2 密かに奪え(18→11)

18位:かみせん。/百瀬武昭富士見書房:ドラゴンコミックスエイジ]

かみせん。 2 (ドラゴンコミックスエイジ も 1-1-2)

かみせん。 2 (ドラゴンコミックスエイジ も 1-1-2)

 本作のような「空から女が降ってくる」系の作品は「平凡で冴えない男(主人公)」に「美人で周囲の羨望の的となる女(ヒロイン)」を関係させるための十八番であり素晴らしいものだが、「空から女が降ってくる」という非現実的な設定のせいで感覚が麻痺してしまうのか、主人公を中途半端なヒーローにしてしまうことが多々ある。そうなるともう台無しで、繰り返し繰り返し何度も何度も言っているように主人公を「どしゃ降りの雨の中、子犬が濡れているからといって傘を差し出し、自分はずぶ濡れ」に代表される偽善の優しさ、人間味が感じられない「いい人」にしてしまっては読む気が失せてしまう。そして本作の主人公もややその気がある(「きっとヒロインにだって幸せになれる方法があるはずだ」)ため「空から女が降ってくる」という極上の設定でありながら最下位となった。まあ本作の場合、作者の過去の作品(2003年度9位「マジカノ」)の主人公が非常に良かったのでその反動で厳しく評価しているのかもしれないが、どうにも受け入れ難かった。
 しかしそれ以外についてはさすがであって、「美少女として降臨した守り神(貧乳)」「主人公の幼馴染」「その守り神が主人公の学校にまでやってきてドタバタ」「ノリのいい脇役キャラたち」という使い古された設定をフルに動員した「ファンタジー学園ラブコメ」が自然に機能して、ストーリーが破綻する心配もなく安心して読むことができる。動と静、シリアスとコメディの使い分けも巧みである。ただし2巻まで読んだところ主人公がストーリーに積極的に関わるわけではなくまた「事件の鍵を握る」的な重要な役柄を与えられているわけでもないのが物足りなくもある。これではただの傍観者だ。ラブコメの面白さは「平凡で冴えない主人公」がなぜか事件の鍵を握り、その結果ストーリーを左右する存在になることにあるのだからな。
 とにかく本作は角川系が得意とする「ファンタジー学園ラブコメ」であり、マンネリであるが故に安心して読める良作である。ラブコメは常に奇抜で刺激的でなければならないわけではない。マンネリには安心感があり、それを武器とすることも大いにありえよう。常に刺激的なものに囲まれていては安心して眠れない。飽きるまで「お約束」をやればよい。飽きたとしても、またしばらくすれば「お約束」が恋しくなるのは、ラブコメとて例外ではない。
 しかし「オジイをはりつけてみました!」は面白かったな。
 
17位:お気に召すままご主人サマ/いとうえい秋田書店ヤングチャンピオン烈コミックス]
 メイドものがラブコメとして難しいのなぜかというとヒロインをメイドと設定することによって主人公とヒロインに最初から主従関係が強制されるからである。主人公がヒロインより優位に立つことがラブコメの肝であるが、それは精神的な恋愛関係においてであって、社会的な地位はヒロインの方が主人公より上であってもそれが対恋愛関係に影響しなければむしろ社会的な地位はヒロインが上の方がいいのである。むしろ「こんな社会的にレベルの高い女がなぜか平凡な男を好きになる」ということで最終的に主人公がヒロインより優位に立つことになる。しかしメイドがヒロインであるということは既に社会的に強制された関係が築かれているわけで、そこから無理なく恋愛関係に発展させるのは至難の業なのである。「命令と服従」の関係にありながら恋愛関係において通常の男女のように甘い関係に持っていくのは相当の困難が予想されるが、そこで本作が取った手法は(「逃げ」と後ろ指を差されても仕方ないが)ヒロインのメイドを「駄メイド」にすることであった。「メイド」という単語によってイメージされる「家事・炊事・掃除は完璧」からほど遠いメイドをヒロインにすることでヒロインがメイドであるという意識を希薄にして、結果「主従関係」も意識されず、それによって本作はメイドものではなく単なる「ドタバタラブコメ」に変換され存分に主人公とヒロインを上下左右に動かせることに成功しているのである。ただし致命的なことに騒がしくなり過ぎて「甘い関係」からほど遠いものになってしまっていて、1巻では主人公・ヒロインの裏に陰謀を臭わせることによって重量感が与えられているが、2巻からはひたすらドタバタが強調されてしまってこの順位となった。
 「ドタバタ」で「主人公が平凡な社会人」にヒロインを投入することでラブコメの平均的な展開となるのはある意味当然であり、安心して読むことはできよう。作者は過去にも日本ラブコメ大賞に顔を出している(2010成年部門3位、2009成年部門7位)のでラブコメが求める平均点はキープできており、そこに薄いとはいえ「メイド」の持つ特徴(ご主人様である主人公に忠実に仕える)を追加してラブコメとしての体裁を整えてはいる。しかし前述したように「駄メイド」を強調するあまり2巻以降はラブコメが求める「ときめき」がほとんど顔を出さないばかりか、騒がしさを強調して主人公はヒロインに蹴られまくる(服を脱がそうとすると「メイドがメイド服を脱いだらいかんのじゃ〜」云々)のであって、これではときめき以前の問題だ。宝の持ち腐れとはまさにこの事だ。少し残念であった。
 
