特別編 裏博多毒探偵突撃古本屋(1)

 部長に呼ばれた。嫌な予感がした。
「お前、夏休み、まだやったっけ」
「ええ、9月に取るんで。そこの予定表に、12日休むってマルつけてます」
「ほう」
「…どないしまいした?」
「いや、来いって言われてんねん。九州の工場で、会議あるから」
「また○○○の件でっか」
「そうや」
「あんなもん、散々言うたんですからもう大丈夫でしょう」
「いやあ、やっぱりなあ、現場との交流が大事やってなあ、常務から言われてなあ」
「はあ。つまり、何ですか、行かないかんっちゅうことですか」
「まあな」
「でもですよ、現場との交流って言うてもですよ、工場の会議室で話すだけですからね。それに俺みたいな下っ端は説明したらそれで終わりでっせ。余計な口出しできませんよ」
「いや、まあ、それはそれでええねん。そこにおるっちゅうのが大事なんや」
「んー、ほんならちょっと、あれですわ、前泊とかしてもいいですか」
「ああ、それは構へんよ」
 というわけで急遽として博多周辺のブックオフ等をハシゴする「裏博多毒探偵突撃古本屋」を実行することになった。「ただ本(主にラブコメ)を買うためだけに一人旅をする、観光地には目もくれずただひたすら本を買う(しかも新古書店で)ことだけに一日を費して自己陶酔に浸る」このシリーズは新潟、広島、名古屋、横浜、札幌、京都の各地を訪れて数々の伝説と侮蔑を諸君に与えてきたが、自家用車を持たない俺は地下鉄等の公共交通機関に恵まれている地方都市しか足を伸ばせるところがないので(そのため新潟では散々な目に遭った)この博多が最後の一人旅スポットとなろう。しかしここ博多には会社の工場がある関係で年に5〜6回は訪れているのであまり乗り気がしなかったが、今回は往復の飛行機代も宿泊費も会社負担となるのでありこの好機を逃さない俺ではない。
 つまり東証一部上場の我が社の費用の中にはこの「裏博多毒探偵突撃古本屋」関係費も含まれることになるのだわははははははと高笑いをしたのが木曜日で、翌金曜日の朝起きると鼻水が溢れ、続く土曜日当日は鼻水に加え喉の奥も痛くなったのですぐに病院へ駆け込むことになった。冗談ではない、年に一度あるかないかのスペシャルイベントの時に風邪をひいてどうするのだ、すぐに治せ治す薬を出せと医者を脅迫するも中学校の時の野球部顧問だった先生と似た顔の医者は(知らんがな)「まあ、君、扁桃腺が人より大きいからね、こうなるんだよね。薬出しておくからね」と言って30秒で診察は終わって追い出された。結局どうすりゃいいんだ薬飲むしかないのかと憤ったが、まあ考えてみれば365日24時間健康な状態を維持するなど不可能なのだからタイミングの悪い時に体調が不調になってもおかしくないさと思いながら帰って昼飯を食べて、先月エヴァ新劇場版「破」を見てから昔のLAS(Love Asuka×Shinji)熱が再燃してどうしようもないのでゲーム「鋼鉄のガールフレンド」をプレイした。LASに熱中していたのがちょうど10年前でありこの「鋼鉄のガールフレンド」も百回以上はプレイしているが、10年が経って大人になった俺はPS2をブルーレイレコーダーの外部入力につないでそこから映る画面をHDDに保存して更にDVDに焼くという高等テクニックを身につけたのであった(知らんがな)。その他にも相変わらずせせこましい用事(掃除、布団干し、クリーニング交換)をすませて家を出て羽田空港へと向かいます。
 電車に乗って彼女いない歴28年の俺には目の毒以外の何物でもないカップルをジロジロと見て、道行く女たちが綺麗に見えるのは厚化粧のせい(その証拠に顔と首の色が違う)だやっぱり二次元が最高やと唾を吐きながら空港に着いて出発を待っている間に大便を放出して売店でアイスクリームを食べて(なぜか食べたくなるんですなあ)、飛行機に乗ってスチュワーデスの完璧な笑顔と完璧な厚化粧に今日も目を合わせられずに本を読み10分も経たぬうちに意識を失って(寝て)気が付けば福岡空港に着いた。福岡空港は街のど真ん中にあるので地下鉄に乗ればすぐに博多駅

 まあ博多と言ってもね、今までに行った「新潟、広島、名古屋、横浜、札幌、京都」と何ら変わるところはないしね、つい3ヶ月前もここ来たからどうということはないですな。というわけでBOOKOFF福岡博多口店。ここも出張の度に来ているのでもう10回以上は来ているか。

 店内は西五反田店と似ています。「その情報はいるのか」とよく言われますが、今回はいります。なぜならここ博多に古本市場はなく、明日はほぼブックオフのみで勝負するからです。これでは俺がブックオフ大好き人間みたいではないか気持ち悪いなあ、というわけでこちらを買う。21時30分、105円。

 何度も言うように俺はLAS(Love Asuka×Shinji)派であるが、本作のようなハーレムものも好物であります。そらそうやろ「日本ラブコメ大賞」とか大真面目でやる奴やねんから。結局俺はこういうやつしか受け付けないんだろうなあ、まあいいか、土曜の夜に家からも故郷からも遠く離れた地で下らんラブコメを買うことが俺の生き様なのだからな。
 その後コンビニで博多の地下鉄網等がわかる新書型地図を買って、15分くらい歩いたところにあるホテルへと入るとフロントで中国人らしい女の客がフロントの女従業員に身振り手振りで何かを聞いていたが、客は「アー、ナカッス、ナカッス」とばかり言っていた。こりゃ大変やなあと思ってしばらく傍観して、俺の番になるとその従業員はニコッと俺に笑いかけたので惚れそうになったが、「予約を頂いたお客様にはこちらを用意しておりまして…」とやたらにでかいペットボトル(何とか湧き水)を2つ渡された。いるかこんなもん。

 部屋に入ってTVをつけるとニュースで経産相が辞任云々と映し出されていて、こういう言い方をする大臣もアレだが、それを大事件のように扱うマスコミもアレだなあと阿呆らしくなって、日付が変わってしばらくすると眠くなってきたので素直に寝ることにした。さて明日はどれだけ本屋古本屋をハシゴできるだろう。