僕の小規模な生活(3)/福満しげゆき[講談社:モーニングKCDX]

僕の小規模な生活(3) (KCデラックス モーニング)

僕の小規模な生活(3) (KCデラックス モーニング)

<登場人物紹介>
俺:「日本ブログ界に狂い咲く糞の花」「平成日本の廃棄物」。永田町神保町秋葉原に3ヶ月に1回現れては地雷を仕掛け、東京23区各地の大型古本屋に現れては呪詛の言葉で人々を呪い、同僚に合コンに誘われても理由をつけて断り、お金がないので風俗に行くのが「月に1回」から「2ヶ月に1回」になり、そろそろ日本ラブコメ大賞2010の準備をしなきゃなあいやその前に11月の「政局好色」の準備をせないかんなあ。
土曜日の女:「婚活」を鼻であしらい、腐女子を軽蔑し、私は仕事も恋も人間的魅力も全て手に入れて見せるわと思ってはいるが、実際は女性社員が少ない職場で男たちにチヤホヤされていい気になって十年以上過ぎてもう手遅れ。合コン等では当然のことながらイケメンで仕事ができて話しやすい男を狙い続けているが、世の中には競争率というのがあってね、あんたがいいと思っているものは他の人もいいと思っているわけですよと言われても阿呆なのでよくわからないらしい。
 
「そんな真面目なこと言ったって、なんか君、オッパイのとこ膨らんでんじゃん。それエロいやつじゃん。説得力ないよ」
「…」
「つまりそういうことなんですよ」
「何がですか」
「いいですか。俺やこのブログを読んでいる男たちというのは全くモテない男たちなのですよ。そういう男は女と日常的に接することなんてありませんから、女を性欲の対象としてしか見れないわけです」
「意味がわかりません」
「いやまあわからんのならわからんでいいですが、とにかく大学時代は友達とクリスマスパーティーするような、そして講談社という華やかなマスコミの世界に入るような女の編集者なんちゅうのはこれはもう我々のようなモテない男たちにとっては天敵のような存在なんです。わかりますか」
「わかりません」
「それはお前が阿呆だからだ。いや、いやちょっと待って、聞きなさい。聞きなさい。とにかく我々にとって女というのはそれぐらい遠い存在なのです。だからそんな女と一緒に仕事をしたりするような男がいたらそれはもうその女を愛人にしているに決まってとる」
「さっきから何を言ってるのです」
「まあ聞きなさい。聞きなさい。例えばあなたがある男性漫画家のサイン会に行ったとしましょう」
「はい」
「その漫画家の隣に女がいました。あなたならどう思いますか」
「どうって、ただの編集者か秘書でしょう」
「それを『ああ、横に女がいる。秘書兼愛人みたいなものか』と思いますね。普通は」
「いや思いません。そんなことは思いません」
「なぜですか。横に女がいるのですよ。奥さんでもなく家族でもない女と一緒に仕事をしておるのですよ。会社でみんなと一緒に仕事をしているわけじゃないんですよ。マンツーマンですよ。『君、ちょっとフェラしてくれたまえ』とかやってるかもしれん」
「バカですか、あなたは」
「バカは相変わらず合コンに行ってイケメンの金持ちを狙っているお前だ。誰がお前みたいな厚化粧を相手にするか。いや違います違います、別にあなたのことを言ってるわけじゃありません。とにかくですね、学生時代とか女とろくに話してない奴はそういう風に思うわけですね。これは仕方ないですね。だって免疫がないからですね。若い女を見ただけで『ウヒャ〜勃起〜』とかなるわけですね」
「もういいです、あなたは異常です」
「いやそうなると世の男性の実に半数以上は異常ということになってしまいます。まあ聞きなさい。とにかく本書が素晴らしいのはですね、例えば仕事で人と会ったりして、向こうが男女二人で男が上司で女が部下だったとしたら、その二人が肩を並べて歩いたとしたら、『あの感じは…絶対やっているに違いない…』と思う男の心理というか切ないようで腹立たしい感情を100%表現できているところにあるのです」
「あの、すいません、何を『やっているに違いない』んですか」
「セックスや」
「…」
「とにかくですね、若い女とどういう風に会話したらいいかわからんのですよ、俺や作者やこのブログを見ている諸君はね。それに女というのは頭が悪いですから、『うわこいつキモい〜ゲヘ〜』みたいな感じを顔に出したりしますね。しかし男は本能的に女を倒すことはできませんね。不倫できる可能性を残すために本能的にそう設定されているんですね。いやもう本当にね、そういう男たちのどうしようもない不満というか被害妄想というか男尊女卑感というのをね、この漫画を読むことによって更に強固なものにすればですね、世の中はずいぶんと明るくなると言いますかね」
「…あの、さっきからあなたの言っていることを、私は何一つ理解できないのですが」
「それはお前が糞阿呆だから、いや違います違います違いますあなたの事を言っているのではなくてですね、とにかく喫茶店若い女と二人っきりになったらそら勃起するわけですよ。しょうがないでしょうが。今まで女とろくに話したこともないんだからね。それで上着脱いだら『オッパイのとこなんか膨らんでる!』んですよ。もうドキドキするやら腹立たしいやらでどうすればいいかわからんというこの我々のもどかしい思いをですね、この漫画は見事に表現してくれているのです」
「…」
「もちろんそれだけではなく、自慢の妻ちゃんが出産するにあたって立ち会った時の恐怖の体験や掲載誌の変更に伴うイザコザ、或いは『ガロ』出身でありながら『少年マガジン』に漫画を載せることができるかもしれないというビッグチャンスが舞い込むなどなど、小規模ながらもなかなかスリリングな生活の断片において常に右往左往し妻に頼りギリギリの精神状態で毎日を乗り切りそれを何とか商業漫画として成立させようとする努力は素晴らしいものがあります。本作は日本ラブコメ大賞2008・第1位の作品であり、歴代の日本ラブコメ大賞1位作品に比べて極めて異色の作品でありますが、今、改めて1位を授けた俺の判断は間違ってなかったなと強く感じておるのであります。というわけでごきげんよう。お相手は1年9ヶ月ぶりの登場となる『土曜日の女』さんでした」
「…」