16位:テツカレ/ハルタハナ[朝日新聞出版:ASAHI COMICS]
テツカレ (ASAHI COMICS ファンタジー)

テツカレ (ASAHI COMICS ファンタジー)

 ラブコメの絶対条件は主人公が「平凡で冴えない青年」であることで、そのため主人公を「オタク」にするのが一番手っ取り早い。そこに積極的なヒロインをぶつけ、周囲から羨望の的として見られるほどの美人がなぜかオタクな主人公に積極的に言い寄ることでオタク主人公の存在感は飛躍的にアップする。また本作は一般人から見ればどうでもいいことに異様に情熱を燃やす「オタク」と一般人の間にそびえ立つ「壁」を軽妙に料理していて、そこに目を見張るほどの美人をぶつけることで爆発的な化学反応を起こしている。
 この主人公は鉄道オタクであり、鉄道以外の世間一般のことにはほとんど興味がないから世間一般では美人でモテるはずのヒロインを前にしても何もしないことになる。そこでヒロインは反発し、自分に興味を示してもらうために過激な手段に出る(「私、逆境であればあるほどヤル気出るから。そのためには手段も選ばないし」)、周囲はヤキモキする…という使い古された展開が用いられているのが本作であるが、使い古されていようがこれこそラブコメの基本であることに変わりはない。そして前述したように「周囲にチヤホヤされる」はずの女が労力を使わなければならず、その労力が「主人公=オタク=読者」のために行われたということで読者は優越感を得る。またヒロインが主人公のことをよく知ろうと率先してオタク趣味(鉄道オタク)に手を突っ込み、しかし何が楽しいのかわからない…でも好きな人の趣味だから…ということで「オタク」と「一般人」の間にある落差もうまく料理しているのも高ポイントである。
 しかし作者が女である以上仕方がないことではあるが主人公を含めた男たちにはどこか違和感を感じる。高校生で女性と接することがほとんどないオタクならば実は頭の中はドスケベな事で埋まっているのであり、鉄オタだからスケベでないというわけではないのである。作者が男であればその男の感覚は自然とキャラクターに投影されるが女だとそうはいかず、結局不自然になってしまった。しかしまあそれでもこれはなかなか…と思いながら2巻を読んで恐ろしい事になった。1巻は楽しいドタバタラブコメ路線であったのに2巻でいきなりヒロインに想いを寄せる別の男が出てきて、主人公とその男が2人してヒロインを取り合うことになり、ヒロインはその別の男にも心揺れることになるのである。何だそれは。1巻であれだけ積極的に主人公をかき回しておいて(下着姿になったり唇を奪っておいて)なぜ2巻になったら他の男に心揺らぐのだ。そんなヒロインでラブコメになるか阿呆め。本作は1巻がラブコメであったが2巻で淫売女の物語に堕ちてしまった。1巻を読んだ限りでは3位あたりが妥当かと思っていたが結局この順位だ。2巻はさっさとブックオフに売ることにする。所詮女にラブコメはわからんのだ。
 
15位:魔界天使ジブリール4/フロントウィング蒼一郎秋田書店チャンピオンREDコミックス]
魔界天使ジブリール4 (チャンピオンREDコミックス)

魔界天使ジブリール4 (チャンピオンREDコミックス)

