日本ラブコメ大賞2018:Ⅱ 人生と同じだ

第15位:俺と姉妹のドキドキ同居生活神藤みけこジーウォーク:ムーグコミックスピーチコミックス]

もっと、俺と姉妹のドキドキ同居生活神藤みけこジーウォーク:ムーグコミックスピーチコミックス] 

  さてこの「ジーウォーク」レーベル、去年は成年部門編に分類したが、どうやら双葉社竹書房のような「エロではないが、非エロでもない」レーベルを目指しているようなので今年からは一般部門として評価しよう。と言っても双葉社竹書房のような老舗であれば「エロが主体ではあっても、ただのエロでは終わらない」したたかさがあるが、こちらの方は新興勢力らしく「ほぼエロと変わらないが、エロが少ない分ストーリー要素も付け加えておいた」という単純さであって、もちろんその単純さが魅力的となる事もあるから馬鹿にできない。世界のラブコメ王である俺は挑戦者には寛容なのだ。

 で、本作についてだがタイトルから大体想像できる通り「一つ屋根の下に住む事になった姉妹」「父親が再婚して、昔からの幼馴染だった姉妹が義理の姉妹となった」から主人公が姉妹と性交渉に励むというもので、幼い頃から兄妹のように遊んでいた姉妹と一つ屋根の下で住むようになり、ヒロイン(妹)とヒロイン(姉)は主人公に興味津々、そして二次元のセオリー通り姉妹ともに胸は大きくその他もスタイル良く成長しているのであり、ヒロイン(妹)の方は幼い頃から主人公(=読者)を慕っていたという事でその魅力的な身体を惜しげもなく主人公に開き、それに影響されて小悪魔的なヒロイン(姉)も主人公を意識し結果的に身体を許し、それでも主人公の好感度が下がる事はなくむしろ性交渉の機会が増えてより一層ヒロイン(妹)もヒロイン(姉)も主人公から離れられなくなる…という展開が続くわけだが、電子書籍を前提にしている本作は1話完結または1巻完結のエロ漫画とは違ってその展開に終わりがないため話が深まるごとに「ヒロインの主人公への傾斜」が深まっていく事に特徴がある。但しこれは読む人によっては「ただダラダラと話が続くだけ」という印象を抱かせるが、怪我の功名、ラブコメ的に読めば「いかにして主人公の気を引くか」とヒロインが大胆な行動に出る(「お兄ちゃんも…エッチな下着好きなのかな…」)事はいかにヒロインにとって主人公の存在が大きいかを測るバロメーターとなり、

①右往左往した挙句結局は流される主人公

②流される主人公に更に大胆な方法に出るヒロイン

 という展開がまさしくダラダラと描かれる事でラブコメ度はより強固となるのであった。

 つまり本作は非常に良いものであるが、やはり画力の方がアマチュアというか、同人作家の域を出ていないのでこの順位となった。例えば妹・姉・その他のヒロインを美乳・巨乳・爆乳と描き分けるなどの工夫をすればより魅力的になっただろう。次回作に期待している。

 

第14位:抱き枕とは結婚できない!だーくADOKAWA:MFコミックスフラッパーシリーズ 

抱き枕とは結婚できない! (MFコミックス フラッパーシリーズ)

抱き枕とは結婚できない! (MFコミックス フラッパーシリーズ)

 

 これまで「モンスター娘」「ロボット(アンドロイド)」「宇宙人」など数々の非人間ヒロインによるラブコメを見てきたが、道具を擬人化したものはほとんどない(2010年8位「ひめごと」等)。しかしもちろん、ラブコメであれば道具を擬人化しても構わない。なぜならラブコメの主人公は「地味で平凡で冴えない男」なのであり、そのような主人公(=読者)は自分からヒロインを見つける事はせずヒロイン側からのアタックを待たなければならないのであり、しかし都合良くヒロイン側からのアタックがやって来るわけがないのであるから、日頃から慣れ親しんでいる・大事に使っている道具類が擬人化してかわいらしい乙女となって主人公に降りかかってくるという設定もありえよう。大事な事は「主人公は自ら動く必要はない」を徹底する事である。

