日本ラブコメ大賞2019:Ⅱ 安穏で平穏な生活を送るだけが望みの

第20位:妻に恋する66の方法/福満しげゆき講談社:イブニングKC

妻に恋する66の方法(1) (イブニングコミックス)

妻に恋する66の方法(1) (イブニングコミックス)

 

 さて作者は「僕の小規模な生活」「うちの妻ってどうでしょう」(2008・1位)「僕の小規模な失敗」(2008・5位)以来の久々の登場となったが、その後甲斐性もないのに子供を2人も作り、連載は打ち切られ、日夜どうしようもない不安に駆られつつも妻を観察する事で束の間の平安を保つのであり2008年当時から変わっていなかった。そして社会性皆無な作者(「ずっと家にいると、外に出るのが怖くなったりするのです」)が結婚し子供をもうけた事自体が奇跡なのにその妻は美人(と思われれる)で、作者は漫画家であるから一人黙々と漫画を描き、孤独や寂しさに押し潰されそうになったとしても「わっ。家に女いる!」という驚きと共に妻を再認識するのであり、それが「妻に恋する」に繋がるわけであるが、同じく社会性皆無な読者にとっては本作を読んでいる間だけは主人公(=作者)と共にその喜びを分かち合う事ができるのである。これもラブコメの一つの形と言えよう。

 とは言え主人公(=作者)はひねくれ者なので「妻は美人だよ、ちょっと身体がずんぐりむっくりしているだけ」「九州が育んだ丈夫なボディ!」「じゃあ妻もあれぐらいオッパイ大きくなってよ!」「フンゴフゴフゴ」と妻をダシにするのであり、妻の方も子供を2人産んで年齢を重ねた今となってはもう人生やり直しなど望むべくもなく、このうだつの上がらない亭主の尻を叩いて何とか生活していかなければならない。その夫(=作者)と妻が醸し出す小市民的なしょうもない諍い(「女のマタに一生懸命トーン貼ってるとこずっと見ないでくれる?」「皆が皆、常におなかが減っているわけじゃないんだよ」「ダメやっか~、カカトの事描いちゃダメやっか~」)はユーモアと安定感があり、読ませるのであった。まあ世の中の大半の夫婦はこうして老いていくのだろう。

「私の可愛いエピソード、なんか描けたとね?」

「くっ!35歳のくせになんて図々しい」(妻の発言に反感を持っても口には出さないであげよう)

 

第19位:変女/此ノ木よしる[白泉社:YOUNG ANIMAL COMICS]

  ラブコメの主人公は「地味で平凡で冴えない」が原則であるから、主人公側から積極的に動いてはならない。とは言えそれではストーリーが展開しないので、対応するヒロインが積極的にならなければならず、それは恋愛展開についても同様となる。ヒロイン側から積極的に好意や愛情を主人公(=読者)にアピールしなければならない。そのような、「『美人でスタイル抜群なヒロイン』にも関わらず『地味で平凡で冴えない主人公』に積極的に関わる」という意外性の構図がラブコメなわけだが、かと言って主人公(=読者)がひたすらヒロインに振り回されるだけでは主人公(=読者)は疲れるだけであって、主人公がストーリーの中心、或いは中心たる人物・存在・事件の鍵を握るように仕向ける事が必要となる。だから主人公なのであって、ただヒロインに「からかわれる」「オモチャ的に消費される」存在ではラブコメとして作品一般としてもどうしようもない。

 そのため変(態)女に振り回される(「毎日オナニーしているのに、あの勃起角度が保てるなんて」「主人公さんは毎日オナニーなさるので、精子に良い食材をふんだんに使った特製(弁当)ですよ」)主人公、だけではラブコメにならないが、一方で変(態)女ヒロインは不器用だが真面目な主人公に徐々に惹かれ信頼していく事も描かれており、そうなる事でヒロインは安心してより一層変態度を増して主人公を振り回してゆくのであるが、そこで副ヒロイン(主人公の従妹で主人公を幼い頃から慕っている)が表れたところで主人公・ヒロイン・副ヒロインに微妙な三角関係が生まれ、ヒロインの変態度は時に先鋭的に、時にグダグダになり、副ヒロインはより主人公への気持ちを意識しつつ変態的ヒロインに巻き込まれ、主人公は最初から最後まで翻弄されているとは言え読者にはその時々の騒動はヒロイン・副ヒロインの主人公に対する戸惑いやアピールに端を発したものである事がわかり、ラブコメへと姿を変えるのであった。さすが過去1位を受賞した経験を持つ作者で(2017・1位「こっみくすたじお」)、そのあたりは憎たらしい。

