週刊朝日 1984年12月21日号[朝日新聞社]


 1984年12月。当時の俺は1歳だった。つまり今から30年以上前だ。だから2015年現在に読むと色褪せた、古臭い、これぞ昭和という感じの記事が並べられているが(当たり前か)、では2015年の我々が1984年当時の彼らより賢いのかといえばそうとも言えない。2015年の我々がインターネットも携帯電話もない1984年に生きていればこの中で書かれてあるようなつまらない事、どうでもいい事、時代遅れな事を「時代の最先端」として得意げに行っていたであろう事は容易に想像がつく。今の人間が賢いわけでも昔の人間が賢くないわけでもない。時代は流れ続け時代の主役は代わり続け、栄光を極めた人も寂しく敗れ去った人も30年も経てば死んでいくのである。時代は変わった、人は死んだ、週刊誌だけが残ったのだ。
 
・警察のミスは三重にあった。まず、パトカーの警察官に「グリコ犯がその日動く事」を知らせていなかった事。(中略)二番目は、そのパトカーが不審者の前に止まらず、車を逃がし、男の行方を見失ってしまった事。そして、そのパトカーからの報告を受けた滋賀県警本部が、その「男」が車を止めていた位置を「白い布」から約2キロ離れたところと誤認したため、グリコ犯とは「関係なし」と判断、緊急配備を敷くのが遅れてしまった事だ。
 
・三菱総研会長(牧野)と三和銀行頭取(川勝)による「トップセミナー」。何が「トップ」なのかさっぱりわからんが。
牧野 いわゆる自由化問題というのがありますが、金利自由化の面では、日本は遅れているようですね。アメリカなんかだと、頭取が朝、今日はどのくらいの金利にしようかと決めるんだという話もある。日本も同じようにした方がいいか、それとも安定させた方がいいのか、バンカーとしてはどうお考えですか。
川勝 固定金利の方が安定していい、と私は思っていますが、正直言って、もう、時代からはるかに遠ざかった考え方でして、確実に金利は自由化する。もう既にドアは開いているわけです。
牧野 そうなると、駄目な銀行と良い銀行の差がつきだして、これまでのような護送船団方式というわけにはいかないでしょう。
川勝 いきません。もう、まさに自分の船を走らせるのにそれぞれ大変だろうと思いますね。
 
政府広報。「ご注意!海外でのおみやげ」。
 海外のおみやげ(生きている動植物や、それらを使ったはく製、ハンドバック、毛皮等)で、日本に持ち帰れないものがあります。それは日本がワシントン条約に加盟して、野生動植物を保護するため、その輸出入を規制しているからです。皆で、守りましょう。
 
・金持ち女子大生(小学校からのエスカレーター組)と貧乏女子大生(大学から入ってきた)。
 やっと買ったルイ・ヴィトンのバッグを持って大学に行くと、「あら、やっと買ったの、ヴィトンのバッグ。私もう飽きちゃったわ。バッグはやっぱり、エルメスよ。今、おねだりしてるんだ。いい手があるの。買ってくんなきゃ、ビニ本に出て買うもん、って言えば親なんてイチコロよ」。
 チキショー、私なんかバイトしてやっと買ったんだぞ、ルイ・ヴィトンの偽物を。
 
・元参議院議員で1983年総選挙に新潟三区(田中角栄の選挙区)で出馬し落選した野坂昭如の、新潟3区に生きる人々の現状レポート。
 越山先生(田中角栄)の、中央における神通力が失われたら、三区はどうなるか。新潟県、特に三区は土木建設が主たる産業であり、国の公共投資に支えられている。その是非は言わぬが、完全な中毒状態で、これが断たれたら、経済的体力のないこの地域は、禁断症状に耐え切れず、死んでしまうだろう。決して誇張ではない。田中さんの持ち込む事業にすがって、皆生きている。生活のかかった一票一票が積もって、二十二万とまでは言わないが、十五万票を為した。
 越山失墜の後、例えば金丸、二階堂が、三区の面倒を見るか。竹下、小沢、後藤田が従前どおりの配慮をするだろうか。まず考えられない。実態をよく知らない小生でも、愕然とする。ガラン洞の長岡テクノポリス、アバタだらけのハイウェイ、水の枯れた融雪道路。
田中を倒せ、には違いないが、小生の中に、しかし倒しちゃったら、えらい事になるなあ、他の選出代議士は、全く非力だし、俺なんか屁の支えにもなりゃしないと、煮え切らない気持ちがある。
 
・1985年大学入試直前シリーズ。
 いまや有名私大は「学生の7割が浪人」という異常な時代へと突入しているのだ。(中略)来春の大学、短大を含めた受験生は、ひのえうま世代のため現役が前年比4万6千人減の61万5千人となるのに対して、浪人は21〜22万人と、ほぼ前年並みと同ゼミは予測している。数字の上だけでも現役比率が低下しそうなのに、更に問題は、この世代から始まった「ゆとりと充実」の新過程だ。
 なにしろ、英語の習得語彙数からして、旧過程より一千語以上少ない。「こんな単語も知らないのか」と、受験のプロからは、まずは無能呼ばわりされてきた。
 
・アダルトビデオの大ヒット「くりいむレモン」を支える二次コン族の不気味
 この25分、9千8百円の「くりいむレモン」人気を支えるのは、「二次元コンプレックス族」と呼ばれる二十歳前後の青年達である。二次コン族とは、現実よりもアニメやコミック等の二次元の世界に感情移入がしやすいタイプをいい、一説によれば「三次元の女では燃えない(註・「萌え」にあらず)」と言われている。
 
・「週刊朝日」の名物企画「山藤章二のブラック・アングル」。今週は公明党民社党による二階堂副総裁擁立構想にひっかけて、「仮名手本中道グラッ」。公明党の竹入委員長、民社党の佐々木委員長が塀の中に入って、二階堂の耳元で囁いている(社会党の石橋委員長は塀の外で偉そうに突っ立っている)。
「一足先に入って来たのはちょっと相談があって…。正直なところ、もう仇と狙うのは疲れちゃったのよ。そろそろ連合しない?え、外にいる男?アレはいまだに仇だ、対立だって言ってるロマンチストでね、困っているのよ、我々も…」