2012夏

 とにかく「気が付いたら30歳になっていた」「気が付いたら40歳になっていた」云々の間抜けな男にだけはなってはいけない、田舎者で不器用でろくに人と話もできず黙々と自分の世界を構築することだけに熱意を燃やす俺のような人間がこれ以上哀れな姿になってはいかん、能天気に秋葉原や東京のブックオフや地方都市のブックオフに行ってどうするのだ、もうすぐ30歳になるのだ、自分が今後どういう人生を歩むのかそしてその人生の中で極めて贅沢で豪華で洟垂れ小僧だった昔の俺が聞いたら卒倒するであろうこの「永田町・神保町・秋葉原を一日で駆け抜ける」恐ろしい遊びをどうするつもりなのかを考え直さなければならないと決意したのが去年の秋であり、その後会社のドタバタやつまらん勉強に振り回されて2012年も半分が過ぎてしまった。ついに29歳となって来年には30歳になるのでありここまで来ればもはや今までのように呑気に阿呆のように永田町神保町秋葉原に行ってもしょうがない気がするが、悲しきサラリーマンの身ではいつまで東京にいられるかわからんのだしいつまでも呑気に阿呆に振舞った方がいかにも俺らしい気がするし明日死ぬかもしれんし一生独身で寂しく人生を終える俺にはお似合いなような気がして本日決行することにしたのである。まあ本音を言えば2年ぐらい前から「政局好色」や「脱走と追跡の読書遍歴」を書いている方が楽しくなってきて、それ以外のお気楽極楽なことはツイッターの方で呟いていればそれで事足りるかとも思うようになってきたのです。所詮俺は田舎者で臆病者の真面目人間なのだから道化になってふざけるのもそろそろ疲れてきたなあと思うようになって、ああ、大人になったというか、おっさんになったなあとしみじみ感じて昨日はさっさと家に帰るはずが九州の工場から同期2人が出張でやってきたと言うので久々に飲むことになって、俺を含めた同期5人が勢ぞろいしたわけであるがそのうち3人は結婚して1人は彼女がいて、俺だけが独身・彼女なし・素人童貞だということで酒の肴にされて散々な目に遭って帰って涙で枕を濡らすことになった。まあしょうがない、俺はこんな性格やし世界のラブコメ王やし、○○○○が××××で、△△△△しようにも※※※※してしまってなかなか□□□□できないのだからな。そもそも俺が欲しいのは(以下略)。
 というわけで12時半に家を出て自転車にまたがっていつものように銀座を通って日比谷公園を通って国会議事堂・首相官邸



 さて政治については「政局好色」で種々述べているので今日は何も言わないが、政治家を叩いて刹那の快楽を得るのも程々にしておいた方がいいでしょう。選挙でいつでも落とすことができる人間がどうして敵なのだ。叩くべき人間は他にいるだろう。そんなわけで国会図書館に到着しました。

 本館に入って右手側のロッカーに荷物を預けて入ろうとすると入館用のカードを発行する機械がないのであれれと立ち尽くしていると案内係と思われる女から「入館の方法が変わりまして、新たにカードを切替えてもらわないといけなくなりまして、新館の方で手続きを…」と言われる。そうですか、それは別に構いませんが、俺は昔この国会図書館に殺されかけたことがあるので(2005年夏事件)何故だかドキドキしてしまった。どうせ官僚のやることやから手続きも時間かかるんやろなあと思うも予想外に早く終わって(切替の申請書と旧カードを出すとすぐ新カードを発行してくれた)新館1階の喫茶店に入ってカレー(サラダ付)を注文する。