 事実上の前巻(2009年度8位)同様、本作も、いわゆる「ギャグ・お気楽さ・ゆるさ」を積極的に採用して読者へのサービスを怠っていないところをまず特筆しておきたい。そこにややぬるいラブコメ(同級生で幼なじみのヒロイン3人と同居で毎日ウハウハでラブラブ)と微温的なエロさ(「アモーレパワーはエッチすることで溜まる、そのアモーレパワーがヒロイン達をジブリールに変身させる!」。…恥ずかしがってはいけない)が加えられ、それによってこの作品全体が非常に「軽い」ものになる危険性を孕んでいるものの、連作全編を通して敵と味方による対立(と言うほど深刻なものではないが)が組まれているために適度に締まって退屈とは無縁であった。またコメディ色が強ければ強いほどストーリーの重要性が低下しラブコメに必要な「ときめき」が少なくなるが、本作の場合「コメディ」があくまでストーリーを映えさせるためのサービスにすぎないことをわきまえており、そのコメディ描写が必要以上にストーリーに絡みつくこともないので非常にテンポが良いのが頼もしい。
 だからこそ前巻よりキャラクターたちのデフォルメ感が強いのが少々残念でもある。まあこれぐらいならば愛嬌の範囲ではあるが、そのデフォルメのせいでラブコメに必要な緊張感や修羅場といった雰囲気が抑えられているのが少々物足りない。これではまるで仲良しクラブだ。最初から「同級生と同居してウハウハ」な設定で始まっているから仕方ないのかもしれないが、そうであっても「表面上は仲良く、しかし見えないところで静かな戦いが展開されている…」などにすればよいのであって、やり方はいくらでもあろう。1巻完結ものでそこまで求めるのは酷かもしれないが、ラブコメは奥が深いのであり、心を鬼にして本作をこの順位としよう。
 
14位:夏の前日/吉田基已講談社アフタヌーンKC]
夏の前日 1 (アフタヌーンKC)

夏の前日 1 (アフタヌーンKC)

 主人公は世間に対して少しふて腐れた感じの美大生(特に才能があるわけではないらしい。普通より少しうまい程度か)で、その主人公が年上の女性に惚れられて…という、読む人によっては甘美この上ない設定で本作は始まる。世間知らずの大学生主人公(「気が強い…年上の女に…優しく叱られたい」)は社会人で年上なヒロインの妖艶でかわいらしい雰囲気に参ってしまい、ヒロインは年上でありながら時々年下のように無邪気な顔を見せたりするので主人公はますますその魅力に参ることになる。これは確かにたまらないが、本作はもっともっと妖艶さや色気を(ヒロインのみならず作品全体が)醸し出すことができたはずなのだ。作品全体がどことなく淡白な感じがするのが不満である。また人物、風景、ストーリー、全てが同じ視点で緩やかに描かれているために性交渉の場面も読者にせまってこず、主人公とヒロインの関係すらも緩やかなものに見えてしまっている。細い糸でフワフワ浮いている風船のようで、読む方は気が休まらない。ラブコメとはとかく曖昧で不安な恋愛関係をヒロイン側が強力に好意を持つ(ということが読者にわかる)ことによって読者の不安を解消させるものでなければならないのである。もう少し強弱というか、主人公側(読者側)が精神的に優位に立つようにヒロイン側を追い込むなり押し出すなりしなければいつまで経ってもフワフワなままであろう。
 更に言えば性交渉による対話を淡白に描写することによってヒロインのみならず主人公も活きていない。性交渉とは性欲を満たすことであるが、それが「軽く」処理されているために引っ張るものがないのである。ラブコメは読者の性欲処理も兼ねているのであり、その性欲処理をヒロイン側の積極さに委ねることで主人公(読者)側の性欲を解消させ、且つその性欲をヒロイン側の事情によるものということで後を引かないものにすることが肝心なのである。とは言えこの淡白さによって年上女性との逢瀬という淫猥さや罪悪感が中和され、恋愛関係における初々しいときめきや新鮮さを表現できているのも事実ではある。また主人公の不器用さ(社会と折り合いをつけるはずがいつの間にか外れ、器用にやっているはずが不器用に逆戻りとなって悩む)はまさに大学生特有の贅沢な悩みであるが、それは俺が社会人だからそう思うのであって今の大学生が読めばそれなりに感じるところもあるだろう。そしてその主人公の苛立ちを包んでしまうような年上ヒロインの魅力と、そのヒロインとの恋愛によって夢見心地に浸ることができた。何だかんだでいい作品である。
 しかしこの主人公は「美形」という設定なのだろうか。画力というかクオリティ的に無理があろう。
 