 ラブコメも時代状況と無縁ではない。恋愛や結婚の格差、つまり恋愛強者と恋愛弱者(俺やお前)の格差は年々ひどくなる一方であり、現実の女はますます遠い存在となって、今や「道具その他の非人間的存在が擬人化して女の子になる」事がそれほど遠い国の話とは思えないほど「恋愛する、結婚する」事はありえない世の中になってしまった。現実の女と恋愛する事も「道具その他の非人間的存在が擬人化して女の子になる」事も実現する可能性は同じくらい低いのだ。このような時代がやって来た事に改めて慄然とするが、一方でラブコメという救いの女神は「抱き枕」がかわいい女の子となる事を可能にせしめたのであり、それによって会社で辛い事があっても優しく抱きしめてくれるのであり(抱き枕だけに)、デートに来ていく服を選んだり実際にデートできるのであった。「街に出てもカップルに目が行って、『リア充爆発しろ!』と願うしかなかった」主人公(=読者)は抱き枕によって幸せを手に入れたのであり、それでいいのである。所詮二次元なのだから、ヒロインは非人間でもいいのだ。社会の荒波にもまれゆく主人公の生活に潤いが生まれたのであり、日々社会や現実の女との戦いにあけくれる我々(読者)にとっても清涼剤となる、それがラブコメなのだ。

 

第13位:なんでここに先生が!?蘇募ロウ講談社ヤンマガKC] 

 大事な事なので何度でも繰り返すが、ラブコメの主人公は自分から積極的に出てはいけない。なぜなら主人公は「地味で平凡で冴えない男」だからで、自分からヒロインとの出会いを開拓してはいけない。もちろんいわゆる合コン的な場に出る事はご法度である。しかしそうなると出会いは訪れず、ヒロイン側からのアプローチを待つしかないが、そう易々と「美人で巨乳でスタイル抜群で」云々な女が惚れてくれるわけがない。となると何らかの事件・事故といったハプニングを期待するしかないが、ハプニングとてそう易々と発生しないし、仮に起きたとしてもそれは一回限りで、特定のヒロインと何度もハプニングが起こるわけではない。更に言えばこのハプニングとは「ラッキースケベ」の事であるから、ますます難しい。

 しかしそこは二次元世界であるから、表面的に、それらしく取り繕う事ができればいい話で、設定の妙と制作側の勢いがあればよい。本作はそこがうまいのであって、主人公(=読者)はたまたま居合わせた場所(男子トイレ、男湯、実家、自分の部屋、旅先)でヒロイン(高校の女教師)と出会うのであるが、それは全くの偶然であり主人公(=読者)は何もしていない。しかし出会うのであり、ラッキースケベが次々と降りかかる。「ラッキー」なスケベがたまたま主人公(=読者)に降りかかるわけで、主人公は何もしない。しかし生まれたままのヒロインの姿を見る、唇を奪う、性器に顔をこすりつけるといった深い行為へと及ぶのであり、主人公は嫌でもヒロインを意識し、ここからが設定の妙であるが、ヒロインにとって主人公は「名前は知らないが恩人なんだ」であり、ラッキースケベから始まった二人の関係は「二人の物語」へと昇華される。そして全体を通して「都合の良さ」感があまり感じられないのは、偶然が何度も重なる事でその偶然が「二人の物語」のための必要な儀式だったかのように、強引にねじ伏せるほどの勢いをもってストーリーを進めているからであろう。かくして生徒(主人公)と教師(ヒロイン)だった二人は恋人同士となって(「合鍵を渡してから毎日」)口内射精へと至るのであった。これで良い。ラブコメには時にこのような力技、寝技が必要なのである。人生と同じだ。

 

第12位:姉×妹ラビリンス夏目文花竹書房:BAMBOO COMICS COLORFUL SELECT

姉×妹ラビリンス (バンブーコミックス COLORFUL SELECT)

姉×妹ラビリンス (バンブーコミックス COLORFUL SELECT)

 

 さて「エロではないが、非エロでもない」を目指し独自の道を突き進む竹書房レーベルは今年も快調で、最近では「エロが主体ではあってもただのエロでは終わらない」というしたたかさを持ち合わせてきたが、本作などそのいい例であろう。「ちょっぴり内気な25歳(元ひきこもり)」の頼りない主人公は「すごく綺麗で優しくて大人な(出版社でファッション誌の編集を務める美人OL)」ヒロインからコミュ障を「無口で真面目」と解釈してもらってあれよあれよという間に大人な関係となるのであり、その展開(元ひきこもりなのに立派な彼女ができた)に疑いを挟む余地はなく(どうして元ひきこもりにこんな美人OL彼女ができるのかという説明もなく)とにかく性交渉へと至り、そこへヒロインの妹を絡ませ、そのヒロイン妹(真ヒロイン)は主人公(=読者)と同じくひきこもりで、二次元のセオリーに則って胸はでかい上に顔もかわいらしい、しかし主人公には既にヒロイン姉という立派な恋人がおりヒロイン妹に乗り換えるわけにはいかずやがて主人公とヒロイン姉の性交渉が始まるのだがそこにヒロイン妹の影が忍び寄る…という展開が序盤30頁ほどで繰り広げられるのであり、エロを主体としつつもエロだけでは終わらない(複雑な三角関係)予感にワクワクさせられよう。