 格別うまいわけではないがやはり国会図書館みたいな非日常なところで好物のカレーを食うのは何とも不思議というか刺激的というか。また隣の席では20歳前後と思われる男女が「だってさ、南口って言ってるのにさ、北口から入ってくるんだもん」「いや、あれは直前になって言われてさ、こっちも焦っちゃって…」と話していて、そろそろ一生独身で生きていくことを自覚し始めた俺はもうそんな会話を聞いても何とも思わんかというとそんなことはなく「カップルでこんなところに来るなボケ、クソ、死ね」と言ってやったが聞こえていないようだった(心の中で言ったからだろう)。それから新館1階の新聞資料室に移動して、何となく30年前の1982年7月の讀賣新聞を読み始める。この時のトピックスは何と言っても「IBM産業スパイ事件」で、7月1日にアメリカのサンフランシスコ連邦地裁は日立本社と社員12人の起訴に踏み切るのであった。政治関係では鈴木首相が83年度予算を「政府・党一体で編成するため」に政府・与党の主要メンバーで構成する「11人委員会」を発足させる意向であったが、自民党内では非主流派を中心に「従来からある政調会、総務会、政府・与党首脳会議の各機関で諮ればいい話で、わざわざ新しく機関を作る必要はない。概算要求枠をマイナス・シーリングにするために党を巻き込むつもりか」と反発が強いことが報じられていた。また6月30日に開かれた「原子力委員会」では向こう10年に及ぶ我が国の原子力開発の指針となる「原子力研究開発利用長期計画」を決定、と書いてあった。この時にはもう「原子力ムラ」が確固としてあったのだろうなあと思いながら、ああ昔は楽しそうやなあ、俺もこの30年前に29歳だったらなあと思うも、その時はその時で1952年の新聞を読んで悦に入っているような気がするのでさっさと現実に戻ることにして15時半になって新聞資料室を出て、さきほどの喫茶店の横にあるソファーが置かれた一角に座って本を読み始め、周りにいる人達がスヤスヤグースカと寝ているのを見て何となく眠れないまま16時になって館内アナウンスが「即日複写の受付は終了いたしました。後日複写の受付は16時半まで…」と言うのを聞きながら国会図書館を後にする。会社で同僚に「国会図書館に行った」と言うといつも「何が面白いのか」と言われるが、確かにこうして改めて書いてみると何が面白いのかわからない。しかし面白いのですねえ。
 さて神保町へ向かって自転車を走らせて、天候は暑いことは暑いがそれほど不快な感じはしないのでわりと快適な気分になって社民党本部・最高裁判所を通って英国大使館方面へ自転車を飛ばしているとパトカーが俺を追い越してしばらくして止まって警官が出てくる。何や、まだエロ本は買ってへんぞ、それとも国会図書館で実は○○○の写真を隠し撮りしたことがバレたんかと身構えていると「すいません、その自転車、鍵はしてるようですけど、ちょっと防犯登録の確認をさせてもらっていいですか」と言われる。何やそんな事かいなと「ああ、いいですよ、早くして下さいね」と言って、ああしまったせっかくやから写真撮らせてくれって言うたらよかったなあ、いや今からでも遅くはないぞお願いしてみようかなあ、でもまああかんって言われるやろなあ、でも言ってみよかなあ…とグズグズしているうちに「すいません、確認取れました、ご協力ありがとうございました」と言われたので再びエンジン全開で内堀通りを北上して九段坂上交差点を右に曲がって、靖国通りの下り坂を一気に飛び越えて神保町。


 しかし29歳になっても22歳の頃と同じように自転車で東京の一等地を徘徊するというのはよく考えれば驚きであるが、そんな事言ったってどうしようもない、できなくなったらできないのですし死ぬ時は死ぬのです。三省堂書店前の公衆電話の横に自転車を止めて、いつものように決まったところだけ向かいます。

 小宮山書店のガレッジコーナーに行って単行本の「1〜3冊:500円」には見向きもせずに文庫本の100円コーナーを見て、久しぶりの神保町なのでいいもん買いたいなあと悩んで買う。16時31分。

 神保町に来るのは1年ぶりであるがその1年前に買った本をまだ読んでいないのであり、だからこそ神保町に行くのを躊躇していたのであるが、まあ来てしまったのだから楽しむより仕方ありません。

