日本ラブコメ大賞2019:Ⅲ ラブコメは常にアップデート

第10位:宇崎ちゃんは遊びたい!ADOKAWA:ドラゴンコミックスエイジ

宇崎ちゃんは遊びたい! 2 (ドラゴンコミックスエイジ)

宇崎ちゃんは遊びたい! 2 (ドラゴンコミックスエイジ)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/02/08
  • メディア: コミック
 

 まずラブコメから離れた一般的な話をしよう。中学生時代、高校生時代、大学生時代において、いわゆるオタク的な暗い男が女子一般と話す事はまずない。今でこそ「スクールカースト」等といった便利な言葉があるが、そのような言葉がなかった時代でも「スクールカースト」的な風習はあったのであり、「女子と気軽に冗談を言い合う」「お互いにボケたりツッこんだりする」「気安く腕や肩などをさわる」事は夢のまた夢であった。しかし我々は、本当はそのような事をしたかった、漫画やドラマに出てくるようなめくるめく大恋愛が無理でもせめて友達としてざっくばらんに話せたらどんなにいいだろうと思いつつもほとんど、いや一言も話す事なく青春時代は終わり社会人となってしまった。

 もちろん社会人になると若い女だろうが妙齢の女だろうが仕事ができると評価された途端に話ができるようになり、場合によっては内容のない雑談であっても聞いてくれたりするので社会人とは何といいのだろうと思ったりするのだが、話はそこから本作に行く。というのも本作は主人公(=読者)とヒロインに恋愛関係はない。もちろん全くないという事はなく後輩ヒロインの方はその気がある風だが、それは裏の顔であって、メインは後輩ヒロインが先輩主人公に絡んでくる日常である。「絡んでくる」と言っても肉体的に絡むのではなくややウザい感じに「遊びましょうよ」「ご飯食べに行きましょうよ」「先輩どうせぼっちなんだから相手してあげますよ」と言ってくる方の絡んでくるであり、「どっちかというと一人でいる時間の方が好きで落ち着くんだ」という主人公にとっては面倒臭い存在であるが、一方で後輩ヒロインは女(爆乳)でありながら全幅の信頼を置いて男である主人公(=読者)に声をかけてくるのでありじゃれ合おうとしてくるのであり、「~っス」「~っスか」という男くさい口調も手伝って主人公も気軽にボディタッチができる(鼻を上に引っ張る、尻を叩く、頭のてっぺんをチョップ)のであり二人で飯を食う事もできるのであり、何だかんだでその「SUGOIDEKAI」胸にも気安く(?)触れる事ができるのであった。

 ラブコメとは主人公(=読者)が積極的に動けない・動いてはならない分、対応するヒロインが積極的になるものであり、そうするとストーリー展開上主人公とヒロインが恋仲となる事が自然である(だからヒロインは積極的に立ち回る)が、ヒロイン側が積極的に立ち回る事ができれば恋仲でなくてもその形式的な条件は満たしている。とは言えヒロインは主人公(=読者)に構ってほしくてしょうがない(「遊びたい時にだけ遊ぶ都合のいい女扱いっスか」「昨日からまだずっと腰痛いんスよ。先輩のせいっスよ」「先輩と一緒にお酒飲んでみたかったんスよ」)のであり、第三者から見れば立派なバカップルである。また主人公はヒロインのおかげで常識人的にツッコミ役になりきる事ができ、且つ何だかんだで楽しい休日を過ごす事ができ、読者にとっては極上の青春体験となろう。とは言え主人公・ヒロイン以外の周囲の会話がやや不自然、芝居臭いところが気になった。舞台廻しこそ自然に、さりげなくするべきなのである。しかしいいものはいい。

「あとうちは布団一組しかないから…」

「一緒に寝ます?」

「一枚ずつ分け合うんだよバカタレ!」

   

「ちゅーしたら起きますかね」

「なにす…」

「やっぱり起きましたか。冗談ですよ、じょ・お・だ・ん」

「…」

「ところで先輩、もしかしてちゅーした事ないんスか~」

   

第9位:おもいがおもいおもいさん/矢野としたか白泉社:YOUNG ANIMAL COMICS

おもいがおもいおもいさん 1 (ヤングアニマルコミックス)

