2 話し合い解散(25→21)

第25位:乙女怪談/楠桂竹書房:BAMBOO COMICS MARBLE SELECT]

 さて何度も言うように世間が「ラブコメ」と言っているから我が日本ラブコメ大賞においてもラブコメと認定されるわけではない。逆に世間がラブコメと言わなくてもラブコメの要件を満たしていると日本ラブコメ大賞事務局(事務局長は俺です)が判断すればラブコメとなる。そこで本作であるが、過去に何度もランクインしている作者(2004年12位「ガールズザウルス」、6位「もののけ☆ちんかも」)特有の強引にしてパワフルなギャグの連発とそれを最後まで押し通す芯の強さには脱帽であるが、主人公を女子高の新任教師(ややドジ)にして次々と幽霊ヒロインと絡ませ、ギャグであるから幽霊が幽霊になった原因を主人公が偶然と幸運と勘違いによって解消してそこにほのかにラブコメの匂いを漂わせるという、隙間の隙間をかいくぐるような上級テクニックには敬服するしかない。作者は女でありながらなぜここまでできるのだろう。
 本作のように次々とヒロインが現れては消えるというパターンでは「新鮮さ」は担保されるが、その代わり作品全体を見渡すことが困難になり読み進めるうちに何がなんだかわからなくなるが、本作では次々と新キャラを放出させることで新鮮さを維持し、最初のページから最後のページまで休憩の一切入らないスピードで読者の目をひたすらストーリー展開に釘付けにして考えさせることがないので「困難さ」自体を意識しなくてよいという造りになっている。そのため本作は決して「肩の力を抜いて読める」わけではなく、むしろこのスピードについていかなければならない上級者向けなのであるが、そのスピードにラブコメが含まれているのであれば俺はついてゆくのである。
  
第24位:女神荘ぱにっく!/前田千石双葉社:ACTION COMICS] 
女神荘ぱにっく!(アクションコミックス)

女神荘ぱにっく!(アクションコミックス)

 今や貫禄さえ感じさせる双葉社の「成年漫画と大して変わらない」レーベルによるエロコメはラブコメの幅を広げるのに多大な貢献をしたと断言できる。ヤること自体は成年漫画と何ら変わらないが、一般誌であるからただエロを垂れ流すだけではなく物語を発展させ回収しなければならず、そこに「平凡で地味な主人公」をエロ的騒動に巻き込む…という形をしっかりと確立したからである。
 とは言うもののエロコメにはエロコメの自制心が求められる。ただし自制し過ぎるとエロがなくなるし、自制を忘れるとあっという間にただのエロに成り下がる。そのあたりのバランスを考えると本作は少し指摘せざるを得ない部分も出てくる。作者は過去にも日本ラブコメ大賞にランクインしているので(2007年成年部門12位「森乃さん家の婿事情」、成年部門8位「ふぁみこん。」)平均点以上はもちろん満たしているが、本作の場合読後感が良くないとういのが率直な感想である。それは主人公を「女性恐怖症」としてストーリーを展開させることがどれだけ大変かを作者があまり意識しなかったせいであり、悪人(妊娠したと言って主人公をゆする女)を登場させて勧善懲悪の結末にしようにもあまり華々しい効果は得られずすっきりしなかったからであろう。ライトさが売りの双葉社エロコメの王道を外れるならば相応の準備をすべきであり、もし準備したとしても「悪人」「勧善懲悪」といった重みにこの作品が耐えられたかどうかは疑わしい。漫画とはもっと総合的なものなのだ。
 と、やけに厳しい物言いとなってしまったが本作が平均点以上であることは断言できるので普通に楽しむ分には問題ない。ヒロインたちはどことなく「丸い」線を感じさせながらもフェロモンを減退させず、より豊満な肉体が魅力を倍増させていてそれがエロコメの雰囲気に合致している。しかしまあ、最初からこの網タイツ忍者女を出しておけば良かったのではと思わないでもない。
  
第23位:ワケあり/RAYMON[少年画報社:YC COMICS] 
ワケあり (ヤングコミックコミックス)

ワケあり (ヤングコミックコミックス)

 平凡な主人公が非凡なヒロインと出会ったことで異常な事件に巻き込まれるパターンを採用する場合、平凡な主人公・非凡なヒロイン・異常な事件がそれぞれ相互に連関して機能しなければならない。特に本作のようにファンタジー(というほど大したものではないが)的設定を使う場合は大風呂敷に過ぎて平凡な主人公をスーパーマンにするか置いてけぼりにするかになってしまう作品を俺はもう何度も見てきた。要は常にラブコメを意識せよということであるが、本作の場合ファンタジー的設定でありながらエロい見せ場も出さなければならず、それでもストーリーはテンポよくまとめられているところが非常によくできている。
 古い小さい寂れた物件ばかりを抱え込む弱小不動産屋で働くしがない主人公がイタコヒロインによってワケあり物件(幽霊が出る物件)に対処していくという本作はなるほどラブコメであるが、何度も言うようにそのような非凡な物語の数々の起伏に平凡な主人公が対応しながらも「平凡性」を維持できるかがこの日本ラブコメ大賞の永遠のテーマである。主人公を超能力者にしてはいけないし、全身が痒くなるような甘ったるい言葉を惜しげもなく放つ男に成り下がってしまってもいけない。平凡と非凡の間を行ったり来たりすることによる落差が大事なのであって、全部を非凡にしてしまっては駄目なのである(そこがより強く深い刺激を求めるだけの世間様と日本ラブコメ大賞の違いである)。そして本作の場合はそのように意識して作ったというよりも1巻でまとめざるを得ないから主人公は平凡なままで終わってしまったというのが実態であろうが、結果が良ければそれで良い。しかし一つだけ難を言えば最初から主人公とヒロインが委細わかった上でコンビで除霊していくという展開の方が良かったのではないか。ファンタジーで性交渉の見せ場も作って更にヒロインは何をされているかわからないというのは少し詰め込み過ぎな気がしよう。肩の力を抜いて読めるエロコメにするのならキャラクターは小回りが効く方がいいはずだ。
 しかしまあ、この尻みたいな圧迫感のあるおっぱいはいいね。
   