「オカズができて良かったですね、私も今日の事、オカズに使います」

「えっ!?今日何か使える事あったか!?」

   

第18位:僕の心のヤバイやつ/桜井のりお秋田書店少年チャンピオンコミックス]

僕の心のヤバイやつ 2 (少年チャンピオン・コミックス)

僕の心のヤバイやつ 2 (少年チャンピオン・コミックス)

 

  「スクールカースト」「陽キャ」「陰キャ」と言った言葉が使われ出したのはここ5年程であるが、もちろんそのような言葉が使われるはるか昔からそれらを意味する事象はあった。そして陰キャな少年達はより陰気に、よりネガティブに、暗く深い谷底へと降りていくき、思春期や青春期の傷は一生残り、大人になってもリア充を妬み嫉み、やがてネトウヨその他になってSNSその他でひたすらリア充その他を叩く底辺な人間に成り下がるのであった。

 しかしながら我々にはラブコメがある。ラブコメにはそのような「陰キャ」な人間でもラブコメができるという夢物語があり、その夢の体験を通して優しさを取り戻し、真人間へと更生するのである。世の中からラブコメがなくなったらえらい事になるというのはそういう事だ。

 話がそれたがそのようにして「陰キャ」である事を強く自覚している主人公は陰キャをこじらせた上に「中二病」にも罹っており(「僕が今最も殺したい女だ」「クソクソクソクソ女、そうやって底辺を見下している事を絶対に後悔させてやる」)対処のしようもないが、そこに「陽キャ」であるはずのヒロイン(学校イチの美人、雑誌でモデルもやっている)をぶつけ、もちろん陰キャ陽キャ、水と油のはずの二人が同じ世界、同じ空気を共有する事はありえないが、偶然と幸運の重なりによって陽キャヒロインがややアホである事が判明し(「学校でねるねるねるねを作ろうとする女」「ねるねるねるねやプルーチェを料理だと思っているのか」「私はゴミ箱に捨てていないので、違います」)、対する陰キャ主人公は相変わらず中二病でありネガティブ思考が基本であり(「そもそも僕なんかと外で二人きりになって恥ずかしい…そんな涙かもしれん」「僕と二人でいるのを見られたりしたら、著しいイメージダウンである」)、いじらしい、まどろっこしいというより面倒臭いだけの男だが、そのような面倒臭い中二病の主人公も陽キャアホヒロインに恋をしている事に気付くのであり、陽キャアホヒロインの方も自分のやや特殊な個性を正面から受け止めてくれる主人公を次第に意識してしまい、更にわけのわからない行動に出てしまうのであるが、ヒロインのその「わけのわからない行動」が主人公が発端になっている事で読者は癒されるのであった。

 また「ヒロインに振り回される主人公(=読者)」を基本としながらも時々はヒロイン側が主人公に振り回されるのであり、そのような攻守交代を経てだんだんと二人のみの独特の世界ができあがっていくのも非常に居心地が良い。かくして「スクールカースト」を乗り越える事ができるかもしれない。希望、それがラブコメだ。

「…トイレだよ」

「トイレは上にしかないだろ」

「あっ。そうなんだ間違えた~。じゃあね」

「やれやれ。…僕と…喋りに来たのか…?」

  

第17位:パラダイスウォー/梶島正樹・水樹尋[講談社講談社ラノベ文庫 

パラダイスウォー2 (講談社ラノベ文庫)

パラダイスウォー2 (講談社ラノベ文庫)

 