13位:妹・だ〜りん/堀博昭少年画報社:YCコミックス]
妹だ~りん (ヤングコミックコミックス)

妹だ~りん (ヤングコミックコミックス)

 何度も言うようにただ性交渉描写があればいいわけではないし、ハーレムにすればいいわけでもない。「平凡で冴えない男(主人公)」が、なぜか女にもてなければならず、その女たちは心の底から主人公を愛さなければならない。性交渉描写も儀礼的なものではなく主人公との愛の対話として描写しなければならない(たとえ複数のヒロインが主人公と絡むことがあっても)。またヒロイン側が快楽を貪る描写も極力抑えなければならない。あくまでメインは「平凡で冴えない男=読者」の方なのであり、主人公に快楽を与えるスパイスとしての「快楽を貪る」描写ならいいが、性交渉自体が目的となってはならないしヒロインの淫靡さを強調するのもならない。あくまで主人公(読者)とヒロインが画面に映らなければならないのであり、その範囲内ならヒロインの淫靡さを表現してもよい。ヒロインの悦楽は主人公に抱かれていることに起因するものでなければならないのである。またハーレム描写にも気を付けなければならない。女を複数、それも2人ではなく3人も4人も入れることによってどうしてもレズ的描写が出てしまうからで、例え一瞬であろうともヒロインが主人公以外の人間によって快楽を表明することは「寝取られ」になり、ラブコメの原則を著しく傷つけるものとなる。「寝取られ」はラブコメでは絶対にやってはいけない。主人公=読者側が置いてけぼりになってしまえばそれはもうラブコメではないからである。
 やたら「〜でなければならない」を連呼してしまったのは本作を評価するにあたってラブコメの条件を整理したかったからである。とは言え本作自体は特に難しく考えるような作品ではない。主人公にヒロインたち(妹たち)がやってきていきなり主人公と性交渉に及ぶようになり、「妹」の持つ甘酸っぱさや可愛らしさも考慮せず「妹になりたい」と言って股を広げ、それらは「妹」の持つ神聖さを台無しにしているようでややシラケてしまうものの、一方でその性交渉はねっとりといやらしく、また各ヒロインはやたら「好き」と言って主人公への執着が本物であることを証明しているのでその「ねっとりといやらしい」描写が活き、上々の出来となっている。
 しかし後半からが問題であって、盛り上がりを出すためかヒロインの一人が他のヒロインとレズ的行為を演出してしまうのであり、これがまた前半のように「ねっとりといやらしく」なるのだからたまらない。それはやってはいけないのである。繰り返すが、恋愛関係においても性的関係においても主人公がヒロインより上位に立つことがラブコメの最大の魅力なのであって、一瞬であっても主人公以外の人間が主人公より上位に立てば魅力は大幅に減退されるのである。それでも最後は正常なハーレムとなったから良かったが、これではとても10位以内に入れることはできない。残念なことである。
 
12位:ハッピーネガティブマリッジ/甘詰留太少年画報社:YKコミックス]
ハッピーネガティブマリッジ 1巻 (ヤングキングコミックス)

ハッピーネガティブマリッジ 1巻 (ヤングキングコミックス)

