- 作者: ロバート・F・ヤング,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2013/05/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ネタバレすると表題作はタイムマシンものであり、タイムマシン的に、この主人公がヒロインである女と既に出会っているという事はそれなりのSF好き読者ならすぐに勘付くが、主人公の内面と主人公の周りにある日常風景を丁寧に、くどいくらいゆっくりと描写する事で読者を引き付け、ヒロインをSF(すこし不思議)な存在として確立し、そして愛が成就される展開はまさにロマンスである。また「河を下る旅」の、自殺寸前の男女の出会いと救いというまことに都合の良い展開(俺が慣れ親しんでいるラブコメでも聞いた事がない)を真面目に、粘り強く進める作者の姿勢は読者の共感を得よう。そして最後に収録されている「ジャンヌの弓」に至っては、大真面目に「この任務は、『ボーイ・ミーツ・ガール』です」と作中人物の一人が言うところから話が始まるので読者は否応もなくボーイ・ミーツ・ガールに巻き込まれるのである。こんな小説がマッチョな国・アメリカで生まれた事に驚いたが、巻末の著作リストを見ると作者はアメリカSF界では中堅以下の存在だったらしい。まあこんな小説ばかり書いていたらそうなるか。
いわゆる「男女の甘いロマンス」以外の短編も含め、全ての短編に共通しているのは「ハードSFではない」事であって、自爆装置に搭乗した男の話も、幼かった頃の思い出に浸る男の話も、死ぬ事を自覚した男の話も、宇宙クジラ式宇宙船(ハードなところは俺にはわかりません)の声を聞く男の話も、核となるのは彼ら主人公の過去・現在・未来であり、それらを短編の中で鮮やかに描写するためにタイムマシンや宇宙船が活用されているだけであるが、その「ソフトSF」さによって好感を持って読むことができ、370頁では物足りないくらいだ。今度は是非、「15歳の少女といちゃいちゃしているだけ」の小説も読んでみたいものだ。
二十年。彼は呆然と考えた。そう、二十年ものあいだ、彼女は、私がいつかあの九月の丘に登り、日ざしを浴びて立つ若い美しい自分に会い、再び恋に落ちることを知っていたのだ。知っていなければならなかったのだ。なぜならその瞬間は、定められた私の未来であると同時に、彼女のかけがえない過去の一部でもあったのだから。
「正直に言いますと、私も最初はためらいました。ですが、いや、むしろ、一人前の成人男性ではなく、青くさい若僧の方が適任ではないかと思い直したのです。本質的に、この任務は、昔ながらのラブ・ストーリーの焼き直しのようなものでして。少年が少女と出会う。少年が少女をくどく。少年が少女をものにする。まあ、そういう筋立てでして」