  小説とは何か。「活字で描かれた漫画」か。そうではない。小説とはあらゆる形式から自由なものであり、世間的常識の下にある嘘や偽善を暴くためのものである。老若男女全てが支えあい助け合うと言うが本当は老人と女だけが得をしているのではないのか、多様性の名の下に特定の層が優遇されているのではないか、愛は金では買えないというが本当にそうか、戦争反対と言うが本心では戦争したいのではないか(そして自分は絶対に負けない、死なないと思っているのではないか)、自分以外は皆不幸になれ但し自分だけは幸せになるのが当然だと思っているのではないか、等、等、人間の奥底にあるどうしようもない真実を探り当ててきたのが小説であり文学である。そしてそこから話は俺のラノベ嫌いへと繋がるが、今や権威と化し旧来の伝統に凝り固まってしまったミステリー、SF、漫画とは違い、せっかく自由な形式が保障されているにも関わらず出てくる作品は相変わらず「正義感が強い」「『友達(仲間)は大事だ』とか言う」「雨に濡れているからと言って捨て犬に傘をさして自分は(以下略)」、等、等な主人公ばかりであって、これだけ多様性が叫ばれている時代に金太郎飴のように同じ性格をした主人公だらけなのはどうしたわけだ。小説だろう、自由だろう。俺やお前のような、地味で平凡で冴えなくて、貧乏で、むっつりスケベで、チビでデブでハゲで、プライドだけは大きくて、世間体を気にして、器が小さくて、そんな主人公がしかし美人で可愛くて巨乳でスタイル抜群な女にモテモテになるやつを作ったらどうだ。小説ならそれができるのだ。

 話がそれたが本作もまたそのような「お人好し」系の主人公であり、もちろん悪人や筋金入りのワルよりはお人好しの方が読者としては感情移入しやすいが、「でも、今はちょっと頑張ってみたいんだ」「俺が一緒にいるから、安心して」「誰だって言いたくない事の一つや二つ」、等、等の歯が浮くような台詞が散りばめられると主人公=読者の図式が成り立たなくなってしまい、それでは「自分とは関係ない誰かがモテている」という胸糞悪いだけの話となってしまう。ラブコメとは主人公=読者であり、その主人公がモテる事で読者もモテる、それによって読者は救われるのである。

 とは言え本作はラブコメの老舗である「天地無用!魎皇鬼」(1997・1位)に連なるシリーズであるから及第点になるのは保証されていたのであった。主人公には前述したような「いい人過ぎる」面があるが、突然のサバイバルによる不慣れな生活や宇宙の命運を賭けた戦いに圧倒されながらも4人の美少女と1人の露出狂的美女が主人公をサポートするのであり、主人公は読者にとってリアルでなければならないがヒロイン側がいくら突飛な設定(美人でスタイル抜群で性格もいいのになぜか主人公に好意を持っている)でも問題はない。要はいかにして地味で平凡で冴えない主人公を中心にして盛り上げていくかという事であり、本家本元の「天地」主人公は特殊な家柄の人間な分、感情移入が難しいところもあったがこちらは本当にただの一般人なのでその分感情移入も容易で読みやすくもあった。

 またラノベなのだから文体や文章の不自然さ、説明を会話文で切り上げてしまう粗っぽさは問われない。何しろ本作は「天地無用!」シリーズなのであり、SF的設定も胸躍るものがある。「天地無用!魎皇鬼」第5期がいよいよ始まるが、本作もアニメ化してもらいたいものだ。

   

 第16位:脱童貞の相手は…まさかのアイツ!?ぽろりブラスト出版:comic gloss]

脱童貞の相手は…まさかのアイツ!? (Comic gloss)

脱童貞の相手は…まさかのアイツ!? (Comic gloss)

  • 作者:ぽろり
  • 出版社/メーカー: 星雲社
  • 発売日: 2017/03/18
  • メディア: コミック
 

 

 本作はいわゆるライトなエロ漫画であり、成年指定されていないエロ漫画である。この分野だと竹書房双葉社少年画報社が長く第一人者であるが、こちらの電子書籍・配信系のレーベルも馬鹿にできない。なぜならとにかく量が多いのであり、量が多ければその中にキラリと光るラブコメも多くなり、世界のラブコメ王たる俺はその類まれな嗅覚と選択眼でひょいと掴み出す事できる。世界のラブコメ王は新興勢力の味方である。

 で、本作はまず絵が上手いわけではない。キャラクターは普通だが背景が雑で、特に時々出てくる食卓の貧相さはかなりのものであるが、主人公・ヒロイン1(主人公の義妹)・ヒロイン2(主人公の恋人)による三角関係、それと並行する性交渉の進行は非常にスムーズであって、