おもいがおもいおもいさん 1 (ヤングアニマルコミックス)

 

  いやはや惜しい惜しい。主人公もヒロインも中3~高1というのは幼過ぎだ。ヤングアニマルに連載するのだからせめて大学生、高校生でも高校2年生ぐらいにすべきであった。そうすれば一気に性交渉まで突っ込めたかもしれない。そこまでいけばこのヤンデレブコメは1位か2位になっていたはずだ。とは言え…そうなったらなったでこのヤンデレヒロインの魅力は半減したかもしれない。

 ラブコメのヒロインは皆多かれ少なかれヤンデレ的要素を持っている。「美人で巨乳で性格も良い」ヒロインが「地味で平凡で何の取り柄もない主人公(=読者)に惚れる」など普通ならありえないが、それを「ありえる」とするからには世間からの視線や常識を屁とも思わない強い思い込みを含んだ好意や愛が必要となり、それは一歩間違えれば精神的に病んだ状態となる危険なものとなる。しかしそこは二次元の勝利で、どれだけ重い言葉を吐かれても所詮は「怒った顔もかわいい」程度ですむのであり、主人公(=読者)は「自分はこんなかわいい女(=ヒロイン)に愛されているのだ、つまり俺はすごい存在なのだ」と自尊心も大いに上昇しよう。とにかく本作は素晴らしい、どれだけ素晴らしいかは下記にある徹底的なヤンデレ的名言を見れば一目瞭然で、主人公(=読者)はその重たい重たい愛に癒されると同時に戦慄するのであるが、それも二次元であれば許されるのである。しかし前述したように主人公はまだ15歳、16歳であるから(「主人公君8月生まれだよね、って事は高3で学生結婚が可能だね!楽しみだな~、2年ちょっと」「けっ…こん…?」「…結婚する気もないのに告白してきたの?」)本格的にドロドロしないのが物足りず、主人公が純粋にヒロイン一筋であるのもやや物足りない。もちろんラブコメの主人公は浮気などしないが、それは「地味で平凡で冴えない自分を誰も相手にしてくれないから言い寄ってくる女で満足する」という結果でしかなく、機会があればハーレムを求めるのが人の世の常である。とは言え浮気や不倫にはリスクがつきものなので目の前のいい女には鼻の下を伸ばすのが関の山だが、そのような浮気的危機があれば、ヒロインはヤンデレ的手法で主人公(=読者)に永遠の愛を誓わせ、手足を縛る事ができただろう。しかしまあ、本作は素晴らしい。ヤンデレ万歳。

「他の女の子と仲良くしないでね、私といる時に他の女の子見ないでね、連絡先とかも全部消して」

「私達付き合ってもう3日になるよね、なのに手も繋ごうとしないなんて、本当に私の事好きなの、本気で結婚する気あるの」

「という事は80歳まで生きるとしたら、あと65年もイチャイチャできるね」

「決して浮気をせず生涯私だけを愛してくれて4人の子供達のいいお父さんになってくれて」

「つまり主人公君はもう家族だから私達は永遠に一緒だって事だよね」

「結婚して子供が産まれたらパパママ呼びになっちゃうんだよ、つまり私達が名前で呼び合えるのはあと4年しかないんだよ」

「そのためにあと7年も待たせる気?私はその間ずっと『早く孫の顔を見せろ』って言われ続けるんだよ」

「これから70年も支え合っていかなきゃならないのにこの程度の事で」

     

第8位:性欲の強過ぎる彼女に困ってます。sakuメディアファクトリーMFC

性欲の強すぎる婚約者に困ってます。sakuメディアファクトリーMFC

 

性欲の強すぎる婚約者に困ってます。 (MFC)

性欲の強すぎる婚約者に困ってます。 (MFC)

  • 作者:saku
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/05/23
  • メディア: Kindle
 