第22位:ギャルゲヱの世界よ、ようこそ!/田尾典丈エンターブレインファミ通文庫 
ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! (ファミ通文庫)

ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! (ファミ通文庫)

 何度も言うが俺は「ラノベを読んだぐらいで読書家を気取る阿呆」が嫌いなだけでラノベが嫌いなわけではない。主人公が平凡で地味で冴えなければいいのだ。たったそれだけなのだが、そんな俺を嘲笑うかのようにスポーツができて口が軽くて女に積極的で明るい主人公が多過ぎるのだ。更には主人公が女の作品も多過ぎ、そのせいでなかなか俺に合ったラノベを見つけることができずに1年が過ぎて今年の日本ラブコメ大賞においてラノベはこの1作のみとなった。腹が立つやら悲しいやらでどうしようもないが、でも俺は来年もラノベに誠実に対応するつもりです。
 そして比較的マシと判断して買った本作の主人公も「(女たちを)絶対守ってみせる!」「ここに誓う!」「お前は俺にとって大事な女の子であることに変わりはないんだ」と頭からっぽの歯が浮くようなことを言ったりするのでしらけてしまうが、「ギャルゲー」のキャラクターたちが現実に現れるという設定とそれによって発生する現実との矛盾に主人公が直面して苦悩するところなどは新鮮且つ好感が持てて最後まで読ませる迫力があり、「妄想が現実になる」という使い古されたストーリーを真面目に調理しようとするとこうなるのだという勉強にもなった。「ギャルゲーのキャラクターを現実に出現させた」責任は主人公にあるからどんなことがあっても守るというのは少し強引な気もするが、実際にゲームからキャラクターが出てきたら俺だってどう思うかわからんからな。そのあたりは憎たらしい。
 欲を言えば「(ゲームから出てきた)女たちを守らなければならない」という主人公の使命感ばかりが先行してギャルゲー本来の「甘酸っぱい学園ラブコメ生活」描写があまりないのが残念であった。そういう甘酸っぱい描写をもっと増やせば結末の別れの部分がもっと劇的になったのではないか。また「どんなに青臭いと言われようと、自分は必ず守って見せる」「俺は高校生で何もできないけど、彼女たちを守りたい」と言うことで「青臭い」ことを許してもらおうとしているのが非常に軽い印象を与える。結末はラノベらしく少しの涙と多くの笑顔で救われるが、「誰に何と言われようと理想を追い求める」のであればもっと覚悟を持ってもっと過酷な運命を主人公たちにぶつけた方がより主人公の本気度がわかるというものではないかな。
 どうもラノベだと辛口になってしまうが、本作は立派なラブコメであります。
 
第21位:三間坂杏子の恋愛/ZUKI樹[竹書房:BAMBOO COMICS DOKI SELECT] 
三間坂杏子の恋愛 (バンブー・コミックス DOKI SELECT)

三間坂杏子の恋愛 (バンブー・コミックス DOKI SELECT)

 ラブコメとは基本的にヒロイン側が積極的に出るものが、それは主人公が「平凡で地味で冴えない」からヒロインの方が積極的に出ざるを得ないだけの話であって、ヒロインを暴力的にすればいいというわけではない(と、何度言ってもわかってもらえない)。ヤンキーなどの暴力的な女がヒロインではラブコメは成立しない。しかしそれでもヤンキーを採用したいのであればそのような暴力的なヒロインを「平凡で地味で冴えない」主人公がコントロールする、閉じ込めるという意外性を取るしかない。あくまでそのような主人公がヒロインを支配するところにラブコメの根源的な快楽があるのであって、俺が「ツンデレ」という言葉をあまり使いたくないのは「普段はツンツンしているけど時々デレっとなる」という説明は極めて上っ面しか説明していないからである。強いヒロインを主人公が精神的に支配しているからこそヒロインは女性本来の本能に従って「デレ」となるのであって、そのあたり本作のヒロインの主人公に対する「デレ」はまさしく主人公に支配された上での「デレ」なので非常によろしかった。
 それにしてもヤンキーでラブコメが難しい(2008年14位「ヤンキーフィギュア」、2002年15位「まりのシンドローム」ぐらいしかない)のは、社会からドロップアウトした「ヤンキー」を笑いの対象とするにはより暴力的な側面を強調するか、より下品に陥るかしかないからであって(これは「ニート」にも言える)、読む方はどう構えていいのかわからないのである。しかし本作の場合序盤こそ強力なヤンキーヒロインと主人公の騒動を大げさに描いて波乱含みであるが、中盤以降はもっぱら主人公とヒロインの社内恋愛劇へと転換してそこにヤンキーとしての言動を入れることで質の良いコメディに仕上げていて非常に読み易かった。もちろん「ヤンキーとしての言動」と言っても特別面白いわけではないのですぐに飽きるが、1巻完結であるから読者は新鮮なまま最後まで食べることができ、作者は逃げ切ったのである。終わり良ければ全て良しである。
 しかし俺も「こんな身体に調教ひたのは主人公さんらぁないれすかっ」と言われてみたい、いや言わせてみたいものだ。