解散の理由

 前回の解散総選挙から2年以内でまた解散総選挙というのはあまり例がない。あるのはハプニング解散や郵政解散といった、どうしようもなく追い込まれた時(内閣不信任案が可決等)か、政治生命をかけて戦う時での解散である。ところが今回はそうではない。「消費税増税延期の是非」が解散の理由と言われていたが、もともと10%増税は「経済動向を見て判断する」と法律に明記されていたのであり、その経済動向によって判断したに過ぎない。議員全員の首を切ってまで延期しなければならない事ではない。
 ではなぜ解散したのかと言えば「目くらまし」である。もともと第二次安部政権は「目くらまし」だけで運営されてきた。アベノミクスが最重要課題のはずが「秘密情報保護法案」「集団的自衛権」「地方創生」「女性」と矢継ぎ早に難しい政策課題を提供し、いずれも期待を抱かせるだけで中身がないため失速し、失速したタイミングで別の課題を出して論点をすり替える事が繰り返されてきた。しかしいくら華々しく話題を提供したとしても中身がない事に国民は薄々気付いている。そこで解散して一度「リセット」するのである。
 またこの政権は小泉政権の時のように抵抗勢力と真っ向から対決するつもりもなければ、初期の民主党政権の時のように「官僚支配からの脱却」を図るつもりもない。官僚とアメリカの言う事を聞いていればそれでいいというスタンスで(だから官僚からもアメリカからも馬鹿にされる)、政治力は恐ろしいほど小さい(消費税増税を法律に書かれている通りに延期するだけでこれだけ大騒ぎしているのがその証拠である)。政治力が小さいから第一次安部政権の時のように与党内に敵が出て来ればいとも簡単に潰されてしまう。そのため勝てる見込みのある今のうちに解散し勝利し、その威光によって政治力を少しでも大きくしたいというのも解散の理由である。だから国民にはこの選挙の理由がよくわからない。安部首相は「アベノミクス解散」と言ったが、そのアベノミクス自体が「目くらまし」で実態がないのだから、結局よくわからないのである。
 もう一つ気になるのは解散から公示までの短さである。11月21日に解散して12月2日にはもう公示となり、間は11日しかない。調べてみると前回総選挙では解散から公示まで18日間、2009年総選挙時は28日間、郵政解散時でも22日間あった。日本は民主主義国であるにもかかわらず選挙期間(公示〜投票日)となると様々な制約があり、選挙の勝敗は解散〜公示までにいかに活動したかに左右される。なぜなら選挙期間中は選挙法によって個別訪問を禁止されているからで、フェイス・トウ・フェイスで候補者と有権者は対話ができない(賄賂の温床になるというのがその理由らしい)。そのフェイス・トウ・フェイスが可能な期間を短くすれば、普段から見慣れている現職が圧倒的に有利となる事は政治家なら誰もが知っている話で、俺はそこに安部の思惑を感じる。とにかく早く選挙を終えてしまいたいのであり、選挙を通じて国民的な議論をする気など全くないのである。 また投票率をいかに低くしようかという思惑も感じる。2012年総選挙の投票率は戦後最低の59.3%で、調べてみると2012年に自民党が得た得票数は2009年の総選挙で自民党が得た得票数よりも少ないのに圧勝となった。投票率が2009年より10%も落ちたからである。今回もそれを狙って国民の準備が整わないうちに解散に打って出て、国民が選挙に行く気をなくそうとしている。
 しかしながら自民党は2009年総選挙で野党に転落した原因を総括をしていない。普通ならば野党に転落した政党が総括せずに政権に復帰する事は考えられないが、民主党政権があまりにひどかったから(或いは期待を裏切られたから)政権に復帰したのである。しかしその事実に向かい合っている政治家はごくわずかで、大半は「国民はムードで投票する」としか思っていない。だから現政権は政策課題を矢継ぎ早に提示して「何となく仕事をしている」事を最優先とするのであり、その結果が5人の女性閣僚を登用した内閣改造であり、政治家としての資質も考慮せずにただマスコミ受けを狙っただけなのであのような醜態をさらしたのである。
 書けば書くほど嫌な気分になってきたのでこのあたりで筆を置くが、ただ一つ、選挙が終わったとしても、日本人が経験した事のない政治が今後も続いていく事は確かであり、安易なムードに流される事だけはやめたほうがよいであろう。