①同棲中のヒロイン2とようやく性交渉へと至るはずの主人公はヒロイン1の妨害にあう

②事故と偶然によってヒロイン1と性交渉をすましてしまう

③その後も一つ屋根の下でヒロイン2にばれずにヒロイン1と性交渉へと至ってしまう

 と進むのであるが、この小規模感、場面展開の少なさがキャラクター・背景・その他小道具含め全てが平均的な画力とマッチして安定感を出している。また主人公とヒロイン2との性交渉を阻止しようとするヒロイン1のいじらしさ、直球さ(「お兄ちゃんはあたしだけのものなんだから」「チャンスよ!これで彼女に幻滅されちゃえ!」)、やや子供っぽい言動・髪型(ミッキーヘア…でいいはずだ)と、対するヒロイン2の天然且つ主人公を信頼し切っている大らかさ、しっとりと大人びた風貌(基本薄着、ロングヘア)、その間に立って右往左往しつつ欲望を放出する主人公という構図も安定感を持っており、偶然の結果であっても稀有なものである。

 またヒロイン1・2が「なぜこんな中途半端な主人公を慕っているのか」の理由もなく次々とラッキースケベが発生するのも良い。理由を考える暇もなく主人公(=読者)は次々と「おいしい目にあう」のであり、それによって読者はいつの間にか自然に主人公と同化し、この困った三角関係に困惑しつつ、ヒロインによるヤキモチ等のおいしいところを味わう事ができよう。こういうものがあるから電子書籍も油断ならない。これからも探し続ける事にしよう。

   

第15位:正しくない恋愛のススメ/東雲龍少年画報社:YKコミックス]

正しくない恋愛のススメ (ヤングキングコミックス)

正しくない恋愛のススメ (ヤングキングコミックス)

 

 ラブコメとは男にとって「都合のいい」ものでなければならない。それは例えば彼女いない歴=年齢で、女と目を合わせると顔が赤くなってしまうような、どう考えても春が訪れる事はない青年にも女が寄って来る…というものであり、そんな夢物語のような都合のいい話もラブコメなら可能である。という事で本作であるが、

①ぶつかったヒロインに「ねえ君、ちょっと時間ある?」

②ヒロイン「今は男でもエステとか行くのが普通なのよ。ウチの店、今だったらお試し価格で」主人公「…」

③その後紆余曲折あってヒロインの方からデートの誘い

④ヒロインは童貞喰いで、童貞を喰い終わったら関係も終了する事が判明(「私とえっちしたら…おしまい」)

⑤童貞を喰われてポイ捨てなどふざける、と逃げる主人公、追うヒロイン(「私は私のやり方で、主人公君の事、本気で落として行くから」)

⑥その主人公と同じバイト先の副ヒロインが参戦(「主人公は私と、明日出掛ける約束してるから、絶対駄目!」)

⑦ヒロインと副ヒロインが女のプライドを刺激されて主人公にアピール(「あの2人共…狭いんですが」「あんたがまたエロい事しないか監視するためよ」「私は隣に座りたいから」)、リア充状態

⑧主人公とヒロインは性交渉、更に主人公と副ヒロインも性交渉

⑨ヒロイン・副ヒロインを天秤にかけた結果、主人公はヒロインを選択

⑩ヒロインもいつの間にか主人公を好きになっていたので両想い、ハッピーエンド

 という事で、まさにラブコメとはこういうものですよという見本のような作品であった。これでもしヒロインが童貞喰い(他の男とヤッた事がある)でなければ迷わず1位となったところだが、世の中そううまくいかない。たとえばヒロインは童貞喰いを標榜しているが成功したためしがない、いわゆる「処女ビッチ」状態…とかであれば良かった。しかし主人公は二人の女を天秤にかけておきながら(ヤッておきながら)副ヒロインに「私は、告白もしたし、こうなるってわかってたし、これでいいの」「ほらっ、早く行って仲直りしてくるっ」と背中を押され許されるのであり、主人公(=読者)は罪悪感を微塵も感じず純愛気分でハッピーエンドとなり、至れり尽くせりとはまさにこの事であった。世の中のラブコメ、いや漫画が全てこうであれば俺もずいぶん楽になるが、そうもいかない。

 しかし…できればエピローグを入れてヒロイン・副ヒロインのハーレムエンドを見たかったなあ、そしたら1位にしてもよかったか。世の中そううまくいかない(ここで(笑)を入れておこう)。

    

 第14位:社畜と少女の1800日板場広志芳文社芳文社コミックス

社畜と少女の1800日 3 (芳文社コミックス)

