戦いは続く

 未曾有の大震災に直面しても与野党協調はおろか与党内もまとめきれず、「クリーン」と「脱原発」だけを無責任に主張し続ける首相は当然のことながら去ることになった。そのため次の首相に求められるのは震災の復旧・復興に向けて与党は当然のことながら野党からも幅広く協力を得ることであり、ただ主張するだけでなく行政の実務を担う官僚を使いこなすことである。ということは「大連立」によって自民党に秋波を送り、「増税」によって官僚からも受けがいい野田財務相が順当となる。しかし代表選挙で勝つためには民主党内最大の人数を誇る小沢グループの支持を取り付けるか、「反小沢」で前原前外相らと統一戦線を組むしかない。とは言え小沢グループから支持を取り付ければ「自民党時代と変わらぬ派閥政治」とマスコミから叩かれ、前原グループ等と組めば党内の亀裂は更に深くなる。野田にとってはどちらを取っても代表(首相)になってから苦労することになる。
 そうこうしているうちに小沢は鳩山前首相のグループの海江田経産相を支持することに決めた。これをマスコミは「小沢・鳩山双方の面目を保つための苦肉の策」と評したが、俺は悪くないと思った。3月11日以降の我が国の喫緊の課題は震災からの復旧・復興と同時に原発事故処理であるが、被災地の復興や復旧と違ってこちらは「原子力ムラ」との戦いがある。もし本気で原子力ムラと戦えば大げさでも何でもなく命を失いかねないが、事故当時の担当大臣で責任を痛感しているのであれば本気でそれを成し遂げることができるかもしれない。またもし敗れたとしても来年9月にま実施される代表選挙の時期にはもう現在公判中の裁判の一審判決は出ているだろうから、その時こそ海江田の代わりとして小沢本人が堂々と出馬できる。
 しかしどちらにせよ前原だけは避けなければならない。前原グループ菅首相率いる執行部において、仙石官房副長官を筆頭に「反小沢」で固まっているからである。与野党協調どころか与党内が分裂する恐れがある。しかし世論調査で常に上位に立つ前原が決選投票に残れば「反小沢」の結集で勝つかもしれない。そのため次善の策として野田という選択肢も小沢の頭にはあったはずである。結果、第一回投票で海江田143、野田102、前原74となり、野田は前原にかなりの差をつけた。野田グループ以外の反小沢系グループだけで102票が集まるとは思えない。小沢グループ或いは鳩山グループから票が分散されたはずである。
 なぜ票が分散されたか疑問に思っていたが、その後民主党幹事長に輿石参議院会長が指名されたことではっきりした。輿石は自他共に認める「小沢と近い」人間であり、その他に執行部に入った国対委員長の平野元官房長官、幹事長代理の樽床氏を見ても、「反小沢」で凝り固まっていた前執行部とは雲泥の差であり、マスコミ受けも悪ければ前執行部からすれば不愉快極まりない人事であった。代表選挙前から小沢・鳩山と野田の間に何らかのサインが交わされたとしても不思議ではない。
 党の実質的なトップである幹事長に参議院会長を持ってきたことは自民党にとって攻めにくい事態である。「大連立」が必要なのは参議院で与党が過半数を持っていないからであって、その参議院の劣勢を与党が何らかの力でカバーすることができれば連立は必要ないからである。特に今は震災復興・原発事故処理の名目があれば政府与党に反対できる雰囲気ではない。またあまり報道されていないが、自民党公明党の関係も参議院自民党内部も今や深刻である。そこに4年前の参議院選挙以来参議院民主党を率いてきた輿石が民主党全体のトップになった。やりようによっては自民・公明の間を、或いは参議院自民党内を分断することができるかもしれない。
 また新しい政調会長に代表選挙で増税に反対していた前原を持ってくるなど、人事を見る限り野田新首相は想像していたより融通無碍な政治家とも思え、お粗末な前政権とは違って少なくとも期待するに足る政権であると言える。もちろん権力者は本当にやろうとしていることは決して口には出さない。水面下で深く静かに何かが進行しているはずである。何度も言うが、とにかく「政府が安全だと言えば『安全だ』と言い、後にそれが嘘だったとわかると『我々は騙された』としか言わない」マスコミからの情報を真に受けてはならない。戦いは続いているのである。