 ラブコメの主人公は地味で目立たずおとなしいので、ストーリー展開上どうしても対するヒロイン側が積極的に出る事になる。それによって主人公はヒロインに引っ張られるが、かと言って主人公(=読者)を被害者にしてはいけない。ヒロインがストーリーを引っ張る事は許容するが、ヒロインが主人公に対して殴る蹴るの暴行、或いは罵詈雑言の限りを加えてはならない。当たり前の話だ。地味で目立たずおとなしい、或いは勉強も駄目スポーツも駄目だからと言ってその者を殴ったり蹴ったり罵倒していいはずがないのだ。しかもそのようにしてひたすらヒロインに殴られ蹴られ罵倒されても「トホホ…」ですますような性的倒錯者が90年代には当然のようにいたのであり、その暗黒時代に耐えた事が俺を世界のラブコメ王たらしめているわけだが、それはともかく、なぜラブコメの主人公は地味で目立たずおとなしくなければならないかと言えば、読者の大半つまり俺も諸君も地味で目立たずおとなしいからであって、ではなぜ俺や諸君は内面に激しくドロドロとしたものを抱えていながら、それはもう激しいものを抱えていながら地味で目立たずおとなしいのだろうか。それはそういう態度を取る事が一番リスクが少ないからそうしているのであって、特に女性関係においてそれは顕著で、少しでも性欲や欲望的な事を表に出せばそれはセクハラ・パワハラ・DV等となって犯罪者扱いされる世の中だからである。

 しかし不思議な事だが女性が性欲等を前面に押し出しても犯罪者扱いされず笑い話ですんでしまうのであり、その是非は置いて、そうであればそれを積極的に活用するのがラブコメであり、かくして女(=ヒロイン)側が積極的に出るのも自然なのであり、その勢いに乗って主人公もその欲望を前面に出す事ができよう。

 また女(=ヒロイン)側から積極的に性的アピールをする事で、男(=主人公=読者)側からすれば「傷物にされた」等の主張をされる心配もなく、男として責任を取らなければならないといった重苦しい罪悪感からも解放される。そして二次元であれば大抵の事は性交渉によって解決するのであり、ヒロイン側が性生活に興味津々で性欲過多であっても、それは主人公(=読者)への愛情として笑い話で処理されるのであり(「彼を虜にするフェラテク」「俺が寝ている間にAV見ながらオナニー」「見られたいし興奮されたいし襲われたい」)、その処理の過程で主人公(=読者)も気が向いた時には性生活を楽しむ事ができよう。そしてここまで愛情たっぷりの生活を送る事ができたのなら主人公(=読者)も最後の最後には背伸びをしてプロポーズを成功させ、一生語り継がれる武勇伝も獲得でき、ヒロイン側も一生の思い出と幸せを獲得できるのであった。めでたしめでたしであって、このようなうまい話はもちろん現実にはありえないが、現実にはありえないからと言ってそれを描いてはいけないわけではない。ラブコメは現実を超越するのである。

「今日は秘密兵器があります!チョコレート味の食べても平気なローション」

(中略)

「まずい…いつものしょっぱい方がいい…」

「俺いつもしょっぱいの!?」

       

第7位:黒船来襲少女!/藤坂空樹竹書房:BAMBOO COMICS COLORFULSELECT]

黒船来襲少女! (バンブーコミックス COLORFUL SELECT)

黒船来襲少女! (バンブーコミックス COLORFUL SELECT)

 

 「エロではないが、非エロでもない」「性交渉シーンが多いが、性交渉的場面以外の見所も確保する」と言えばこの竹書房双葉社の独壇場であり他の追随を許さない。本作においても魅力的なヒロイン(「好きじゃなくても、カラダだけでいいよ、主人公がシタい時だけシていいから」「カタくなった、うれしい」)・悪女的なヒロイン(「たくさん…主人公君の濃いの出たね…これが私の元気の素」)・性交渉の間で揺れ動く男心、社会的立場(組織と自分、組織の人間関係と自分、組織にいる事によって得られるメリットとデメリット、等)によって揺れ動く自負心、をうまく噛み合わせ、陰気ではっきりしない主人公像を表現する事に成功しているのであった。