社畜と少女の1800日 3 (芳文社コミックス)

 

  などと小難しい事を言っているがラブコメほど簡単なものはない。主人公を「地味で平凡で冴えない主人公」にすればいいだけであって、華やかさはなく、周囲から注目される事もなく、特別な才能があるわけでもなく、金にも人にも恵まれず、安穏で平穏な生活を送るだけが望みの何の取り柄のない人物を主人公にすればいい。そしてそこに女をぶつければいい。やがて物語は勝手に動き、転がり、スピードを増すだろう。人生だってそんなものだ。また主人公は何歳でもいいのであって、高校生なら高校生なりの、大学生なら大学生なりの、社会人なら社会人なりのラブコメはある。

 というわけで本作であるが、彼女がいない独身40歳の社畜男主人公はかつての高校の同級生(女)と「半年前に偶然街で会って立ち話をした」だけだというのにその同級生の娘(中学2年)が訪れてくるのであり、なぜその同級生が娘を主人公の家へ差し向けたのかは不明だが(主人公さんの住所が書かれたメモだけ残して「ここを頼れ」と…)困った主人公は「警察か専門の機関へ行けばいい」、しかし娘ヒロインは「母は…主人公さんを頼れと言いました。だからもしかしたら、近々ここに私を迎えに来るかもしれません」「どうか…私をここに置いて下さい…」、安穏で平穏な生活を送るだけが望みの主人公は「とにかく泣き止んでほしいというその場しのぎの安請け合い」で血縁なしの少女ヒロインとの奇妙な同居生活が始まってしまうが、14歳とは思えない健気で精一杯なヒロインの姿に心打たれ、延々と続く社畜生活で心が荒んだ(「生きるために仕事してるんだか仕事するために生きてるんだかわからなくなった」)主人公に彩りと安らぎと平穏が生まれ、会社の上司(既婚、やがてバツイチ)には迫られ、ヒロインの学校の担任と恋人関係になり…と物語は動き、転がり、スピードを増すのであった。

 作者は日本ラブコメ大賞の常連であり(2017・6位「脱オタしてはみたものの」、2015・8位「歳の差20/40」、他)、その年季の入った「スレンダー且つ巨乳」の艶のあるヒロインは本作でも健在だが、今までとは趣を異にして少女ヒロインと主人公の心が通い合う交流を丁寧に描き、SE会社での辛い実態(「最近の業績不振を理由に人員は増やしてもらえそうにないわ」)と社畜にならざるを得ない40歳男の実態(「まあだから俺みたいなのでも仕事があるんだよな」)も描き、その上で副ヒロイン1(ヒロインの学校の担任)、副ヒロイン2(同僚、バツイチ)との逢瀬を描く事で「人生の大半のクリスマスは楽しくなかった、20代の頃はいちゃつくカップル達を呪い、30代は年末進行に追われて12月の記憶すらなく…」だった主人公(=読者)はそれらヒロインにモテだした上に大変な事件の渦中に置かれるのである。いかにそれが大変だとしても(「現実的にこれからどうするつもり?この先ずっとその子の面倒見るの?でも主人公君はどうなるの?結婚もせずその子の親代わりとして生きていくの?」)、終わる事のない、救いのない社畜生活を営む我々読者にとって主人公の生活は一時の清涼剤となろう。そして明日も社畜となって頑張ろうではないか。ラブコメは明日への源なのである。

     

第13位:10Carats/いるまかみり芳文社芳文社コミックス]

10Carats (芳文社コミックス)

10Carats (芳文社コミックス)

 

 

 ラブコメとは優しさと不可分である。「優しさ」といってもそれはボランティアや募金といった即物的な事を言っているのではなく、この世界のあらゆる事を許容する事を言う(むしろボランティアや募金は人を選ぶという点で優しさとは正反対のものである、というのが俺の持論だが、それはともかく)。「平凡でおとなしいどこにでもいる男が、なぜか美人でスタイルのいい女と付き合う」物語となると途端に「どうして平凡でおとなしいどこにでもいる男が、なぜか美人でスタイルのいい女と付き合うのか。おかしいではないか」と糾弾する事に優しさはない。そういう事もあるのだろう、世の中には時に想像もつかない事が起こるものだ、と許容する事が優しさである。これだけ多様性が叫ばれているご時世でもひたすら自分の偏狭な基準や常識にとらわれ、且つそれを他人に強制する事が多いのは驚くばかりだが、それでこそ優しさを帯びたラブコメが引き立つというものだ。ラブコメとは思想でもあるのだ。