 神保町交差点を通っていつものように「ブックス@ワンダー」へ向かって歩いていると「ヴィンテージ」という店の前に雑然と薄い本が置かれてあって、どうせ映画のパンフレットとかやろと思ってふと見ると「週刊誌ほか」と貼り紙がしてあった。皆さんも知っているように俺は昭和の週刊誌(特に昭和40〜60年代)コレクターとしての顔も持っているのでこれはいかんと引っ掻きまわす。俺が生まれた1983年の「週刊朝日」があったのでこれを買おうと思うも、1972年の「週刊朝日」が面白そうだったので買うことにする。16時55分、300円。

 いやあやっぱり神保町ですなあ、普通の文庫本や漫画本ならブックオフで事足りますが、こういう一癖も二癖もあるやつは一癖も二癖もある神保町でなければ手に入りませんからなあと上機嫌になって「ブックス@ワンダー」に入って、ここではなぜか新書を買わなければならないというルールになっているので仕方なく新書の中から選ぶことにする。17時19分、105円。
「反」読書法 (講談社現代新書)

「反」読書法 (講談社現代新書)

 それから古書モールへ向かうために来た道を引き返してすずらん通りを歩いて、東京堂書店の改装後の姿を見て驚く。

 何と言いますか…オシャレで都会的な感じで、俺みたいな田舎者が入るのをはっきりと拒否していますな。それに何となく女に媚びている感じがするなあ…。まあ世の中の流れがね、客商売なんかは特に「オシャレで都会的で、女に受けがよい」風にしとかんとやっていけないからね、俺みたいな古臭い田舎者の相手をするわけにはいかんからねえ…。そんなわけで三省堂書店横の古書モールへ。

 ほへ。これは…三省堂古書館三省堂書店に移って、「古書モール」の一部だった「古書かんたんむ」が独立したということかな。まあ楽しみが増えるのはいいことだよとまずは4階の「古書かんたんむ」に入って、適当に見て、ありゃこれは…ええのがあるやないのとすぐに買う。17時37分、300円。

 「漫画讀本」昭和43年2月号であります。昭和の雑誌コレクターとして無視できない雑誌です。
 その後5階の「古書モール」に移動して、棚の一部が傾いている「100円コーナー」だけに照準を絞って見ているとこんなのがあったので時間も押し迫ってきたので買う。17時56分、100円。

 まあ、面白い小説が読めればそれでいいんでね。芥川賞取るぐらいなら面白い小説ではあるんでしょう。
 さて18時となったので次なる目的地である秋葉原へ向かうことにする。そしてこの秋葉原を訪問することこそ「永神秋門攻防戦」のメインであるが、何とも気が重いのはなぜかというと既に俺は29歳のおっさんなのであって、大学生のようにあるいは20代前半の時のように嬉々としてエロ漫画を買いに行くのも限度があると思うからである。それはまあ俺と同じぐらいの年齢どころか俺よりだいぶ歳上の人も秋葉原では溢れかえっているが、そうは言っても俺は古臭い田舎者なのであり世間体を気にする臆病な小心者なのである。もちろん俺は「世界のラブコメ王」でもあるのでむしろふんぞり返って闊歩してもいいぐらいなのであるが、だんだん何を考えているのかわからなくなって秋葉原に着いて、「ラムタラ」の前の公衆電話の横に自転車を置いて「とらのあな」へ。


 相変わらず人が多いなあ。もちろん三宮の「とらのあな」だって人が多いのだが、やっぱり店に来る人も店そのものも…露悪的な感じがするのですね。それ以外の、地方都市の「とらのあな」とか「メロンブックス」だともっとおとなしいというか、おとなしい中に凶暴なエロへの欲求というのが含まれて怪しい雰囲気が醸し出されているのですが、秋葉原はあっけらかんとしていて、それが俺にはどうも違和感としてあるのだが、俺は「世界のラブコメ王」なのだ(意味不明)。18時38分、1050円。
禁愛乙女 (ポプリコミックス 93)