 当たり前の話だが、男たるもの女の尻を追い掛けているだけではいけない。仕事をしなければならない。女ならば家事手伝いや実家暮らしや気楽な派遣もしくは非正規の仕事でも何という事はないが、男というものは仕事において遮二無二努力し、輝かなければならない。とは言え仕事一筋の仕事人間というのも所詮「女の尻を追いかけ回しているだけ」な男と「馬鹿の一つ覚え」という点では同じである。やはり会社・仕事の合間に女が出てこなければならずその女を使いこなさなければならず、その女は地味で平凡で暗い主人公(=読者)にもすぐに心を開いてくれる、明るく健康的なひまわりのような女でなければならない。本作のヒロインはまさにそのような理想的なヒロインであって、はっきり明示はされていないがアメリカからやってきたヒロイン(「正真正銘の美少女」)は憧れの日本にやってきて主人公が住むマンションの隣の部屋に住むのだがふとしたきっかけで知り合いとなるのであり(「トイレ貸してくださイ!」「刃物もクスリも持ってませン、わ私日本に来たばかりデ、悪いコトしませんから」)、アメリカ的な明るい社交性とヒロインの持つ爽やかな魅力、そして過去この日本ラブコメ大賞に登場した事のある作者(2009・15位「ヴァージンげーむ」、2008・7位「ももいろミルク」、他)が描く細く豊満なヒロインの姿態は主人公(=読者)の生活に笑顔を運んでくれるのであり、上司女(仕事のためなら女の武器を使う、且つ溜まった時は主人公を性欲処理等に使う)にいいように使われるだけのうだつの上がらない主人公(=読者)はいつの間にか救われるのであった。

 特に後半、「身体の関係でもいいから」と主人公に抱かれようとするヒロインの描写は対応する性悪上司女との比較で美しく純粋に表現され、性交渉を経て美しさに磨きがかかり、その美しさは主人公によるものと認識された時、読者は主人公と共に大いなる幸福に包まれ、力を得て、これまでの他人にいいように使われた人生から訣別する(「お断りします、好きな人ができました、もう貴女とはしません」)事ができ、ヒロインとの新しい人生をスタートさせたのであった。つまり主人公(=読者)は生まれ変わったのだ。ラブコメとは再生の物語である。

    

第6位:佐藤くんは覗ている。/ゆきの竹書房:BAMBOO COMICS BC

 耳が痛い話だが女にモテるためには努力しなければならない。スポーツ、勉学、ファッション、社交性、会話能力、等、等を強化して、自分は「強い」「かっこいい」「賢い」を世間社会一般から獲得しなければ女は振り向かない。つまりヒロインを射止めるには努力しなければならない。しかし何度も言うようにそのような努力をしても優秀にはなれない、或いは様々な理由から努力できない男も大勢いるのであり、更に言えば血と汗と涙でそれらの諸能力を獲得したとしても女にモテる事が確定するかと言えば神ならぬ人の世の常でそうとは限らない。そのような理不尽に耐える男達のための「救い、癒し、希望」としてラブコメがあるわけだが、そうは言っても天から女が降ってくるわけではないのだから、「アプリ(このアプリを使えば女の考えているコトがわかり人生バラ色間違いなし)が舞い込んでくる」という設定にしたのが本作である。アプリ、というのが現代的でいいではないか。ラブコメは常にアップデートしなければならない。

 しかしながら「女の考えているコトがわかる」と言ってもその女が自分に悪意を持っていたら(或いは何の興味も持っていなかったら)そのような女に近づくわけにはいかないのだからラブコメとはならない。自分に対してやや好意めいたものが芽生えた、或いはもともと好意を持っているからこそのこのアプリの出番となるわけで、導入当初は

①アプリを使ってヒロインの(本音の)望みをかなえよう

②その結果ヒロインの好感度を上げて、徐々にヒロインを籠絡しよう

 となるはずだったが、アプリによってヒロイン達の本音が露わになると次第にヒロイン達の方が(他人の心を見ようとする主人公よりも)危ないキャラクターとして描かれてしまうのであった。ここがやや混乱するところで、主人公(=読者)はいつの間にか童貞狩り(成功例なし)が趣味の処女に襲われそうになり、幼馴染みでヤンデレ気味のストーカーに襲われそうになり(「趣味:主人公君の盗撮・盗聴・観察日記をつける」「主人公君、あの女どもは何かな?主人公君にはヒロインだけいればいいよね、それともヒロインの愛を試してるのかな?嫉妬してほしいのかな?そんな事しなくても(以下略)」)、上記2人は副ヒロイン級扱いでメインヒロインは2人いるのだがその2人も副ヒロインの暴走と欲望に感化されて結局暴走気味に主人公へアプローチをしかける事になり(「どうせ洩らすならもういっその事主人公さんに見られたい」「エッチな同人誌みたいに、無理やり奪います」)、危険な修羅場的なハーレムとなって、最後は天下の公道で「心を覗いた責任取ってくれるのよね?」とせまられたまま強引にフェードアウトとなるのであった。