 やがて惹かれあう主人公とヒロイン妹(真ヒロイン)であるが、一方で主人公にはヒロイン姉がいるのであり、その三角関係をハーレムとして処理(両手に花、もしくは肉便器化)するのがラブコメの王道であるが、本作では主人公と真ヒロインとの結びつきを強調しようとして主人公とヒロイン姉にすれ違いを起こし、「やっぱり釣り合わなかった」として一旦の破局となるのがやや残念であり物足りなくもある。ラブコメとは癒しであり希望でなければならず、「地味で平凡で冴えない主人公」が「美人OL」を我が物にする事がラブコメの正しい姿なのであって、「やっぱり釣り合わなかった」「背伸びしていた」などという悲しい結論は避けなければならないが、本作においては一旦の破局を経て真ヒロインと結ばれる事に重点が置かれ、その破局がスムーズに処理される(「お姉ちゃんの宝物を私に下さい」)ので結果的に読者は大人の階段を経てよりいい女を手に入れる事ができた(「傷のなめ合いになったっていい、俺達はそんなに強くない」)喜びに浸る事ができるのであり、ラブコメとしての役割は果たしたと判断しよう。日本 ラブコメ大賞としては異例の事であるが認めよう。人生常に勉強なのだ。

 

第11位:塩田先生と雨井ちゃんなかとかくみこイースト・プレス

塩田先生と雨井ちゃん2

塩田先生と雨井ちゃん2

 

  16歳の女子高生と29歳の国語の高校教師が恋人同士となって爽やかな日々を送る、つまり性交渉まで発展せず清く美しい交際をするわけだが、そのような少女漫画的な考えはこの日本ラブコメ大賞では通用しない。日本ラブコメ大賞の基本にして大原則は主人公が「地味で平凡で冴えない男」であり、そのような「地味で平凡で冴えない男」でしかも29歳の男が理由(下心)もなしに女子高生と付き合うわけがないからである。29歳だぞ。童貞の高校生ではないのだ。性交渉するのが当たり前だ。

 とは言え本作では性交渉には至らずキスまでであって、ではなぜ性交渉しないのかと言えば性交渉をすれば主人公の社会的地位(高校の教師)が危ないからである。しかしそこに言及せず「ヒロインの事を大事に想っているから」性交渉へと至らないと結論付けてしまっているので読者としてはやや鼻白んでしまうが、作者が女性だから仕方ない。もちろん作者が女性だろうがバイセクシャルだろうがラブコメとして優れていればいいわけだが、ラブコメとは「モテない男の願望漫画」であり「モテない男の性欲処理」的側面を持つ事に多くの女性作者は気付かない。これは女性作者の限界であり、またヒロインが「美人(又はかわいい)」が強調されていない事も女性作者の限界で(ブサイクな女子高生にラブレターと恥ずかしいポエムを渡されても迷惑なだけだ)、更に主人公は「実は女生徒に密かに人気がある」、つまり「イケメン」的な要素がある、と匂わされると「主人公=読者」の構図自体が崩れ、ラブコメとして成立しない危険性もあろう。

 とは言うものの本作はラブコメとして認定される。なぜならヒロインは一途であり、16歳の健気な乙女心は主人公によって日々喜怒哀楽の渦中にあるからであり、その喜怒哀楽の源は主人公だからである。少女漫画お得意のお転婆なヒロインは主人公の気を引こう或いは独占しようと時に奔放に(先生をハゲでデブにしてライバルを減らそう)時にお茶目に(先生を尾行してやろう)時にわがままに(ダイエットが成功するまで先生とは話しません、絶対やせるために一番好きなものを断ちます)画面を所狭しと走り回るのであり、愛らしいではないか。もちろん、だからこそ性交渉してしまえば5位以内には入れただろうが、世の中上手い事行きません。しかしこれも立派なラブコメだ。良しとしよう。