- 作者: 赤川次郎
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2004/10/21
- メディア: 新書
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とにかく本作も赤川作品の法則通り会話文だらけでスラスラ読めてしまうが、前半はそれはもう善人ばかりというか人を疑うことを知らない素直な性格というか想像力が足りないというかはっきり言って阿呆というか、そういう人物たちがそれぞれに事件に巻き込まれていくわけである。具体的に言うと70過ぎのある企業の会長の後妻は20代後半のそれはもう「スポットライトは私のためにあるのよ」的な高慢を絵に描いたような美女であり、当然のことながら夫である会長の威光によって好き放題やらかしてそれに振り回される会長の娘と孫、そして後妻の醜い企みによって更に事件はややこしい方向へこんがらがっていってそこに孫の彼氏や友達、更には孫の友達の両親までもが関わっていくのでありました。まあこれほど多くの人物が出てきて、それをわかりやすく動かすには会話に頼るしかないのだろうが、そうすると事態が変転し過ぎて現実感が湧いてこないので今度は読みづらくなってくる。もっとも本作はあくまで「軽妙なユーモアミステリー」だからそこまで求めてはいかんのかな。逆に言えば軽い読み物で時間を過ごしたい時に本作は最適と言える。出張先から家に帰るだけという時の飛行機や新幹線の中で読むとかね。
繰り返すが赤川作品の特徴は「登場人物が優しすぎる」ところにあって、孫の彼氏は人の善意を疑うことなく、孫と友達の間では「私達、友達じゃない。一緒に頑張ろうよ」というぬるいやり取りが延々と続けられ、それらの描写には深みも何もない。また「悪役」的役割を演じる都知事、「闇の社会に大きな力を持っている男」、頭の弱いアイドル等の行動もいかにも悪役という以外に何の印象も残らない。あの、この小説にそんなことを言ってもしょうがないことはわかっていますがね、一応言っておかんとね。それに後半からはそれぞれバラバラに進んでいた事件が急速にまとまり出して「悪役」の企みがいよいよ動き出そうとするのを阻止するため泥棒夫刑事妻を中心とした「正義」役の面々が作戦を練りながらも偶然と機転で次々に成功していって(現実的か非現実的かはさておき)打ち上げ花火のようなド派手な大団円に至るところは大変面白かったです。まあこのあたりも都合が良すぎるような気がしましたが、この小説にそんなことを言っても(以下略)。ただし何度も言うように会話文ばかりだから予定よりも早く読み終えてしまって時間調整する羽目になってしまったがね。
で、いつものように読んで楽しかったところを抜粋して今日はもう終わりにしましょう。と言っても抜粋したのは妻が夫にやたらと甘えているというしょうもない会話ですが、俺はこういうのは嫌いではありません。えへへ。
「そりゃ、命の惜しい人間なら、誰だって君にゃ襲いかからないさ」
「あら、あなたも?」
真弓の目が光っている。
「道田君がいるぜ」
「起きやしないわよ」
同感だったが、
「せめて寝室へ行こう」
「抱き上げていって」
と、真弓は甘えた。
「もし、本当に俺が人質になってたら、どうする?」
「決まってるじゃないの。あなたのためなら、世界中の人間だって殺してやるわ」
「怖いな」
「怖いだけ?」
「可愛いよ」
「でしょ?」
真弓は淳一に絡みつくようにキスした。