 しかし1巻完結ならこのような終わり方も許されよう。読者はその勢いに翻弄されながらも「修羅場ハーレムができた」→「主人公(=俺)はやばい修羅場を経験した、それはもうすごかった」という読後感と共に、「自分は女にモテた」という記憶をインプットできよう。それでよい。人生に勢いが必要なようにラブコメにも勢いが必要なのだ。

      

第5位:狐のお嫁ちゃん/Batta[KADOKAWA:角川コミックス・エース]

狐のお嫁ちゃん (2) (みんなのコミック)

狐のお嫁ちゃん (2) (みんなのコミック)

  • 作者:Batta
  • 出版社/メーカー: eBookJapan Plus
  • 発売日: 2017/09/28
  • メディア: Kindle
 

 さて続いてはいわゆる動物擬人化ものである。擬人化によって美しい女となった動物女との恋物語は民話の世界から当たり前のように存在しているわけだが、擬人化をラブコメで扱うメリットとしては

①人間とは違う。つまり人間社会ではモテない主人公(=読者)にも惚れる可能性が大いにある。又は惚れても違和感がない(人間ではないので)。

②人間社会や世間に染まっていない。つまり女尊男卑な昨今の風潮に染まっていない。

③発情期がある。性的な交わりを正当化できる(発情期だから仕方なく交尾しているという言い訳が得られる)。

 があるが、一方デメリットとしては

①人間とは違う。つまり人間社会とは違う価値観や美的基準がある可能性がある

②人間社会や世間に染まっていない。つまり主人公(=読者)が一から人間社会の常識や世間のしがらみを教える必要がある

③発情期がある。逆レイプ的に性交渉を強要される恐れがある。

 等もあり、動物擬人化ヒロインを恋人又は嫁にしたのでめでたしめでたし、とはならない可能性もある。それに当たり前の話だが人間には人間が一番なのであり、過去の動物擬人化ものとしては下記ぐらいしかなかった。

モンスター娘のいる日常」(2014・8位)

狼と香辛料」(20122013・5位)

魔法少女猫X」(2007・5位)

「いぬみみ」(2007・15位)

コイネコ」(2006・28位)

もののけ・ちんかも」(2004・6位)

「BOX」(2004・8位)

「おとぎストーリー 天使のしっぽ」(2002・6位)

 しかも「狼と香辛料」以外はコメディに重きを置いているので真面目に主人公(人間)とヒロイン(動物)が生活している描写はなされないのが常であったが、本作は基本的に二人の結婚後の生活が描かれ、いかにして人間社会に溶け込むか(獣としてどこまで許容できるか)、から始まって、今後の生活設計(子供はいつ作るかその場合の養育費等は)、風邪をひいたらどうするか、お互いの親との付き合いをどうするか(異類の文化にどこまで付き合えるか)、また経済的な問題(養育費をどう稼ぐか)、等、等が次から次に発生して飽きる事がないが、ヒロインである狐のお嫁ちゃん(330歳、「物心ついた頃世は生類憐みの令で野犬が溢れて狐にとっては地獄のような世の中じゃった」)は人間ではない・人間社会や世間に染まっていないからそれら面倒臭い問題に愚痴の一つもこぼさず愉快に乗り越えていくのであり(「発情期はまだまだ続くぞ、気を取り直して今晩も交尾じゃ」)、それによって主人公(=読者)はヒロインに愛されている事を実感し、擬人化ヒロインを守ろうという静かな決意さえ生まれるのであった。

 この格差社会・女尊男卑の社会では人間の女に愛される事が絶望的になってしまった。つまり「擬人化ヒロインが目の前に現れる」事も「人間の女に愛される」事も同じくらいありえないのならば、大多数の男達は前者を取るだろう。それがラブコメの本質だ。

     

第4位:○○デレ井上よしひさジャイブ:CR COMICS DX

○○デレ(2) (CR COMICS DX)

