反小沢派、アメリカ、参議院

 連立にせよ部分連合にせよ、参院選過半数割れしたその時から動き出さなければ政権の求心力はなくなる。国政選挙でノーを突きつけられた政権が生き延びることなど通常なら「ノー」だからである。衆議院ではなく参議院だからという理屈は関係ない。繰り返し述べてきたように、「首相の指名」と「予算案可決」以外の全ての権限は解散がある衆議院より解散がない参議院の方が強いのである。その事を知っていた自民党は何としても連立か部分連合を組むために参議院選挙で負けた総理総裁を退陣させ、直前の参議院選挙とは何の関係もない新総理総裁の体制において連立或いは部分連合を呼びかけた。そうなれば野党側は交渉のテーブルに着きやすくなろう。長年野党を懐柔してきた自民党ならではのしたたかな戦略であったが、その「したたかさ」がなくなったのが3年前の参院選後の自民党であった。
 現在の政治状況は奇妙なほどに静かだが、静かであれば静かなほど9月の代表選に向けて水面下で激しい暗闘が繰り広げられていることを意味している。所詮マスコミが伝えるのは「伝わってもいい」レベルのものなのであり、本当に大事なことは口にした瞬間に崩れ去ってしまうから誰にも洩らさないのが普通である。とは言え本当に「小沢派」(「反執行部派」)が菅を首相(代表)の座から引きずり下ろす気があるのならば参議院選挙の結果が明確にある以上すぐにでも行動に移すことはできるはずであり、情報をリークするはずである。そのため現在の「反執行部」、そして小沢本人は和戦どちらにも対応できるように現執行部がどのように出るかを注視しているというのが実態であろう。それを「政局ばかりで政策を…」と相変わらず批判するのは勝手だが、何度も言うように政局が安定しなければ政策は安定しないのであり、今の四分五裂状態の民主党が政局の安定を取り戻すためには参院選敗北の責任を取って退陣するか、党内を一枚岩にする(つまり「反小沢派」もしくは「反執行部派」を執行部に入れる)かしか方法がないのである。
 またこの参院選でも複雑に絡んできたのが民主党内の二つの勢力である。わかりやすく言えば「小沢派」と「反小沢派」であり、「国民の生活が第一」と「財政再建のために消費税を」であり、選挙を重んじる現実派と政策を重んじる理想派である。まるで「角福戦争」であるが、決定的に違うのはかつて官僚は小沢派(田中派)についていたが今は反小沢派(反田中派)についているということである。本当のところ経世会田中派竹下派)は官僚の味方のようなふりをして官僚と戦っていたが、とにかく検察の例を出すまでもなく官僚は小沢派を陰に陽につぶそうとしていることだけは確かである。現在の反小沢派執行部と官僚、そしてマスコミの奇妙な連帯感は全て「敵の敵は味方」という絆で結ばれている。そこへ「鬼に金棒」の如く出てくるのがアメリカである。
 今や「アメリカが怒っている」が錦の御旗になってしまったが、五十五年体制下の自民党は「アメリカと仲良くしましょう」と言いながら「社会党の抵抗が強くて」「地域住民の反対が強くて」と言って次々にアメリカから譲歩を引き出していた。それが国際政治のリアリズムであり、「名を捨て実を取る」という国際政治版「政局」であったが、「政策第一」の理想論のせいか戦後60年以上築き上げてきたアメリカのイメージ戦略が功を奏したのか、今は明確にアメリカの意向に従わないと「売国奴」扱いされるようになった。一体どちらが売国奴なのかと思うが、沖縄県民の負担を少しでも減らそうと思う鳩山の思いが何故政権の致命傷となったのか疑問でならない。
 現在の日本政治の問題は様々だが、鳩山辞任の理由も菅政権の弱体化も結局のところ参議院がその原因である。衆議院とほぼ変わらぬ権限を持ち、解散がなく、3年ごとに半数を改選し、参議院の決定を覆すには衆議院過半数ではなく3分の2を必要とする現在の制度が柔軟性を欠いているのは明らかである。そのがんじがらめの憲法を作ったのはアメリカであり、アメリカが「日本の民主化」ではなく「弱体化」を狙ったことがよくわかる。もちろん国際政治というものはそういうものであるから後は日本の問題である。現在の憲法は強力な指導者が現れることを何重もの網を張り巡らせて阻止しているのである。そのことに気付かず、ひたすらその場しのぎの犯人探しを繰り返す日本を見て高らかに笑うアメリカの姿が俺には見える。