TPP、消費税、大阪

 今年最後の「政局好色」なのでこの歴史的な2011年について振り返ってみようと思ったが、最近TPPや消費税や大阪ダブル選で騒がしいのでそちらについて書くことにする。
 TPP交渉参加と消費税増税はいずれも海外へ向けてのメッセージであるが、特に重要なのが消費税で、「2010年代半ばまでに10%に引き上げる」と約束したのがG20首脳会議参加時であるから、国内問題であるはずの消費税増税もTPPと同じく国際公約となってしまった。狙いはTPPに参加することで日本のマーケットがオープンになることをアピールし、一方で消費税増税によって財政再建にも力を入れ決してギリシャやイタリアのようにはならないことをアピールしたということだろうが、アピールしただけでは何もならない。問題はそれらが日本の国益に適うか否かである。
 日本が「海外へ向けてメッセージ」を送る場合、その「海外」というのはほとんどの場合アメリカを指しているが、TPPは多国間協議であり二国間協議ではない。「TPP問題も最後はアメリカが主導権を握るだろう」というのが日本のマスコミの見方らしいが、日本はともかく成長著しい他のアジア諸国を相手にする多国間協議でアメリカが主導権を握ることができるかはわからない。しかし主導権を握ることができるか否かわからないとしても、リーマン・ショックの傷がまだ癒えずEUの経済が深刻なままの状況からしアメリカはアジアのマーケットに目を向けざるを得ない。ところがアジアでは将来の大国となるであろう中国とインドがアジアマーケットの主導権を握るために様々な手を打っている。それでもアメリカは難しい多国間協議であるTPPに乗り出さざるを得ないのであり、アメリカの超党派議員が「TPP交渉に日本を参加させることに慎重であるべき」とオバマ大統領に申し入れたのは日本が参加すればその多国間交渉が更に複雑になるからである。つまり今のアメリカは弱みを抱えていると言うことができ、それを日本政府が正確に認識していれば日本側が主導権を握ることもできよう。所詮アメリカの狙いは「アメリカ・スタンダード」を持ち込むことであるから、今後アメリカが中国やインドもTPPに参加するよう誘いをかけるはずである。そこをどう利用するかである。
 一方の消費税増税についてだが、わざわざ国際公約としたのは官僚の浅はかな知恵に野田首相が乗っただけであろう。国内の反対を抑えるために「これは国際公約だから」と言うのはいかにも国会を軽蔑している官僚らしい手法であり、更に浅はかなのは「消費税増税法案を2011年度内に提出する」が、「実施する前に民意を問いたい」ということで、これはつまり消費税を上げることは決めるが決める前に総選挙をするのでその時に消費税に賛成した民主党の議員たちを落選させて憂さ晴らしをすればそれでいいだろうということである。最もこれは自民党にとっては悪い話ではない。消費税引き上げの責任を全て民主党に負わせ、政権奪取後は「前の政権が決めてしまったので、断腸の思いだが…」とでも言えばいい。辻褄は合うのである。
 しかし官僚にとっては辻褄の合う話であっても2年前の総選挙で民主党マニフェストを見て投票した国民にとってはたまらない。「消費税は4年間引き上げない」と言ったのであり、そもそも昨年の参院選で既に消費税引き上げは事実上否定されているのである。また「無駄を徹底的に省く」ことも中途半端で、且つ震災で沈鬱な雰囲気で覆われている今は経済を活性化させることが先決であろう。増税によって厳しい財布の紐を更に厳しくすることが得策とは思えない。
 そうした中で小沢元代表野田首相を批判し、亀井国民新党代表の「新党構想」が突然浮上したわけである。亀井の構想は一笑に付されたが、「一笑に付す」程度で終わらせるわけにはいかないのは新党構想の中に大阪ダブル選で圧勝した「大阪維新の会」が入っていることである。ダブル選で如実に示されたように、今や大阪や愛知の「地方首長政党」は日本で一番勢いのある政治勢力である。もしこの勢力と消費税増税反対派が合わされば一気に政界再編へとなろう。今や民主党にかつての政権交代の熱気はなく、自民党はかつての社会党のように「何でも反対」となって、いずれも国民からは見放されている。政界再編への期待は高まる一方であり、もはや何が起こるかわからない。そのように不穏な雰囲気が漂う中で2011年が終わり2012年が始まるのである。政治に休息は一瞬たりとも許されず、今も水面下で密かに何かが進行している。