- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/04/07
- メディア: 雑誌
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どうもそんな気がしてきたが、とりあえず書くことにすると最初の小説「除夜」は中年にさしかかった男女の湿り気を帯びた、しかし要所に渇いたところがある関係を殊更静かに描写することで生々しさが醸し出されている。「望みの彼方」はいかにも軽い言葉、軽い登場人物、軽い事件に序盤はうんざりしてしまうが、その軽薄な舞台を饒舌に書き続けることによってリズムが生まれ、読む側に「何かがある、かもしれない」と思い込ませる不思議な魅力があった。「日本文学盛衰史・戦後文学篇」は平坦でやや投げやりとも思える語り口ながら戦後の一時期確かに存在していた「革命」への考察が鮮やかであった。「末裔」はこの雑誌の中で一番読みやすく面白かったが、初老の主人公が倦怠と憂鬱の中で自暴自棄になりそうでならない、いや理性(世間体)が邪魔してなれない中でただただ苛立っている描写が何とも味があった。評論「村上春樹を英語で読む」は村上の短編小説「象の消滅」について論じていて、「象の消滅」という事件を中心にストーリーの構造に断絶があり、また主人公と主人公の相手となる女性の間に断絶があるということを説明しながら、村上が戦後日本の姿を村上らしいやり方で読者に提示していることを丁寧に検証して読み応えがあり、読むのが楽しかった。「<世界史>の哲学」では「西洋」とは何か、「西洋」とは中世を通じて形成されたという視点に立って、二つのキリスト教(正教とカトリック)、東ローマ帝国と西ローマ帝国の対比について論じ、知的好奇心が刺激されよう。「創作合評」では5つの小説についてプロの作家3人が論じていくが、これが難解な言葉がほとんど使われていないのにそれぞれの小説を掘り下げる、というより抉るようにして分析していって…と、ここまで書いて最初から読み返してみて、何とも表層的な、どこかで聞いたことのある借り物の文章だらけで情けなくなります。俺に純文学を読む能力はないし文才もないから仕方ないか。しかしまあ、だからこそまたこのような純文学雑誌を懲りずに読み続けてやるぞとも思うわけで、このモヤモヤを後生大事にしたいとも思うのであった。嗚呼、文学青年への道は遠い…。