○○デレ(2) (CR COMICS DX)

  • 作者:井上よしひさ
  • 出版社/メーカー: ジャイブ
  • 発売日: 2011/09/07
  • メディア: コミック
 

  繰り返し言及しているようにラブコメの主人公は「地味で平凡で冴えない」のだから、いわゆるオタクにするのが一番手っ取り早い上に読者は感情移入しやすい。そしてヒロインもオタクにする方がよい。その方がオタク主人公(=読者)の特殊な生態及び特殊な性癖を難なく理解する事ができ、万事うまくいくように思える。

 しかしヒロインもオタクであるという事はそのような理解の助けとなる反面、オタク的生活が基盤にあるという事でヒロインには主人公(=読者)以外に優先する対象が存在する事になり、主人公(=読者)の存在感の低下、また主人公(=読者)への依存心を薄める事に繋がる。ラブコメとはヒロイン→主人公へと一方的に愛情が先行するものという方式と矛盾しよう。主人公に向けられるべきエネルギーがオタク趣味へと向けられては困るのである。依存心が強ければ強いほど主人公の存在感が大きくなり、また対恋愛の力関係でも有利になるからである。

 そのため今までのラブコメでは「ヒロインもオタク」と言いながら実態は「オタクに理解がある」程度のマイルドな感じにするのが定番であった。本作の各ヒロインもコスプレ趣味、漫画家志望、声優志望、BL作家、同人作家、等とそれぞれ濃いオタク趣味を持っているが、しかし男オタク(=主人公=読者)に都合のいい存在(オタクに理解があり、主人公のオタク趣味全般を温かく見守る)としてキープされている。主人公のオタク趣味に対して同族嫌悪に陥る事はなく、自分のオタク趣味はその道を極め一人荒野を目指すような熾烈なものではない事も描写され、しかしオタク趣味は楽しいから続けるという事で主人公側に「自分もオタク趣味を捨てなくていいんだ」という言い訳を与え、むしろそのオタク趣味によって主人公(=読者)とヒロインは出会う事ができたというまとめへと落とし込んでいるのであった。

 つまり本作はよく言われる「いい歳してオタクだから彼女ができないのだ(結婚できないのだ)」という常識を否定しているすごいものなのであった。なぜそんな事ができたかと言えば二次元のセオリーに則って女オタクヒロインは女オタクにも関わらず美人でスタイル抜群で性格もいいのであり、そのため主人公はヒロインを意識し、しかし主人公はオタクであるからヒロインに声をかけることもできず向こうから話しかけてきてもほとんど言葉が出ないが、そこへ優しい偶然を与えてきっかけを作り、お互いの関係を発展させるのである。そしてなぜ「お互いの関係を発展」できたかと言えばヒロインもオタクだからである(「オタク同士ひかれあったんだね、きっと」「せっかくオタクの神様が彼に会わせてくれたんだもの」)。素晴らしい。ラブコメとはこのように都合の良い展開を通じて弱者(オタク)を救ってくれるのである。オタクな我々は癒され、救われ、希望を持ち、今日も偏見と闘うのである。

    

第3位:BOYS BE…~young adult~/イタバシマサヒロ玉越博幸富士見書房:ドラゴンコミックスエイジ]

BOYS BE… ~young adult~ 2 (ドラゴンコミックスエイジ た 6-1-2)

BOYS BE… ~young adult~ 2 (ドラゴンコミックスエイジ た 6-1-2)

 

 

 おお。何と。「BOYS BE…」(2000・19位)ではないか。2019年になってまた「BOYS BE…」と再会を果たす事ができるとは思わなかった。というのは俺と「BOYS BE…」の出会いはかなり古く小学生の頃に読み始めていた(行きつけの散髪屋に置いてあった)からであり、小学生にとって、本作に出てくる高校生主人公達のもどかしく甘酸っぱい、しかしほのかな色気のある瑞々しい青春ストーリーはかなり刺激的であった。