 さてプライベートなことを言わせてもらうが俺は「28歳にもなって女の経験がない男」である(風俗経験はそれなりにある)。そんな俺は「(俺のような)平凡で冴えない主人公に美人なヒロインがやってきて〜」というストーリーをひたすら追い求めているので結婚は不可能であろう。まあ俺の場合はそれ以外にも様々な問題を抱えているのであきらめもつくが、やはり時々「独身の悲哀」を感じることはある。だから「30歳の独身男を主人公にして、美人なヒロインとハッピーなマリッジを迎える」(…と思うが、1巻しか読んでないので最後どうなるかはわからない)という本作は非常によろしい。ただし所々に違和感を感じたのも事実で、主人公は30歳になっても独身で独身寮を追い出されるかどうかの瀬戸際に立たされているが、どうも読んでいて悲愴感が感じられないのである。恐らく1話早々に主人公に見合い話が転がり込んでいるからであろう。今や見合い話に到達しない男が大多数なのだ(俺も含めて)。また主人公はお見合い用の写真を見た途端にヒロインの美貌に恋に落ちてしまうが、そうすると「都合の良いラブコメ」感が醸し出されてしまうので薄かった悲愴感が更に薄れてしまった。こういう場合は「写真ではブスだけど実際は…」とした方が良かったのではないか。結局読後に印象に残ったのは作者が磨き上げてきた「エロい描写」であって、それはそれで素晴らしいが、やはり本作のポイントは「悲愴感をいかにして出すか、そしてそれをどのように救済するか」ではないか。
 もちろん以上のことはこの「日本ラブコメ大賞」における評価であって、日本ラブコメ大賞にエントリーすらされない糞のような作品に比べれば本作もまた光り輝いている。しかし過去に何度もこの「日本ラブコメ大賞」にランクインされている作者(2005年9位、2006年24位、2009年7位)だから言わせてもらうが、残念ながら本作はラブコメとして中途半端なのである。設定、キャラクター、画力が良ければいいというものではない。それらをまとめ上げて「30にもなって女の経験がない」男を救済しなければならず、たとえヒロインが「主人公好き好き大好き」でなくても何となく主人公に気がある風に描かなければならない。もちろん本作のヒロインが主人公を好ましく思っていることは何となく読者にはわかるが、主人公は「期待して裏切られるのも期待されて裏切ってしまうのも面倒くさい。いや…怖い」という臆病な男なのであり、その男を救済するにはヒロインをもっと積極的にしなければいけなかったのである。ラブコメとは日々劣等感を感じているモテない男のためのものであり、救済の物語なのだ。「モテない男」である主人公(=読者)に希望を抱かせるものでなければならず、その手っ取り早い方法が「空から女が降ってくる」であるが、その方法を取らないのであればそれ以外のあらゆる方法を使って主人公を納得させるべきである。設定を整え、偶然を駆使して、主人公(=読者)に愛を与えてこそラブコメなのである。
 
11位:思い立ったら乳日/琴義弓介竹書房:BAMBOO COMICS]
思いたったら乳日 (バンブーコミックス NAMAIKI SELECT)

思いたったら乳日 (バンブーコミックス NAMAIKI SELECT)

 繰り返すがラブコメとは「美人でスタイル抜群の女がなぜか平凡で冴えない男に積極的に言い寄ってくる」ものである。それによって男(主人公)は「美人でスタイル抜群な女に愛されているのだから自分は特別」というステイタスを獲得できよう。そのためヒロインのステイタスは高ければ高いほどいい。本作のようなグラビアアイドルなヒロインというのもステイタスがあってなかなかよい。「グラビアアイドルを妻にする」というのはモテない男の願望の最たるものだが、これだけ大量にグラビアアイドルが溢れる昨今ならばそれほど不自然でもない。これは盲点であった。
 しかし本作の特徴はそのグラビアアイドル(結婚して引退)がとにかく性欲旺盛であることで、最初から最後まで本作は人外のボリュームを誇る巨乳を使ってのべつまくなし夫(主人公)にセックスを要求するだけと言っても過言ではないものであった。もちろんラブコメとはヒロイン側が積極的に出るものであるからこのようにヒロインが淫乱であってもいいのである。更に本作ではヒロインは既に「妻」となっており、ヒロインが主人公とのセックス依存症となっていてもどこか微笑ましさがある。またそれによって夫(主人公)は精神的に優位に立てるばかりか、後半で他のヒロインと性交渉を持っても「元グラビアアイドルで性欲旺盛な妻」がいながら他の女にも手を出せるということで読者の支配欲をかき立てることにも成功している。素晴らしい。これで主人公を暑苦しい奴ではなくもう少しぬるめの性格にしてくれたら1位だったのだが。
 ラブコメの融通無碍さは、ラブコメが「男と女がコメディ的な騒動に巻き込まれながら恋愛をする」もので、その恋愛のゴールが多くの場合「結婚」でありながら、ゴール後のステージである「夫婦」という設定でも始められるという点にある。「妻」というどことなく生活臭がする言葉と「ヒロイン」という単語が持つ華やかさは本来両立しないが、既に「夫婦」であることの安心感、「性交渉することが社会的に認められた」ことによる解放感から本作のように妻を淫乱(結婚式の直前にセックスを要求する)にすることで強烈なラブコメに仕立て上げることもできる。ラブコメとは男(主人公)が女(ヒロイン)よりも精神的に優位に立つという思想であるから、「夫婦であること」によってヒロイン側を拘束し(不倫には社会的な制裁が不可避である)、それによって主人公(夫)は精神的に優位となることこそ本来のラブコメの姿なのであり、実は「夫婦もの」こそラブコメの真の姿なのである。
 それにしても、乳でかすぎ。