 「平凡でおとなしいどこにでもいる男でも、充実した人生を送れる」ためにはどうすべきか。仕事に精を出す、趣味に熱中する、四季を運ぶ日本を愛す、等色々あるが、ラブコメにおいては女を用意する。男は女によって変わるのであり、それが充実した人生に繋がるからである。もちろん男女の刺激的な恋愛の駆け引きなどは必要ない。むしろそういった、恋愛関係に付き物の葛藤や苦悩を主人公(=読者)が感じないよう優しく包み込む工夫がなされなければならず、本作はそのお手本とも言えるものであって、それぞれの短編にはややひねくれた主人公、やや自分の人生をドラマチックにしたい主人公、ただ部屋でくつろぐカップル、等が出てくるが、いずれもそれなりの「事件」を用意し(「ばあちゃんの通夜でばったり再会した幼馴染」「ものっそいパピヨンじゃねえか」「せめて女のヒモくらいは上手にこなしたいが、それすら満足にできていない」)、しかし何事もなく過ぎ、「何事か」あったとしても破滅を迎える事なく明日はやってくる事を示して穏やかに終わるのであった。

 また主人公とヒロインの会話が絶妙で、主人公に好意を持っている事を匂わせることで主人公の歓心を誘うが、それは「都合のいい展開」を露骨に感じさせない(「露骨に感じない」だけで、何となくは感じる)ギリギリの範囲で収まり、主人公(=読者)が戸惑う事もない。ラブコメのヒロインに求められるのはヒロイン側が積極的に立ち回りながらも決して主人公より前に出ないことであり、しかし愛情は持っているため「今すぐ抱いてほしい」という事を主人公がひるまない範囲で(或いは主人公が消極的という殻を捨てて積極的になってもいいと判断できるように)表明しなければならないが、その難しい役回りをごく自然に行わせている。それによって主人公(=読者)は救われ、癒され、希望が持てるのであった。ラブコメとは優しさなのだ。

    

 第12位:さくら江さんはグイグイ来すぎる/家田キリゼン芳文社:KIRARA TIME KR CIMICS

 「許嫁」というシステムはラブコメ的には大変便利なものである。わざわざ恋の駆け引き、惚れた惚れられたの面倒な諍いを起こす事なく主人公とヒロインは夫婦となるのであり、二次元の論理に従って主人公は地味で平凡な男なのにヒロインは「美人でスタイル抜群で性格もいい」且つ「主人公にぞっこん」なのであるから、こんなに楽な事はない…わけだが過去の日本ラブコメ大賞を見渡しても(下記参照)いわゆる小粒揃いの上に数も少なかった。

「許嫁協定」(2015・6位)

「はっぴい・ゆめくら」(2006・9位)

「すぱすぱ」(2003・11位)

藍より青し」(2002・18位)

 はてなぜこんなに少ない…としばし考えたが、実は「許嫁」という題材が難しいからで、まだ「嫁に来る事を許されている」程度で実際に同居して結婚生活をするわけではないのだからストーリー的に広がらないのであり、活用されないのも無理はない。しかし本作においてはヒロイン(「頭脳明晰、容姿端麗、わりと全校の憧れの的」「とにかく美人で、頭が良く、品行方正、学園のマドンナ」)はとにかく主人公にグイグイグイグイ強引にせまりまくるのであり(「ボディタッチで殿方のハートをラブゲッチュ」「マイクロビキニです」「愛の裸エプロンです」)、なぜそんなにグイグイ来るのかと言えば許嫁だからであった。