 しかしながらやがて出会った「天地無用!魎皇鬼」(1997年・1位)、そして「ふたりエッチ」(1998年・1位)の壮大さと深さは俺の人生を変え、ラブコメそのものがライフワークとなって今や世界のラブコメ王として降臨しているわけだが、「天地」「ふたりエッチ」を知ってしまった後では「BOYS BE…」の甘酸っぱく瑞々しいが刺激の少ない物語は俺の琴線に触れず、2000年に備忘程度で19位とした後長い間俺の記憶と本棚の奥にしまわれていたわけだが、しかし日本ラブコメ大賞に認定された以上俺は見捨てなかったのであり、俺のような体験をした当時の少年達(今の30代~40代)は大人になってまた「BOYS BE…」を復活させたのでありそれは見事この日本ラブコメ大賞の3位を射止めたのであった。心からおめでとう。

 しかしながら当時「BOYS BE…」を読んでいた、俺を含めた「恋に興味津々だが恋に臆病な少年達」は大人になってどうなったか。社会の厳しさに触れ、将来の不安に襲われ、酒の味を覚え、しかしやはり恋に臆病なのは変わらず、周囲にいる女達はそのような初心な少年達とは住む世界が違う遠い世界に行ってしまったではないか。しかし「BOYS BE…」の世界は違う。確かな財産も才能もなく、これといって特徴もない、むしろおっちょこちょいで慌てん坊で早とちりな主人公達はしかし目先の学業や仕事や自分の将来に真摯に向き合うのであり、時に怠惰に流されてもそのような自分を反省し後悔するのであり、そんな彼らにも遅い春は訪れる。真摯に、一生懸命に生きた彼らにはヒロインの方から優しく声をかけてくれるのである。

 思えばかつての「BOYS BE…」もそうだった。ヒーロー揃いの「少年マガジン」の片隅で、悩める読者を体現したような主人公達は世界の滅亡も野望もなくただ与えられた課題を地道に真剣に乗り越えようとしていたのであり、そこにヒロイン達は優しく声をかけ、きっかけを与えてくれたのだ。あの時代にはそんな漫画を優しく微笑んで認めてくれる度量があったが、今の「少年マガジン」、いや少年誌にそんな作品は成立しない。善と悪、富と貧乏、華やかさとみすぼらしさの対比の中で、漫画さえも全てが切り捨てられる時代となってしまった。しかしラブコメだけは違う。クラーク博士が言った「ボーイズ・ビー・アンビシャス(少年よ大志を抱け)」を胸に、かつて少年だった俺は今後もラブコメを追い求め続けよう。

   

第2位:アリソンは履いてない/ねんど。[竹書房:BAMBOO COMICS]

アリソンは履いてない 2 (バンブーコミックス)

アリソンは履いてない 2 (バンブーコミックス)

 

 繰り返しになってしまうがラブコメであればよい。ストーリーはありきたり、画力も優れているわけでもない、それでもラブコメとして優れていればよい。「ラブコメとして優れた」とは「地味で平凡で冴えない主人公」が何のリスクを負わずとも辛く悲しく痛い代償を払わなくても「美人でかわいくて胸も大きくてスタイルもよくて…」なヒロインを得る事ができ、それを何の違和感もなく主人公もヒロインも周囲の世界も受け入れることができる事を言う。そのため設定もありきたりでよく、本作も

①主人公が無職

スマホゲームからヒロインが出てくる

③色々な面倒事に巻き込まれる

 というそれだけのものであるが、その話の進め方がかなりうまかった。更に整理すれば

①ヒロインがスマホゲームから突如としてやってくるドタバタとなかなか信じられない主人公

②いつの間にか主人公の家に居着いてしまうヒロイン1

③ヒロイン1を追ってやってきたヒロイン2との戦い

④更にやってきたヒロイン3とヒロイン1の戦いとそれを静観するヒロイン2

⑤お互いの戦闘とその後やはり主人公の家に居着いてしまうヒロイン1~3

⑥更に追ってやってきたヒロイン4とヒロイン1の戦い、それに加わったり加わらなかったりするヒロイン2とヒロイン3

 となるわけだが、このように終始ドタバタしながらもややアホっぼい妹、こたつでカップ麺を食うヒロイン1~3、モミモミ(「女の子の体(おっぱい)をモミモミして魔力を回復させるあの操作」)、キレのあるセリフ(「君がいたこの4日間、ちょっと迷惑だったけどトータルで言うと楽しかったよ」「私はねえ、耳は付いてても、聞く耳は持ってないのよ!」)等が挿入され緩急自在、読んでいて楽しく、しかし癒されるという極上の読書体験であった。またヒロイン1、ヒロイン2、ヒロイン3…と登場させるタイミングも絶妙で、1巻で3人を出してもカオス感がないのはこの1~3をやや険悪にしているからで、それによって主人公(=読者)とヒロインが個別にストーリーを作り上げ、しかし主人公に危害を加える場合には一時的に団結し、しかし相変わらず険悪さは維持する事によって主人公の存在感を飛躍的に上げているのであった。