禁愛乙女 (ポプリコミックス 93)

 それからメロンブックスに移動して、相変わらず「鬼畜凌辱強姦輪姦ホモレズサドマゾ寝取られその他」のよくわからんものばかりなので辟易するも、そういうものを見事に避けて自らの嗜好にあったものだけを抽出する技術を持っている自分、に誇りを持っているのだ俺は。18時57分、980円。
孕みたい彼女 (エンジェルコミックス)

孕みたい彼女 (エンジェルコミックス)

 ちなみに今年は「日本ラブコメ大賞」はやりません。別にラブコメへの情熱がなくなったわけではなくて、今年は本屋古本屋に行く回数を極端に減らしているのでノミネート作品が10作品以下になってしまうからです。それに毎年毎年義務的にやっているとどうしてもマンネリ感が出てくるなあと3年ぐらい前から感じておりまして、今後一生かけてラブコメを追及していくにはどうすればいいか思索中というところです。今後も「世界のラブコメ王」であるためにはどうすればいいか、を考える毎日ですが、それはともかくBOOKOFF秋葉原駅前店。

 いつもならこの時期は血眼になって年末の「日本ラブコメ大賞」用の新作を探すところであるが、今回はリラックスして棚から棚を素通りしよう…と思っていても長年の嗅覚というのは恐ろしいもので、「あ、これは」「お、これは」と目に止まって、パラパラとめくって、まあ来年やな、覚えておこうと気を良くして結局こちらを買う。19時30分、350円。
おくさん 2 (ヤングキングコミックス)

おくさん 2 (ヤングキングコミックス)

 日本ラブコメ大賞2010・6位の作品。良いラブコメ作品を買っている時が一番楽しいですね、やっぱり。
 というわけで目的さえ果たせば秋葉原になど用はない、エロ漫画にしろラブコメにしろ別に秋葉原の専売特許というわけではないのだ、一種の「解放区」としての秋葉原はもうないのだ、ただの観光名所に成り下がった秋葉原などいつでも別れてやるわいと唾を吐いて秋葉原を後にして、神田駅・三越日本橋茅場町駅を通って、永代橋を通ろうとすると大勢の人が隅田川方面を見ていた。どうやら花火大会があるらしいが、もちろん俺は興味がない。それどころかカップルが仲睦まじくしているのを見ていると腹が立って、「おのれら幸せそうかもしれんけどなあ、これから親の介護とか子供の教育費とか家のローンとかで一生苦しむんやぞ」と負け惜しみの遠吠えを言ってやるも、聞こえていないようだった(心の中で言ったからだろう)。門前仲町に着いていつもの汚い中華料理屋に入って、いつもは「ラーメン半チャーハンセット」を頼むところだが昨日ラーメンを食べたので「チャーハン・ギョーザセット」を注文する。

 写真を見るとあまりうまそうには見えないが、こういううまそうに見えないチャーハンやギョーザに醤油をドバドバかけて食うのが庶民の楽しみというやつです。こんな楽しみはあのオシャレになった東京堂書店に行くような奴らにはわからんやろなあといやらしい笑いを浮かべて店を出て(しかしうまくはなかったな)、最後の戦いはBOOKOFF江東門前仲町店。

 で、まあ、書いている俺も読んでいる君もこの時の俺も疲れているので適当にこちらを買う。20時46分、350円。
彼女で満室 3 (芳文社コミックス)

彼女で満室 3 (芳文社コミックス)

 記憶に新しい日本ラブコメ大賞2011・2位の作品ですな。買う前にパラパラッと読んでみましたが、無事ハーレムエンドになってようございました。
 というわけで1年ぶりの永神秋門攻防戦は無事終えることができました。こうして思い出しながら書いているとやはり楽しかったなあ、これこそ会社で戦い社会で戦う俺に必要な休息やと再認識してさっさと寝ることにします。まあ人間、生きていれば辛い事もあれば楽しい事もあるっちゅうことですわな。