 また主人公(=読者)側からすれば「この時代に親が決めた結婚なんていいのかな」「自分はヒロインに比べて、平凡な人間だし…」と不安に思うところだが、ヒロインは率先して「私のどこが嫌いでお気に召さないのか教えていただけませんか」「主人公様の許嫁で本当によかったです」「許嫁10周年のプレゼント」と表明する事によって主人公(=読者)は前述の罪悪感から解放され、存分に独占欲を満たす事ができ、恋の駆け引きや面倒な諍いに巻き込まれる事なく安心してヒロインとの関係に没頭できる(「俺達ほっておいたって、そのうちけ…結婚するのは変わらないじゃーないですか」)のであり、ヒロインがグイグイ来るくせにいざ主人公からヒロインへ歩み寄ると途端に怖気づいてしまうところ(「覚悟の決まった分だけお見せしていきます」)も愛おしさを感じよう。つまり本作はいい事尽くしな大変に優れた作品であったが、いかんせん主人公・ヒロイン以外の出番が多く群像劇的になってしまっているのでこの順位となった。ラブコメとは主人公(=読者)のための物語なのである。自分以外の他人が誰かにモテたからどうだというのだ。

 話は変わりますが、作者のアイマスの同人誌(武内P×楓)もお薦めですよ。

   

第11位:ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?聴猫芝居石神一威・HisashiADOKAWA:電撃コミックスNEXT

ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った? Lv.3 (電撃コミックスNEXT)
 

 さて本作アニメ版は3年前に放送されており俺はその時に既に見ており、その時点で本作がオールナイトラブコメパーカー・日本ラブコメ大賞に該当する事はほぼ決定していたわけだが、この日本ラブコメ大賞は原則として書籍に与えられるものであり書籍を買った時に言及すればいいだろうと呑気な事を言っていたら3年が経ってしまいました。決して他意があったわけではない。そもそもこの日本ラブコメ大賞に認定される事は大変に名誉な事なのであり、来年以降も待っている作品が多々あるのだ。

 という冗談はさておいてネットと現実の区別がつかなくなった女子高生ヒロインが出てくる。主人公が、ではない。ヒロイン側がネットと現実の区別がつかなくなって、主人公のネットゲーム上のキャラクターの嫁となり(「初心者丸出しのアコに簡単なアドバイスをしたら懐かれてしまい」)、ヒロイン的には自分の夫=ネットキャラ(ルシアン)=主人公となり、現実でも嫁として自身の立場を主張するのであった。

 「ヒロイン側の一方的な思い込みや勘違い」によって主人公(=読者)へ積極的になる、というのは時々見られるが、本作の場合は小説家にキチガイじみたファンレターを送る傍迷惑な人間のようなものであって、「ネットと現実の区別がつかない」ようなおかしな女に付きまとわれては大迷惑だが、一方で2次元の法則に沿ってそのヒロインは美人で巨乳である。そして主人公(=読者)はネット上ではそれなりに格好つけたりはするものの現実ではただの常識的なオタク高校生なわけだからその驚愕の展開に慌てふためきつつもヒロイン側から嫁嫁嫁を連呼されるわけでありその言に乗ってリア充的な青春を謳歌できる(「コンビニで肉まんでも買って帰ろうぜ」「今日は2つにわけるアイスでも買って帰るか」「わけわからなくなったので、とりあえず私の夫は最高ですと主張しておきました!」)のであり、悪い話ではないのであった。

 ラブコメの主人公は決して能動的になってはならない。またヒーローになってはならない。なぜなら読者たる我々は能動的ではなくヒーローでもないからだが、では主人公がネットゲーム上でヒロインを射止めるのはどうか。その射止める過程で歯が浮くような浮ついた言葉を吐いたり、やや偽善的な優しさを見せたとしても、素の主人公が我々読者と同じ単なるオタクであればよい。誰でも正義面したい時期があるもので、しかし正義面してヒロインを助けたところそのヒロインがネットと現実の区別がつかないヤンデレでした、現実でも嫁嫁嫁と主張します、しかもその他のネトゲメンバーも巻き込んで…となって事態は複雑化するが、そこはフィクション且つコメディであるから収まるところに収まる(「ゲームのお前よりリアルのお前の方がずっと可愛い」「私もリアルのルシアンに会った後、もっともっと好きになりました」)のであり、結果としてネットとリアルを股にかけたオタクならではのリア充生活が描かれており、これはこれでいいだろう。現代ならではの青春だ。ラブコメとは青春、或いは青春を手に入れる事ができなかった者達のための追体験の場なのだ。

 しかしヒロインのセリフがいちいち面白いのも困るな(下記参照)。ストーリーに集中できない。

「うわあ…将来が約束されたお金持ちとか死ねばいいのに…」

リア充…敵はリア充…」

「もともと私なんかリア充してる普通の女子高生と戦って勝てるわけがなかったんです」