 しかしまあ、以下の4頁を見ればいかに本作が楽しいものかわかるであろう。とにかく楽しかった。そして本作を象徴するセリフがこれであろう。「どうしよう、困った事態だけど悪い気はしない」。

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第1位:ブラック学校に勤めてしまった先生/双龍日本文芸社:COMIC HEAVEN COMICS

ブラック学校に勤めてしまった先生(2) (ニチブンコミックス)

ブラック学校に勤めてしまった先生(2) (ニチブンコミックス)

 

 さて2位が「とにかく楽しい」ならば見事1位となった本作は何と言うか。「とにかくすごい」である。とにかくすごい。ここまで振り切った作品は20年以上の歴史を誇るオールナイトラブコメパーカー・日本ラブコメ大賞の中でも前代未聞である。

 ラブコメの主人公はヒロイン側によって一方的に惚れられるのを常とする。しかもその惚れられる理由は読者にとって一般的でなければならず、繰り返しになるが、「容姿淡麗」「スポーツ万能」「天才(IQなんとか)」等の特殊な理由を根拠にしてはならない。そのため一目惚れが一番よいが、一目惚れ効果が何人も続いたらそれは「一目惚れ」が持つ特殊性がなくなってしまう。

 そこで本作だが、女子校に赴任した新任教師主人公がまず開始4頁目から「まじ!?チョータイプなんだけど」「超タイプだから放課後にヤるねー」と言われる。いわゆる一目惚れである。そして一目惚れが何人も続くわけがないからそこでモテ期が終わって主人公とヒロインがヤるのかと言えばさにあらず、主人公はその超巨大というか富士山というかチョモランマというか、とにかくすごい性器(しかもオクロフィリア、ポリテロフィリア、多精子症)でもってその場にいる女子高生(全員黒い)及び保健医(「何このアダルティ」)を釘付けにしてしまうのであり、その性器を目にしたが最後女子高生ヒロイン達は次々とその性器に一目惚れつまり主人公に一目惚れとなるのであり、その勢いのまま主人公争奪戦が始まる、しかし主人公はあくまで真面目に聖職者としての道を進もうとしているのであり、そんな主人公の思いなんか知らんわいとばかりにやはり主人公争奪戦が…という荒唐無稽なものだが、あまりにも女子高生ヒロイン達が次から次へと主人公(=読者)へ攻撃を仕掛けてくるのですごいすごいと圧倒され、読み終わった後は空虚感さえ感じ、その空虚感の正体を知ろうと再び読み始め、やはり圧倒され空虚感さえ感じ…を繰り返す。非常に特異な読書体験であった。ラブコメとはすごいのだ。

「大好きな人のためならマーコ何でも出来るし!センコーなんか怖くねーし!主人公がド変態でも全部受け入れて最&高のエッチしてみせるし!」「主人公の生徒は皆主人公ッチン●を狙ってる!アタシも狙って当然だ!」「はああああ!?アタシだって真っ先に目つけてるし!?主人公ッチン●ガチラブだし!?」「マジない!主人公ッチの事マジラブだもん!」「えええだっておっぱいだしぃ、主人公ッチ嬉しくないのー!?」「先生のチン●がふざけてるしなに今の超パないはよ挿れたいし」「ムラムラやばばだったら昼休みいっぱいしよ!」「私のが締まりパないよスポーツ得意だから」「主人公先生って赤ちゃんプレイ好きなんですか!?パねええ私得意なんですよ後でしますぅ!?」…というわけで最&高の主人公(=読者)争奪戦の余韻に浸りながら日本ラブコメ大賞2019を終わろう。次は日本ラブコメ大賞2019成年部門編です。