカチンに惚れちまった」)、更なる快楽を要求するのであり(「でもこんなにおチンポとおマンコの相性良いんだもん、きっと出会う運命だったんだね」「俺も…オナホよりも気持ちいいマンコのナズナ、離したくない!」)、それによって主人公はヒロインに包まれつつも攻める、攻めつつも包まれるというアンビバレンツな欲望に夢中になり、その精を激しく放つ事ができ、しかも性交渉後はタイトルにあるように「(ヒロインは)キミだけが好き、キミだけに夢中」になるのであった。主人公(=読者)はまるで女神のようなヒロイン達を手に入れたわけだが、なるほど日本では古来よりふくよかな女性は豊穣の象徴として奉られていたのであり、遠い祖先の男達はそんな女神に憧れを抱いてきた。そして女神は人間ではないから、地味で平凡で冴えない男であっても気持ち良くしてくれるのである。今、そんな女神を我々は祖先に代わって抱く事ができた。素晴らしい、ラブコメとは男のロマンだ。

  

第2位:ひとりじめなぱたワニマガジン社:WANIMAGAZINE COMICS SPECIAL

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 さて繰り返し述べてきたのはラブコメとは「地味で平凡で何の取り柄もない男(=主人公=読者)」になぜか美人でかわいくてスタイルも良くて性格もいいヒロインがくっつく、そして成年版においては快楽を提供するというものであった。しかしながら「主人公とヒロインがくっつく」と「快楽を提供する」をわずか20~30頁で表現するとどうなるか。主人公とヒロインがくっつく事に重きを置いて、「快楽を提供する」事がおざなりになる場合がある。なぜなら主人公は「地味で平凡で何の取り柄もない男」であるから、どうしてそのような「地味で平凡で何の取り柄もない男」がそんなヒロインを獲得したのか説明しなければならず、獲得した後は「地味で平凡で何の取り柄もない俺でも女が手に入った」という感動が先に来て性交渉まで意識がいかない場合もあるからである。

 しかし人生と同じで、そのようなヒロインと、では今後どのようなめくるめく生活を送れるか、又は愛情たっぷりの幸せな生活を送れるのか確かめたいと思うのが人情であって、しかし「めでたしめでたし」のその先は想像する他ないのが現実に生きる我々の辛いところだが、ラブコメだけは違う。ラブコメはめでたしめでたしで終わった後の生活を描く事ができる。なぜならそこに生活の諸問題がないからで、例えば同棲したとすれば生活費はどうするか、お互いの仕事とプライベートの時間をどう合わせるか、親への連絡等はどうするかといった重苦しい問題が横たわり、それら生活の垢は彼と彼女を蝕む危険性もあるが、ラブコメにおいてはいくら付き合おうがその後結婚しようが「妻はいつまでも夫(=主人公=読者)にぞっこんで、いつまでも若く身体も瑞々しく、性的奉仕もそれ以外の奉仕も厭わない」のである。だからその後の幸せな生活を描く事も可能なのである。

 そこで本作であるが、既に付き合って肉体関係を結んでいる主人公とヒロインの2人の間には何者も闖入できない世界があり(「すっかりやらしい体になっちゃったね」「あなたのせいですからね」)、性交渉によってその世界は燃え上がり、或いはどこまでも深く落ちていき(「だってこれ以上一緒にいたら、おじさんと離れるの怖くなっちゃうよ…」)、どんなに快楽を貪ろうともすぐそばに相手がいるのだからどこまでも行けるという安心感が付与され、更に快楽を貪る事ができるのであった。もちろん同棲の場合はまだ結婚していない、即ち社会的に認められていない関係なのでやや後ろめたさもあるが、その後ろめたさを感じさせないほどにヒロインは主人公(=読者)のために性的に奉仕するのであり、奉仕する事に悦びを見出しているのであり、それによって主人公(=読者)はその深みにはまり込む事の甘美さを感じるのであった。

 つまり本作は1位でもおかしくなかったが、2人の深い性交渉描写に注力する事で主人公が「地味で平凡で何の取り柄もない男」かどうかを確認できないのがネックとなって惜しくも2位となった。しかし良かった。

   

第1位:色めき出す世界美矢火文苑堂:BAVEL COMICS

色めき出す世界 (BAVEL COMICS)

色めき出す世界 (BAVEL COMICS)

  • 作者:美矢火
  • 出版社/メーカー: 文苑堂
  • 発売日: 2019/01/30
  • メディア: コミック

 エロ漫画は時にラブコメよりもラブコメ的である。なぜなら性交渉を描かざるを得ないからで、性交渉、つまり裸になって自分をさらけ出し、身体の奥深くで繋がる事で、「地味で平凡で何の取り柄もない男」も「美人でかわいくてスタイルも良い女」も自分が本能に支配されたただの人間である事を知り、しかしそんな人間である事の素晴らしさと相手への愛おしさを知るからである。

 というわけで作者は過去にも1位を獲得しているが(2017年・1位「純愛リリシズム」)何と今年も1位となった。もちろん1位となったのはラブコメ設定のうまさ(「たまたま隣の席になったマブい?ハクい?ギャル」「まあまあ普通の自分に自信のない凡庸な男子がカワイイ彼女をゲットするにはどうしたらいいと思います?」)、どうせ自分は一生色恋には無縁だとあきらめている主人公を引っ張るヒロインの積極度(「積極ってなんだよ!どうしたらいい…」「好きって告白しろよ!」「好き同士ですし…先生は私に好かれてるって自信もってくれていいんですよ」)等が優れていたからだが、目玉であるおじさんものの傑作中編「逃避行」の、息詰まったような生活を送るサラリーマン主人公(20代後半~30歳前後?)と、青春の暗い一面にとらわれてしまった女子高生ヒロインが偶然と運命によって始めてしまった逃避行(「オジサン…私を買いませんか?」「私を『ユウカイ』してくれない?」)を通じてお互いの心を探り合い、寂しさを埋め合い、それまでの人生で経験した事のないような特殊な、しかし静かな二人だけの環境の中で愛が芽生え、愛を感じ、その愛が快楽を生み主人公もヒロインも乱れ、その快楽の協奏曲がまた愛を増幅させ、二人の絆を強くする物語が息を呑むほどの美しさと完成度だったからである。そしてこれはまぎれもなく純愛であった。しかも性交渉を克明に表現しなければならないエロ漫画だからこそ到達した純愛である。

 所詮我々は灰色の世界、いやもっと不確かな灰色の世界で生きて行かなければならないのであり、その現実を忘れるためラブコメその他の華やかな世界に逃げる事もあるが、しかし灰色の世界はやって来るのであり、向き合わなければならない。だが心配ない、向きあった先にはヒロインと愛が待っている。灰色の世界で迷っていたからこそ2人は出会ったのであり、逃避による濃密な2人の時間、お互いの弱さをさらけ出し、お互いの身体をぶつけあった2人には2人だけの世界が作られ、向き合う事を決意し、世界に色がついたのだ。そして主人公(=読者)は救われ、癒され、希望を持つに至るのである。それでこそラブコメだ。ラブコメこそが希望なのだ。